ぬいぐるみ
33ロシナンテは自分自身を緩やかに世界へ還元している。まるでそれが生かされた意味であるかのように。背負った罪を償い続けるように。
だからだろうか。彼は人に何かを惜しげもなく贈ることが好きだった。
「ロー、プレゼントだ!」
「………は?」
ロシナンテの顔と両脇のそれらをかわるがわる見て、その発言を心の中で反芻しても、ローはそんな気の抜けた返事しかできなかった。
ロシナンテの両脇に抱えられているのは、シャチとペンギンというこの南の海では珍しい動物たちのぬいぐるみだった。子供向けらしくデフォルメのかわいらしいデザインで、これがまたなかなか大きい。ロシナンテがそれぞれの腕をフルに回して持つくらいには。つまり、一般の目線で見るとなかなかどころではない大きさである。少なくともやや成長不良気味の現在のローが持つとその背がほとんど隠れてしまいそうだ。
「どうしたんだよそれ…」
「いやァ、この前のシロクマに友だちを作ってやりたいと思ってよ~」
「大きさがちがいすぎるだろ」
「でっかいほうがお得?だろ!」
何をもってして得とみているのかはよくわからないと首をひねっていると、すぐさまローに二つのぬいぐるみが手渡された。いきなり大きいものを抱えた反動で少しバランスを崩しかけたが、大きさに反して軽く柔らかい素材でできているようで負担なく持ち上げることができた。
「寝る場所がずっとハンモックだと体が休まらないだろ。これをクッション代わりにするのもいいかなと思ってさ」
「あんたと使ってるんだからもっと狭くなるぞ」
「おれもこのフワフワを堪能できるじゃねェか」
「それが目的だったりしねェよな…?」
ジトっと睨みながらも、抱き心地のいいぬいぐるみに顔をうずめる。奇しくも自船のクルーの名を冠するいきものに囲まれる形となったことに、ほんの少しだけ安堵にも似た喜びと、郷愁を感じた。
ローが手に力を込めるたびに抱えられたぬいぐるみがもこもこと揺れる。その隙間から嬉しそうに破顔しているのが見えて、ロシナンテも笑顔をほころばせた。
図鑑や街中のポスターでシャチやペンギンといった北のいきものを見かけるたびに、どこか懐かしむような視線で無意識に追っていたことを知っている。気休めになればと買ってきたロシナンテだったが、ローの喜びように自分も何かをもらったような気持ちになった。
やがてポツリとつぶやかれた『……ありがと』に、たまらずぬいぐるみごと子どもを抱きしめた上官は、通りがかりの兵士たちにその厳つい顔を崩しながら見守られていた。