ひろプリ with デパプリ パート 4
空色胡椒「?ヒーロー?」
「あ、えっと」
スカイの口から漏れた言葉に男が首をかしげる。謎の人物を見てぼーっとしてしまったスカイを気にかけつつ、バタフライが話しかける。
「助けてくれてありがとう。あなたは?」
「私はブラックペッパー。詳しい話はあとだ。今はあいつを倒すために、力を合わせるぞ」
「私たちの味方ってことでいいんだよね?」
「ああ」
「プリキュアの仲間か?そのような記録はなかったはずだが。キョーボーグ」
「キョーーッ、ボーグ!」
スキアヘッドの声に反応し、キョーボーグが再び突っ込んでくる。すぐさま振り返ったブラックペッパーが地面を蹴りキョーボーグへと接近する。空中にいる彼を叩き落そうとキョーボーグが改造めん棒を振り下ろすが、すかさず右手で握ったマントが振られる。力を込められたマントは盾のような役割をもって、キョーボーグの攻撃がはじき返される。
「キョボッ!?」
「はあぁぁぁっ!」
拳が一発、二発とキョーボーグへと叩き込まれる。反撃のために振るわれた腕に対して片手で軌道をややずらしながら空中で体を捻るようにかわす。マントを翻しながらその捻りの勢いを加えたまま右足の蹴りが胴体に炸裂する。くの字に折れ曲がったキョーボーグ。ブラックペッパーは地面に降り立つと右手から光弾を発射しキョーボーグの顔へぶつけて視界を奪う。戸惑うその隙に再び懐に潜り込むと、今度は助走をつけた勢いのまま、両足でのキックを叩き込んだ。
「ほぉ」
あまり感情を見せないはずのスキアヘッドから小さく発された声。感嘆、とまではいかないものの、想定外の存在に対する関心がわずかばかりには芽生えていた。特に彼が力を込めたと思われるときに反応するように光る帽子に取り付けられた緑の石に。
「すっご」
かなりの強敵であるはずのキョーボーグに対し、一歩も引かないどころか優位に立ちまわっているその姿に、思わずバタフライは感嘆の声を漏らす。自分たちも場数は踏んでいたと思うけれども、彼はそれ以上らしいことが、その迷いのない戦い方から見て取れた。
大振りの攻撃をかわしながらブラックペッパーがキョーボーグの足の間を滑り込むように抜ける。そうしながらも両手に小型の光弾を形成した彼は、すり抜け際にキョーボーグの両膝の裏にあたる箇所へ正確に攻撃を撃ち込み、その姿勢を崩した。
「今だ!」
「ヒーローガール!プリズムショット!」
「ひろがる!ウィングアタック!」
またもや意識外からの攻撃、しかも大技を受けてさすがのキョーボーグも倒れこむ。技を決めた2人がブラックペッパーと共にスカイとバタフライの隣に降りてくる。
「プリズム!ウィング!」
「大丈夫なの?」
「ええ。さっきまではちょっと動けなかったのですが、もう大丈夫です」
「うん。ブラックペッパーさんが回復させてくれてたんだ」
「回復?そんなことまでできるの?」
改めて2人の様子を見ると確かにキョーボーグによってダメージを受けていたはずなのに、傷らしい傷は見当たらなかった。まるでバタフライのミックスパレットの癒しの力で傷を治したようなその様子からするに、ブラックペッパーが回復してくれたのは本当のことらしい。
「キョーボーグ!」
再度立ち上がりながら苛立ちからか頭をブンブン振るキョーボーグ。まだまだ戦えそうな様子に気を引き締めようとするスカイだが、やはりダメージの影響で顔をしかめてしまう。
「スカイ、無理しない方が」
「だ、大丈夫です。あの敵を倒すにはみんなの力を合わせないと」
「その通りだ。だからこそ、君も先に回復しておくんだ」
と聞き覚えのある声と口調が真上から聞こえてくる。ブラックペッパー以外の4人がそちらを見ると、
「プリキュア!フィナーレブーケ!」
鮮やかな金色の髪の少女が手に持った絞り袋に似たアイテムから紫の光をキョーボーグめがけて放った。それをかわすためにキョーボーグが距離を取るように後退させられる。
「今、プリキュアって」
「僕たち以外の、プリキュア?」
今度はスカイだけではなく残りの3人も思わず動きを止めてしまう。間違いなくこの少女はプリキュアと言った。今の動きに技、そして姿。確かにそれはどことなく自分たちに近いようでもあり、でもエルちゃんによって発現したものとは異なっているようでもある。件の少女がブラックペッパーの隣に降りてくると、彼はややジト目気味に少女を見た。
「フィナーレ、あっちでゆいたちを守ってるんじゃなかったのか?」
「そうしようと思っていたのだが、その必要がなさそうだ。何を考えているのかはわからないが、どうやらやつは自分から動くつもりはないらしい。それに、彼女たちを回復させるのには少し時間稼ぎが必要だろう?」
「まぁ確かにそうだな。フィナーレ」
「わかっている。キュアプリズム、キュアウィング」
「は、はい」
「すまないが私に力を貸してくれ。ブラペが君たちの仲間を回復させる間の時間を稼ぐぞ」「わ、わかりました」
「よし。では行こう」
フィナーレの合図でウィングとプリズムがキョーボーグへと向かう。その隙にブラペがスカイとバタフライに手をかざした。帽子に付いている石が光り、何か温かい力が2人を包んだ。
「これが、癒しの力?なんだか、とても暖かいです。」
「すごいねこれ、なんだか力までわいてくるみたい!」
「あと少しで戦えるくらいには回復できるから、もう少し我慢してくれ」
ブラペの癒しの力によってキョーボーグによって与えられたダメージ、痛みがなくなりスカイもバタフライも身体の調子を確かめるように立ち上がる。
「本当に治ってます!」
「よぉし。ここから反撃開始、アゲていこう!」
「っ、ふぅ。よし、行くぞ」
「はい!」「オッケー」
小さく息を吐いてからキョーボーグへ視線を移すブラペ。3人で同時に飛び上がり、丁度ウィングに気を取られていたキョーボーグへ飛び蹴りを叩き込んだ。
「これで全員集合か。思ったより早かったが大丈夫か?」
「父さんに鍛えてもらってるからな。これくらいならなんともないさ」
「プリズム、ウィング。お待たせしました!」
「2人とももう大丈夫なんですか?」
「ばっちり!ちゃんと回復してもらったからね」
「よかった」
改めて並び立つ6人。イレギュラーな助っ人のブラペとフィナーレを加えての戦闘。どうするかをスカイたちが考える中、
「ブラペ。ウバウゾーと同じで、あれは浄化するしかないだろう」
「だな。招き猫を壊さずに済むといいけど。作戦は?」
「既に立ててある。技についても確認済みだ」
「流石だな。俺は?」
「最初の誘導。場合によっては最後の一押しだ。負担をかけてしまうが行けるか?」
「任せとけ」
視線をかわすこともなく、ただ淡々とかわされる言葉。しかしながらそこには確かな信頼が感じ取れた。恐らくは何度も窮地を乗り越えたことによって積み重ねられた信頼。その姿をかっこいいと、スカイは思った。
「4人とも、私に考えがある。聞いてくれ」
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「ふっ!」
6人の中から最初に飛び出したのはブラペ。正面から向かってくる彼にまず狙いを定めたキョーボーグが改造めん棒を振るうが、ブラペが左手でマントを身体の前に振るうと、高い防御力を持たされたそれに再びはじかれてしまう。
「てあぁっ!」
マントを振るった勢いのまま回転し、右足からの左足と連続の回し蹴りでキョーボーグを前かがみにさせるブラペ。と、キョーボーグの上空から光が降り注ぐ。真上には円盤状の飛行物体。ブラペが注意を引き付けた間に、スカイとプリズムの合体技が既に展開されていた。
「スカイブルー!」
「プリズムホワイト!」
「「プリキュア!アップドラフト・シャイニング!」」
降り注ぐ光に引っ張られるようにキョーボーグの体が浮かび上がる。しかしすぐさま改造めん棒のとげを地面に突き刺すことで自らを固定し、上昇が途中で止まってしまう。
「ランボーグのようにそう簡単には吸い込まれはしない」
心底どうでもいいかのように淡々とそう告げるスキアヘッド。さてここからどう反撃させるかと思考を巡らせるが、
「いや、吸い込む必要はないさ」
「何?」
ふっと笑ったのはフィナーレ。スキアヘッドが何かしてくる可能性を考慮し、彼女はスキアヘッドの近くまで接近していた。ちらりとスキアヘッドは彼女に目を向ける。その笑顔の意味は背後での動きが説明していた。
「全ての色を1つに!ミックスパレット!」
「レッド!イエロー!ブルー!ホワイト!まぜまぜカラーチャージ!」
ミックスパレットを使用したバタフライからエネルギーを貰い、キュアウィングが炎の鳥に姿を変える。そのままキョーボーグへ突撃――せずに、アップドラフト・シャイニングによって発生した円盤の上まで飛び上がる。
「プリキュア・タイタニック・レインボーアタック!」
円盤の真上まで来た直後、火の鳥がまた姿を変え虹色のプニバードへと変わり落下する。そのまま円盤を押すようにしながら2つの技がキョーボーグへと向かっていく。
「引き上げられないなら、いっそのことそのまま叩きつけちゃえってね!」
「キョーボッ!?」
アップドラフト・シャイニングによって強く引っ張られる力から逃れることもできず、キョーボーグへ2つの技が同時に着弾し、大きな爆発を起こした。爆発の中央にいたキョーボーグはどこか満ち足りたような表所を浮かべ、
「スミキッタ~」
と一言。それを最後に纏わされていたアンダーグエナジーが取り除かれ、元の招き猫とめん棒へと戻ったのだった。
「妙な邪魔が入ったか」
最後まで様子を見ているだけだったスキアヘッド。悔しがる様子も特に見せず、やはりどこまでも無感情に空間転移を発動させ、どこかへと消えていった。
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「ふぅ~。なんとかなったね」
「はい。でもやはりキョーボーグは単独の技では浄化できないみたいですね」
「でも、今回みたいに連携技ならなんとかなることもわかった。それはいいことだと思うよ」
戦闘中の緊迫した空気が緩みソラ達4人は変身を解除した。ひとまず安堵の表情と言葉を交わすましろたち3人だったか、ソラはその中に加わるよりも先に協力してくれた2人の方へ駆け寄って、
「あの、助けてくれてありがとうございました!」
「なに、気にするな。同じプリキュア同士みたいだからな」
「あの、お2人は一体、誰なんですか?」
「ふむ。どうするブラペ?私たちにしていたみたいに、正体は秘密にするか?」
「悪かったって。別にもう隠す必要ないし、知らない中でもないしな」
「そうか」
軽口を叩きあいながら2人が一瞬光に包まれる。その光がはじけるとそこに立っていたのは、つい先ほどソラ達が知り合ったばかりの相手だった。
「えっ、拓海さん!?」
「あまねちゃん!?」
「お2人もプリキュアだったんですか?」
「なになに、どういうこと?」
まさかの状況に混乱する4人を落ち着かせようとあまねが口を開くより早く、2人の名前を呼ぶ声が近づいてくる。
「拓海~!あまねちゃ~ん!」
「ゆい。芙羽と華満も、大丈夫だったか?」
「うん。あたしたちは平気」
「エルちゃんも無事です。まだ眠ってます」
「そうか。起こさないですんだのなら、それでよかったのかもしれないな」
「はにゃ~、それにしても2人ともなんか強くなってない?すごい連携だったよ」
まるで先ほどの事態がそんなに驚くべきことではなかったかのような会話。エルちゃんを預けていた3人と一緒に戦ってくれた2人の会話の様子から、変身のことも、戦闘のことも、何度も見てきたようにも思える。
「あの、皆さんは一体?」
「そう驚くことじゃないさ。私がプリキュアであるように、この3人もプリキュアとして一緒に戦っていたんだ」
「ゆいちゃんたちも、プリキュアってこと?」
「うん!」
えぇぇぇぇっ!という声があたりに響いた。改めて、これがひろがるスカイ!プリキュアたちと、デリシャスパーティ♡プリキュアたちの出会いだった。
空間と空間の狭間。スキアヘッドは転移の途中も次なる作戦について考え始めていた。が、
「面白い収穫だ」
空間を移動しながら呟くスキアヘッド。その手にあるのは移動中に次元の狭間で見かけたまるで廃棄されたかのように漂っていた紫色の石。あのイレギュラーな介入者の一人が使っていたものとよく似ている、知識外の力が込められている石。
その石、スペシャルデリシャストーンを手にスキアヘッドはまた新たな計画を練るのだった。