はじめての かいぎ&ハンコック と いっしょ!

はじめての かいぎ&ハンコック と いっしょ!


ホビローさん は 初めての会議 に 出席するようです。

完全オリジナル。七武海加入直後。前半モブ海兵、後半ハンコック視点。キャラエミュ甘くてもゆるしてね。










Side: モブ海兵


「……お前達は」

「! ……こんにちは、海賊女帝」

「……ふん」

「「……」」

(うわ……なんでこの新人七武海共海賊女帝とガン飛ばしあってるんだ……?)


 おれはしがない本部勤めの海兵。階級? 今回七武海にとしての招集が初めてになるハートの海賊団の案内を命じられる事がある程度だと思ってくれ。まぁ今回は妥当な人が居なかったってんでおれが急遽命じられただけで、いつもは別の事やってるから、次回以降は――ハートの海賊団が出席率高い方であればだが――ちゃんと担当の海兵に引き継がれるだろうけどな。……だからこうして面倒なことになっているともいえるんだけど……。


 そもそも本来案内するのは1人で済む筈のところを3名も案内することになった時点で通常とは違うのだ。……ハートの海賊団は、この大海賊時代ともいえるほど海賊が闊歩する中で明確に異質な海賊団だった。なにせどの海賊でも顔といえる『キャプテン』が、全く表に出てこないのだ。ピースメインらしく一般人には全く手を出さないが敵対するなら容赦はなく、ハートの海賊団と接触したと思しき海賊団が軒並み賞金首を残して潰れているところを発見されるのもよくある事で、賞金首も生きていたとしても何を見たのか話さない為ハートの海賊団の強さは非常に不透明なままだ。クルー達も全く同じツナギに辛うじて特徴のある帽子と顔を徹底的に隠しているし、その上で定期的にとっかえひっかえしているのか、体格で大体は把握できても個人を特定するという事が非常に難しくなっている。故に異例ながら海賊団全体に賞金がかかるという事になっていたし、それはハートの海賊団がこうして七武海に成る時まで変わりなかった。辛うじて『キャプテン』と呼べる存在がおり、その名前と能力者であるという事は把握できているが、それ以外は全く不透明。その『キャプテン』も表には出ないし『プロキシ』と呼ばれる存在とそれを守る3名が辛うじて認識できる、その程度しか情報がない、それがハートの海賊団だった。


 そのハートの海賊団が七武海となったのも、様々な思惑が絡んだ結果だった……らしい。おれが知っているのは政府とそれに従う海軍側が四皇とのバランスを保つために抜けた七武海を補充したがっていたという事と、ハートの海賊団側が首輪を繋がれるよりも七武海に成ったメリットを取ったという事ぐらいだ。上の思惑は知らない方がいい事もあるという事ぐらいは知っていたので首は突っ込んでいない。確実なのは様々な取引を結んだらしいハートの海賊団がどうやったのか、彼らの『キャプテン』――トラファルガー・ローという彼らのトップではなく『プロキシ』が出席する事を認めさせていただけに留まらず、その『プロキシ』の護衛に2名を同行させる事まで認めさせていた事で、それ故に彼らは初めての出席に3名で乗り込んできた訳である。おれはそんな彼らを案内する事となり、他の七武海が1人で会議室に来るのと違い大人数でやってくれば当然目立つ訳で……周辺の海兵の視線が集中する中、開始時間に揃う事すら珍しい七武海にしては先に来ていた“海賊女帝”ボア・ハンコックが振り返り、『プロキシ』を見て反応した(そしてそれに『プロキシ』が返した)せいで周囲の視線が集中する事になったのである。






「……ハートの海賊団、貴様らの席はそちらだ」

「……」


 沈黙を破ったのはサカズキ元帥だった。元帥の言葉に視線だけを向けたマントを羽織った『プロキシ』は答える事なくそちらへ進み、その後ろを同じぐらいの背丈のクルーと唯一存在が特定できているシロクマ……新世界より前に加入しているのは珍しいミンク族が追従する。実際ここまで案内する間彼らは必要最低限しか喋らなかったのでそれらしい行動だと言えた。座るのも『プロキシ』のみで、クルー2名は『プロキシ』の後ろに立って沈黙する。おれの役目は一旦終わりだが、今回おれは隅で待機を命じられている(これは別件が故なので気にしないでくれ)ので離れたところで壁を背にして立っていれば、先ほど潜り抜けた扉が開いた。


「おー……、ほんとに居るねぇ……ハートの海賊団」

「……」

「来るのが遅い、ボルサリーノ」

「会議開始には間に合ってるだろォ~~? 慌てて戻ってきたんだから許してほしいんだけどねェ……」


 正直今回の招集は新入りとして七武海に入ったハートの海賊団の顔見せが目的の半分ぐらいな筈なので、それほど重要議題があるわけではないと聞いている。そのため後で説明があるだろうと新顔の海賊が居ても特にその後続々と入ってくる将校達は反応していなかったのだが、話しかけるなオーラを纏っている『プロキシ』達に絡みに行った人影が1人。ボルサリーノ大将だ。彼に覗きこまれた『プロキシ』は鬱陶しそうに彼を見上げるが無言のままで、代わりにかその後ろに立つ人間の方のクルーの方が僅かに警戒しているぐらいだ。流石にあのマリンフォードでの一件の頃はまだルーキーと呼ばれる程度だった実力しかなかった彼らなら今でも大将クラスは警戒対象なのか、……と思って、そういえばと芋づる式に彼らのこれまでの事を思い出した。


「うーん、キミらの事はわっしが捕まえたかったんだけどねェ~~……口実取り上げられちゃったら追えないじゃあないの。なんで七武海になったんだい」

「とっとと座れボルサリーノ。そんな事、判を押す前にわしが考えんかったわけないじゃろうが」

「……おれ達を七武海にすると決めたのはそっちでしょうよ、元帥サマに大将・黄猿サマ? 嫌なら拒否すればよかっただけの話でしょうに」

「うーん、キミやっぱりシャボンディで会った時の『プロキシ』でしょ? 強くなっちゃってまぁ……それにお上のお達しにはわっしも従うしかないからねェ」

「ハハ、中間管理職ってのは大変なようで」

「君だってそうじゃないのォ?」

「ボルサリーノ。座れ」

「おっとと……仕方ないねェ~~」


 先ほどまでの静寂から一転殺気混じりに明らかに煽り合いを始める2人(シャボンディでハートの海賊団がボルサリーノ大将から逃げおおせ、マリンフォードの一件であの戦場に飛び込み麦わらを掻っ攫って生かした事は海軍内でも時折話題になるぐらいであるから、彼らの会話も恐らくそこからだろう)だったが、サカズキ元帥が最後通牒とばかりに「ボルサリーノ大将を」止めた事で煽り合いは止まった。ボルサリーノ大将が用意された席に座り、残り僅かとなった残りの将校と……来るかどうか分からない他の七武海(正直もはや諦めムードである)を待つ間、また静寂に包まれるかと思ったが――意外にも、沈黙を保っていた海賊女帝が口を開いた。


「……お前達、何故この席に座る気になった?」

「……その質問はどういう意図での質問で?」

「ふん、わらわは男など信用しておらぬ。海賊など余計にじゃ。故にその海賊であるお前達がどのようなつもりでこちら側につく気になったのか……気にせぬと思うてか」

「そうは言っても……あー……『おれ達は特段七武海に成ろうが成らまいがやってる事に変わりがねぇ。デメリットがほぼなくメリットの方がデカいから受けた。それ以上でもそれ以下でもねぇが』」

「ほう……なるほどの。して……存外滑らかに伝えられるのじゃな。伝達方法はその耳か?」

「えぇ、まぁ。……『それに懸賞金が高くなりすぎた。海軍との鬼ごっこの要因がなくなるなら願ったりだ』」

「懸賞金が高くなる事は強さの指標であろう? 厄介ごとを減らすという意味では高い方がいいのではないか?」

「……『おれ達のスタンスぐらい聞いた事あるんだろう。目立つ方が困る。ただでさえ海賊団にかかってるってのにこれ以上マークを見られるだけで集ってくるのはごめんだ』」

「お前が表へ出てくれば早い話ではないか」

「『おれは出たと』――ん゛んっ、出た時は相手が死ぬときだけと決めてるんでな」

「……それお前達の船長ではなくお前の言葉ではないか? 今言葉を飲み込んだであろう」

「さて何の事ですかね」


 存外会話が続いている。海賊女帝は基本海兵に対して……というより男性に対して塩どころか岩塩レベルの対応をするから、ここまで会話が続くのはかなり珍しい。『プロキシ』は『プロキシ』でここまで彼らの『キャプテン』の言葉を代弁しているところを目撃するのは初めての事だからか、室内の海兵達も会話を邪魔しないよう沈黙を保っていた。新しく入ってきた海兵が喋りそうになった時は既にいた海兵が黙らせているほどだ。


 しかしそれも会議開始予定時刻になるまでで、それまで特段煽り合いになる事もなく穏便に会話を続けていた2人も始まる気配を感じて静かになった。結局他の七武海は来なかったな……と思いながら元帥の開始の言葉を聞こうと姿勢を正して、


 ガチャッ。


「! ……貴様が来るとはのぉ、鷹の目……!!」

「ふむ。……少し遅かったか」


 閉じられた扉を開け現れたのは、“鷹の目”ジュラキュール・ミホークだった。常に居場所が定かでなく、それ故に出席率が著しく低い大剣豪が現れた事で、七武海が3名も居るという対白ひげ海賊団で招集された時以来の状況(……そんなにも居ない方が多いというのは海兵目線おかしな事なんだがそれが通常なので困ったものである)に僅かに場が騒めく。とはいえサカズキ元帥はそれほど慌てる事もなく着席を促し、鷹の目が普通に座った事で、会議はそのまま開始されたのであった。




 海賊女帝は特段自分に話が飛んでこなければ会議を遮る方ではないし、鷹の目は存外出席態度はまじめな方である。初出席のハートの海賊団も少なくとも今回は様子見を選んだらしく、会議はつつがなく進んでいた……のだが。新顔であるハートの海賊団についての話が出始めた辺りで上がった声に、やはり七武海を招集した会議がそう簡単に終わる筈もなかったと認識を改める事になった。


「……こういう場には、その海賊団のトップが出てくるものだと思っていたが」


 ピシ、と空気を凍らせたのはここまで黙って聞いていた鷹の目。ちら、と目線だけを『プロキシ』に向けそう口にする彼に進行が止まり、僅かに後ろに立つ2名が気配を固くした。まぁこれまで船長が来ず代理を立ててきたところもなければ複数人で乗り込んできたところもない。どの海賊団であれ「海賊団の意向」=「キャプテンの意向」なのだ、その海賊団の方針を決めるのがキャプテンなのであれば極論様々な物事を決めるのにキャプテンが居ればいいだけの話であるし、何人も来られたところで海軍が七武海となった海賊を攻撃する事もないのだから邪魔になるだけだ。今この場の中では最古参となる鷹の目から見てもやはりそこが気にかかったのだろう、そういう意図での発言だと思うが……今この場で言う事でもないよな、と『プロキシ』がその視線を受けて口を開くのを見ながら思う。


「……少なくともうちは、この方式でやってますので」

「その耳に繋いだ電伝虫で伝えているのだろうが、二度手間だろう。トップが来た方が早いと思うが?」

「『キャプテン』が来てメリットがあるならそうしますよ」

「メリットがないと?」

「逆にあるので? 顔がバレる、余計な奴に絡まれる、応戦すれば戦力がバレる。三拍子揃って何も良い事がない」

「ふむ。七武海に成る者の役目は、その“強さ”と“知名度”を持ってして世の海賊共への脅威となる事の筈だが」


 なんで鷹の目が『プロキシ』に噛みついたかと言えば、(代理を立てている上でリアルタイムでやり取りしている所為だが)会議中ながら小声で彼らの『キャプテン』とやり取りしているらしい『プロキシ』に鷹の目が静かに苛立っていたから……だと思う。おそらく『プロキシ』が完全にキャプテンとしての権限を委譲されてこの場に立っているのであれば鷹の目は気にしなかった。それはそれで思うところがない訳じゃないだろうが、キャプテンが参加できないので代理の者をよこします、で済む話だからだ。しかし『プロキシ』は常にその『キャプテン』とやり取りしているただの代弁者で、この場にいないというだけで彼らの『キャプテン』も参加できるのではないか? と感じているからだろう。それにこれまでも七武海としてやってきた経験が上乗せされて口出しと言う形で噴出したのだと思われる。とはいえ鷹の目の言い分も至極当然の事なんだよな、と『プロキシ』の解答を待ってみれば、明らかに『プロキシ』当人の口調から話し方が切り替わった。


「……『“強さ”も“知名度”も十分だと判断したから政府はおれ達に話を持ってきたんだろう。違うか? 鷹の目屋』」

「ふむ……お前がトラファルガー・ローか。ああ、その通りだ。政府が認めなければ七武海にはなれない。だから現時点のお前達が十分な水準を満たしている事は事実だろう……だが、今後の事を考えれば、抑止力とならねばならぬお前達がその目印を隠してしまうのはどうなんだ?」

「……『別におれが今出たところでさほど変わらないと思うが……あんたが知ってるかは知らないが、おれ達の得意は情報戦だ。そもそもの土俵が純粋な戦闘力を期待されているあんたとは違うし、そちらの界隈では十分に知名度がある方だと自負している。要は盾突いてくる海賊を捕縛または討伐できる戦力があれば問題ねぇんだろう。その証明は雑魚海賊の神像100個で十分だろう。おれ達は存在を捉えられないからこそ相手に大した行動をさせずに倒す事ができる。ここで広告塔をぶら下げてどうする? おれが出ねぇ方が、うちはうまく回るのさ』」

「……なるほど、了承した。だが会話のやり取りに遅延が出るのはいただけないな」

「……『おれ自身は無理だが遅延を無くす方法はあるぜ』」

「何?」

「……あー、はいはい分かりましたよ『キャプテン』」


 やればいいんでしょうやれば……と代弁に徹していた『プロキシ』が彼当人として愚痴らしきものを口にして、何をする気だ? と視線が集まる。その視線をものともせずため息を吐いた『プロキシ』が背もたれに体を預けて、一拍。


 ブゥ……ン。


「!」

「……あー、あー。テステス……うん、これでいいだろう。満足か? 鷹の目屋」

「……トラファルガー……か?」

「そうだぜ女帝屋。ま、こいつの体を借りてるだけだがな」


 青い空間のようなものが会議室の外、街がある方向に向かって一瞬の内に広がったかと思えば、『プロキシ』の気配が変わった。いや、何を言っているのかと思われるかもだが、青い空間が広がる前と後では明らかに雰囲気が変わっていた。更に口調が変わり、先ほどまでは「別の人を代弁している」事が透けていたのが自分自身で話している時の滑らかさに変わっている。海賊女帝が思わずだろうが呼んだ名にくすくすと笑みを零す彼らの『キャプテン』に、海兵側も騒めいている。いやでもこれ『プロキシ』が演じているだけなのでは……? と警戒したところで、後ろの2人がため息を吐いた。


「『キャプテン』なんで出てきたんすか……」

「実際間にワンクッション挟むのが面倒くさかった」

「『キャプテン』は町の方で話聞いてるだけでいいって言ったのに!」

「出てこないでって言ってたじゃないですか」

「今更だろうが」

「ふむ……精神を交換したのか」

「お前の能力かの?」

「ま、そう言う事だ。悪いな元帥サマ、止めちまってよ」

「……本当にトラファルガー・ローか?」

「ああ。まぁ元帥のあんたならおれの能力も聞いた事あるだろ。さっきのがその1つだよ」

「なるほどのぉ……おぬしが居るならば好都合じゃ。色々決めてしまうか」


 初めて見る「人の精神の実が交換されている」状態に興味津々な周囲に元帥が額を押さえた。今のを当人達は普通に行っていたが、これが敵にも行えるならやばいななんて考えて、おれも内心胸を撫でおろす。味方でよかったいやホント。


 その後は会議が中断する事もなく、とんとん拍子に進んでいく事になる。新人七武海の初出席にしては穏便に終わっている方だろう、というのはさほどこの会議に参加しないおれでも察せた。そうして会議が終わり、意外にもハートの海賊団はそのまま他の七武海に絡まれながら会議室を出ていった。おれは会議終了後はそのまま別件を済ませる事になったので彼らのその後は分からないのだが、後に海賊女帝に絡まれていたらしいという事を同僚から聞く事になるのである。







◆◇◆◇






Side: “海賊女帝”


「……で、いい加減ここに連れ込んだ理由を聞いてもいいか? 女帝屋」


 目の前の男が聞きなれない言い回しでそう口にする。本来のわらわであれば確実に絡まない相手を引き寄せて使われていない部屋へ入り込んだのは、この男――いや、男達に言わなければならない事があったからだ。そうでなければ何が嬉しくて男と絡まねばならぬというのか。


 今いるのは海兵に用意させた部屋だった。九蛇の海賊船は現在この新世界にある海軍本部からは少し離れたところにいるように命じていた。自身が七武海として民草に視線を向けられる存在であるという事は知っている。それをわらわの海賊船に乗る子達に向けられても面倒だから、会議が終わってから着岸するようにしていて、どうせそれを待つ間は基地にいようとするのはいつもの事だった。だから九蛇の海賊船でここに来る時は部屋が用意されるのもいつもの事で、そこに気づかれないようハートの海賊団を引きずり込めば密会場所を作るのは容易な事だった。こちらを見ていた鷹の目も、海兵も声が聞こえない位置まで追っ払ってある。そこまで確認して、(顔の大半が隠れているが)怪訝そうな顔をする『プロキシ』……いや、『プロキシ』の体を借りた彼らの『キャプテン』に言葉を返した。


「……お前達は神出鬼没じゃ。用が済めばすぐさま消えるじゃろう」

「あ? ……あぁ」

「しかも特段連絡が可能な手段がない」

「そりゃ……そう、だな?」

「そうじゃ。じゃから、一度取り逃がすと碌に捕まえられん」

「……それがどうした?」

「これはわらわに医師から届けられた愚痴なんじゃが。『同じ薬が用意できない』、とわらわのところの医師がキレていてじゃな」

「「「えっ」」」


 呆けた顔を晒す3名に、間違っても会話が聞かれた事で愛しのルフィ♡に繋がらぬようぼかし論点をズラした話題でも通じたようだと腕組みして彼らを睨む。そう、この者達に声をかけたのも、これが理由の1つだった。


 ここで言う薬とは、レイリーから渡された、ルフィ(とジンベエ)の為の薬の事だ。ハートの海賊団が出航するからと預けられた、怪我の治癒を促す為の物。ルフィによく分からない薬をなど……! という気持ちがない訳がなかったが、後にこの者達の医療設備の充実具合は異常レベルであり、かつ彼らでなければルフィを救う事は無理だったとわらわの元の医師が判じたのもあり、そんな医師の指示ならと使わざるを得なかった薬である。……その時点で既に腹立たしかったというのに、もっとわらわを苛立たせたのは使い続けて減ってきた薬を用意しようとして、同じ物が用意できなかった事だ。


 勿論探せない訳ではなかったし、薬の成分を解析する事だって可能だった。しかし同じような薬はできても成分の内の1つが分からなかったり、使ったのであろう物から調合しようとしてもうまくいかなかったりしたのである。お蔭でわらわがキレる――前に医師達の方がキレてしまい、これを作ったのであろうハートの海賊団を探せ方法を吐かせろどうやって作ったのこれ!! とわらわの方が詰め寄られていたのである。しかしハートの海賊団は潜水艦だけあって神出鬼没であり、自分達の痕跡を消しているのか足取りが掴めないままであった。わらわが今回会議に出席したのも、ひいては七武海になったと連絡が来たこの者達に文句を言うためである。


「わらわ達もその薬を手に入れたのは特殊なルートじゃったから、同じルートでは買えなくての。調べたらお前達が作った物だというではないか。じゃから生産者に会おうとしておったというのに……いつまでたってもお前達が捕まえられんではないか! こちらはずっと探していたというのに!」

「え、えぇ……? 改良した薬、だったっけ流したの……?」

「あの時の『プロキシ』だったのはお前だろう。見ていなかったのか」

「いやそもそも患者に使った物を流してる筈だとしか言えないんすけどむしろ『キャプテン』こそ改良した薬使ってたんです!?」

「そりゃ効能が高くなってる物を使うだろ普通……考えられるのはあの時に渡した物ぐらいだろう、その時に既製品の物の方を渡さなかったのか」

「普通に常用してる方しか置いてませんよ薬棚に! 出回ってる方は……多分倉庫っすね」

「「あー……」」

「理解したか? これまでに手に入れた方は既に使い果たしたんじゃ! 新しい物を寄越せ。ル……あの者の為じゃ、金は払う!」


 危ない名前を出すところじゃった、と思わず口から飛び出そうになった名前を飲み込みハートの海賊団を指さして見下ろす。この者達とわらわが会ったのはあのマリンフォードの一件後にルフィを匿うために会った時のみ、海軍に事がバレればわらわもこの者達も地位が危うくなる事は確実。そのため互いに初対面ながらこちらが彼らを一方的に知っている、というのを演出してやれば、彼らも流石と言うべきか理解が速く海兵に聞かれてもおかしくない範囲に話を落とし込んできた。海兵共も、彼らがマリンフォードにルフィを助けるためだけに飛び込んだ、そして後に五体満足で生きているところを目撃されているルフィをその状態まで治す事ができるだけの設備と腕があるというのは知っている事実だ。薬の作成者を探しているという言い分は、もしこの部屋の近辺に不届き者が居たとしても納得できる範疇であろう。わらわが会議開始前に絡みに行ったのも、それで印象付けたかったからとでも思われる事だろう。……本当は理由の半分でしかないのだが。


 指差しわらわに命じられた3名は顔を見合わせた後互いにため息を吐いた。そうして肉体は違えどわらわも初めて対面するトラファルガー・ローは面倒くささを隠さずに口を開く。


「薬の件は了承した。あとで要る薬の種類を教えてもらわなきゃだが、基本的におれ達が流したやつなら既製品に色々突っ込んで効能を底上げしてる物が大半だ。イチから作ってる訳でもなし、作り方ぐらい渡してもいいが……そもそも流した記憶のある薬は大半が重症患者用だった気がするんだが……? あんたがどのタイミングで薬を使ったかは知らないが、流したのはかなり前だぞ。まだ要るのか?」

「大体は治っておるがな。うちの医師がまだ使っていた方がいいじゃろうと……それに聞いたぞ。お前達通常の傷薬も流しておったじゃろう。傷の治りが速いからと重宝しておったぞ」

「傷の治りが速いなら使い切る前に治ってるぐらいの量を入れてた気がするんだが……?」

「そうじゃな。じゃが、使う者が治った端から怪我をするんじゃ」

「……は?」

「いや、怪我が治ってないなら安静にすべきでは……?」


 彼らとて、その薬を使う相手=ルフィという事は想像がついているだろう。故の言葉に端的に返せば、彼らの目が点になった。実際は目元が見えていないが彼らが困惑しているのは分かりやすい。『キャプテン』は少しオーバーリアクションじゃな、と思いながらいじいじと指先をもてあそぶ。


「じゃが……強くなりたいと特訓している者のやる気を阻害する訳にはいかんであろう? わらわは応援すると決めたのじゃ。勿論きちんと手当はしておるぞ? じゃが細かい傷は増えるもの、手当てしても怪我が増える方が速いんじゃ……お前達の薬を使えば治りが速いと使って治ってまた怪我をして……の繰り返しじゃ。なくなるのが速い事も分かるじゃろう」

「いやいやどんなペースで使ってるんすかあれ半年は持つやつ複数入ってる筈じゃ……」

「もう最後の物の封を開けておったな。おそらく1ヶ月も経たずに使い切るぞ」

「ばかすか使いすぎだろうが……! はぁ、そっちも出せばいいんだろう。クルーに伝えておかねぇと……」

「ふん、わらわの役に立つのじゃから光栄に思うとよい! ……それに、お前達の薬は随分使いやすいとあの者も感謝しておったぞ」

「……まだあんたが面倒を見てるのか……」


 思わずと言ったように呟いたちぐはぐな男にうっすら笑みを浮かべる。この者達はルフィが目覚めてすぐに出航してしまったため、ルフィのその後を知らない。レイリー・ジンベエと共に目撃されて以来ルフィは表舞台から姿を消しているから、生きている事は知っていてもその後どうしているかも知らないだろう。それ故の発言に、だが口にする訳にいかないのでふふんと笑うだけに留めて――彼らに話しかけた理由のもう半分を達成すべく、彼らにのみ聞こえる声量で口を開いた。


「そうじゃ、お前にあったら伝えてほしいと言われておった事がある」

「……おれに? おれ達に?」

「どちらかというとお前達にじゃ。「再出発したらお礼言いに行くからな!」……だそうじゃ」


 途端、きゅっ、とペンギン帽から覗く口がへの字に引き結ばれた。心底嫌そうな雰囲気を醸し出す彼らの『キャプテン』にあー……とシャチを模した帽子を被るクルーが遠い目をする。ケモノと言えば元気そうだね、とマイペースに呟いていて三者三様の態度を示していた。正直これまでの態度を見ていればこやつであれば言うであろうな、と予想できる反応に伝えたからなと言おうとして、それよりも先にトラファルガーが言葉を発する方が速かった。


「――じゃあ言っといてくれ。「会えるような事があればな」ってな」


 そう口にし、次の瞬間に一瞬視界を青が過ぎった瞬間目の前の男がよたついた。一瞬力が抜けたのか倒れこみかけるのを堪え、しっかりと足で地を踏みしめ顔を上げた時には、目の前の男は『プロキシ』に戻っていた。頭を振って意識をはっきりとさせたらしい『プロキシ』の肩を人の方のクルーが叩き、こちらに対して苦笑を向けてくる。


「あ、あー……うん、よし。すみません女帝様うちの『キャプテン』が……こっちとしては基本患者は完治したら後は自力で頑張れよだし治療したのも大抵『キャプテン』の気まぐれなので……」

「だから相手からすれば特大の恩を売られたと思われたって仕方がないって言ったのになぁ……」

「まぁおれ達としてもお礼を言われたってなぁって感じですし新しく買った医療機器使えて生死に絡むような大怪我に対する手術の経験詰めたんでそもそも十分対価は貰ってますし気にしないように言っといてください。麦わらのとこに探されるとか、探される最中に面倒ごと持ってきそうだ……」

「そもそも会う事あるのかな? おれ達七武海になったし右往左往するでしょ? グランドライン進んでく麦わらと会える可能性の方が低そう」

「まぁ『キャプテン』としてはあの場で麦わら気に入ってたから救えたらいいなぐらいの気持ちで飛び込んでるのでホント気にしないでほしいというか……」

「今こうして教えてもらっただけで十分というか『キャプテン』がキレかねないので露骨に探さないように言っといてほしいっすねハイ」

「……わらわが言うのもなんじゃが、お前達それでよいのか?」

「「「治療は『キャプテン』の気まぐれなんで(だから)」」」


 声を揃えた3名に思わず呆れた視線を向ける。この者達は海賊であろう、医師を兼業し医師が人の命を救う事が存在意義とはいえ、敵船の船長をほぼ無償に近い形で治しているのにそれを盾にしてどうこうする訳でもなく(無論そんな素振りを見せればわらわが圧をかけるつもりであったが)医療費を吹っ掛ける訳でもないときた。医者と言うのは育つのに時間も労力もかかるもの、最低でもリターンを要求したところで誰も咎めない……というか要求しない方が何をされるのかと相手は不安になるだろうに、それもする気がないとの一点張り。採算が合うのかこの者達は? と思うのも仕方がないであろう。……ルフィが気にしているという点で気に食わなかったのだが、毒気が抜かれた気分になってため息を吐いた。


「……まぁわらわとしてはあの者に法外な値段を吹っ掛けないのであればそれでよい。薬の件はこの後でもできるのか?」

「あぁ、あー、『おれ達はおれ達の船でここまで来てるからな。沖合で合流して取引するでどうだ?』」

「いいだろう。そろそろわらわの船から連絡が来る頃じゃ。薬のリストも船にある、それを受け取ったら金額を出すがよい」

「分かりました。お買い上げありがとうございます?」

「ふん。精々長く続けられるよう足掻くがよい」

「はは……『ご指導ご鞭撻いただけると幸いです、ってところか? 女帝屋』」

「お前、わらわの前に出てこい。わらわ直々に指導してやるぞ?」


 バチッ、と『プロキシ』ごしにトラファルガーと火花を散らしつつ、九蛇の海賊船が部屋の窓から見えたのもあって港へ向かうべく部屋を出るわらわなのであった。











 ……ちなみにこの後、治療費を代わりに払っておいた! とルフィに言いたいわらわと明らかに原材料から考えれば安すぎる金額で手打ちにしようとするハートの海賊団の間で第二のコングがなるのじゃが、それはまた別の話。


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