ひろプリ with デパプリ パート1
空色胡椒お父さん、お母さん、お変わりありませんか?
特に大きな問題もなく、お仕事上手くいっていることを願っています。
なぜ急にそんなことを考えてしまっているのかと言いますと――
「キョーボーグ!」
「わわわわわっ!」
後ろには馴染みのある(あってほしくないけど)キョーボーグ。でも今走っている場所の空は赤黒く染まっていて、所々にどことなく食べ物のように見える形のオブジェ。足元は砂ばかりの広い荒野。
「ここって一体どこぉ~!?」
現在私、虹ヶ丘ましろは見ず知らずの場所で大ピンチを迎えていました。
――――――――――
「キョーボーーー、グッ!!」
「はぁぁつ!」
背後から光弾を振らせてくるキョーボーグ。計量スプーンみたいな形をした両手から連続で発射されるそれに対し、ましろの変身したするキュアプリズムは一旦足を止め同じように光弾を放つことで相殺する。
「キリがないよ。みんなと合流できれば――でもどこにいるのかな」
いつもであればこうして自分が敵の注意を引き付けていれば他の仲間がそのすきをついてくれた。しかし今はそうはいかない。どうやらこの空間に飛ばされてしまったのは自分だけのようなのだから。
「なんとか隙を作れればいいんだけど、ってわわ!」
やや大きめの光弾を相殺した余波で発生した土煙。それによって視界が一瞬遮られたと思いきや、グライダーのような羽を広げ、滑空するようにキョーボーグが既に目の前まで迫る。咄嗟のことで回避もできず、このままではあわや衝突!――とはならなかった。
「2000キロカロリー、パーンチ!!」
「キョウッ!?」
突如キョーボーグの側面にピンク色の光をまとった何かが衝突し、大きく跳ね飛ばした。
「えっ?何々?」
自分の仲間にも勝るとも劣らない威力。その衝撃を与えた人物が目の前に降りてきたのを、思わず座り込んでしまったプリズムは驚きの表情で見つめる。
全体的にピンクをイメージさせるカラーリング、洋装にも和装にも見えるデザイン。耳のようにも見えるシニヨンと特徴的なスプーンとフォークみたいな飾り。腰には小さな犬――らしき子がついている。
「大丈夫?」
「あ、うん、ありがとう。えっと、もしかしてゆいちゃん?」
「うん。あたしはキュアプレシャス!改めてよろしくね、キュアプリズム。こっちはあたしのパートナーのコメコメ」
「よろしくコメ!」
そういいながら手を差し出す少女にプリズムは困惑を隠すことができない。ほんのつい先ほど知り合ったばかりの彼女がプリキュアに変身した姿。話は聞いていたけれどもやっぱり驚かずにはいられない。
「立てる?」
「う、うん。大丈夫」
慌てて差し出された手を取って助け起こしてもらうと、プレシャスは軽くうなずいてから視線をキョーボーグに向ける。
「よ~し。久しぶりにやるよ、コメコメ!」
「コメ!」
「さっきまで守ってくれてありがとう、プリズム。力を合わせてみんなの元に戻ろう!」
「う、うん。わかった!」
戸惑いも驚きもあるけれども、それでも今優先すべきことはわかっている。プリズムはそれらの感情についてはおいておくことにした。
目の前のキョーボーグを倒すこと。
そしてこの空間から脱出し、仲間たちと合流すること。
そのためにも今隣にいてくれるゆい――キュアプレシャスと協力すること。
「行こう、プレシャス!」
「うん!」
改めて決意を固め、二人のプリキュアは駆け出した。
━━━━━━━━━━
遡ることおよそ数時間。
その日は天気にも気温にも恵まれ、まさに絶好のお出かけ日和だった。ソラシド市も心地よい陽気と気持ちのいい風に包まれていて、平日の学校を無事に終えたソラたちは穏やかなお散歩を楽しんでいた。
「えるぅ~」
「エルちゃん、今日はご機嫌さんですね」
「平日は皆さんが学校や実習で日中は不在ですから。プリンセスもこうして全員でお出かけができるのをいつも楽しみにしてるんですよ」
「そっか。1週間だからそんなに久しぶりって感じはしてなかったけど、エルちゃんにとってはちょっと長く感じるのかも」
「うんうん。じゃあ今日は1週間分の時間を取り戻す意味もかねて、みんなでアゲアゲで楽しんじゃおっか」
ツバサとましろの肩を抱きながらウインクするあげは。その言葉に反対する理由などあるはずもなく、三人は同意するように頷いた。
先頭を歩きながら振り返るソラと顔を合わせると、嬉しそうにエルちゃんがツバサの腕の中から手を振る。ツバサの言うように、やはり学校や実習のこともあるため平日は家でヨヨとツバサとエルちゃんの三人だけの時間が多くなる。週末に全員で長い時間を一緒に過ごすことができる時間は、エルちゃんにとって何よりの楽しみなのだ。
朝は公園に向かい遊具や砂場、ベンチに腰掛けての休憩をはさみながら、5人は有意義な時間を一緒に過ごすことができた。そろそろお昼ごはんの時間にもなってきたこともあり、公園を離れてソラシド市内のお店で食事をとろうということになった。
「たまには外食もいいよね」
「はい。やはり本職の方が作るお料理は、どこか特別なおいしさを感じます」
「エルちゃんも食べられるメニューがあるといいよね」
わいわいと話しながら5人はあの店がいいか、この店がいいかと散策。お昼時ということもあり、人がお店に出入りするたびにふわりと美味しそうなにおいがしてくる。と、
「おや?あれは何でしょう?」
食べ物屋さんが並ぶ通りの近くで気になるものを見つけたソラ。彼女が指さす先にはスカイランドではなじみがないものの、こちらの店先ではたまに見かける置物。左前足をまるで人を呼ぶような形で掲げ、お座りの姿勢をとっている三毛猫。
「あれは招き猫だよ」
「招き猫、ですか?」
「まねきねこ?」
あげはの言葉に首をかしげるソラ、ツバサ、エルちゃんのスカイランド組。
「そう。商売繁盛のお守りっていうのかな。左前足を上げている招き猫は人を呼ぶって言われてるんだ。だからお店の中には招き猫を店先や入り口近くに置いてるところがあるんだ。ちなみに右前足を上げてる招き猫はお金を呼ぶ、両手を挙げてる招き猫は欲張りすぎてもうお手上げ~、って意味があるらしいよ」
「おてあげ~!」
説明しながら猫の手を作り左手、右手、両手とあげるあげはの真似をするエルちゃん。よくできましたとあげはがエルちゃんの頭をなでる中、改めて招き猫を観察してみる。ぱっと見はよく見かける招き猫とそう変わらないものの、近くに寄ってみるとソラと目線が一致する程度には大きい。
「招き猫さん。ずいぶんとかわいらしいお守りなんですね」
「店先や入り口というよりもこの通りそのものに設置されているみたいですね」
「それに耳のところとかハートマークになってておしゃれかも」
「あ、ほんとだ」
「ねこさん、おっきい~」
普段は学校や保育園でお弁当や給食、朝ごはんと夜ご飯はみんなでシェアハウスで食べていたことから、このエリアに招き猫があることに気づかなかったこともあり、新しい町の発見についつい盛り上がってしまった。そろそろ食べる場所を探したほうがいいかもしれない、と思って改めて並んでいるお店に目を向ける。
「はらペコった〜!」
「らんらんも、お腹すいちゃった~」
「ふふっ。もうお昼の時間だし、先にご飯にする?」
「う~っ。でも折角ならちゃんとこの町の招き猫を見てからにしたいから我慢する!」
「無理に後回しにしなくてもいい、と言いたいところだがゆいがそう決めているなら、その判断に従おう」
「お、ゆい。見えてきたぞ」
自分たちとはまた違う賑やかな声。この町、ということは観光客かな?とましろが考えたのに対し、ソラはその声にどこか聞き覚えがあるような気がしていた。
目を向けてみると近づいてきている人影。声からすると女の子4人と男の子1人の5人組のようだ。偶然にも自分たちと似たような構成であることにちょっとばかりの親近感をあげはが感じていると、
「えるぅ?」
「どうかしましたか、プリンセス?」
5人の方を見たエルちゃんが不思議そうな声をあげたのを、ツバサは聞き逃さなかった。とはいえ、エルちゃんも何かを感じ取っただけであって、それが何なのかまではわかっていない。どうかしたといえばしているが、それでもわかることはそれが不快なもの、悪そうなものではないということだけだった。
「これがソラシド市に置いてある招き猫ね」
「はにゃ~、おいしーなタウンのお店にあるのよりちょっとおっきいね」
「店一つ一つに置けなかったから、大き目のでこの通り全体のためということなのだろう」
「これでこの町の分も確認できたな」
「うん!じゃあ折角だから近くのお店で食べよっか。ってあれ?」
ふと少女の一人の視線がソラたちの方を向く。やや長めの髪をツインテールにまとめ、ツーサイドアップにしている茶髪の少女。先ほど見せていた快活な笑顔と淡い紫色の瞳に、ソラは既視感を覚えた。
まだウィングがプリキュアになるよりも前の頃。一人でトレーニングを兼ねたランニングの際、ペンがなくて困っていた少女にミラージュペンを貸したことがあった。思わず駆け出してしまうソラだったが、相手の少女も自分に気づいたのか駆け寄ってくる。
「あの、もしかして」
「あの時ペンを貸してくれた子、だよね?」
「おむすびの方、ですよね?」