ひろプリ with デパプリ パート12
空色胡椒「!ツバサ、下がれ!」
「っ!」
あまねの切羽詰まった声に反応し、エルちゃんを抱えたまま後ろに数歩飛び退くツバサ。と、ツバサが先程まで立っていた場所の砂が弾ける。
奇襲。どこからか攻撃が行われたらしい。
「どこに!?」
慌てて辺りを見るツバサ。しかしどこにも敵がいる様子は無い。
「決まってるだろう」
そう言いながらあまねはすぐさまフィナーレへと姿を変える。そしてクリーミーフルーレを手に取り、すかさず上空へ向ける。
「空だ!」
放たれるフィナーレブーケが雲を突き抜けるように上昇し、天を穿つ。
「かわされたか!」
苦い表情のフィナーレが見据える先、1つの大きな影が先程の雲から飛び出し、空中で方向転換する。その軌道はフィナーレを正確に捉えて突っ込んでくる。
「フィナーレ!」
「ふっ!」
紙一重で敵の突進をかわしたフィナーレの蹴りが側面に炸裂し、相手の体勢を崩す。その隙を逃さず変身したウィングが急降下しながらの蹴りを叩き込み、地面に伏せさせる。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
油断なくフィナーレは敵を見すえる。ゆらりとその影が立ち上がり3人を睨みつける。
「キョーボーッグ!」
「どうやらこいつを倒さない限り、ここから出るのは難しそうだな」
たらりとフィナーレの頬を汗が伝う。冷静に見えながらも、その内心に焦りがあることを誰よりも本人が自覚していた。
先の戦闘でキョーボーグの力は凡そ把握したつもりでいる。おそらくはゴッソリウバウゾーに近い力を持っているだろう。そう考えると、当時のブラペが浄化技を持たないとはいえ単独ではあれほど痛めつけられていたのだ。単独での技ではゴッソリウバウゾーを浄化しきれなかったことも踏まえると分が悪い。
加えて今はウィングがいてくれるとはいえ、エルちゃんもいるのだ。彼女を抱えながらの戦闘では、両腕が塞がった状態…足での攻撃しか彼には選択肢がない。
「ウィングはなるべくエルちゃんを守ることに集中するんだ。やつは私がなるべく注意を引き付けておく。その間に、脱出方法を探してくれ」
「フィナーレ!?でも」
「優先順位を間違えるな!君がまず守らないといけないのは、君の腕の中にいるその子だろう!」
「っ!」
「安心しろ。これでもくぐった修羅場の数は君以上だ。そう簡単にはやられないさ」
ふっと不敵な笑みを見せてから、フィナーレはキョーボーグへ向かっていった。
──────────
フィナーレとウィングだけではなく、その他の場所でも。
「わわわっ!!」
「らん!」
「っ、はぁっ!」
砂に足を取られて転んでしまうらんにキョーボーグが迫る。ここねが助け起こそうとする中、バタフライがいくつもの羽型のバリアを重ねることでキョーボーグの突進を防ぐ。
「大丈夫?」
「らん、立てる?」
「う、うん。ごめんね、バタフライ」
「そーゆーことは気にしないっ、てね!」
正面から拮抗させていた力のうち、左側だけ意図的に力を抜くバタフライ。激突でバランスをとっていたキョーボーグが突然そのバランスが崩れたことにより体勢を崩す。
キョーボーグが倒れ込む隙を狙い、バタフライは後ろに跳び、らんとここねを抱えるようにし跳躍する。
「変な体勢で運んでごめんね!ちょっと余裕ない」
「はにゃにゃ〜!」
「らん、舌噛んじゃうから」
ただまっすぐ逃げるだけでは狙い撃ちされるかもしれない。そう考えたバタフライはバリアを展開、足場として活用することで立体的な動きでキョーボーグから離れ、オブジェの影に身を潜めた。
「ここなら少しは休めるかな」
「でもでも、このままだとここから出るのも難しいよ」
「なんとか出口を探さないと…」
流石に暗い表情になるらんとここね。その2人の様子を見て、バタフライは小さく息を吐き、立ち上がった。
「おっけー。じゃあここからは役割分担だね」
「え?」
「出口を探すのは2人に任せるよ。だから、キョーボーグのことはお姉さんに任せて」
「で、でも1人じゃ危ないわ」
「そうだよ!すっごく強いでしょ、キョーボーグって!」
「うんうん。心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。お姉さんは、最強だからね」
ウインクしながらバタフライは笑顔を見せる。それが2人を安心させるためだけの虚勢だったとしても、そうすることしか今はできない。
「私は2人がここから脱出する方法を見つけてくれるって信じてる。だから2人も、私を信じて」
「バタフライ…」
「じゃ、後よろしく!」
言うが早いか走り出すバタフライ。止めるまもなく飛び出した彼女を、見送るしか出来なかったことに、らんが泣きそうな顔で俯いてしまう。
「らん、行こう」
「ここぴー?」
先に立ち上がったここねがらんに手を差し伸べる。
「バタフライは私たちを信じてるって言ってた。だったら私たちはその信頼に応えないと」
「でも…らんらんやっぱり悔しいよ…守ってもらってばかりなんて」
「らん、違うよ」
瞳に強い決意を宿しなからも、笑顔でここねはらんに語りかける。
「私たちが今できるやり方で、バタフライを守るの」
「今できるやり方で?」
「うん。だから探そう?ここから出られる方法を。そうしたらみんなと合流出来るかもしれない」
「そっか…そうだよね!」
よぉ〜し、と気合を入れるように頬を両手でパンパンっと叩くらん。その表情にはここねと同じく強い決意がみなぎる。
「行こう、ここぴー!」
「うん!」
───────────
「なんでここにもいるの〜!!!」
「わっかんないよ〜!!!」
走る、走る、とにかく走る。
後ろから滑空するように追ってくるキョーボーグから必死に、ましろとゆいは走るのだった。
「これじゃあ出口探すどころじゃないよ〜!」
「じゃあこのまま走りながら探そう!」
「うぇぇぇえ〜っ!?」
今までも必死だったのは違いないだろうが、そこから更にスパートをかけるかのように加速するゆい。見た目はどちらかといえば清楚な感じなのにフィジカルではソラ並とはいかずとも中々張り合えそうである。
まさかの発見に驚きながらも、ましろは必死に逃げる。
逃げながら考える。
考える。
(このままじゃ埒が明かないよ…逃げても逃げても追いかけてくる…それにもし出口が見えるところになかったら?いつかは追いつかれちゃう…)
(ダメダメ!弱気になっちゃダメだよ、虹ケ丘ましろ!あげはちゃんも、ツバサ君も、ソラちゃんも!きっと諦めない!だったら私だって!)
(こういう時…ソラちゃんなら!!)
「ゆいちゃん!」
「えっ!?」
「私がキョーボーグを引きつけるから!だからゆいちゃんは出口を探すのをお願い!」
「でも!」
「大丈夫!」
(走りながらだからキツい、キツい…けど!)
呼吸はやや乱れ気味でありながらも、ましろは精一杯の笑顔をゆいに見せた。
「私は、ヒーローガールだから!」
右手にミラージュペンを構えながら振り返る。接近してくるキョーボーグの前でましろは高らかに叫ぶ。
「ヒーローの出番だよ!」
白く、優しい光が瞬間あたりを照らす。その光に怯んだキョーボーグの腹に、変身したキュアプリズムの蹴りが炸裂した。
「行って!ゆいちゃん!」