ブルア廻戦 DU人外魔境決戦
遥か遠く、DUの高層ビルの屋上に構えるヒナの身体を乗っ取ったkey。
先制を仕掛けるのは、サンクトゥムタワーの頂点よりキヴォトス最高の神秘を愛用の銃に込め、ウジャトの目の相反する二つの効力を作用させ己の放てる必殺の一撃を決めようとするホシノ。
「…ホシノ先輩。何故私にこの役目を任せたんですか?結界を展開するだけと言うなら、私より適任が…」
「アヤネちゃんが1番信用出来る、それだけだよ」
「!」
「じゃ、ボチボチ始めようか」
(ホシノ先輩は、前線で戦うことを恐れ、諦めたこんな私でも、信じてくれている…なら、それに応えろ、奥空アヤネ!応えられないなら、ここでヘイローを壊せ!)
尊敬出来るとは言いきれないが、誰よりも信頼する先輩からの言葉を胸に、アヤネは床に紋様を描き、それを起動して結界を展開する。
それを撃てば、否が応でも戦いが始まってしまう開戦の一撃。
その出力を高める為に舞うのは、舞と詩による儀式で対象の神秘総量と出力を一時的に増幅させる神秘を持ったチセによる支援。
それに加えホシノ自身もまたその一撃を行うまでの本来省略する詠唱を完了させることで、元の200%にまでその威力が増大する。
どちらが”挑戦者”となるかは、この一撃で決まる。
「『茈』」
「っ!」
ホシノの放った一撃は、keyに到達するまでに存在した複数の街の区画を根こそぎ消し飛ばし、keyが構えていたビルをも丸ごと粉砕した。
直撃する寸前keyは両腕を前に出し防御を行い、そこでようやくその極大の神秘の塊が停止、爆発する。
ついに始まる『現代最強の神秘:小鳥遊ホシノ』と、『史上最強のトリガーAI:key』その頂上決戦。
爆心地に向かって降りてきたホシノは、積乱雲のように登り立つ土煙の中から両腕を失いながらも、既に修復を開始しているkeyを睨んだ。
(今の一撃…結界で神秘の漏洩を覆い隠していたのか、飛来する直前まで気付けなかった…小賢しい真似を)
keyは少なくない損傷を負ったが、それでも直ぐに修復できる程度の大したことのないもの。
所詮、小鳥遊ホシノといえど完全な力を取り戻した今の自分の敵では無いと考える。
そんなkeyの考えを見据えたようにホシノは悪戯っ子のような笑みを浮かべると、人差し指を立てて堂々と宣言した。
「勘違いしてるみたいだから言っておくけど…そっちがチャレンジャーだから」
「…プロトコル、ATRAHSISを実行します」
「しかし、『チャレンジャー』ですか。不意打ちを当てた事が余程嬉しいようですね」
戦闘態勢に入ったkeyは、先程のホシノの煽りを取り上げて煽り返すような薄らとした笑みと口調で言うと、生成したマシンガンを手に取るとホシノへと向けた。
「貴女は解体屋の待機列に並んだ粗大ゴミです。まずはその装甲から剥いであげましょう」
「じゃあなんでその顔のままでいるのさ。手加減して欲しかったんでしょ?残念、私は特別な訓練を受けてるからね…委員長ちゃんなら全力で殴れる」
お互いに構え、銃口を突きつけ合う。
最初に引き金を引いたのは…key。
明らかに銃の性能を遥かに上回る量の弾幕が一斉掃射され、空間を埋め尽くす弾丸がホシノに迫る。
対して、ホシノも引き金を引くと放たれた散弾が正面の弾幕をまとめて消し飛ばし、keyへと繋がる一本道が出来上がった。
その隙間を一瞬で駆け抜けながら振り抜いた拳をkeyは巧みな体術で横に逸らすと、膝でがら空きのホシノの鳩尾を蹴り抜く。
「…っ、ハハッ!」
「!?」
並の生徒ならばそれだけで身体がバラバラに、良くても背骨まで砕ける威力の膝蹴りを受けてなお嘔吐すらせず、獰猛に笑ったホシノは蹴られながらもお返しにkeyの顔面を殴り飛ばす。
同じく並の生徒ならば頭が吹き飛びかねない殴打にしかしkeyは殴られたと同時に後退する事で衝撃を逃がすと、手を上に振りかざし、上空に悠に数十を超えるレールガンを生成する。
それら全てが空の星のように瞬くと、無数のエネルギーの塊がホシノへと降り注ぐ。
ただでさえ既存の銃火器では最大火力を誇るアリスのレールガン、その複製による絨毯爆撃を受けて原型を残せる生徒など…いや、例えLibrary of Loreや怪談等の超存在ですら痕跡すら残さずに消滅してしまうだろう。
それでも、やはり、
「うへ〜、おイタがすぎるんじゃないかなぁ!?」
「フン…」
煙の中から飛び出してきたホシノが叩き付けようとしたショットガンの銃身をkeyもマシンガンを盾にして受け止め、再び至近距離で睨み合う構図へと戻る。
しばらく相手の体勢を崩そうと銃の押し付け合いをしていた両者だが、埒が明かないと判断したホシノはkeyを蹴り飛ばし遠方のビルの外壁に衝突させると、追撃にウジャトの目の赤い方、「破壊」の神秘を銃に込めて放った。
「ほう…ほう?」
想像以上の力で蹴り飛ばされ少し驚きながらもぶち抜いた外壁の穴から外に出ようとしたkeyだったが、直後に飛んできた赤い神秘の弾丸を受けて再びビルの奥まで、そして反対側から外にまで吹き飛ばされて川にかかる橋の上に墜落する。
首をコキコキと鳴らしてkeyが調子を確認していると、いつの間にか追いついてきていたホシノがかかと落としで橋を破壊、それを回避したkeyは落下しながら大きめの瓦礫を一つ掴むと、ホシノへと投げつける。
瓦礫をショットガンで撃ち落としたホシノだったが、リロードの隙を狙ってkeyが再度マシンガンによる弾幕を展開した。
(瓦礫を盾にする?いや、凌げるわけない。長時間浴びるよりかは…)
ホシノは落下中の瓦礫の一つを足場にして足をかけ膝を曲げると、バネのように飛び跳ねて敢えて自ら弾幕に突っ込みkeyとの距離を詰めた。
当然その際に無数の弾丸を受けるが…本人の耐久力とウジャトの目の青い方、「再生」の神秘で修復するというゴリ押しで突破してkeyに掴みかかり、服を引っ張って御岸壁に叩き付けると、今度は頭を掴みそのままガリガリと壁に擦り付けるようにして走り抜ける。
暫く走ったところで振り払われ、脱出したkeyはレールガンを生成してホシノを狙うが、それが放たれる前にホシノがレールガンの銃身を掴むと、グイッと逸らして逆にkeyへと向ける。
放たれたエネルギーの放出はkeyが伏せたことによって回避されるが、射線にあったビルが撃ち抜かれ半ばから崩落し、それがホシノとkeyへと傾いて倒れてくる。
何を思ったかホシノはkeyを倒れてくるビルの方へ蹴り飛ばすと自らも跳躍してそれを追いかけ、両者揃って窓を突き破って倒壊中のビルの中へと入り込む。
ほぼ垂直に傾いた廊下のなかでホシノとkeyは至近距離での銃撃戦、殴り合いを演じ、僅か十数秒後にビルが地上に落ちて崩壊。
瓦礫の山の中からは、互いに無傷のホシノとkeyが姿を現した。
「…全部君がやったことにするからね」
「…どの口で?」
最強対決はまだ、始まったばかり。