ひろプリ with デパプリ パート 16

ひろプリ with デパプリ パート 16

空色胡椒


突如空間に入った亀裂に驚いたのもつかの間。その亀裂がすぐにフィールド全体に広がり、強い光を放ちながら彼らを包みこむように視界を奪った。


「な、なんだったんでしょう?」

「わからない。ただもしかしたら――」


未だに拳を互いに突き合せたまま、周囲を取り巻く光に戸惑っているスカイとブラペ。と、


「どうなったの?」

「あたしにもわかんない。コメコメは?」

「コメ~。目がちかちかするコメ」


「!コメコメの声がするパム!」

「ということは、さっきの空間から出られたってことメン?」

「はにゃ!じゃあみんなも!」

「そうだね。きっとここにいるはず」

「でも目がまだ」


「マジェスティ!大丈夫ですか?」

「うん。私は平気。フィナーレは?」

「むぅ。油断した。もう少し待ってくれ」


声が聞こえる。


はぐれてしまった仲間の声が。


数度の瞬きの後に、光がだんだん収まり視界がクリアになる。周りを見ると同じように目をぱちぱちさせている仲間たち。プリズム、ウィング、バタフライにマジェスティ。それからフィナーレと、まだ知らない3人のプリキュア。でもゆい、ここね、らんの3人が変身した姿だと、スカイもすぐに理解した。


「プリズム!みんな!」

「スカイ!無事でよかったよ」

「なんとか無事に切り抜けられたみたいですね」

「まぁね。マジェスティも起きてすぐで大変だったんじゃない?」

「平気よ。ウィングとフィナーレがいてくれたから」


「プレシャス!?それにスパイシーにヤムヤムまで」

「拓海!」「拓海、元気してたコメ?」

「どうやらマリちゃんに通信は届いていたようだな。よかった」

「こうしてみんな集合できたのも、久しぶり」「ちょっと懐かしいパム」

「うん!なんだかテンション上がっちゃうよね!」「僕もいつもより熱くなってきたメン」


互いに駆け寄りながらチームとしての再開を喜び合う。プリズムの手を取るスカイとその嬉しそうな様子に微笑みを返すプリズム。ウィングとマジェスティの肩を組みに行くバタフライ。ほっと胸をなでおろすフィナーレの手を片方ずつ取って笑うスパイシーとヤムヤム。そして―


「拓海!大丈夫だった?」

「えっ、プ、プレシャス!?」


駆け寄ってきた勢いのまま飛び込んできたプレシャスを驚きながら受け止めるブラペ。


「お、おう。大丈夫だけど」

「そっか。よかった……」


上着部分を両手で握りながらブラペの胸にほほを寄せるプレシャス。これまでにされたことがない行動にブラペは戸惑わずにはいられなかった。何があったのかもわかっておらずつい助けを求めるように周りを見る。


スパイシーはほほを染めて口元に両手を添えていて、ヤムヤムはひゃーと言わんばかりの表情で目を両手で隠すようにしながらもしっかり隙間から覗いている。フィナーレに関してはいつだったかしていたような表情(・×・)でこちらを見ながら視線だけで早くしろと訴えかけてくる。エナジー妖精組はパムパムとメンメンがヤムヤムと大体同じだが、コメコメは驚きの表情を浮かべながらもほんのりと頬を染めるだけだった。


ならばスカイ達はというと、バタフライはおぉ~と漏らしながら興味津々に見ているだけ。ウィングは背伸びしながらマジェスティに目隠しをしていて、等のマジェスティは何が起きているのか把握できずに首を傾げている。プリズムは先ほどまで一緒に行動していたプレシャスの方を驚いたように見つめ、スカイは無意識のうちに胸にあてていた手をキュッと握った。


いくつか気になるリアクションこそあるものの、現状からの助けは期待できなさそうであることを理解し、改めて視線をプレシャスに戻す。


「プレシャス?」

「拓海が消えた時、わかんないけど……すごく、怖かった」


ブラペの胸に頬を寄せたプレシャスはどこか安心しきった表情をしている。それでもそう呟いた声は少し震えており、一粒のしずくが瞳の端から流れ落ちていた。


「ゆいちゃん……」


一緒に行動していたましろはその様子に思わず変身前の名前で呼んでしまう。自分といた時はそんなそぶりを全然見せていなかった。隠していたのか、それともその時はわかっていなかったのか。ただ、ましろやゆい自身が思っていたよりもずっとずっと─本人にとってはほぼ無意識とも呼べるほど深いところで、ゆいは拓海のことをずっと案じていたのだ。


「今のあたしは守ってもらってばかりで、拓海がずっと遠くにいるような気がして。それに、すぐソラちゃんを助けるために動いたり、この前もいっぱい回復させたり……わかんないけど、無理してたらどうしようって」

「ゆい……」


わかんないけど、そう何度も言ってしまうくらいには本当によくわかっていないのだろう。幼馴染とはいえその気持ちを推し量ることは完全にはできない。ただそれでも、彼女が自分を案じてくれたことは、拓海にもわかる。だってそれは、自分がブラペとして戦う決意を固める前に、ゆいに向けていたものに近い気持ちなのだから。


ぽんっと右手をプレシャスの頭に乗せて優しく撫でる。左腕は抱き寄せるように―できたらかっこいいのだろうけれども、残念ながら自分にはそこまでの勇気はまだ持てないらしい。どうしたものかと宙をさまよった手は、結局自分の体の横に、なんとも情けなく下げられることとなった。それでも頭を撫でる手の感触に、プレシャスの表情がまた和らぐのが見えてほっとしながら、声をかける。


「ありがとう、ゆい。心配してくれて。けど大丈夫だ。こうしてちゃんとここにいる。今はゆいも一緒にいる。大丈夫だ」

「うん…うん」




「ゴーボーッグ!」


律儀に待っていた、と表現するのはいささか違う。先ほどプリキュアたちが脱出した小型のフィールド、それが砕けた時にあたりに舞った余剰分のアンダーグエナジーをそのまま吸収し、自身の糧としていた。再会の喜びをわかちあっていたこと、ゴーボーグがここまでの間動くこともせずに吸収に専念していたことから、プリキュアたちも気づくことができなかった。


一回り体のサイズを大きくしたゴーボーグが天を見上げるように吠える。空気がまるで痺れるように震える。


「感傷に浸っていたい気持ちだったが、どうやらそうもいかないらしいな」

「だね。みんな、まずはきちっとこの戦いを切り抜けようか」


フィナーレとバタフライの言葉に全員が頷く。ただ共通していることは一つ。共に勝って元の世界に全員で帰還すること。ブラペがプレシャスの肩に手を添えそっと身体を放す。


「プレシャス。行けるか?」

「—うん!みんなでやろう!」


まだこぼれそうになっていた涙をぐしぐしと両手で拭いながらも、プレシャスはしっかりとブラペの瞳を見つめ返して答えた。その様子に安心したブラペは小さく微笑みを返した。スカイとプレシャスが視線をかわし、再度頷きあう。


「行きましょう、プレシャス!」

「うん。スカイ!みんな!」



それぞれのチームの要の2人の声に、全員が気を引き締める。


「「「「「レディ・ゴー!」」」」」

「「「「「ひろがるスカイ!プリキュア!」」」」」


飛び上がり、スカイを中心に地面に降り立ちながら名乗りを決める5人。


「「「「「デリシャスパーティ!プリキュア!」」」」」


プレシャスをセンターに、しっかりと大地を踏みしめるように立ち名乗りを決める5人。


2組のプリキュアチームがゴーボーグの前に並び立つ。アンダーグ帝国とブンドル団。両チームの敵組織の力の集合体。倒さなければこのフィールドが解除されることもなさそうである。きっと信じて待っていてくれている人たちのためにも、自分たちのこれからの使命や夢のためにも、ここで倒さなければならない強敵。


決戦の気配を感じ取りながらゴーボーグを見据える。最初に動いたのはゴーボーグ。その巨大な口にエネルギーをため、プリキュアたち目掛けて強力なエネルギー弾が放たれる。巻き起こる爆発、そして大量の煙。その爆煙の中から10人が飛び出す。


「ここからは!」

「あたし達!」

「「プリキュアの出番です(だよ)!」」


スカイとプレシャスの言葉に合わせるかのように散開しながらゴーボーグの周りを飛び、駆ける。


プリズムの光弾が右腕を攻めたと思えば、左の肘へスパイシーの蹴りが炸裂する。うっとおし気に振るわれる腕が2人に迫ればバタフライがプレスでスパイシーに向かう腕を地面に落とし、ブラペがマントでプリズムに迫る腕の軌道をそらす。


ヤムヤムがエネルギーで作ったひもを広げ、その端を受け取ったウィングとともにゴーボーグの身体に巻き付け動きを封じる。隙のできた胴体へプレシャスとフィナーレのパンチが、ゴーボーグの後頭部へスカイとマジェスティのパンチが炸裂する。


しかしあまり大きなダメージにはならなかったのか、力を込めて拘束を解くと、周囲の空気を揺らす咆哮とともに、身体からエネルギーの渦を発生させて彼女たちを吹き飛ばす。


「くっ…やはりあの大きさでは半端な攻撃は通らないみたいですね」

「それに攻撃を受けたらまずいよ。キョーボーグとはパワーが違いすぎる」


「外見だけを模した偽物…とはいえ力は本物クラスか」

「でもフェンネルさんの時みたいには心が感じられない…」


あの最終決戦の時、ゴーダッツの心が泣いていた。だからこそこちらが攻めるチャンスもあったし、救うために戦えた。それにあの時はジンジャーさんが残していた、世界中の招き猫達が力を貸してくれた。


今回は違う。あれは完全な怪物。ただ与えられた力を本能のままに振るうだけ。そしてここには自分たちしかいない。


「でも、諦めるわけにはいきません!」

「ああ。きっとなにか突破口があるはずだ」


ウィングとブラペの言葉に頷く一同。改めてゴーボーグと向かい合い、駆け出した。


フィナーレブーケの爆発の直後、ブラペの連続で放った光弾が立て続けに顔を狙い視界を奪う。腕を駆け上がったスカイのパンチが顔に当たるも、ゴーボーグは首を払うだけ。


ミックスパレットで元気の力をあげたウィングとマジェスティの同時攻撃が胸元に決まり、そのすぐ後にスパイシーサークルがゴーボーグのがら空きの背中へと直撃する。


あらゆる方向から、あらゆる方法でゴーボーグ攻略の方法を探るために、プリキュア達は攻めの手を休めない。


身体の大きいゴーボーグはプリキュア達の動きを捉えきれずにいたものの、ダメージもまだそこまで大きなものは無い。何よりこのままではプリキュア側がジリ貧であることも、彼女達は理解していた。一瞬の隙や集中力の切れが致命的。


そして最初に集中力が僅かに切れたのは─


「マジェスティ!危ない!」

「はっ!?」


肉体は成長しても精神がまだ追いついていないマジェスティ。動きが鈍った所を狙われ、ゴーボーグの腕が彼女に迫った。


「させないよ!」

「はあっ!」


プリズムの光弾とブラペの光弾が同時にマジェスティを助けるべく放たれる。同じくらいのサイズだった2つの技が隣合わせで進み…途中で交わるように1つになる。


特に狙っていた訳ではなく、打ち合わせた訳でもない。ただ偶然に同じ位の力が込められた2人の攻撃が、新たなひとつの攻撃となりゴーボーグの腕に当たる。


「え?」

「これはっ」


瞬間、先程までとは比べ物にならないほど大きくその腕が弾き飛ばされる。ゴーボーグも何が起きたのかと腕を見る。何より攻撃した本人達も驚きを隠せない。


しかし発生した敵の隙を逃すことはせず、フィナーレがマジェスティを連れて距離をとるのに合わせ、全員が一旦集合した。


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