ぶるロぐらし
ドイツ棟、トレーニングルーム。今日も黙々と筋トレに励んでいた國神はふと視界の端に見慣れないものが入りダンベルを降ろした。
(なんだあれ。ぬいぐるみ……か?)
いかにも妹の部屋に置いてありそうなファンシーなデザインのずんぐりむっくりしたものがへやのすみを陣取っていたのだ。首輪代わりにピンクと白の水玉模様の布を巻いたそれはここがおちつくのだと言わんばかりにぴったりと角に収まっていた。
近づいてみるとそれはぶるぶると振動している様に見える。誰かの悪戯か、それとも寺生まれのIさん案件か。意を決して掴んで持ち上げると、頭を持ち上げたそれと目が合った。
「生きてんのかコレ……!?」
ふわふわの毛並みで、生き物のあたたかみ。急に地面……否、すみから引き離されたそれは驚いた様に目を白黒させて短い手足をばたばたと動かした。
「お、落ち着け。痛いことはしない、ほらよ」
持ち上げた時より幾分丁寧に床へ降ろし、しゃがんでそれと目を合わせる。犬や猫にしては耳が丸く、かといってネズミにしては尻尾が短い、というより丸い。もしかして──。
「お前、しろくま……か?」
それ……いや、しろくまはこくこくと短い首を縦に振る。合っていたらしい。なんだか気の抜けた國神はその場に腰を下ろして息をついた。しろくまがとことことその足元に寄り、そっと寄り添おうとするのを慌てて制する。
「……シャワー浴びてくる」
そう言ってしろくまを部屋に置き去りにしようとしたものの、しろくまが短い足で懸命に廊下を走って着いてこようとするのだ。ぺしょ、と音を立てて転んだのを見かけた國神はしろくまを片手で抱き上げて一緒にシャワーを浴びることにした。
シャワールームに向かい、自分の汗をながしてからしろくまを洗おうとしたのだが意外にもしろくまは器用らしく、石鹸やらシャンプーを駆使してもこもこの泡に包まれていたのでシャワーで流してやり、気づけばスウェット姿の1人と頭にふろしきを巻いた1匹はほかほかの体で食堂に足を向ける。
普段から1人でトレーニングしていることもあり、他のドイツチームの監獄生もバスタード・ミュンヘンの海外勢とも居合わすことのないタイミングで食堂を利用している國神はふと腕に抱いたしろくまが人間の食事を食べられるのか不安になったものの、ひとまず肉系なら大丈夫だろうかと考えていたらつんつんと腕をつつかれる。下を向いてしろくまの様子を確認するとキラキラした目をしながらスープの方に小さな手を向けていた。
「……」
適当な席にしろくまを置き、自分の分の夕食とスープを取りに行く。スープはついでだ、ついで。
席に戻ると、置いたはずの場所からすみの席にしろくまが移動していた。先程のトレーニングルームでもそうだったが、もしかしてこのしろくまはすみっこの方が好きなのかもしれない。國神はしろくまの席の向かいに座り、スープ……今日のスープはコーンポタージュだった……をしろくまの方に置く。しろくまはスープカップと國神の顔を交互に見上げ、そして小さな手でカップを支えて飲み始める。
(……かわいいな)
コーンスープを飲んではうっとりするようにつぶらな目を細め、頬を上記させるしろくまに癒されながら國神が食事を終えたところでスピーカーから声が発された。
『やぁやぁ才能の原石共、夜遅くにすまないが緊急事態だ。今から名前を呼ぶ4人と……乱痴気騒ぎ中のスペイン棟は発端を知ってる奴なら誰でも。イタリア棟馬狼照英、イングランド棟千切豹馬、フランス棟糸師凛、ドイツ棟國神錬介。至急その丸いのを連れてモニタールームに来るように。あと、今呼んだやつ以外にもブルーロック内で変な生き物を見かけたらモニタールームに持って来て。じゃ、よろしくー』
「……」
呼び出しの内容から察するにブルーロック各棟でこのしろくまの様なものが出ているのか。おそらくしろくまの第一発見者となってしまっただろう國神は食器を片付けてしろくまと一緒にモニタールームへと向かった。
(緑と茶色……あとあれはベージュの……猫か?)
モニタールームの中では皆各々別の行動をしていた。蜂楽はヘッドホンをつけた緑のやつに合わせてダンスをしているし、馬狼は茶色いなにかの足にキッチンペーパーを巻いており、千切に至ってはデレデレの表情でねこに餌をあげている。
「やっほーきんにくん!こいつはDJのぺんぺん、たぶん!」
「……」
「お、國神も来たんだ。その後ろに連れてきてるのはどうした?ポケモンのタイレーツみたいなのがいるけど」
「……!?」
慌てて振り返った國神の足元には黄色いつぶつぶが5匹ほど並んでいた。気づかなかったのかよ、と千切に笑われる。コーンじゃねぇかと呟いたのは馬狼だった。
「イタリア棟の床を油まみれにしたコレも揚げ物だからな。コーンがデカくなって動いていてもおかしくねぇ」
「……馬狼お前疲れてないか……?」
その後、凛がべそべそと泣く青いとかげを抱えて来るまでに変な生き物たちを連れた監獄生+αがモニタールームに押しかけたのはまた別の話。
???「すみません、雪宮がいつの間にか部屋にいた青いぺんぎんを俺が保護する!って言って聞かなくて!とりあえず3人がかりでなんとか連れてきました」
???「ほら雪宮くん、絵心さんも取り上げるなんて言うてへんから、そのギュッてしてる子解放したげよ?」
???「わ。丸いのがいっぱい。壮観、壮観」
???「ふーん。じゃあえびふらいはそのとんかつってやつを探してるんだ。ずっと一緒だった……俺とレオみたいな関係なのかな……えっあじふらいもいる?」
???「バロちゃん!どうしよう、食べてたポップコーンがおっきくなってぴょんぴょんし始めたんだけど!?これがジャポネのツクモガミOK!?」