ひろプリ with デパプリ パート11
空色胡椒「ちっ」
舌打ちしたのはナルシストルー。先程からずっと機械と向き合い手を動かし続けている。額に滲む汗や喉の渇きも感じるが、その手を止めることはしない。
そこには珍しくセクレトルーがタオルでナルシストルーの汗を拭き、律儀に蓋に穴を開けてストローを刺した水を差し出すというような光景が見られた。彼女いわく、
「私は機械いじりの方ではあまり力にはなれないので。ってゆーか、今できる最善のことをしてるだけだっつーの」
とのこと。
「ちっ…これでもか」
「どんな調子?」
「ダメだな。確かにキラキラエナジーとはほぼ反対の波形のエネルギーの残留因子は特定出来る。だが行使されたあとの絞りカス。本来のエナジーのいらない部分に等しい。必要な情報がこれじゃ取り出せない」
苦々しい表情のナルシストルー。そもそも参考データを貰ったとはいえ自分にとって全く未知の物質を観測できる装置を作れるだけでも凄いのだ。だが本人のプライドがそれを許さない。何よりそれだけでは意味が無い。
「せめてもう少しくらいアンダーグエナジーの手がかりがあれば…」
ギュッと拳を握りしめるローズマリー。何か手は無いのか思考するヨヨ。と、
「ふわぁ〜〜〜。今日もよく働いたのねん。帰ってゆっくりと…って、なんなのねんお前たちは?変な格好してるけれど」
「え?」
正直格好についてはお前が言うなと返したい気持ちが先ず湧いてきた。見た目はどう考えても豚である。しかも二足歩行の。オマケになんか紫だ。なんなら喋った。
「豚さんが喋ったコメ!?」
「ふしぎ発見メン!」
「何者パム!?」
「どわっ!なんか変な生き物までいるのねん!しかも喋る!どっかのプリキュアみたいなやつなのねん!」
「ん?ちょっと待って、あなた今プリキュアって言った?」
エナジー妖精と謎の豚が互いに驚き合っている中で、どうしても聞き逃せない単語が出たため、ローズマリーは謎の生物に話しかけた。
「あん?お前ら、プリキュアを知ってるのねん?」
「ええ。あなたは?プリキュアの仲間…ではないのよね?」
「仲間じゃないのねん」
「ええ。彼はカバトンさん。かつてましろさん達の敵として現れ、プリキュアに救われた方です」
ローズマリーの傍に来ながらヨヨが説明する。時折ミラーパッドで戦闘の様子を見ていたため、ヨヨもカバトンのことを知っていた。
「その通り!アンダーグ帝国にこき使われる日々から解放され、この街で再スタートを切った俺様、カバトンなのねん!って誰なのねん!?」
「私はヨヨ。スカイランド出身で、キュアプリズムに変身するましろさんの祖母です」
「おお!あの白いプリキュアのおばあちゃんなのねん!?」
「カバトンさん。ここにあなたが通りがかったのも偶然とは思えない。あなたの力を貸してくださらない?」
「?俺様の力?」
「なるほどなのねん…」
「プリキュア達を助けるためにはアンダーグエナジーの情報…出来ればサンプルが必要なの」
「カバトンさん、あなたなら彼女たちを助けられる」
「ぬぬぬ…ソラには借りがあるのねん…分かったやってみるのねん」
腕を組んで考え込んでいたカバトンだったが、ローズマリーとヨヨの頼みを受け、グッと拳を握りこんだ。
「ただ俺様ももうアンダーグ帝国から見放された身。そう簡単にはアンダーグエナジーを集められるかは分からないのねん」
「心配いらん。ほんの僅かでもサンプルが手に入れば、あとは俺様が何とかしてやる」
「頼んだわ」
少しだけ離れた場所に立ったカバトン。かつてこの力を奮ったあとに処刑されかけたこともあって、心境は穏やかでは無い。立ち直ったとはいえ、死への恐怖は未だに自分の中にも確実にあった。
正直この行為は大きなリスクを伴う。力を行使することによって自分の居場所を知られ、追っ手が来るかもしれない。折角の平穏な生活を手放すことになるかもしれない。ただそれでも…
(こうすることが正しいと思ったから……)
あの日見た本当の強さを持つ少女。その強さに自分は救われたのだから…
「俺様は、TUEEE!」
久しく口にしてなかった言葉を発し、意を決して指を鳴らす。
「カモン!アンダーグ・エナジー!」
意を決して地面に触れる。尖兵として活動していた時のようにすぐに大量に放出させることはもう叶わない。だから時間がかかってもいい…少しずつ…少しずつ…必要な分だけをたぐりよせる。ランボーグを発生させることも無く、周囲に影響を及ぼすにも足らないほどの少量のみのアンダーグ・エナジーを採取するために。
僅かなモヤ、としか形容できないほどの黒い何かが地面から浮かび出てほんの少し漂った。すかさず待機していたセクレトルーが採取用の容器を使ってそのモヤを回収する。
「成功です。ナルシストルー!」
「上出来だカバ、セクレトルー!あとは俺様に任せておくがいいさ」
ギラギラとも取れるような表情をしながら、ナルシストルーがセクレトルーから容器を受け取る。早速自身の機械に繋いで解析を始める。
「カバトン、ありがとう。これで光明が見えてきたわ!」
「ありがとうコメ!」「パム!」「メン!」
「ふふん。俺様はやる時はやる男なのねん!って、誰がカバなのねん!」
ローズマリー達に褒められ嬉しそうな笑顔を見せるカバトン。流石に緊張もしていたのか額にはじんわり汗が浮かんでいる。
(これで借りは返したのねん、ソラ)
片手でグイッと汗を拭い、カバトンは晴れ晴れとした表情で空を見上げた。
━━━━━━━━━━
カバトンの協力でアンダーグエナジーのサンプルを手に入れてからのナルシストルーはそれはもうすごかった。キラキラエナジーを解析していた分のデータもあったため、すぐさまそのエネルギーの波長を解析し、そのデータとハートキュアウォッチのデータを用いた座標特定のための装置を開発し、ミラーパッドに接続するのだった。
そこからはヨヨの仕事。彼女はミラーパッドの遠方を見る機能を応用することで、アンダーグエナジーとキュアウォッチの反応、両方が同時に確認できる場所の座標を割り出すために、サーチを続けていた。そして―
「繋がりましたよ。ミラーパッドがみんなの座標を見つけたようです」
「ふん。喜べ!俺様の発明品のおかげだな」
「ふふん。俺様が頑張ったことも、忘れるななのねん!」
カバトンの協力のもとにナルシストルーが開発した装置、それとミラーパッドの力を合わせることにより、ようやくアンダーグフィールドに囚われているゆい達の座標を発見することに成功したのだった。
残るはそのフィールドに干渉し、コメコメ達が通り抜けられる穴をこじ開けること。
「ヨヨさん、ありがとうございます。ナルシストルーとカバトンもね。さぁ、ここからが私の出番ね。アンダーグフィールドがスペシャルデリシャストーンの力を悪用して作られたものなら、デリシャスフィールドに近いもののはず…そこに干渉出来れば…」
「っ!何か来ますっ!」
ゾッとする寒気を感じだセクレトルーが空を見上げる。その声がけ直前にローズマリー、ナルシストルーは同様の気配を感じとっていた。
「折角の余興、邪魔をしないでもらいたい」
空間転移で現れたのはやはりスキアヘッド。相変わらず感情の読めない視線が彼らをじっと見つめる。
「あれは、さっきの敵!」
「…チッ、なんだアイツ。俺様からしてもヤバめの奴だってのは分かる。アレはほんもんだ」
「ええ…とてつもない、それでいて静かすぎる気配…不吉としか言いようがありません」
ブンドル団にいた時でも、このタイプの脅威は感じたことはなかった。何をしているでもなく、ただただ不吉で不穏。
「コメェ〜」
「な、なんだか分からないけど、震えるパム」
「寒くないのに寒いメン」
ブンドル団との戦闘を経験してきたエナジー妖精達もその独特の雰囲気に呑まれそうになっている、それほどまでに異質な存在感。
「見慣れない存在だ。我々とは異なる異世界の者か…だがここで消えてもらう」
興味があるのかないのか、どちらとも取れる呟き。そう言いながらも視線を逸らすこともなく、その凍りつくような不気味さを収めるでもなく、スキアヘッドはローズマリーに狙いを定め右手にエネルギー弾を形成した、が─
「む」
鈍い衝突音と共に右腕が上向きに弾かれ、光弾もあらぬ方向へ飛ばされる。咄嗟に左腕で守りを固めると、腕と拳が衝突する。突然現れた男がすかさず蹴りを繰り出したのを見て、スキアヘッドはそれをかわして距離をとる。浅黒い肌に白い衣装、そして猫の形をした飾りに取り付けられた緑の石。彼が先程自分の右腕を弾いたのだとスキアヘッドは理解した。
「なんだ?」
「悪いが邪魔はさせない」
「シナモン!来てくれたのね!」
「さっきセルフィーユからの連絡があってね。緊急事態だからなるべく早く駆けつけて来た」
「ありがとう。説明する時間はあまりないのだけれど」
「大丈夫。凡そのことは理解している……フェンネルが教えてくれたからね」
「フェンネルが!?」
小さな笑みを浮かべるシナモン。一瞬のアイコンタクトを交わす。それだけで2人にしか分からない何かがあったのだと、ローズマリーは察した。
「とにかくマリちゃんはみんなの救出を優先するんだ」
「ええ、分かったわ」
先程飛ばした白い若者と似た雰囲気と服装。どうやらプリキュアと似たような力を使う者らしいと結論づける。
とはいえこの男については、
「プリキュア以上、か」
「お前の相手は、僕だ」
再び激突するシナモンの拳とスキアヘッドの拳。反撃として蹴りを繰り出したスキアヘッドだが、シナモンは分かっていたようにそれを防ぎ一旦距離をとる。
「何者だ?」
「クックファイター…シナモン」
「クックファイター?」
「お前が知る必要はない」
「確かに。ここで消える者のことなど、記録する必要もない」
対峙する黒と白。
油断のならない相手だと気を引きしめるシナモン。
得体の知れぬ相手だと思いながらも揺らがないスキアヘッド。
向かい合うことしばし、シナモンが高速で接近したことにより、再び拳と拳がぶつかり合い、大きな衝撃が走った。
「チッ。セクレトルー、お前は婆さんとブタを連れて退避しとけ。俺様は万が一でも発明品が壊されたら癪だから残る」
「あなたに命令されるのは癪ですが、その判断は正しいもののようですね。ていうか、今の私は戦闘能力皆無だっつーの。ヨヨ様、カバトン、避難を」
「ええ」
「ここは任せたのねん…って、ブタでもないのねん!」
(頼んだわよ…シナモン)