はつこいのきみ、或いは今はなき少女の為の(後編)
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「月に戻ってきた子ぎつねは泣いてばかりいます。」
「これには仲間のきつねたちも困ってしまって、どうしたのとたずねました」
「子ぎつねは『ちいさな魔女さんのことをかんがえているの』と言いました」
「ぼくには仲間がいるけれど、魔女さんはずっと一人ぼっちだった」
「一人ぼっちはさみしくて、あのひとは今泣いているかもしれない」
「話を聞いたきつねたちもかなしくなってしまって、顔を見あわせます」
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「あいつがこれを読んでて、なんか懐かしくなったよ」
どこから見つけてきたんだか、と小さくぼやく。
12年前の騒ぎに紛れてどこかへ行ってしまったと思っていたそれは、すやすやと眠っているスレッタの枕元に置かれていた。
おそらくあの少年がスレッタの為にと何処かから見つけて持って来たのだろう。
「お前、好きだったよなあ」
正直耳にタコが出来そうだったぜ、とエランは目の前のモニターに話しかけた。
表示された波形が微かにさざめくのを見て、目を細める。
もうずっと長い間、エランにとってこの部屋で彼女に話し掛けることは日課になっていた。
例え彼女に聴こえているのかを知るすべは無いとしても。
「また来るよ」
そう告げて端末とモニターの接続を停止すると、画面を消して立ち上がる。
手元の絵本を見つめる。何回も何回も読み直していたから、表紙は擦り切れてしまって全体的にボロボロだ。
絵の中では色褪せた狐と小さな女の子が星空の下で笑い合っている。
「みんな一緒なのがすき。そう言ってたっけ」
「誰が?」
突然、後ろから声を掛けられた。
振り返るとそこにあったのは自分と同じ顔。
いつから居たのだろうか、もう1人の“エラン・ケレス”が背後に立っていた。
その黄緑色に光る双眸は静かにエランを見つめている。
「っおわっ!お前いつの間に居たんだ!?無重力区間にはあんま来るなよって言われてたろ!」
この少年がここに来ることは今までなかったので油断していた。
無重力区間の中でも特に奥まった所にある部屋だ。
別に出入りが禁止されているわけではないが、ここに用事がある者は限られている。
驚いて思わず端末を取り落としたようで、手から離れたそれは無重力にふわふわと浮かんだ。
落とした拍子に画面を触ってしまったのか、端末は一枚の写真を表示したまま画面を明るく瞬かせる。
映っているのは赤い髪の幼い少女と緑がかったアッシュベージュの髪の少年。
少女はカメラを見つめ、口を大きく開けてにかっと笑ってピースしている。
隣の少年は少し面倒くさそうにピースをして、笑う少女を見つめている。
下に表示された日付は、今から12年前の物だ。
隣で息を吞む音が聞こえた。
エランと同じ顔をした少年は、目を見開いてその端末の画面を凝視すると、凍り付いた表情でエランに向き直った。
「これ、誰」
スレッタじゃない、と掠れた声で呟く。
◆ ◆ ◆
スレッタはこんな風に笑わない。
彼女ははにかみがちで、笑う時もすこし恥ずかしそうな顔をして笑う。
だから、これはスレッタではない。
それに、この写真に写っているオリジナルと少女は彼と同じくらいの歳に見える。
こんな少女は知らない。でも、スレッタと同じ顔をしている。
問われたオリジナルは、懐かしむような顔をしてあっさりとその名前を告げた。
「スレッタの姉だよ。エリクト。エリーって本人は呼んで欲しがってたな」
「姉?」
スレッタに姉がいた?
…でも一年間ここで過ごして、誰もその存在を口にしなかった。
しかも、姉というより……一卵性双生児のようにそっくりだ。
その瞳も、髪も、眉も、鼻も、掌も。
全て、見慣れた彼女のものだった。
◆ ◆ ◆
「本当に?じゃあ彼女はどこにいるの、誰もその名前を言わないのはなんで?」
訝し気にこちらを睨めつける少年に、エランは少し感慨深いものを感じた。
一年前はこんな風に目線が合うことなど全くなかったのに、その瞳が自分のことをまっすぐに見つめている。
人形みたいだと思っていた能面にもはっきりと疑念と憤りが表れていて、無表情は忘れてしまったようだ。
「そうだな…婆さん達には言うなって言われてるんだが、お前が本当に知りたいなら教えてやってもいい」
「それに、他にも聞きたいことがあるんだろ?」
そう聞くと、少年はぎくりと身を震わせる。
最近の彼の行動はどこかおかしかった。
いつもだったら暇さえあれば寝付いているスレッタの枕元に座って何やら話しかけているのに、今日は一度もその姿を見ていない。
それに、一人でペイル社のあちこちを訪ねているらしい。
昼食時に喋ったベルメリアの様子も何かを気に掛けているような、歯切れの悪い言動だった。
「大方スレッタが熱を出す原因を探りに来たってところか」
少年は黙ったまま眉を顰めた。……これは当たりだな。
まあ、少しくらい教えてやってもいいだろう。
「簡単に言うと、スレッタの受けてる『調整』はお前とは正反対だ」
「…どういうこと」
「お前はパーメット流入耐性を施術で上げてるだろ、スレッタはパーメット流入耐性…いや、親和性を下げてるんだよ」
少年は眉をひそめて考え込んでいるようだった。
『調整』は体内のパーメットを除去するとともに、被験者のパーメットへの耐性を調節する施術だ。
機体からのデータストームを受け止めるためには高いパーメット流入耐性が必要となる。
なのにそれをわざわざ下げるなんて信じられない、といったところだろう。
「スレッタがエアリアルに乗る為に必要なの」
「そうだ」
そう、あの事故をもう二度と繰り返さない為に。絶対に必要な施術だ。
しかし、それを聞いた少年の口から出たのは、エランの予想だにしない言葉だった。
「でも、スレッタがそれで苦しむのなら、GUND-ARMに乗る必要なんてない」
そうじゃないの、と真っ直ぐな視線で問われ、エランはたじろいだ。
スレッタがエアリアルに乗らない、その選択はこのペイルに居る全ての人間が想定していないだろう。
だって彼女は───
そうだな、と返すべき場面だった。頭ではわかっている。
でも、嘘はつけない。
取り繕うことが出来ず言葉に詰まった。
それはスレッタに犠牲を強いてでもやりたいことがある、と告げているに等しい。
突き刺さる視線から逃げるように顔を背ける。
「あんたも何か隠してる」
動揺したエランに対して、少年は怒りを顕わにした。
「また『計画』?それがどんな価値を持つのか僕は知らないけど、そんなに大事?」
見慣れたはずの自分の顔が自分とは似ても似つかない表情に歪み、黄緑色の瞳がぎらぎらと光る。
「ペイルは何がしたいの」
最初は取り敢えずGUNDの理想でも語って追い返しておけばいいと思っていた。
しかし、目の前の少年はもう命令を聞くだけのお人形ではなかったし、スレッタもまたエアリアルに乗る為の少女ではなかった。
そんなこと、理解していたはずなのに。
エランはずっと見ないようにしていたのだ。
「『計画』は至ってシンプルだ。フォールクヴァングの虐殺にて喪われた命を取り戻す」
「その為のGUND-ARM、その為のお前達だ」
「……命を取り戻す?…出来るわけない」
信じられないのも無理はない。
「パーメットは情報を伝達する。神経の代替品になるのは体験したろ、ベルメリアのとこで」
「脳の電気信号を全てパーメットに記憶させ、それを機械かなんかに転写してやれば…その人の思考を、人格を再現できる。夢物語だと思うだろ?」
「勿論、記憶させたものしかパーメットは再現できない。だけどヴァナディースの魔女共は研究の過程で何度か脳神経ネットワークの記録を試してた。だからこんな『計画』なんて荒唐無稽なものを必死にやろうとしてる」
ヴァナディースの虐殺は彼らの命を奪ったが、皮肉なことにその研究成果は持ち出され、秘匿されてベネリットの膝元で連綿と続いている。
最初からスペーシアンと対等に向き合おうなんて思わなければ良かったのだ。
そうすれば虐殺は起こることなく、ヴァナディースという形ではなくともパーメットの研究は続いていただろう。だが、そうはならなかった。
「最初は、ヴァナディース最後のGUND-ARMであるルブリスを使ってパーメットから望んだ情報を抜き出す実験をしてたんだ。そのルブリスのパイロットがこいつ、エリクト・サマヤだった」
彼女の写真を表示したままの端末を少年に手渡すと、彼は訳が分からないという顔をしながらも素直に受け取った。
「…こんなに幼いのに?」
エリーは、類稀なパーメット親和性の高さを持って生まれた少女だった。
ルブリスと心を通わせ、その力を引き出すこと、すなわちパーメットスコアを上昇させることができた唯一のパイロット。
「幼い方が都合がいいんだ。GUND-ARMってのは生まれたての赤ん坊と同じ。対等な立場で対話を試みるものでなければその意志を引き出すことはできない」
婆さん達の受け売りに過ぎない理論ではある。
あの事故が起こるまで、ペイル社には大人のパイロットも何人か存在していた。
しかし、未だにGUND-ARMと心を通わせる、すなわちパーメットスコアを上げることができるのはエリーと、それを継いだスレッタのみ。
ということはあながち間違った理論ではないのだろう。
「じゃあ、エリクト・サマヤは今どこにいるの」
心臓がどくりと跳ねるのを感じた。
落ち着け、この問いが発せられることなんて全て話すと決めた時点で想定していただろう、とエランは自分の鼓動を宥める。
もう誤魔化すことはできない。
「エリーは、親和性が高すぎてデータストームに耐えられなかった」
「お前の前任パイロット3人と大勢の研究者を巻き込んでパーメットに溶けたんだ」
──その時から、ペイル社にはエリーを取り戻すという消えない妄執が生まれた。
諦めと期待の入り混じっていた「ヴァナディース虐殺で喪われた命を取り戻す」という当初の希望とは明確に違うそれが。
GUNDの未来に、などとのたまいながら、魔女達の瞳はそれとは異なるものを見ている。
かくいうエランもその一人だった。
12年の間に外部から加わった研究者はその限りではないが、古株の連中を突き動かしているのはあの事故によって喪われた何人もの犠牲者だ。
「スレッタは計画の為に生み出された、エリーの代替品。クローンだ」
エリーの代わりにGUND-ARMに乗る、或いはエリーの代わりにパーメットに奪われた全てを取り戻す為の。
ペイルは贖えない罪を重ねている。
こちらの都合で勝手に造って利用して、それどころか彼女の双肩に『計画』の全てを乗せて。
彼女を愛していると言いながら、外に出すことはおろか友人を作ってやることすらしなかった。
「『計画』が無かったら」
それでも、自分勝手に許しを乞おうとは、思わない。
「そして……エリーがパーメットに溶けなかったら、スレッタは存在すらしなかっただろうな」
少年がどんな表情を浮かべているのかを見る気にはなれなかった。
出会った頃はこの少年が自分から目を逸らすことに腹を立てていたというのに、今は反対のことをしている、とエランは自嘲気味に笑う。
彼は変わった。まるで、魔女に魔法を掛けられたように。
いや、境遇に倦んでしまっていただけで、彼の性情はもとよりこうだったのだろう。
そしてそれを思い出させたのは他でもないスレッタなのだ。
魔法ではなく、彼女の真心がそうさせた。痛い程に、それが伝わってくる。
「スレッタはこれを…どこまで知ってるの?」
「それは自分で聞いてみな、その上でお前がどうしたいか決めるんだ」
少年の端末がヴヴ、と振動し、スレッタが彼の場所を探しているという探知機能の通知を示した。
遠くから、「エランさ~ん!」と呼ぶ声が聞こえる。
どうやら彼を探しに来たらしい。
少年はその声を耳にすると、暗い部屋に佇むエランの方をちらりと一瞥した後、部屋を出て行った。
その足取りに迷いはない。
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「きつねたちは魔女さんを一人にしないためにはどうすればいいか、みんなで相談しました」
「その話し合いはとても長く、何回も月の水平線から地球が顔を出すまで続きました」
「子ぎつねも一生懸命にお話しします」
「もうあの小さな女の子が悲しい顔をしなくていいように。一人で泣かないですむように。」
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エランは一人、廊下で少年がスレッタの名前を呼ぶのを聞きながら、敵わないな、と薄く微笑んだ。
ずっと…ずっと昔から、いつだって自分は真っ直ぐな彼らに焦がれて、振り回されている。
◆ ◆ ◆
廊下に飛び出したエランは、遠くから赤い髪の少女がふわふわとこちらへ向かってくるのを見て咄嗟に両手を広げた。
「あっ、わわっ」
案の定、無重力に任せてスピードを出していた彼女は急に止まれず、広げた腕の中に飛び込んできた。ぎゅう、としがみついてくる温かさと重さに思わず息を漏らす。
そのまま腰に手を回すと彼女を抱えてくるりと体を反転させ、勢いを殺した。
「エランさん、どこにもいなかったから私、心配で…!」
「…心配なのは僕の方なんだけど。体はもう大丈夫?」
ぐいぐいとひっついてくるスレッタの勢いに任せてぴたりと頬をくっつけた。
ここまで急いできたためか頬は上気しているものの、熱はもうないようだった。
「ごめんね、何も言わないでいなくなったりして」
彼女は寝巻のままだった。
きっと体調が戻ってすぐ探しに来てくれたのだろう。
「なんでも持っている女の子」かつて自分がスレッタをそう評したことを思い出す。
確かに彼女はなんでも持っている。でも、そうじゃなかった。
彼女が持っているものは全部、姉と引き換えの……
「君のお姉ちゃんのこと、聞いたんだ」
それからGUNDの理想も、と告げる。
「お兄ちゃんからですか?」
「うん」
スレッタは擽ったそうに笑うとエランの首に回した腕にすこし力を込めた。
「みんな、お姉ちゃんのことが好きなんです」
「そうだね」
そうみたいだ。
応えるように、彼女を抱えた腕に力を込める。
「それに、きっとお姉ちゃんもみんなのことが大好きだった。
だから、私も会ってみたいんです」
先ほどのオリジナルは、随分と罪悪感に塗れてわざと露悪的に振舞っていたようだったが、その行いの理由もスレッタの言葉を聞いて腑に落ちた。
彼の願いはスレッタと同じで、極めてシンプルなものなのだろう。そんな気がした。
ペイル社が求める答えもきっと同じだ。
つまりは今はなき少女の為の…
「それだけじゃないんです。GUNDが実用化されればみんなもっと元気に宇宙で生きていけるって」
でも、それは───エランは言葉を吞み込んだ。
薄い寝間着越しに、温かい体温が息づいている。
ベルメリアは服を纏うように機械の体を纏うのだと言っていたけれど、機械の体ではこの柔らかいものが触れ合う感触も、違う体温同士の間で循環する温もりも味わうことができないだろう。
どんな利点があっても、この暖かさを手放すようなことなんてこと、受け入れられるわけが、ない。
黙り込んでしまったエランに、スレッタは内緒話をするように耳元で話し始めた。
「エランさんはまだ会ったことないと思うんですけど、私のお母さんは今水星にいて…」
「水星ではパーメットを採掘するためにみんな命懸けでMSに乗らなくちゃいけないって聞きました」
「やっぱり何人かは採掘から帰らない人がいるんだってお母さんは言ってて……でも、GUND技術があればそれを変えられるかもしれない」
ベルメリアさんのところでテストしてましたよね、と尋ねられて声には出さずに頷く。
「あの遠距離操作用のMSがあれば、みんな安全に作業が、できます。まだ水星の環境に耐えられる通信の強度じゃないって言ってたんですけど、私ががんばれば、いつかは…」
データストームを起こさずに大量の情報をやり取りできるようになるかもしれない、と彼女ははっきりとした口調で告げた。
「お婆ちゃん達が言ってたGUNDの理想?は難しくて…ほんとはよくわからないんです。だけど、長く生きるためだけじゃなくて、GUND技術で幸せになれる人はきっとたくさん居ます」
首に回されていた腕が緩んで上半身が離れる。
青い眼差しと正面から目を合わせた。
彼女はへにゃりと笑みを浮かべる。
「あっ、い、今のお婆ちゃん達には言わないでください」
理想がまだ理解できてないなんてないしょですよ、とはにかんだ彼女にうん、と返して手を繋ぐ。
なんでも素直に口に出す彼女の内緒をはじめて預けてもらった。
きっとそれは自分が「好敵手」だからとかじゃなくて。
彼女の大切な、大切な…
…何だろう?
答えは見つからなかった。
でも、今は───
「帰ろう」
「はい、帰りましょう!」
そのまま移動壁に反対の手をついて、ゆっくりと進んでいく。
『服を纏うように』とかのカルド博士は言っていたらしい。
でも、一回着てしまったら脱げない服なんて、それこそ呪いもいいところだ。
ならば自分が目指すのは、生身とMSを自由に行き来できること、なのかもしれない。
それこそ『服を着替えるように』とエランは胸の中でこっそりと呟いた。
やりたいことは決まった。後は───
「ごめん。勝手に嗅ぎ回るような真似して」
スレッタは少し困ったような顔をして首を振った。
「きっとお婆ちゃん達も迷ってるんだと思うんです。だってエランさんは、いつだってここを出ていけるから」
たくさんここの秘密を知っちゃったらたくさんの誓約書を書くことになっちゃいますよ、それにずっと監視が付くと思いますと真剣に言う彼女がおかしくて、思わず頬が緩んだ。
「違うよ、君のこと、知りたかったんだ」
途端に握っていた彼女の手が燃えるように熱くなる。
驚いて振り返るとスレッタは目を見開き、何故か真っ赤になって固まっていた。
………何でだろう?
◆ ◆ ◆
次の日。
スレッタにはコックピットの外で待っていてもらって、エランはいつものようにファラクトにコンタクトを試みていた。
でも、昨日までのエランとは違う。
心配そうにコックピットの外からガラス越しにのぞき込んでいるスレッタをちらりと見る。
「ハロー、ファラクト」
「やりたいこと、見つかったんだ。」
きっと彼は聞いているだろう、と確信を持って薄暗いモニターに話しかける。
「君と一緒に───」
祈るように画面を見つめる。
───ファラクトのモニターが同意を示すようにパッパッと二回明るく瞬いた。
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「むかしむかし、あるところに小さな魔女がいました」
「でも、彼女はもう一人ではありません」
「たくさんのきつねたちが力をあわせて、月で一緒にくらせるように変化の術をかけてくれたのです」
「どんな魔法でも手に入らなかったものを、小さな女の子はとうとう手に入れました」
「たしかめるように子ぎつねの手をぎゅうと握ります。ふたりは、きらきらと光る月の原っぱをずっと、ずっと眺めていました。」
「めでたし、めでたし」
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