ねむいこなくこ

ねむいこなくこ


夜中にけたたましい幼児の泣き声が鳴り響き、軍勢は慌てて飛び起きた

幼い娘は今日は一体誰の布団に潜り込んだのか。もしや深夜に体調が悪くなって久々にぐずり泣きし始めたのか?内に秘めた虚に追われてる夢を見て泣いているのか?勢いよくたくさんの扉が開かれる音が廊下に響く

泣き声が響くのは白の部屋からだと気付いた平子が戸を勢いよく開き、リサや拳西、ローズがそれに続く。中には困り果てた様子の白とわんわん泣く撫子の姿があった

「ましろちゃんきらいやぁ〜!」

「ごめん!本当にごめんってぇ〜」

泣きじゃくる娘が母の姿を認めてよたよたと歩み寄ってくるのを抱き上げてやりながら白と娘に何が起きたのかを聞く

「あんな、うちきょうリサちゃんとねとったのにな、トイレ行ってかえったらましろちゃんになっとってな、おふとんはいったらけられたの…」

「この子多分隣のリサの部屋と間違えたんだよ〜!布団に潜り込まれたの気付かないでフツーに寝てたら突然大泣きされて驚いた〜!」

「…なるほどなァ」

娘の背中をトントン叩いていると次第に泣き声が弱くなってうつらうつらと頭が揺れ始める。どこを蹴られたのかと起こさないよう注意深くリサが着物を捲ると、小さな細い足の脛に盛大な青痣ができていた。

「あーこれは痛かったやろな…トイレならうちのこと起こしてくれて良かったんに」

「変なとこ気ィ使うからなあこの子…ハッチ、悪いけど治してもらってええ?」

この虚弱な子供はうっかりすると怪我のひとつ、傷のひとつから発熱や体調不良に繋がりかねない。ハッチは快く頷き、回道で脚を綺麗に治してくれた。

「もしかすると明日熱が出るかもしれマセン。念のため少し気をつけてあげてくだサイ」

「おう、夜中に起こした挙句すまんなあ…」

平子の胸に頭をこてんと預けながらももぞもぞと細い声を上げながら寝ぐずる娘の頭をハッチの大きな手が撫でる。

「構いまセン。可愛い我々の子どもですカラネ。さ、寝かしつけてあげてくだサイ」

「ひよ里と白の部屋に夜間違えて入らへんようになんか対策が必要やね…寝相が悪いのにやられて何度も怪我したら不憫やわ」

瀞霊廷で面倒を見ていた幼い少女に重ねてか、リサの表情は優しい。鍛錬の合間に本を読んでやったり外に出られない幼い娘をよく構ってくれる彼女の提案に大人たちは重々しく頷いた。ただでさえ元気でいられる日が少ない子どもをみな大事に思っていたので。

「今日はリサとオレで一緒にこの子見ておくか。夜中に熱出すかもしれへん」

「ええよ。布団運ぶから戸開けといてや」

「ごめんね〜〜ホント悪かったよ〜〜」

「気にせんでええ、うっかりにまで気が回らんかったオレらも悪いしなァ…」

明日ひよ里になにか細工を考えてもらおうと思いながら完全に寝落ちた様子の暖かい幼児の体を抱えて部屋に戻る。

今のところ熱が出てきそうな様子はないが、泣いた目元が少し腫れぼったい。布団に横たえて瞼に手を当てると冷たい平子の手が気持ちいいのかすり、と顔を寄せてきた。

「濡れ布巾でもついでに持ってこよか?」

平子の布団に自分の布団を並べたリサが小さい声で尋ねるのに首を振る

「ええよ、オレしばらく起きとるし…」

「そか。2-3時間したら変わるから起こしてな」

橙色の暖かい常夜灯だけが灯る部屋で幼子のうにゃうにゃとした寝言と寝付きのいいリサの寝息だけが聞こえる。

明日元気にこの子が起きますように、と祈りながら夜が更けていくのを感じていた。


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