ひろプリ with デパプリ パート7

ひろプリ with デパプリ パート7

空色胡椒

「うぅむ。さすがにこれは想定外だ」

「あまね?どしたの?」

「いや、エルちゃん。何でもないんだ。何でもないんだが……」

 

隣の子供用の椅子に座っているエルちゃんが首をかしげるのに対して、あまねは笑顔を返して口元を優しくぬぐう。ぬぐいながら考える。ほんの数刻前の自分自身の考えが甘かった、というべきだろうか。ともかくあまねとしてはまさかこうなるとは、という風に少々戸惑わずにはいられない状況だった。

 

トレーニングを終え、シャワーで汗を流した後のみんなでの朝食の時間。ましろとあげはが一緒に用意してくれたご飯を昨日のように食卓を囲みながら食べている状況ではあるのだが――

 

「で、ですね。スカイランド神拳の中にはこうした状況への技があって」

「そうなのか。にしてもよくこれを自力で取得したな、ほんと」

「それはもう!ヒーローになるために頑張りましたから!」

「そうか。ハレワタールは頑張り屋なんだな」

「いえ。まだまだです。拓海さんやあまねさんからも学ぶことが多かったですから」

 

まず拓海の右隣りにはゆい。これは割といつも通りである。5人で一緒にご飯を食べるときも必ずと言っていいほどゆいと拓海は隣同士に座っているから、それはあまね達にとっても特に思うところのないことだった。

 

問題はその反対側、左隣を真っ先に確保したのがソラだったことだ。ここが定位置ですと言わんばかりの迷いのなさにも驚いたが、そのあとの食事の時間もソラの方から積極的に拓海に話しかけ続けているのだ。

 

「随分仲良くなったんですね、ソラさんと拓海さん」

「ね~。あまねん、朝のトレーニング一緒だったんでしょ?何かあったの?」

「いや、トレーニング自体はいたって普通だったが……」

「ソラちゃん、シャララ隊長とお話してるときみたい。拓海先輩のこと、すごく尊敬してるんじゃないかな」

 

ヒーローを目指すソラにとって、ブラックペッパーとして戦う姿や戦い以外に料理を通してみんなを笑顔にする姿、トレーニングに励む努力家な姿にエルちゃんに対する面倒見の良い優しい姿と、悉く理想のヒーロー像に近い彼は相当な衝撃だったのかもしれない。

 

「ヒーローたるもの、目玉焼きはケチャップとマヨネーズで食べる、と。これは確かに美味しいですね!覚えておきます!」

「いや、今のはあくまで俺の好みだからな。ハレワタールはハレワタールの好きな味付け探していいんだからな」

「あ、えへへ。ありがとうございます」

 

笑いながらそう言い拓海はソラの口元についていたケチャップをそっとナプキンで拭った。ほえ?というような驚いた表情をしてからはにかむように笑うソラ。あまりにも慣れているような拓海の様子にましろは頬が赤くなるのを感じた。

 

「わぉ。拓海君って、結構大胆?」

「大胆というか……拓海先輩あれが通常運転だから。普段からゆいによくしているし」

「はにゃ~、らんらんたちも招き猫探しの旅で色々お世話になったからね」

「拓海先輩、下心ないから。そういうことされるのは少し恥ずかしいかもしれないけど、全然嫌な気持ちにはならないし」

「ほえ~、なんだかちょっと大人な感じがするよ」

「というかあげはさんも拓海さんとそう変わらないでしょう。たまに僕たちに似たようなことしようとしますし」

「あはは。そう言われると確かにそっか」

 

 

 

「ねぇ、拓海」

「ん?ってゆいお前もついてるぞ」

 

話しかけてきたゆいの方向を向いた拓海が、ゆいの口元についていた米粒を指でつまんで取る。それはいつものやり取りで、何ら不思議なことはない。加えてさっきソラに対して似たようなことをしたばかりだったからこそ拓海も照れることなく、迷うことなくそれを行動に移すことができた。

 

ただ―

 

(なんか、ほわってした)

 

何かは言い表せない、不思議な温かさ。おばあちゃんのご飯を食べてたときとか、みんなと一緒にパーティーをしていた時とも違う。拓海がブラペだったってわかった後におむすびを食べた時とか、拓海の癒しの力を当ててもらった時とかに似てる、ほわっとした何か。

 

それが心地よくて、ゆいの表情には今までにない雰囲気の笑顔が表れていたが、ソラに話しかけられていた拓海はそれを目撃できなかった。そしてそれを見ていたあまねは……

 

(ゆい…君も、ようやくか。品田と共に戦えて、彼に憧れを抱き、気兼ねなく世話を焼かれるソラという全く新しい友人の存在が、ゆいに変化を促しているようだな)

 

それは喜ばしいことのようで、同時に不安定なことのようで。それでも―

 

(ゆい、ソラ。それは君たち自身が向き合わないといけないことだ。そして品田、君自身が決断しなければならないことでもある。友人として、君たちが悔いのない選択をできることを願うよ)

 

自分にも他人にも無自覚な2人。そして自分のことは自覚していても他人のことは無自覚な彼。

 

ふっ、と小さく笑いながらそれがどう転ぶかを見守ることにするのだった。

 

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次の街に向かうのは午後からでもいいだろうという結論になり、ゆい達はもうすこしだけソラシド市に滞在することにした。折角だからとソラ達がいろんなお店を案内しようということになり、エルちゃんを含めた10人でのお出かけとなった。

 

「みんないっしょ、たのしいね」

「そうですね、プリンセス。みんな一緒です」

「らんらんも姉弟みんなと一緒にお出かけするのも好きだから、エルちゃんの気持ちわかるな~」

 

手始めに向かったのはSORASHIDO MALL。ソラシド市でも代表的な複合施設で、いろんなものを見て回るにはちょうどいい場所でもあった。

 

小物売り場で旅行にも役立つ小さいグッズをらんが見て回ったり、エルちゃんに似合いそうな子供用のアクセサリーをみんなで物色したり、本屋さんではソラシド市にまつわる本に拓海とここねが興味を示したり、スイーツ店ではゆいとあまねが主に(食欲と研究熱心の違いはあれども)食い入るように商品を眺めたり、果ては拓海とツバサをモデルにコーデをみんなで考えたりと、ソラ達の案内でみんなが楽しめる場所を巡ることもできた。

 

そして次に向かったのは、

 

「あ、Pretty Holic。ここにも店舗があるのね」

「そうだよ。ここねちゃんも好きなの?」

「うん。地域限定の商品とかもたまにあるから、見かけたら行くことにしてるの」

「お、じゃあ次はあそこだね!ほら少年、拓海君も行くよ!」

 

若い世代をターゲットにしたコスメを取り扱うPretty Holic。ここねのお気に入りのブランドでもあり、あげはのバイト先でもある。店内にはゆい達と同年代からあげはよりも少し年上くらいの客が多く、それぞれがコスメを手に取り、テスターを使用したり色を比べたりと楽しそうにしている。

 

「あ、これ」

 

そんな中ここねが気になったのは店内に並べられていた手帳。水色の背表紙に羽のマーク。ソラシド市の店舗でのみ取り扱われているもののようで、他では見たことがなかった。

 

「あ、その手帳かわいいよね」

「うん。すごく」

「私がソラちゃんに会ったばかりのころにこの手帳をプレゼントしてあげたことあるんだ」

「手帳を?」

「うん。話せばちょっと長くなるんだけど、ソラちゃんのヒーロー手帳として使ってくれてるんだよ」

 

「ヒーロー手帳?」

「はい。昔からずっとヒーローになりたくて。ヒーローの心得を書き留めているんです」

 

拓海とゆいにポケットから取り出した手帳を見せるソラ。ページをめくるとソラの手書きの絵とともに沢山の心得が書き込まれている。

 

「あれ、これって」

「はい!昨日ゆいさんから教わったことも書き加えています」

 

『ヒーローたるもの、誰かの美味しい笑顔を守るべし』

 

ソラの丁寧な文字とともにその隣にはおむすびを差し出す仮面のヒーローと、それを受け取っている笑顔のソラらしき少女が描かれていた。

 

「これってもしかして、ブラペ?」

「はい!拓海さんは私の尊敬するヒーローですから」

「そっか。ソラちゃん絵も上手だね」

「なんかそんな風に言われるのはこっぱずかしいな」

「いえ。拓海さんは本当にすごいです!」

 

 

(拓海ってやっぱりすごいんだな)

 

ぐぐいっと拓海に詰め寄るようにしながらどれほど尊敬しているのかを示しているソラを見ながらぼんやりそう考える。スポーツが得意で、ベースも弾けて、勉強もできて、お料理もできて、年下に優しくて、誰かが困っていたら手を差し出せずにはいられなくて、とっても努力家で。それがいつも自分のそばにいた幼馴染の拓海という人物。すごいことはわかっていたつもりだったけど、もしかしたらわかっていなかったのかもしれない。

 

ここねちゃんの家でアルバイトできること自体がどれだけすごいかを、あげはちゃんが言うまでわかっていなかった。

 

学校の勉強だけじゃなくて自分の関心のあることを自分から調べて学んでいることがどれほどすごいことか、ツバサ君と話すまで気づいてなかった。

 

拓海がお料理にかけている手間がとても細かくて、食べる人への思いやりが込められているすごさが、ましろちゃんの話を聞くまで当り前にできることじゃないって意識してなかった。

 

ブラペとして戦う姿がどれだけすごくて、誰かのあこがれになるかなんて、ソラちゃんと出会うまで思いもしなかった。

 

 

なんとなく2人以外のものに目を向けたくて視線を棚へとずらしたけれども、ゆいの耳と意識は2人の会話の方に引っ張られ気味だった。

 

 

その後みんなで昼食を取り、外にある広めの公園に移動し一休みすることとなった。

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