ひろプリ with デパプリ パート 15

ひろプリ with デパプリ パート 15

空色胡椒


「たあぁぁぁっ!」


力いっぱい腕を振り抜いたマジェスティの拳をそれでもキョーボーグは腕を交差し、守りを固めて防ぐ。その交差した腕を開く勢いでマジェスティの姿勢を崩しながら反撃しようとする。


「させない!」


フィナーレが割り込むようにマジェスティの前に飛び込んでくる。勢いを乗せた肘による攻撃でキョーボーグの腕を弾きながらマジェスティを守るように前に降り立った。


「フィナーレ!」

「大丈夫か、マジェスティ?」

「うん!ありがとう」


振り返りながら小さく笑みを見せるフィナーレは、すぐに表情を引きしめ目の前のキョーボーグを見据える。


「マジェスティ。君は確かに高い攻撃力を持っている。だが、戦い方をまだ完全には知らないようだな」

「戦い方?」

「特に接近戦では如何に動きに無駄を無くすかで、大きく得られる成果は違う。まぁ、まずはお手本だ。見ていたまえ」


フィナーレはキョーボーグが何度も振り下ろした腕を最低限の動きでかわしながら隙を伺う。横薙ぎに払われようとした腕に対しては最もダメージが大きくなる打点ではなく、あえて近くへと踏み込みながら付け根を狙った左手での掌底を放つ。振り抜く前に動作を停止させられる形となったキョーボーグが怯んだのを見逃さず、フィナーレの右手の掌底が今度はキョーボーグの胴体に決まり大きく後退させた。


「フィナーレ、凄い」

「手本はこんなものだろう。稽古と行きたいところだが、状況が状況だ。習うより慣れろ。実戦の中で身につけていけばいい」

「わかった。やってみる」


不平も不満もなく素直に頷いたマジェスティに少し頬が緩むのを感じながらも、フィナーレは力強く頷いた。


2人がアイコンタクトを取るタイミングを狙ってキョーボーグが攻撃しようとするも──


「僕のことを、忘れないでください!」


上空から飛び込んで来たウィングの蹴りによってその腕が地面に叩きつけられる。次にウィングを狙った攻撃を放つも、まるできりもみ回転するかのように身体を捻る動きでその攻撃を掻い潜りながら、再度勢いを乗せたウィングの攻撃が炸裂した。


「ウィングも中々やるな」

「うん。ウィングは凄いんだから!」

「なんだ惚気か?惚気を聞かされているのか、私は?しかも1歳児に?」

「のろけ?」

「いや。気にする、な!」


軽い会話を交わし合いながらキョーボーグに接近するフィナーレとマジェスティ。キョーボーグが2人目掛けて放つ光弾や攻撃を時に避け、時に弾き並走しながら近づいていく。元が子供ゆえの学習能力の高さか、最初は少し遅れていたものの徐々にフィナーレに劣らない動きを見せ始めるマジェスティ。


キョーボーグの両手が真上から振り下ろされたタイミングで2人揃って足を止め、同時にアッパーのような形で掌底を放つ。フィナーレは右向きに、マジェスティは左向きに。腕がそれぞれ反対方向へ弾かれたことにより、キョーボーグの胴体ががら空きに、その体勢も不安定になる。


「「はあぁぁぁぁぁっ!」」


フィナーレとマジェスティの拳を受けて倒れこむキョーボーグ。すかさずフィナーレがクリーミーフルーレを取り出す。


「ブルーミン・ダンシン・フルーツ!」


指揮棒のようにフルーレを振りながら浄化のエネルギーを蓄える。フルーレを構え、キョーボーグへと向ける。


「プリキュア!デリシャスフィナーレ・ファンファーレ!」


クリーミーフルーレから放たれた浄化エネルギーがビーム状に飛びキョーボーグに炸裂する。


「キョッ…ボッ!」

「くっ…やはり私一人では力が足りないか…」


十分に弱らせていたつもりだった。それでもビームを受けながらなおキョーボーグは立ち上がろうとしている。


フルーレを握る手に力を込めるフィナーレ。その手の上そっとマジェスティの手が添えられる。


「マジェスティ?」

「私も、一緒に!」

「!あぁ、それもいいな」


頷き合い、笑い合う。


マジェスティの添えた手を通じて、彼女の力がフルーレに伝わる。直線状だったビームが形を変え、光の奔流となりキョーボーグを地面に押さえ込みながら包み込む。


「今だ、ウィング!」

「お願い!」


2人の声を受けた夕映えの騎士は、その身を天高くまで舞い上がらせる。


「決めます、ひろがる!ウィングアタック!!」


いつもの技に急上昇からの急下降を加え、降下の勢いをも力にする。敵が避けたら間違いなく自爆技となる方法故、普段はそんな使い方はしない。それでも2人が敵を完全に動けないように止めていてくれている今なら、自分に出来る最大を!


薄暗く染め上げられた空を翔る夕焼け色の流星となったウィングの技が地面に押さえつけられていたキョーボーグに炸裂し、爆発する。


煙の中から飛び出したウィングが2人と並ぶように着地する。


「スミキッタ〜」


連続の浄化技に耐えきれず、キョーボーグはどこか晴れ晴れとした表情で消えていった。


…ピシリ、と何かに亀裂が入る音がした。


──────────


カーン、と金属を叩いた時の音が響く。スパイシーとバタフライのパンチを、キョーボーグはその硬い胴体部分で受け止めている。


「あっ、また」

「時間切れだね」


「バリバリカッターブレイズ!」


バタフライとスパイシーを狙っていた扇風機状のキョーボーグの腕を飛び道具を用いて弾くヤムヤム。すかさずホットサンドメーカーの蓋部分を踏みつけるように蹴りを入れたふたりがまた距離をとる。


「ありがとうヤムヤム」

「ううん。でもあいつやっぱり硬いね」

「ホットサンドメーカーの身体部分。あんまり上手くダメージを与えられてないよね。パレットでパワーアップしても時間制限あるし」


普段戦闘においてパワーを担当しているスカイやプレシャスがいれば変わったかもしれない。ただ今の自分たちではどうしても攻撃力が足りない。


「う〜ん、せめて相手が硬くなくなればいいのに」

「硬くなくする…ねぇバタフライ。他にどんな力が使えるの?」

「え?そうだな…早くしたり、守ったり、ランダムで物を出したり、回復させたり、冷やしたり…割と色々?」

「はにゃ〜、そんなにっ!?でも、何かいい能力あるかな?」

「…冷やす」


う〜んう〜んと考えるヤムヤムと、他になにかあった思い出そうとするバタフライ。一方でスパイシーは先程の説明の一つについて考え込んでいた。


「そうだ!ヤムヤム、バタフライ。作戦があるの。聞いてくれる?」

「なになに?」

「おっ、頼もしいね。早速聞かせて?」

「うん。あのね…」




「プリキュア!ヤムヤムラインズ!」


3人を探していたキョーボーグの真上からヤムヤムの技が降り注ぐ。ひも状に形成された浄化技をあえて本体にぶつけることはせず、その両腕を地面に縫いつけるかのように大地に突き刺す。


「へへ〜ん。これでもう大丈夫だね」


とキョーボーグに聞こえるような大きな声でヤムヤムが言う。油断しきっているようにしか見えないその様子に、キョーボーグはホットサンドメーカーの口を開き、炎を放つためにチャージする。


「バタフライ!」

「おっけー!2つの色を1つに!」


待っていたとばかりに飛び出してくるスパイシーとバタフライ。スパイシーがヤムヤムの前に立ちバリアを展開すると、バタフライがミックスパレットを使用する。


またパワーアップかと思いながらも、先に炎を放てば関係ないとばかりにチャージを継続するキョーボーグだったが、それ故に対処が遅れた。


「ホワイト!ブルー!」


先程と違う色の組み合わせ。違う戦略で来るのかと意識がそちらに向けられる。瞬間、


「隙あり!」


展開していたバリアはフェイク。本命はこの瞬間に生じる隙。すぐさまバリアを消したスパイシーの2度目のヘビーサンドプレスがキョーボーグを抑え込む。


「キョボボボッ!?」


再び感じる中で暴れる炎にキョーボーグが目を白黒させていると、


「温度の力、サゲてこ!」


ミックスパレットの力を発動させたバタフライにより発生した冷気がキョーボーグを襲う。内側の炎と外側の冷気。同時に両極端な温度に晒されてしまったキョーボーグの身体はピキリとヒビが入った。


「やった!スパイシーの作戦大成功!」

「よっしゃ!それじゃあこのまま、アゲアゲで行っちゃおう!」


速さの力を発動するバタフライ。スピードを強化した3人がキョーボーグに接近する。より速い攻撃はより重い。加速力をも攻撃力に加えた3人の同時攻撃に、たまらずキョーボーグも吹き飛ばされる。


目を回しているようなキョーボーグをバタフライプレスで抑え込みながら、バタフライは2人に繋ぐ。


「行っちゃえ!」


「「ハートジューシーミキサー!」」


「プリキュア!デリシャススパイシー・ベイキン!」

「プリキュア!デリシャスヤムヤム・ドレイン!」


スパイシーとヤムヤムが自身の持つ浄化技を同時に放つ。青と黄色の光線が混ざり合うように交差しながらキョーボーグへと向かっていく。


本来の耐久力であれば通じなかったかもしれない技。それでも3人の連携によって脆くなってしまった身体では、耐え切ることは出来なかった。


キョーボーグの姿が光に包まれ、


「スミキッタ〜」


満足気な顔をしながら消えていくのだった。



パキリと亀裂が広がる音がする。


──────────


「やあぁぁぁっ!」


プレシャスがキョーボーグの気を引きつけている隙に近づいたプリズムがパンチを繰り出す。しかし、


「キョーッ…ボーグッ!」

「わわっ!」


胴体に当てたはずなのに大したダメージは見られず耐えられてしまう。元々鍛えていたスカイ、機動力を上乗せできるウィング、プレスと合わせることで威力を底上げするバタフライ、基礎ステータスが高いマジェスティと異なり、やはりプリズムは接近戦では決め手にかけてしまう。


反撃に振るわれる腕に身構えるも、すぐさまプレシャスが手を引くように飛び込んできて軌道上から逸らしてくれる。


「ごめん。ありがとう、プレシャス」

「ううん。それよりプリズム、あたしに力を貸してくれる?」

「え?何をすればいいの?」

「最初に攻撃してみてわかったけど、あたしだけのパンチじゃあのキョーボーグを弱らせきれない。だけど、プリズムの力と合わせればもしかしたら!」

「で、でも…私なんかのパンチじゃ」


思わず右手を見つめてしまうプリズム。先ほどだって全く通用していなかったのだ。それが加わったところで果たして状況は変わるのだろうか。今は己の無力さに呆れてしまう…と思いそうになる彼女の手をプレシャスがそっと両手で握る。


「体の芯を意識してパンチすること」

「え?」

「マリちゃんがあたしに言ってくれたの。そうしたらもっと威力が出せるって」

「体の…芯」

「それにね!」


プレシャスが笑顔でプリズムに告げる方法。ほんの少し目を見開いたプリズムは、しかし次にはもう瞳に力を宿し、プレシャスに頷いた。


「うん!やるよ、私も!」

「やろう!」


片手を離してキョーボーグを見据えるプレシャス。その左手を強く握り返したプリズムもまた、決意の表情を見せる。


大地を1度しっかりと踏み締め、蹴り出す。並走しながらのダッシュでキョーボーグとの距離を詰める。降ってくる光弾が当たるよりも速く、爆風が視界を覆うより先に、2人はキョーボーグへと迫る。


(体の芯を意識して…そして!)


拳に2,000の数字を纏わせたプレシャスの隣で同じように飛び出したプリズム。脳裏に浮かべるのは先程のプレシャスの言葉。


『誰かを守りたい、助けたいって想いを込めるの。その気持ちがきっと、プリズムに力をくれる』


プリズムショットに使用するエネルギーを拳に纏わせ留める。グッと拳を引き力をためる。


「「ダブルプリキュア!パーンチ!!」」


キョーボーグの身体をしっかりと捉えた2人分のパンチは、ただ足されただけの力ではなかった。先程までのプレシャスより鋭く、そして先程までのプリズムより強く。大きく身体を飛ばされたキョーボーグがひっくり返った体勢で地面に激突する。


「このまま合わせ味噌で行こう!」

「おっけー!」


チャンスを逃すことはしない。すぐに次の動きへ移る2人。


「ヒーローガール!プリズムショット!」

「プリキュア!プレシャストライアングル!」


大きな光弾として放たれたプリズムの浄化技へ周りを、さながらおむすびを包むノリのごとく、覆うようにプレシャスの技が合わさっていく。球体だったプリズムの技はプレシャスの技を受け、やや三角に近い形となり加速した。


異なる属性の浄化技が組み合わさった結果、より大きな力としてキョーボーグを包み込んだ。強烈な光が走り、キョーボーグがその中から姿を現すと─


「スミキッタ〜」


爽やかな表情でその姿を消したのだった。


──────────


走る─走る─2つの人影がマントを靡かせながら走る。


「スカイ!お前の作戦通り行くぞ!」

「はいっ!」


並走していた2人がスカイが前、ブラペが後ろになるように速度を変える。走りながら光弾を複数形成するブラペ。スカイの周りに浮かぶようにそれらを浮遊、維持させる。


「キョーボーグ!」


当然突き進んでくるのであればそれを見逃すキョーボーグではない。すぐに自身の底面にあたる発射口を2人に向け、攻撃準備を始める。それに怯むことなく、スカイはキョーボーグの発射口を見つめる。最初の光弾がチャージされきるのを見た瞬間、


「今です!」


その声を合図にブラペが待機させていた光弾をキョーボーグの攻撃めがけて放つ。丁度キョーボーグの光弾が発射されたタイミングで激突する両者の攻撃。光弾は相殺されたもののその爆発の近くにいたためキョーボーグの姿勢が崩れる。


「スカイ!」

「はい!」


地面を蹴って真っ直ぐにスカイはキョーボーグを目指す。生じた隙を逃さないために。それでもキョーボーグもタダでは転ばない。何とかスカイへと発射口を向けて、不安定ながらも1発分チャージを始める。


今の距離であればブラペが防御のために飛び込んでくる余裕もない。スカイが届くのが先か、光弾が放たれるのが先か。


「キョーッ、ボーグ!」


先に放たれたのは光弾。威力よりも速射を選んだため大きさは先程オブジェを砕いたもの程では無いものの、スカイにダメージを与えるには十分。真っ直ぐ迫るスカイにはそれを避ける術は無く、あとは着弾するのみ─


「たあぁぁぁっ!」


瞬間、スカイが自身の肩のマントを掴み、自身の身の前へと振るう。左手を通じて自身のエネルギーを込められたそのマントは、キョーボーグの光弾を防ぎ、そのまま跳ね返すことに成功した。


『今のお前に必要な技を教える。すぐ覚えろ』


そう言って彼が教えたのは自身もよく使用する防御技。先の作戦でスカイが直接打撃を入れることができればよし。万が一敵の反撃の方が早く、光弾をかわし切れないような状況になった場合のことを想定し、スカイに身を守るための術を教えたのだった。これまでの戦いで一度もスカイの取ったことのない行動パターン。それによってキョーボーグの不意を衝くことに成功したのだった。


「よしっ!」


スカイの後ろからブラペが彼女を追い抜くように飛び出す。すれ違う刹那、上出来だと言うようにブラペの手がスカイの肩を優しくポンっと叩いた。


「ペッパーミルスピンキック!」


訓練を重ねてきたことから身体的にも能力的にもアップグレードされており、ブンドル団との戦いの頃よりも高威力になったブラペの得意技。跳ね返された自身の光弾を受けて動きの止まったキョーボーグの胴体へと決まると大地にそのまま叩きつけ、更には体を凹ませるまで至る。


反対の足でキョーボーグを蹴って再度飛び上がるブラペ。先程とは逆に今度はスカイが彼を追い越すように飛び出す。


「はあぁぁぁぁぁっ!」


渾身の力を込めキョーボーグへと向かうスカイ。その背中へとブラペが手をかざす。


(デリシャストーン…俺に…いや、キュアスカイに、力を貸してくれ!)


デリシャストーンが強く輝く。癒しの力とは違う波導がブラペの右手からスカイへと届く。力が湧いてきて、そしてあの時みたいな暖かさに包まれる。まるでブラペが自分の手に彼の手を添えてくれているかのような安心感と頼もしさ。


「行け、ヒーローガール!」

「はいっ!」


ブラペからのエールを受け、口元に微笑みを浮かべながらスカイが拳を握る。いつもの空色のエネルギーに黒のアクセント。普段使うのとは異なる種類の光がまるで夜空とそれを彩る星々のようにきらめきながら、彼の名と同じ香辛料のように彼女に力を与え、引き立たす。


「ヒーローガール!ナイトスカイパーンチ!」


彼の力も乗せた拳がキョーボーグを貫いた。黒のアクセントの直後に周囲に満たされた空色の光。まるで絶望の闇を払う快晴のような光はブラペの力か、それともキョーボーグの身体からか、ほのかなスパイスの香りとともにフィールドに広がる。


「スミキッタ〜」


充足の表情で、キョーボーグは遂に浄化されたのだった。


「やったな、スカイ」

「はい!」


2人の力を合わせて掴んだ勝利を喜びあうように、互いの活躍を称えるように、スカイとブラペの拳が再び合わせられた。


パリンッとフィールドの空に亀裂が入り、徐々に拡がった。


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