のこされたもの

のこされたもの


BL注意

白ひげ×マルコ


マリンフォードに攻め込みエースを助け出す。それはとても厳しい戦いになることがわかってた。オヤジの身体は既に病でボロボロで、点滴と薬によってなんとか生きながらえてて。正直、いつ何があってもおかしくない。だからこんなことを言い出したんだろう。頭ではそう理解しててもどうしても受け入れ難い言葉だった。

「なあマルコ。今度の戦いできっとこの船は沈んじまう。その前に何かおれのもので欲しいものはないか」

いつものように一緒に寝る――といっても添い寝だが――ためにオヤジの部屋へ来たら唐突に言われた台詞。何気ないような口調で言われたそれは、形見分けのつもりか。

白ひげの容体も、戦いに出たら戻ってこれないだろうことも、いつかこの決断を後悔する日が来るかもしれないの全てわかってた。それでも言いたいことはただ一つ。

「"ニューゲート"さえいてくれれば他は何もいらないよい」

二人きりの時でしか呼ばない呼び名を強調するように喋れば。

「おめェときたら」

白ひげは目を見開いて、呆れたように笑う。

「後でやっぱりあれが欲しいとか言い出しても聞かねェからな」

この願いはほとんどどうしようもない現実に対する我儘のようなものだ。それでも、だから絶対に生きて帰ってほしいと言えるだけの身勝手さはなかった。言ってしまえばきっと白ひげを困らせる。

「いいよい」

それよりも早く寝よう、と催促しベッドに潜り込む。すぐに白ひげも入ってきてそっと抱き寄せられた。身体に響くゆったりとした鼓動の音はいつもなら癒しだけれど、今は無性に泣きたくなる。後何度こんな夜を過ごせるか。眠ってる時間さえ惜しく感じ、その日はなかなか寝付けなかった。


「結局大きい物をもらっちまったよい」

昼間のネコマムシとの会話のせいか、かつてのやり取りを思い返してマルコは苦笑する。夜の静けさの中ではどうしても感傷に浸りがちだ。

あれから程なくして頂上戦争が起こり、モビーも、白ひげも、多くの家族も失った。その後のティーチとの戦いで更に様々な物を失い、マルコは身の振り方を考える必要に迫られた。海賊を続けたければ傘下の船に乗せてもらうでも、いつも誘ってくる赤髪の船に乗るでも選べただろう。だが、マルコにオヤジ以外の下で海賊をする気はない。それで、陸でオヤジの残した村を守ることにした。そうしてやってきた村は、のどかで穏やかで。これまでについて多くを語ろうとせず、素性が定かでないマルコを温かく受け入れてくれた。

何も聞こうとしないでただ明るく接してくれる村人たちの態度にどれほど救われたことか。最初はオヤジの守りたかったものを代わりに守るという意識が強かった。けれども、村人との触れ合いを通じて今ではすっかりマルコ自身にとっても守りたい場所になっている。これも全てオヤジがこの村を作ったおかげだ。

「オヤジは何も遺せなかったと思ってたかねい」

この村に宝の取り分を貢いでることを隠し続け、生涯話そうとはしなかった。息子たちはみんな知っていたけれど、オヤジが触れてほしくないならと知らないフリをして。それに、マルコは常々定住する気はないと言っていた。海に生き、海に死ぬのだと。だから、この村に住んでいるとは夢にも思わないだろうし、これを遺したなんて考えもしないだろう。それでもこの村はマルコにとって大事な"形見"なのだった。


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