ひろプリ with デパプリ パート10

ひろプリ with デパプリ パート10

空色胡椒


「うっ…はっ!ここは?」 

「お、気がついたか」 

「拓海…さん?あ!ましろさんやみんなは!?」 

 

気を失っていたソラが慌てて身体を起こしてあたりを見渡す。いるのは自分と拓海だけ。ましろやゆい、他のみんなはどこにもいないようだった。 

 

「どうやら別々に飛ばされてしまったらしい」 

「そんな…早くみんなを探さないと!うっ」 

「ハレワタール!大丈夫か?」 

「はい、なんとか…痛っ」 

「さっきの攻撃でどっか怪我してるんだろ。無理するな」 

 

何かされる前にと思って咄嗟に変身して飛び出したのに、結果的には拓海を巻き込む形で飛ばされてしまった。結局ゴーボーグの行動を止めることは叶わず、謎の場所に送り込まれ、他のみんなも恐らくは……変身も解除されて気絶してしまい、その上怪我を治すために拓海の手を煩わせてしまうなんて… 

 

「っ、ふぅ。よし、これで大丈夫だ」 

「すみません。ありがとうござい…拓海さん?」 

「ん?」 

 

なんでもないかのように明るく返答する拓海。しかしブラペになってる時ならともかく、今彼は帽子もマスクもしていない。暑くもなく、激しく動いた訳でもないのにその額から頬を伝う汗に、ソラが気づかないわけがなかった。 

 

「どうかしたんですか?」 

「いや、別に何もねぇけど」 

「そんなはずありません!先程より少し調子が悪そうにも見えますし…」 

「あ〜…いや、まぁこの状況だし話しておいた方がいいか」 

 

少々バツが悪そうに頬をかく拓海。一瞬躊躇うように視線を右上に向け、小さく息を吐いてから改めてソラと向き合う。 

 

「俺の癒しの力ってのは、自分や他人の傷を治すことができるけど、もちろん無尽蔵じゃないし制限がある。言っちゃうと、俺自身の体内エネルギーみたいなものを使用するから、ほんのちょっぴり疲れるって感じだ」 

「疲れ…じゃあ昨日、私たちを助けてくれた時も…?」 

「ん、まぁ少しな。けどあの時は腹いっぱい食べた後だったし、戦闘にもほとんど影響なかったさ」 

「……すみません。そんな拓海さんのエネルギーを分けていただいてしまって」 

「気にするなよ。今だって全然平気だ」 

 

な?と言いながら笑顔を見せる拓海。恐らく実際今はさほど疲労していないのだろう。昨日だって4人を回復させたのに、その後の作戦でもいの一番に飛び出す役割を見事に果たしていた。それに比べたら、今回のダメージはそんなに大きなものでもなく、ましてや自分1人だけだ。だから、大丈夫なのはそうなのだろう。 

 

それでも、自分の取った行動の結果、負担を彼に負わせてしまった。その事が不甲斐なく思えてしまう。 

 

 

「!なにか来る!」 

「!」 

 

ゾクリとした感覚…警鐘のように嫌な予感を2人は感じた。しかもその気配は… 

 

「一体どこから?」 

「上か!ハレワタール、すまん!」 

「えっ!?」 

 

瞬間変身したブラペが謝りながらソラの背中と膝裏に腕を回し、いわゆるお姫様抱っこの形で抱える。すぐ様その場を離れるように飛翔するブラペ。その背後で突如現れたキョーボーグが落下する勢いのまま地面に激突していた。 

 

「こんなところにも敵が!」 

「ああ。だが今は離れるぞ」 

「でも!」 

「幸いここはあいつらが作り出した異空間。あいつが暴れても現実世界に被害は出ないし、ここにいるのは俺たちだけだ。正直今の戦力だけで勝てるかは分からないからな。1度冷静に状況を見極めよう」 

「っ…はい」 

 

ブラペの言う通り、ランボーグならいざ知らず相手はキョーボーグ。いつも5人で戦うような相手である。無策で飛び込んでしまっても、またブラペに余計な負担をかけるだけになるかもしれない…悔しさと不甲斐なさを噛み締めながら、ソラは大人しくブラペに抱えられることを選んだ。 

 

────────── 

 

大きなモニュメントの影に身を潜めながら、拓海は1度周辺の様子を伺い、今は安全であることを確認する。 

 

膝を抱え込むように座り込んだソラの近くまで戻り、声をかける。 

 

「とりあえずは時間は稼げたかな。ここから出るにしても、あいつを倒すにしても、作戦がないとどーにもならないからな」 

「はい……拓海さんは、凄いですね」 

「?どうしたんだよ急に?」 

「昨日、私たちを助けてくれた時…拓海さんの背中に、私の憧れの人が重なって見えたんです」 

 

幼い頃に鮮明に記憶に刻まれたあの背中。自分がいつも追い続ける姿、理想、夢。プリキュアになったことで近づいている気がして、でもやっぱり追いかけ続けている背中。 

 

あの時現れた白い背中は、その時に感じた気持ちに近いものをソラに抱かせていた。颯爽と現れて、危機的状況にあった自分たち…いや、それに加えてプリズム達までもを助け出してくれた。 

 

「それに今さっきだって…すぐに動いて私を助けてくれました。また突っ走りそうになってた私を諌めてくれて…私もシャララ隊長と拓海さんみたいに、もっと強くなりたいです…もっともっと…強く。私が、私だけでもどんな相手にも勝てるように。今のままじゃ、大切な人たちを、ちゃんと守れないから」 

「……ハレワタール」 

 

ついつい俯いてしまったソラに拓海が声をかける。何かとソラがそちらを向くと、拓海の伸ばした手、人差し指がコツンと彼女の眉間をつついた。 

 

「そんな顔をするな」 

「え?」 

「俺は、お前の理想とか夢とか、そういうのはちゃんと分かってるわけじゃない。だからあんまり偉そうなことは言えないけどさ…」 

 

微笑みながら話していた拓海が表情を引き締め、ソラを真正面から見据える。深い海のような瞳が、ソラの大空のような瞳と交わる。 

 

「味付けに迷ったら、大切な人の笑顔に答えはある」 

「へ?」 

 

真剣な表情で言われたその言葉は、ソラが想像していたものとどこか違って、つい戸惑いの声を発してしまう。 

 

「俺の尊敬する人の言葉だよ。俺の父さんがクッキングダム出身だって話はしたろ?」 

「はい」 

「父さんは無実の罪で国を追われたんだ。自分の夢も誇りも、愛する故郷もなくして、辿り着いた先で俺の母さんに出会った。その時、父さんに罪を着せたのは…同じ人を師を仰ぐ兄弟子だったんだ」 

「そんな…」 

「そいつを目の前にした時、俺は怒りに駆られた。許せないと思った。どうしてもこいつだけは倒す!そう思って、この力を使おうとした」 

 

眉間に皺を寄せ、右の掌を見つめてからギュッと握りしめる。それだけで拓海がその時のことを今なおはっきりと覚えているのがわかる。けどな。そう続けながら彼は手を開く。その表情は柔らかくて、優しくて… 

 

「ゆいが言ったんだ」 

 

 

『皆、誰かを傷つけるためじゃなく、守りたいから戦うの』 

 

『シナモンさんも、マリちゃんも、あたし達も……拓海だって!』 

 

 

「そう言われた時に思ったんだ。俺にとって大切な笑顔。俺があいつにトドメをさせば確かに戦いは終わる。けど、その先に父さんや母さん、仲間やゆい……みんなが笑っていられる未来があるのかって」 

 

「強くなりたいって思ったなら、まず思い出してみろ。どうしてお前がヒーローになりたいのか。今のお前が戦える理由、強くあれる理由を。お前の大切な人たちのことを」 

「私の、大切な人たち…」 

 

その言葉に再び俯くソラ。目を閉じて、そして思い浮かべる。 

 

いつも背中を見守ってくれている、年上のあの人。 

 

同じように大きな夢を目指し、守りたいという気持ちで戦う少年。 

 

守っていたつもりで、でも同じように守りたいと言ってくれた赤ん坊。 

 

それに── 

 

『あなたが心配だよ、助けたいよ。気持ちは同じ』 

 

また、聞こえた。あの言葉。 

 

自分のことをヒーローと呼んでくれて、隣に並んでくれたあの子の言葉。 

 

「私は…みんなと一緒に戦いたいたいです…っ!時に守って、守られて…っ!一緒に…っ!強く…1人で強いだけのヒーローじゃなくていい…っ。みんなで!」 

 

ぽんぽん、と優しい感触を頭に感じ、ソラは俯いていた顔を上げる。優しげに目を細めた拓海が、親愛を感じさせる表情でソラを見つめていた。 

 

「それがお前の理由だ」 

「私の?」 

「大切な仲間たちと一緒に戦い抜くこと。信じ合える仲間たちを思い、守ること。ただ敵に勝つためじゃなく、誰かを守りたいと思いあいながら戦うこと。それがハレワタールの、お前だけの『味付け』ってやつだ」 

 

最後にくしゃりとソラの頭を撫でてから、拓海はそっとその手を下ろした。優しく微笑むその表情は、安心感を与えてくれると共に、温かい気持ちもくれた。 

 

「今は俺がいる。お前の背中は俺が絶対に守る。だから俺の背中は、お前に預けるよ」 

「ありがとうございます、拓海さん」 

 

満面の笑顔、ともまた違うけれども安心や感謝、喜びといろいろな気持ちがいり混ざる。激しく動いたわけでもないのに心臓の鼓動が速くなって、頬がちょっと熱い気がする。でも、不快じゃない。自分の身に起こった変化が何かはわからないけれども、むしろ勇気と力が湧いてくる気がして、それはとても素敵なものなんだろう。そう結論付けることができたソラはそっと拓海へと微笑みを返した。 

 

「さてと、まずはここから出ることを考えないとな。ゆいたちも大丈夫とは思うけど、心配なものは心配だし」 

「はい!」 

「うしっ、行くか。ハレワタール」 

「ソラ」 

「ん?」 

「ソラって呼んでください。拓海さんは今私の相棒ですから、ちゃんと名前で呼んでもらいたいです」 

 

学校の友達や先生、他の知り合った人の中にもハレワタールと呼ぶ人はいる。でも、どうしてか、この人には名前で呼んで欲しいと、家族のではなく自分の名前を呼んで欲しいと、そう思った。 

 

シャララ隊長程遠くはないけど、確実に自分の前にいる背中。優しくて、暖かくて、包まれるよう。その背中もまた、追いかけたいと、やはりそう思った。 

 

「……わかったよ。改めてよろしくな、ソラ」 

 

若干の照れを滲ませつつ、拓海はソラの目を見てそう言った。差し出されたのは拓海の拳。そこに自分の拳を当てながら、今度こそ満面の笑顔で、ソラは応えた。 

 

「はい!よろしくお願いします!」 

 

「それじゃあ早速だけど…どうやら回避するという選択は取れなさそうだな」 

「ええ。一緒にやりましょう!」 

 

見つめる先から先程のキョーボーグが高速で迫ってきているのが見える。2人は隣り合わせに並び、それぞれの変身アイテムを手に取る。 

 

「ソラ、作戦だけど…」 

「はい、なんでしょう?」 

「正直前に戦ったのと同じレベルなら様子見なんかしてたらやられるのがオチだ。だから、」 

「一気に決めに行く、そういうことですね」 

「ああ。ソラの戦いたいように戦え。俺がお前の背中を守ってやるから」 

「拓海さん…はい!」 

 

グッとミラージュペンが変化したスカイミラージュを掲げ、拓海を見上げるソラ。真っ直ぐ強い信頼をぶつけてくれる少女の瞳に拓海は小さく笑を零し、デリシャストーンを構える。 

 

互いに顔を見合せると、おかしなことなどない状況なのに、不思議と笑みがこぼれる。視線を互いに外さぬまま、特に打ち合わせた訳でもないのに、同時にその言葉を発した。 

 

「「ヒーローの出番です(だ)!!」」 

 

刹那はしる青と緑の閃光。 

 

大地を蹴った衝撃で土煙を上げながら2つの人影が中を舞いキョーボーグに肉薄する。 

 

「はあぁぁぁぁっ!」 

「つぁっ!」 

 

キョーボーグから見て左には青と赤、右には白と桃。それぞれのマントをはためかせながら、キュアスカイの右の拳と、ブラックペッパーの左の拳が同時に炸裂し、キョーボーグを大きくはじき飛ばす。 

 

地面に叩きつけられるキョーボーグ。空中にいたため反動で後方に少し跳んだスカイとブラペは、後方宙返りをしながら背後にあったオブジェの壁に足をつき、俯けていた顔を上げて相手を見据える。 

 

「たあぁぁぁっ!」 

「ふっ!」 

 

重力に引っ張られて地面に降りるよりも早く、2人はオブジェを蹴りその勢いを乗せたまま、今度はスカイの左足とブラペの右足によるダブルキックをキョーボーグの胴体に叩き込んだ。 


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