ねえ自覚したんじゃないの?
記憶喪失になった長男のはなしギャグです。
「……誰だ?」
その残酷な言葉を突きつけられたのは、ドゥウムが家族の次に近くに置いているであろう人物。
そのことに、周囲は驚愕を禁じ得ない。
ドゥウムは彼女以外の人物は覚えていたのだから尚更だ。
周りの人物が固唾を呑んで見守る中、当の本人はというと…
「……すごいや、こんな精度の高い記憶操作魔法見たの初めて……!」
……思いっ切り、目を輝かせていた。
これまでのざっとしたあらすじ。
イノゼロ残党のやべえ組織の情報が入ったので魔法警備隊が潰しに行った。
ドゥウム兄さんがその中の1人の固有魔法を喰らっちゃった。
それが記憶を弄る魔法で、神覚者や家族と引き合わせてみたらツララちゃん関連の記憶だけ綺麗さっぱりなくなっていたことが発覚。幸い魔法は数日で解けるらしい。
やっぱちょっとショックかなと思ってたらツララちゃんは頭オルカで魔法の方に興味津々だった。←イマココ
「え……もっとこう……『まさかドゥウム、ボクのこと忘れてるの……?』的なあれとか」
「え?ないよ。何言ってるのデリザ。数日で解けるんでしょ?ならなんも影響ないじゃん。それにすごいよこの魔法、特定の人物の記憶だけ抜いてるのに、それになんの違和感も持たせてない……普通人一人の記憶消したら穴だらけになるはずでしょ?仲良くてしょっちゅう側にいるなら特に。え、ボクが関わってたところどんな風になってるの?ねえドゥウム、神覚者試験の記憶ある?あるならどんな形に?そもそも試験の記憶ごとすり替えられてる?出場した記憶自体はあるの?魔法局での記憶は?他の誰かにすり替えられてたりする?」
「え、えっと」
「もーやだこの頭オルカ!!!」
「ツララ、ステイ。今のドゥウムには君の記憶はないんだ。知らない人から質問攻めされる身にもなってみろ」
「チッ……はーい」
「舌打ちしたか今?」
ツララは少し不満げに一歩下がる。
ドゥウムはおろおろとツララとライオを見比べた。
「あの……ライオさん、私と彼女は一体どんな関係なんですか?」
その言葉にツララ以外の周囲が一瞬固まった。
それに触れていいのか、という感じで顔を見合わせている。
ファーミンとデリザスタなどは、『お前が言え』とばかりにお互いを小突きあっている。
最終的に、視線がライオに集まった。
ライオは全力で目を逸らしていたが、逃げられないと悟ったのか遠い目で解説し始める。
「あー……なんというかだな。普段のお前たちは基本ドゥウムがツララを抱えて会話や移動をしていたり、座る時は膝に乗せて手を握ったり……」
「……私と彼女は恋人だったのか?」
「いや?友達だよ」
「そうお前自身も言っていたな」
「それにしては距離感おかしくないか?ちょっと……男女の距離感ではないというか」
「「「「「それはそう」」」」」
「え……今更……?」
「だから再三言っていたんだ、距離感がおかしいと!」
「なあやっぱ付き合ってたんだろ、そうなんだろ!?」
「いや付き合ってないですね」
「なんで!!!」
「友人……?そんな接触を許している異性が友人……?」
「ほらー、兄貴宇宙背負っちゃったー!」
「まあこれで自覚したと考えれば少しは進展するでしょう」
「本当にそうだろうか?」
「ライオは訝しんだ」
数日後。
ドゥウムの記憶は戻り、
「……やっぱり付き合ってなかったな」
「人の主観って当てにならないねえ」
……二人の距離感は治りませんでしたとさ。
「なんで進展してねえんだよ意識しろクソボケ共!!!」
「あはは、やっぱりこうなったー」
「ら、ライオさんの目が死んでる……」
もしかしてこいつらラッキースケベしても相手のこと意識しないんじゃね……?
でも多分相手にクソデカ感情抱いてるのバグでは?
これで出会って三年程度なのおかしいって