ひろプリ with デパプリ パート9
空色胡椒「初めまして、ローズマリーさん。私はヨヨ。今回事件に遭遇したひろがるスカイプリキュアの関係者です」
「初めまして。クッキングダムのクックファイター、ローズマリーよ。でも、どうして私のことを?」
「シナモンさんからお話は伺っていたの」
「シナモンに!?」
ええ。そう返したヨヨはミラーパッド越しにローズマリーへと微笑みかけた。
「私も、この世界の人間ではなく、スカイランドと呼ばれる異世界から来た者です。シナモンさんが1度このソラシド市を訪れた際に、互いに異世界出身者同士、お話を聞く機会があったのです」
「スカイランド……まさかシナモンの他にも異世界から永住している方がいたなんて……」
「私も驚きました。でも、その時にシナモンさんが残してくれた小さな招き猫。これにはこの世界とも、スカイランドとも異なる技術が使われていたので、信じることが出来ました。今回の通信も、この子が導いてくれて」
画面越しにローズマリーが見せられたのは間違いなくおいしーなタウンのそれと同じく形状の招き猫。
ほかほかハートの蓄積装置としての役割も持っていたそれに使われているクッキングダムの技術を触媒として、ここへの通信ルートを発見することに成功したらしい。
「そうでしたか。それで、今回の件についてのお話ってことでしたけど…」
「ええ。ましろさん達を探すために、あなた方に協力させてください」
「それは願ってもない提案です!是非!」
「では、こちらの世界でお会い出来ますか?あなた方と合流次第、アンダーグ帝国について知ってる限りのことをお話しますします」
「分かりました!ありがとうございます、ヨヨさん」
最後に頷き合い、ヨヨからの通信が途絶えた。すぐ様ローズマリーは出発のための準備を整える。
「セルフィーユ!」
「は、はい!」
「あなたはここで万が一に備えてシナモンに連絡してみてちょうだい。彼の力も必要になるかもしれないから」
「わ、分かりました!あの、ジェントルーさんはどうしますか?」
「ダメよ。あの子はついこの前スペシャルデリシャストーンの定期調整をしたばかり。今は大人しくしてないと。それに敵がスペシャルデリシャストーンに干渉できるなら彼女も危なくなる。ここで守ってあげてちょうだい」
「は、はい!」
「ナルシストルーとセクレトルーは私についてきて。コメコメ達と合流して、ヨヨさんの元へ行くわよ!アンダーグエナジーについて詳しく話が聞けたら、あなたの解析の役にも立つでしょ?」
「ふん…まぁ仕方がないから、ついて行ってやるとするか。ここにずっといるのも飽きたしな」
「別にバカンスに行く訳では無いのですよ。ってゆーか、私だって普通に羽を伸ばしてみたいっつーの」
──────────
「オムスビヒャッコハムチャデッセー」
シナモンにすぐに連絡がつかないため、コメコメの能力で次元を移動したローズマリー達。合流場所の近くに現れることが出来たため、すぐに駆け出してそちらに向かう。
「ありがとう、コメコメ」
「コメコメも、ゆいを助けるために頑張るコメ!」
「ここね、待っててパム!」
「僕たちがすぐに行くメン!」
「焦るな妖精ども。まずは俺様がアイツらの居場所を特定しないことには始まらないんだよ」
「相変わらず偉そうメン…」
「パムパムとしてはちょーーーーーっと癪だけど、ここねのために我慢するパム」
「おや?あちらに見えるのが、ヨヨ様では?」
セクレトルーが指さす先に、先程の通信越しに話していたヨヨがミラーパッドを持って待っていた。
「ヨヨさーん!」
「ローズマリーさん、こちらの世界まで来ていただいて、ありがとうございます」
「とんでもない!こちらこそ、協力してくださるだけでありがたいですから。それで状況は?」
「はい。ましろさん達が飛ばされたのはこの周辺でした。ミラーパッドにもその反応があります」
ヨヨが見せたミラーパッドには、確かにこの場所でアンダーグエナジーが使用された形跡があると示していた。
「このエナジーを使用する敵、アンダーグ帝国はスカイランドとははるか昔から光と影の存在として伝えられ、大昔に大きな争いが起きました」
次にパッドに映されたのはスキアヘッドが実際に地面に手を触れ、アンダーグエナジーを発生させるところ。
「彼らが操る闇のエネルギー…詳細は謎ですが、使用者の生命力と直結しているもの、と私は仮説を立てています。何よりその力を行使する際、必ず彼らは地面に手を当てている。スカイランドと対をなす存在…我々が空から力を得るように、彼らは大地から力を得るようです」
「大地、ねぇ……」
話半分に聞いているようでいて、ナルシストルーの手先は既に道具を持ち何かを作り始めている。カチリと何かがはまる音やキュッキュッとねじを締める音をさせながら、ナルシストルーは苦い表情で口を開く。
「正直その話だけではあまり参考にはならんな」
「ええ。ただ、ましろさん達がランボーグを浄化した際に、キラキラエナジーが発生し、それを回収していました。浄化後のものですが、これが何かしらのデータになるはずです」
「……ちっ。何も無いよりかはましか。おい婆さん、そのキラキラエナジーとやらのサンプルをくれ」
機械をいじるナルシストルーの横で、セクレトルーがヨヨから渡された容器にキラキラエナジーを少量採取し、ナルシストルーが取り出していた台の上に設置する。
「このミラーパッドは遠くの場所を映すことも可能です。今は特殊なフィールドの構造が理解出来ていないためましろさん達を見つけることは出来ませんが、解析出来ればこれで居場所を特定できるはずです」
「なるほど。つまり俺様はアンダーグフィールドの解析さえ出来ればいいというわけか…ふん。少しは楽になったじゃないか」
不敵な笑みを浮かべながらナルシストルーが作業を続ける。もちろん作れる自信はある。ただそれでも、どれ位の時間がかかるか、そこに関してはなんとも言えない。
表立っては見せない真剣さを理解しているからこそ、セクレトルーもローズマリーも茶化すようなことはしない。送るのはただ一言。
「頼んだわよ、ナルシストルー」
〜~~〜~~~〜~~
「ふむ…他のみんなとの連絡は取れないか…」
「やっぱりこの空間の影響でしょうか?」
「恐らくその通りだろう…飛ばされる直前の通信に、マリちゃんが気づいてくれるといいのだが…」
まだ眠っているエルちゃんを抱えるツバサの言葉に落胆の音は出さずに応えるあまね。携帯を使った連絡も、クッキングダム由来の通信でも繋がらない。周囲が明らかに普通じゃないことを改めて実感する…が、
「妙だ…この空間…」
「何かわかったんですか?」
「ああ。これは私の仲間が作り出す空間、デリシャスフィールドに、よく似ている」
地面の砂に果てしなく広がる荒野のような景色。その中にある食べ物やお菓子をモチーフにしたようなオブジェ。まさにそれはデリシャスフィールドと言って良さげだった。
違うとすればそれは空。青空が見えたローズマリーのそれと違い、赤黒くどこか不吉さを醸し出すその空は、とても似ても似つかない。
「ゴーボーグ、だったな。あれはスペシャルデリシャスストーンを使って生み出された…その影響で得た能力か。ゴーダッツに姿が似てるのもある意味当然と言える」
「ゴーダッツ?それが皆さんの戦ってきた敵?」
「ああ。ブンドル団のボス…スキアヘッドが怪物に変化させたあの石、スペシャルデリシャスストーンを作った張本人でもある」
──────────
「スペシャルデリシャスストーン?」
「拓海先輩がブラペとして戦うために使う石、あれがデリシャスストーンです」
「スペシャルデリシャスストーンはそれの特別版!能力ましましでもっと色んなことが出来ちゃうの!」
「それにスキアヘッドがアンダーグエナジーを注いだってことね。話聞いただけでもヤバめだね」
「ブンドル団とアンダーグ帝国、両方の力を持ってるってことになるから…」
「考えたらほんとにやばやばじゃん!」
あわあわと頭を抱えるらん。隣に並ぶここねもそこまで取り乱していないものの険しい表情である。
2人の不安を感じ取ったあげは。さっと2人の後ろに周りこみ肩を抱く。
「まぁまぁ。確かにやばそうな相手だけど、今はあとあと!とりあえずはここから脱出する方法を考えよう!」
「あげはさん…」
「でもでも、どうやってここから出るのかおもいつかないよ」
「さっきデリシャスフィールドの話してたけど、普段どうやって外に出てたの?」
「う〜ん…マリちゃん…フィールドを展開してくれた仲間が消してくれてた…」
「でも、ブンドル団は自分で出入りしてたし、ゆいも初めて入った時は自分から入ったって言ってた」
「お!それならもしかしたら出口になる場所があるかもだ!」
先程までの不安がっているだけの表情ではない。何か出来ることがあるかもしれない、その希望を持って踏み出すこと。それが今彼女たちにできること。そしてきっとそれは、他のみんなもしていること。
「じゃあ、暗い気持ちにはならないよう、アゲアゲでここから出る方法、探しちゃおっか!」
「うん!」「はい!」
―――――――――
「…ここは?って、ましろちゃん大丈夫?」
「う、うん。なんとか。ゆいちゃんは?」
「あたしも大丈夫…拓海やみんなは?」
「分からない…でも、みんなバラバラに飛ばされちゃったみたい」
軽く見渡す限りでは自分たち以外には誰も見当たらない。それに先程のゴーボーグ…ここに飛ばされる直前に現れた謎のドームはソラ達のを含めると4つあった。つまり、
「ここから出ないと、みんなに会えないのかも」
「じゃあ出口を探さないとだ!」
「え、そ、そうだね」
すぐさま立ち上がり笑顔を見せるゆいにましろの方は少々戸惑いながら続く。この状況で不安では無いのだろうか。
「ゆいちゃんは心配じゃないの?出られるかも分からないし、みんなのことだって」
「え?それは心配はしてるよ、もちろん」
ことも無さげにそう返される。
「じゃあなんでそんなに元気なの?」
「おばあちゃん言ってた。笑う門には福来る!心配して足踏みしてるだけじゃどーにもならない。でも、笑顔で1歩ずつ進めばきっと道は開かれる!」
「笑顔で、1歩ずつ」
「それにみんな確かに違う場所にいるかもしれないけど、きっと1人じゃない。あたしにましろちゃんがいるみたいに、みんなも力を合わせられる誰かと一緒なはずだから、きっと大丈夫だよ」
「私が」
「そう!あたしにはましろちゃんがいて、ましろちゃんにはあたしがいる。おばあちゃん言ってた。人の力も出汁も、合わせるのがミソ、って」
それにね、とゆいが続ける。
「あたし達にはまだ他にも仲間がいる。きっとみんながあたし達を助けようと動いてくれる。だからあたしはそれを信じてできることをやるんだ」
そう言い笑顔をましろに向けるゆい。不安も強がりの気配もない。本当に心から信じているのだと伝わってくる。みんなのことを、そしてましろのことを。
「そうだね、ゆいちゃん。私も自分に出来ることを頑張るよ」
「うん。頑張ろう!」
交わしたのは握手と心からの笑顔。2人の距離が近くなった、それは間違いないだろう。そうして2人は並んで歩き出した。
ただ—
(拓海……大丈夫だよね)
その胸の内にほんのちょっぴりだけあった不安だけは、どうしても残ってしまっていた。それは彼の安否に関する心配なのか、それとも―
『スカイ!』
誰よりも早く彼女を助けるために動き出したその後ろ姿は、頼もしくてかっこいいのに、なぜだか遠くに行ってしまうような気持ちに駆られてしまった。