ぺーたんのバス釣り勝負

ぺーたんのバス釣り勝負


「休暇だ」

海賊、ページワンの

1日は終わり彼は自室で寛でいた。

明日からは2日間の休暇。

と言っても有事の際の戦闘には

当然駆け付けはする。

休暇にやることと言えば趣味だろうが

彼の趣味と言えるものは

1つしか持ち合わせていない。

「今夜も行くか」

当然、夜釣りへ。

しかし折角の休暇だ。 

毎夜同じ時間に同じ事をするのも

芸が無いなと振り返る。

釣具をまとめながら

何か変わった事は出来ないかと

思考を巡らすと変わった事の

心当たりがあるのをふと思い出した。

「そう言えば…」

バスを見た。

前回の夜釣り中にある場所で

水面にバスらしき影が跳ねていたのだ。

-見間違いか…?

鬼ヶ島にも居るのだろうか…?

思わず考え込んでしまう。

ある程度のポイントは網羅した

彼の頭には「バスは居ない」と

結論が出ていたのだが…。

ページワンは

思わぬ開拓の余地に少し浮き足立つ

自分に気が付く。

やはり、釣りが好きなのだ。

-今夜は少し粘る、

攻めた釣りにしよう。

夕日が見える時間まで居たっていい。

密かに心躍らせ彼は行く。


「ぺーたん!釣り行こうぜ〜!」

鬼ヶ島でページワンを歓迎するのは

最早馴染みの大看板 クイーン。

ここの所すっかり釣り仲間になり

少しだけ親しくなっていた。

…実力主義の海賊団

その大幹部への警戒心は当然

持ち合わせては居る。

それを隠し

気さくに挨拶を交わす。そして

ページワンは早速切り出した。

「今日はバス釣りをしたいと思います」

「…この島に居るのか?」

「俺も居ないと思っていたのですが…」

前回の釣りでバスの魚影らしきものを

見たのでその付近を攻めたいと話す。

夕刻まで今日は釣るという事も。

最初は訝しむクイーンだったが

理由を聞くとその表情は次第に晴れていく。

「よし!行こうぜ!ぺーたん!」

ムハハと豪快に歩むクイーン。

「クイーンさん!まだ場所

説明してないですよ!」

慌ててページワンも後を追いつつ彼は思う。

(姉貴以外にここまでぺーたん呼び

されるとはな…)

複雑な表情を浮かべていたが

夜の闇に紛れ気が付かれる事は無かった。


「ここで良いのか?」

持参した椅子に腰を下ろしながら

クイーンは尋ねる。

特殊な繊維を使った

折り畳みも可能な彼の

オリジナルデザインだ。

島の外れにある

湖とも池とも言えない

中途半端な水辺。今日はここで粘る。

「ここで見ました…実際に居るかは

分かりません。」

何しろこの場所での釣果は

ボウズだったのだ。

帰ろうとした所に魚が跳ねたので

一応生き物はいるらしい。

月明かりに照らされた

その魚を断定は出来なかった。

「ぺーたんよぉ…」

ページワンの釣糸が垂れるのを

確認したクイーンは

真剣な表情で声を掛ける。

「俺に妙案がある」

「…ビームは無しですよ」

分かりやすく狼狽える。

「ついでに

【俺が作った魚汲み取り機だ!】や

【俺の炎で水を干上がらせるぜ!】とかも無しです」

ギクシャクとした漫画のような

動きをするクイーン。

冷や汗を垂らしながら彼は口を開く。

「いやそうじゃなくてな…」

「…【バスだけ殺すウイルス撃ち込むぞ!】も無しです」

「…そんな事は滅多にしねえよ」

するのかよ、とページワンは内心笑う。

「そうじゃなくてだな…」

ポリポリと後ろ髪を掻くクイーンに

ページワンは違和感に気が付く。

「クイーンさん釣竿は…?」

釣り人必須のアイテムを持っていないのだ。

いつものように背中に掛けていると

思っていたのだが…。

「良くぞ聞いてくれた!」

出鼻を挫かれたクイーンだったが

意気揚々と

左腕の義手をページワンに掲げる。

「これを見ろぺーたん!」

ガシャガシャと音を鳴らし

義手は変形していき…

「釣竿…?」

「…そうだ!

俺は新たに義手を作ったのさ!」

クイーンは続ける。

「魚が食いつき易い餌の生成は

勿論だがこの義手の性能はそれだけ

じゃねえ!

近くに居る魚に絶妙に餌を漂わせ

食らいつかせる!

そして達人のような

繊細さと豪快さを使い分け釣り上げるのさ!」

「………」

どうよ?

と得意の笑みを浮かべるクイーンに

ページワンは困惑せざるを得ない。

確かに釣りは好きだがここまでやるのは…

と内心引いているのが

正直な感想だった。

「妙案と言うのはこれよ!」

左腕を突き上げるクイーン。

「ズバリ!

お前も義手にならねえか!?

今なら高性能魚群探知機も

付けてやるよ!」

いやあこれは…と尻込むページワン。

それをお構い無しにクイーンの

セールストークは続く。

「今日みたいな居るか分からねえ

魚も見つけやすくなるし

何より機械は確実だぜ!

釣りの技量も上がるんだぞ!?

古くせえアナログなスタイルは捨てて

今こそ進歩の時だ!」

…それを聞いて心に蟠りが残る

ページワン。

「…そんな事は無いですよ」

語気の強い口調に驚くクイーン。

「居るか分からない魚を待って

水面を見るのも

魚との綱引きで争うのも

釣りの良さですよ。

俺はその義手は要らねえです。」

ページワンは言わずには

いられなかった。

「ほう…」

ニヤリと笑うクイーン。

「なら…勝負してみるか?

この義手とお前の腕でな。

どちらの腕が優れているか」

不敵なクイーンだがページワンは

怯まない。

「やりましょう」

しかし彼は思い出した。

ここにバスが居るかは分からない。

「ただし場所と魚の種類は…」

言いかけた所でバシャリと音がする。

近くで間違いなくバスが跳ねていた。

「…このポイントでバス釣り。

夕方まで多く釣った方が勝ちで

良いな?」

提案はクイーンに取られるが

ページワンは了承する。

2人は最適なポイントを求め

歩き出した。


「言い過ぎたな…」

夕焼けに照らされながら

ページワンは歩く。

初めのうちは釣りに集中していたが

一匹、また一匹と釣り上げていると

言い過ぎた事への後悔で胸が曇る。

仲良しとは言わないが

折角出来た釣り仲間だ。

しかし言わずにはいられなかった。

自身の

楽しみ方を否定されるような…

そんな思いをしていたからだ。

ページワンは

重い足取りで集合場所へ向かって行く。


「来たかぺーたん!」 

余裕の表情のクイーンが

ページワンを迎える。

「クイーンさん、どうでしたか?」

努めてフランクな口調で

ページワンが尋ねると

そのまま自身の釣果を披露した。

「見ろよこれを!初めてにしては

上々じゃねえか!?」

バス4匹。

確かに上々だ。

義手の性能は確からしい。

「そう言うお前はどうだったよ?」

ニヤニヤと尋ねるクイーンに

ページワンは釣果を見せる。

バス5匹。

「…やるな」

ぐぬぬと言わんばかりの表情で

クイーンは引き下がる。

「確かに…お前に

俺の義手は不要らしいな!」

いつもの調子にすぐ戻り

ムハハと笑うクイーン。

「だが!俺はこれを使い続けるぜ!

科学の進歩の為にな!」

-そんな高尚な事を考える

タイプでは無い。

概ね釣り糸の先に爆弾でも付けたり

そんな絡繰に応用しやすい為だろう。

「人それぞれ…楽しみ方があるって

ことで良いですかね」

苦笑するページワンに

クイーンはふと声のトーンを落とす。

「悪かったな」

一瞬の間が空く。

「悪かったよ。お前の楽しみ方を

否定するような事言っちまってな」

ページワンは答えられない。

陽気ではあるが冷血な科学者の

クイーンのイメージには

似つかわしくない言葉だった。

「…いや俺も…言い過ぎました。

すみません」

頭を下げるページワン。

「…何しんみりした空気になってんだ!」

「…クイーンさんから出した空気ですよ」

2人は笑い合う。

マスクに隠れたページワンの

口元はしばらくニヤけっぱなし

のままだった。

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