はじめての友だち(?)
※ひらがな多めなので読みにくいです。幼児化注意
エラン・ケレスはまだ子どもだ。
父おやのエラン・ケレスといっしょの名まえなので、たまに『ジュニア』や『4ごう』とよばれることもある。
どうして4ごうなのかきいたら、父おやのエランがかなしいカオをしたのでエランはそれからきいていない。
とにもかくにも、エランの名まえはエランだった。
「エラン、今日はお友達が遊びに来るぞ」
「…?ぼくにはトモダチなんていないよ」
ふしぎなことを言う父に、エランはクビをかしげてしまう。
エランは『しょうきょくてきな子ども』なので、いつもペイルほいくえんでは一人でご本をよんでいる。
トモダチなんてだれもいない。
たまに5ごうオジさんが心ぱいしているけれど、エランはご本があればそれでいいと、いじをはっていた。
ちなみに5ごうオジさんは、5ばんめに生まれたから5ごうなんだとわらっていた。
「父さんの昔の知り合いが子供を連れて来るんだ。聞けばお前と年も近いって言うし、きっと仲良くできるさ」
「…そんなの分からないよ」
父のことばにエランはぷくっとほおをふくらませる。ほいくえんでだって、アイツはナマイキだとかいわれてトモダチができないのだ。
きっとその子もおんなじだ。…むしろイジワルしてくるかもしれない。
ちいさなまゆ毛をいからせて、せいいっぱい気もちをひょうげんしていると、ピンポーン、いえのインターホンがなった。
「ああ、来たか。案外早かったな」
「!」
父がげんかんに向かうのを、エランはドウヨウしながらながめる。おへやのスミにかくれようかと思ったが、けっきょくどんな子が来るのか気になったエランは、父おやのフトモモにかくれてようすを見ることにした。
「こんにちは、久しぶりねエランさん。すっかり立派になって」
「久しぶり、ミズ・エルノラ。会えて嬉しいよ。ほらエラン、挨拶しなさい」
「…こんにちわ」
エランはほんの少しフトモモのかげからかおを出すと、小さくおじぎをしてアイサツした。
「そちらがエランジュニア君?まぁ、エランさんにそっくりなのね」
「俺と違って愛想はないけどな」
父のしりあいは女の人だったようだ。大きくて、かみがまっ赤で、ちょっとこわい。
エランは父の足にもう一回かくれんぼすると、ピタッとくっついて、はなれないようにガンバルことにした。
「そちらの小さなレディは、なんてお名前なのかな?」
父がつづけてフシギなことを言う。
すると、女の人のスカートからひょこっと赤いものが見えた。ふわふわの、あれはかみの毛?
エランが思わずじっと見ていると、ふわふわの毛はぴょこぴょことスカートのかげから行ったり来たり、エランの目をくぎづけにしてくる。
「はは、ずいぶんと恥ずかしがり屋さんだ」
「もうスレッタったら。ちゃんとご挨拶なさい」
女の人のことばをきいて、ふわふわの毛はぴたっとうごかなくなった。しばらくして、そっとスカートの外に出てくる。
大きい大きいビー玉が2つあらわれて、エランはとんでもなくビックリした。
きらきら、きらきら、エランが見たどのビー玉よりもキレイな色にかがやいている。青とみどりの、ふくざつな色だ。
あらわれたのは女の子だった。きっとこの子が父おやの言っていた『トモダチ』だ。
エランはむねがドキドキしてきた。どうしてだろうか、おゆうぎ会よりもきんちょうしている…。
ジッと見ていると、女の子はもじもじして女の人のスカートにまたかくれてしまった。ふわふわの赤い毛も、大きくてきれいなビー玉みたいな目も、エランからは見えなくなってしまう。
思わずエランは父おやのフトモモからとび出して、女の人のスカートのうしろをのぞきこみに行ってしまった。
父おやが『おや?』というカオをしたが、エランはそれどころではない。じぶん用の小さなサンダルをはくと、キュッキュッと音をさせながらふわふわの毛のもちぬしをさがそうとする。
エランが近くに来ていることに気づいた女の子は、それこそビックリしたように体をとび上がらせると、スカートのうしろからとび出してまえへにげた。
エランがおう。女の子がにげる。エランがもっとおう。女の子がもっとにげる。
ぐるぐる。キュッキュッ。ぐるぐる。キュッキュッ。
女の人をまん中にして、きみょうな『おいかけっこ』をする二人。けっきょく、エランが父おやにつかまったことで、二人のおいかけっこはおしまいになったのだった。
そのあと父おやにエランがおこられたりもしたが、この日にたべたオヤツは、とてもおいしかったのをおぼえている。
…それから十数年。二人はとても仲良しだ。
「エランさん、何見てるんですか?」
「昔のアルバムを整理してたら出てきたんだ」
「あ、小さいころの写真ですか?うわぁ、エランさん小さい!」
「…君も小さいよ」
「これっていつの写真でしょう?もしかして、初めて会った時の…?」
「そうだろうね、体の大きさからしてアスティカシア学園に入学する前だろう。僕ら、しばらく会えなかったから」
「再開したときは嬉しすぎて入学式の進行をちょっと止めちゃいましたもんね。あのこと、今でも時々ミオリネさんにからかわれるんですよ…」
「僕もシャディク・ゼネリによく言われるな…」
「ま、まぁ思い出すとちょっと恥ずかしいですけど、再会できてよかったですよ。だって初恋…だったんですもん」
「そうだったの。………知らなかった」
「今はじめて言いました」
「僕、初対面の君を追いかけてた記憶しかないけど…」
「たしかにビックリしましたけど、その後にエランさん、わたしにとっても親切にしてくれたんですよ?『おなかすいてない?』ってお菓子をいっぱい分けてくれたり、『きみのことおしえて』って辛抱強くわたしの話を聞いてくれたり…」
「………」
「わたし、その日のうちにエランさんが大好きになってしまって…離れる時は悲しかったなぁ」
「………」
「でも、今はとっても幸せです。だって、毎日エランさんと一緒に居られるんですもん!」
「………ぼくも」
「…はい」
「僕も、とても幸せだ。スレッタ・サマヤ。いや………スレッタ」
「はい、エランさん!」
…二人は結局友達にはなれなかったけれど、十数年経っても仲良しだ。
そんな二人の左手には、キラキラした綺麗な指輪が飾られている。