ひろがるスカイ!プリキュア×仮面ライダーギーツ×王様戦隊キングオージャー(17)
タイトル順は放送枠に準拠です。キャラ面ではひろプリ、戦闘面ではギーツ、世界観の面ではキングオをそれぞれメインに据えたい(願望)。据えたかった(夢破れし者)。交差F:その英雄は、世界を────
1
シュゴッダム国、コーカサスカブト城。
王の間で不遜にも玉座に腰掛け、その玉座自体も太く強靭なツタで持ち上げて。
文字通り高みの見物といった体で待ち受けていたのはバッドジーム・ボーグデウスだった。
『来たか。あれだけの量を相手に二時間も稼げないとは、やはり厄介だな。ヒーローというものは』
ヒーロー全員が戻ってきたにも関わらず、バッドジームの余裕は崩れない。
玉座から腰を浮かせる素振りひとつ見せずにくつくつと笑っている。
「余裕ぶってられんのもここまでだスカポンタヌキ。あのシュゴッドもどきも今頃は全滅してる。創世の力を引き出すためのギラギラとやらもガス欠間近だろうが」
『……それがどうした? 一度引き出せてしまえたのなら民の代用品に用はない』
「何だと」
パピヨンオージャーが言った直後だった。
バッドジーム・ボーグデウスが掌を差し向け、空間を歪んだ鐘の音が震わせた。
すると。
「……変身が」
「解けちゃった!!?」
虹ヶ丘ましろが驚きの声をあげて周りを見渡せば、全員が既に生身を晒している。仮面ライダーと王様戦隊の面々はまだいいだろう。だが問題は自分達プリキュアだ。
「どうしよう少年、あたし達の中じゃ……」
「はい……。生身のままじゃ、ソラさんしかまともに戦えない……っ!」
「まずいわね。私達もオージャカリバーが消えてる。変身できない……というより、これは最早」
『ヒーローの存在を許さない世界。“そういう形”に創り変えさせてもらった。シュゴッダムだけでもそうなっていれば充分だ。後は貴様ら一人一人を、順番に叩き潰していけばいい』
そう言ってバッドジームが勝利を確信したようにほくそ笑む。その視線を追って、桜井景和がある絶望的な可能性に気付いてしまう。
「待ってくれよ……英寿まで変身が解けてるのはどういうことなんだ」
「……」
「創世の神は、同じ創世の力に抗える! そういうルールというか、性質があるんじゃなかったのか!? ……その英寿が、バッドジームの力の影響を受けてるってことは、それって……っ!!」
その先は言わなかった。
だが同時に夕凪ツバサ、五十鈴大智、ヤンマ・ガストの脳裏に強く浮上する言葉。
バッドジーム・ボーグデウスが持つ創世の力は、既に浮世英寿のそれを超える出力を発揮している。だから英寿の創世の力でも、その改変能力を中和しきれなかったのだ……と。
「おいマジか……!」
「どう戦うとしても、英寿さんの力が頼りだったはずなのに……!?」
バッドジームを倒す準備が整ったが故の再集結だった。しかしその準備は、三世界のヒーローそれぞれが万全に戦える状況であり、英寿が創世の神としてバッドジームを同質の力で抑え込めることを前提としているはずだったのだ。
その前提を土台からひっくり返す盤外戦術。
途端に窮地へ追い込まれたヒーロー達の中で、しかし。
「自信がないのか?」
浮世英寿はそれでも、不敵な笑みを浮かべて突きつけた。
『……何か言ったか』
「変身した俺達全員を相手にして、勝てる自信がないのかって言ったんだ」
「ちょっと英寿、今アイツを刺激したら……!」
「いいや英寿の言う通りだ。俺様なら、こんなみみっちぃ真似などせん、真っ向から敵を捻り潰し、それで以って己の最強を誇示する」
「そうしないで私たちの変身能力を奪うという方法をとった時点で、あなたの焦りは透けて見えます! 自分の手に入れた力が“偽りの最強”だと、私たちヒーローがそれぞれ積み重ねてきた力と絆には勝てないと、あなた自身が認めてるんです!」
ギラ・ハスティーもソラ・ハレワタールも、決して折れてはいない。
逆上させようと知ったことか。バッドジームの怒りが、そして能力が、どれだけ牙を剥いてこようと構わない。いやむしろそれこそがソラの狙いで、何より望みだ。
全てをぶつける。そして、全てをぶつけさせる。
そうしてこそ戦いの先に別の結末を導ける。
こんな考えはソラの身勝手かもしれない。
だけど。
身勝手だとしても、倒して、殺して、それで終わりになんてしない。
もう二度と手を取り合えないところに追いやってしまって、たった一人の心と命を踏み躙ってそれ以外の皆で笑い合うような結末は求めないのが、ソラ・ハレワタールの信じた理想の“ヒーロー”だ。
その理想を貫いて、どこまでも愚直に目指して。
最後に叶えてみせて、そうしてソラ・ハレワタールは、初めて自分が“ヒーロー”として選ばれここにいるのだと胸を張れるのだ。
『……減らず口を叩くな。変身もできない、武器もない!! そんな貴様らに、一体何ができるッッッ!!!』
バッドジームが四本の腕を広げた瞬間だった。その背後から、樹木のような質感をした体の大蛇が悍ましい紫のオーラを纏って現れる。
頭の大きさだけで三メートルは越えている。見える部分だけの目算でも、その体長は恐らく四〜五〇メートル近くあるだろう。
突貫してくるだけでもこちらには大打撃になると警戒しヒーロー達が身構えるが、大蛇は鎌首をもたげるばかりで全く突っ込んでくる素振りを見せない。
『ジャ・ジャァ・グゴゴボボボガガガガガガガ』
大蛇が湿っぽい響きで呻く。
その口の中からボトボトと吐き出されるのは、アンダーグエナジー。
エネルギーはごぽごぽと、マグマのように粘ついた音を立てて煮えたぎっていた。そしてアンダーグエナジーはゆっくり凝固していき、そこから無数のランボーグ……のような何かが出現する。
素材になる物質などいちいち求めない。創世の力さえ使えば、アンダーグエナジーそのものの形をいかようにでもこねくり回して兵隊を生み出せるのだ。
『オォッ、ボォォォーグ!!』
「おっとぉ? あれがランボーグかい……」
「だけど、わたしが知ってるのとも形が違う……! 虫? それとも……」
エルがそう言い淀んでいると、鞍馬袮音が吾妻道長にハッと思い当たったように尋ねた。
「ねえ道長、アレって!」
「ああ。ポーンジャマトに、俺らがンコソパで戦ったオレンジ色の雑魚虫も混ざってやがる」
「……サナギムか」
リタ・カニスカがその名を告げると、バッドジームがどこまでも酷薄な笑い声を喉の奥で響かせて肯定した。
『その通りだ。ジャマトとサナギム、そしてランボーグ。お前達からすれば取るに足らぬ雑兵の肉体と力を掛け合わせて創ったのだ。こんな奴らに殺されれば、王も神も英雄も、その名が泣くというものだろう?』
「ふざけた真似をしてくれる……」
ギラの声に、バッドジームはわざとらしく小首を傾げて、
『そうだ。ふざけているのだ』
「……何だって」
『かの宇蟲王がそうしたように、我もまた遊び半分に貴様らを叩き潰して君臨する。この、いわば“オーボーグ”も遊びの一環よ。真正面から戦うだの何だのと、形になどはもう拘らん。無惨に、残虐に、そして何より圧倒的に、貴様らヒーローをすり潰すことさえできれば! 我の強さはそれだけで証明されるのだ!』
「王と横暴、合わせてオーボーグってか。ナメたネーミングしてくれんじゃねェか」
『ナメるなどというのは下の立場の者がすることだ。頂点に立つ者が下の者を嘲け、足蹴にして、一体それの何が解せないというのか』
バッドジーム・ボーグデウスが腕の一本を天に掲げると、無数のオーボーグが奴の方を向いて額突いた。
戦闘が始まる……否、既に全員が臨戦態勢となった状況には不釣り合いな、あまりに隙だらけな所作。
しかし誰も動けない。何十体というオーボーグによって後押しされたようなバッドジームの存在感が、その威圧とでもいうべきプレッシャーが迂闊な一歩を封じていたのだ。
『創世の神に叛逆を、救世の勇士に弾圧を、治世の王に簒奪を!』
『悪逆の名を王冠に、骸を重ねて成す玉座』
『混沌の世に楔打ち、空を鎖して神を討つ』
『バッドジーム・ボーグデウス! 旧き英傑贄にして、死の祝福を遍く招く!!』
鬨の声をあげ、オーボーグが未だ生身のヒーロー達へ襲い掛かっていく。
2
「きゃあぁぁぁっ!?」
「っましろん!!」
幼馴染の少女に迫る殺意なき殺意。聖あげはが擦り切れるように叫ぶ。
しかし迫ったオーボーグ。その腰元へカグラギ・ディボウスキが全体重を乗せて突っ込んだ。
変身能力を取り上げられたところでカグラギの鍛え上げられた肉体がなかったことになるはずはない。
「せぇいっ!!」
踏ん張りを効かせて上体を跳ね上げると、オーボーグの体がかち上げられて後方に吹っ飛んでいった。
「大丈夫ですかな御二方」
「は、はい!」
「ごめんカグラギさん、あたし達生身だと、ホントにただの一般人で……!」
「恥じることではありませんよ。……しかしなかなかに厄介。地の利は完全に敵方にあると見てよろしいでしょう。どうにかしてそれを、英寿殿が創世の力で覆してくれれば助かるのですがね」
「そうは言うが、俺としては英寿があまり動いてないのが気掛かりだね。お前さん程じゃないにしても彼だってそれなりに戦えそうなもんだが」
合流してきたジェラミー・ブラシエリ。あげはとましろを背に庇い、片や鍛え上げられた肉体、片や生まれ持った糸を出す能力でそれぞれにオーボーグへ応戦する。
しかしジェラミーの言う通り、浮世英寿はこれといって行動を起こしていないように見えた。
ただ、必死でオーボーグを捌くギラ・ハスティーの元へ歩いて行って、その耳元で何かを囁いているようだった。
ギラが目を見開き、次いで周りを少し見渡して頷くのが見えた。
(……ギラに、何か頼んだ?)
ジェラミーが怪訝に思うのも束の間、またもオーボーグが、今度は五体同時に襲い掛かってきた。
「おっと」と口にはしながら、右手から地を這うような低さで糸を伸ばす。
転倒する二体のオーボーグ。その首元へカグラギのラリアットが叩き込まれた。
「はて、ところで何人か姿が見えませんね」
「ヤンマと少年……後は」
「大智さんもいない? 一体どこに……ツバサくん……!」
混沌とし始めた戦場で、よりにもよって相棒の姿が見えない事実。
不安に駆られた聖あげはが“いつも通り”を見失ってツバサの名を呼んだ時だった。
ッドォン!! と爆発音が鳴り、大の字じみた間抜けなポーズをとりながら残った三体のオーボーグが吹っ飛んだ。
「ハッハー!! オレらの叡智をナメんじゃねえぞスカポンタヌキィ!!」
「「「「!?」」」」
突然の勝ち誇ったような大声に振り返ると、そこには。
「……デミシュゴッド……?」
「応よ。変身できねェならできねェで割り切って、こっちもやることやるだけだろ。つーことで、そこら辺にいたデミシュゴッドを急ピッチで戦闘用に改造してやった」
「それは凄いが……後でギラや裁判長にどやされやしないかい?」
「国民守るためだぞ、ギラにもリタにも文句言われる筋合いなンざねーな」
虹色のレーザーを放り飛行する、モンシロチョウ型をした四羽のデミシュゴッド。その先陣を切るデミシュゴッドの背に夕凪ツバサが乗っていた。
「少年!! 離れるなら離れるって言ってよね!!」
「ご心配をおかけしました、ましろさんとあげはさんも乗ってください!」
「ごめんわたしも乗せてー!!」
デミシュゴッドの背にましろとあげは、そしてピョンピョン跳ねて自己主張する桜井沙羅を乗せたと思うと、ツバサはあっさり飛び降りてエルの元へ向かっていく。
そして残った三羽のうち一羽が彼を追って飛んでいき、エルとツバサを乗せて再び戦場を飛び回り始めた。
「よかった、エルちゃんも乗れたみたいだよ二人とも!」
「ナイトとプリンセスって感じ! 蝶々に乗ってるのもロマンチックでアガる〜っ!」
「あげはちゃん状況考えよ!? ……ってリタ様がツバサくんの後ろ乗っちゃった! せっかく二人きりだったのに!!」
ましろの言った通り、いつの間にかリタ・カニスカがモンシロチョウ型デミシュゴッド、ツバサの後ろに飛び乗っている。
前にはエル、後ろにはリタ。二人に挟まれたせいで狭くなったのかそれともまた別の理由があるのか鳥の姿に戻ったツバサがリタにモフモフされている。
「ましろちゃん? さっきのツッコミが帰ってきてないかな?」
「ハッ、ごめんなさい沙羅さん! っていうか、ソラちゃんは……!?」
ましろが見下ろすと、流石はスカイランド神拳の使い手。ソラ・ハレワタールは当然のように生身でひらりひらりとオーボーグの攻撃をかわし、隙を見て痛烈な一打を叩き込み続けている。
「わお、大丈夫そ……」
「うん……。やっぱりソラちゃんって、元々すっごい動けるんだなあー……」
「スカイランドの人って皆あんな感じなの?」
ましろとあげははツバサとエルをチラ見して「ソラちゃんが凄いだけだと思う」と目を逸らしながら呟く。
沙羅が「そんなもんかぁ」と呑気していた頃、吾妻道長と桜井景和は互いに背中を預け合っていた。
周りを取り囲むオーボーグは、全部で七体。
「どうする道長さん、うまく潰し合わせたり……」
「知るか。正面突破だけでどうにかしてやる」
「もー……ホントにそういうとこ牛だよなぁ……」
「俺とお前だぞ。どうとでもなると思って言ってんだ!!」
道長が言い終わるのをギリギリ待たず、小さく笑った景和が正面に駆け出した。
受け止めてやろうと体を大きく広げたオーボーグの股の間をスライディングで潜り抜け、そのままブレイクダンスのように脚を大きく振って敵の背を蹴り付けてやる。
勢いで膝立ちになる景和がまた別のオーボーグへ足払い。転倒したそいつの顔面を道長が思いきり踏み潰す。
『オ、ボォ!?』
「っ邪魔だ!!」
そのまま側頭部目がけて全力のキック。弾き出されたオーボーグが他五体中二体の足を刈って転ばせた。
転んだ内一体に馬乗りになって顔を力任せに殴る道長。そこに、二体のオーボーグがガンショベルを振り上げる。
危うく道長の頭蓋が陥没させられる手前、桜井景和が駆け込んでくる。
転ばされたもう片方。四つん這いになって起き上がろうとするそいつの背中を全力で踏みつけてノックダウンさせながら、景和がその反動で高く跳び上がる。
そして武器を振り上げた二体のオーボーグの首の付け根辺りの高さへ、テコンドーのサンバルチャギにも似た左右同時蹴り。
そのまま敵をKOした道長すら飛び越えて着地した景和が、真正面から迫り来るオーボーグに気付いた。
「しゃがめタイクーン!!」
言われるがままにしゃがみ込む。次の瞬間、道長がさっきまでパウンドしていた敵の胸ぐらを掴んで引き起こし、無理やりに最後のオーボーグ目がけ投げつけた。
『ジャッ!?』
「ジャマト語喋んのか「オーボーグ」しか言わねえのかっ、ハッキリしやがれ!!」
姿勢を崩して後退りするオーボーグの鳩尾付近へと吾妻道長がタックルで肩を突き入れる。
そして鳩尾へのダメージで頭部が下がってきたのを認め、そのまま道長が頭を振り上げてオーボーグの顎を打ち据えた。
『オォッ、ボ、ァ』
「……ホント牛だね、道長さん」
「何度も言わせんな。バッファローだ」
言い合いながら、桜井景和と吾妻道長が再びデミシュゴッドとオーボーグで大乱戦の様相を呈し始めた戦場に駆け出していく。
時にはゲームのライバルとして、時には罪と罰の巡り合わせた宿敵として。
何度となく争って今、二人の理想は一つになっていた。
(全ての平和を守り抜く)
(全ての不幸をぶっ潰す)
((世界のバッドエンドなんて、認めてたまるか!!))
続
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