にょたお兄ちゃんまとめ 初任務2日目
脹相「う……ん?」違和感を覚えて胸元を見る
虎杖「……」胸に半分顔埋めてすやすや
脹相「ふっ、今日は随分甘えただな……」ヨスヨス
虎杖「ん…う〜ん……ちょーそー?」しぱしぱ
脹相「おはよう悠仁。ほら、朝だぞ?」
虎杖「ふあ〜……はよ…」
脹相「ふふ、今日の悠仁は寝坊助さんか?」
虎杖「んん〜、そうかも……」
脹相「あまり待たせると伊地知が可哀想だ。ほら、準備するぞ」
虎杖「はぁ〜い」
虎杖「おはよー、伊地知さん!」
脹相「おはよう。昨日はすまなかったな」
伊地知「おはようございます。虎杖君、脹相さん。気になさらないでください。本調子でないのはわかっていましたから。もう大丈夫そうですね」
脹相「ああ、お陰様でな。伊地知、お前も優しいな…」
虎杖「っ!脹相!」
脹相「?どうした、悠仁」
虎杖「ダメだからね」
脹相「何がだ?」
虎杖「ハグしたらダメだからね」
脹相「しないが?」
虎杖「え、だって釘崎と伏黒には……」
脹相「お前たちは子供だからな。人に優しくできたら褒めてやらないといけないだろう?」
虎杖「は?何?今までの全部子供扱いだったってこと?」
脹相「?そうだが?だってお前は弟だろう?」
虎杖「いやそーだけどさぁ…!」
脹相「伊地知は大人だからℎ𝑢𝑔しなくてもいいだろう?」
伊地知「えっ!?ああ、はい。そうですね。結構です」
脹相「だ、そうだ。よし、とりあえず昨日最後に確認された地点に行くぞ。伊地知、頼む」
伊地知「はい、わかりました」
虎杖「なんだかなぁ〜」
脹相「昨日最後に確認されたのがここの公園か……」
伊地知「はい。何度か出没確認があったうちの1ヶ所なので、もしかすると、この近辺に住んでいる可能性もあります」
虎杖「だからあそこに泊まったのね」
伊地知「そういう事になります」
虎杖「よし。じゃ、この辺探してみますか」
伊地知「よろしくお願いします」
虎杖「全然気配とか無いね」
脹相「そうだな…残穢くらいあっても良さそうだが、逆に無いからこそ、ここが生息域なのかもしれんな」
虎杖「勝手知ったるですぐ逃げられるってことか…」
脹相「ああ」
虎杖「ちょっと寒くない?俺温かいもん買ってくるわ」
脹相「そうか。気を付けてな」
虎杖「そっちこそ!じゃ、行ってくる!」
??「Hey!そこのレディ!!」ザスッ
脹相「!?」
脹相「……(急に現れたな。こいつがそうか?)」
??「こんにちは。素敵なレディ」
脹相「お前はなんだ?俺に何の用だ」
??「これは失礼!私は井早 素(いはや もとむ)、しがないサラリーマンです。せっかくの休みなのでこれから街に繰り出そうとしたら、貴女という素敵なレディをお見かけしまして、お声掛けした次第です」
脹相「で、俺に何の用かと聞いている」
井早「(俺?オレっ娘ってやつ?)こんなにいい天気でしょう?スマホとにらめっこより、私とカフェテリアでお茶でもいかがです?」
脹相「そうか。だが生憎人を探していてな。暇ではないんだ」
井早「そうでしたか…良ければお手伝いしましょうか?実は私、足の速さに自信があるんですよ!特にこんなに天気がいい日だと走りたくなるので、丁度いいんです。手伝わせていただけますか?」
脹相「そうか…ではお願いしようか。だがもうじき暗くなるぞ?」
井早「え?まだ昼間ですよ?ああ、確かに貴女の美しさには太陽さえも恥じらって身を隠すでしょうね!おや、ほら早速…え?こんな暗くなる事ある?」
脹相「協力感謝する。丁度探し人が見つかった。お前だな?」腕ガシッ
井早「え?え?何?」
同時刻
伊地知「おや、脹相さんからメッセージが…?」
脹相「標的と思しきやつと接触している」
「逃げられる前に俺の周りに帳を下ろせ」
「場所ならGPSでわかるだろう」
伊地知「感謝します、脹相さん!『闇より出てて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え』」
虎杖「!帳が…!?もしかして見つかったのか!?急がねぇと!」
井早「ど、どうしたんだい?レディ。それに、私を探していたって…?」脹相の両腕を掴む
虎杖「脹相っ!!」
脹相「悠仁」
虎杖「……アンタ、誰?何?」井早を脹相から引き剥がす
井早「き、キミこそなんだい?私は今このレディと話しているんだ。邪魔しないでくれ、ボーイ」
虎杖「俺のツレなんだけど。邪魔なのはそっち」
井早「……そうか、ならば…捕まえてみたまえ!」脹相をお姫様抱っこして走り去る
虎杖「はぁ!?ま、待て!!」
脹相「おい、離せ」
井早「お断りするよ!レディ!これは男の戦いなのだ!」
脹相「悠仁は俺の弟だが」
井早「え!?似て…いや、そういう雰囲気ではなかったが!?」
脹相「はぁ……」
数十分前
虎杖「なんかさ、動きが掴みにくくて面倒くはあるけど、そんなに悪いヤツじゃないっぽからさ、赤血操術は使わんどいて?」
脹相「たまたま人が死んでないだけかもしれないだろう。油断は良くないぞ」
虎杖「そうではあんだけどさ…」
脹相「すまんな、悠仁」首に血刃ドスッ
井早「え、ごほっ」
脹相「悪いな。知らん奴にベタベタと触らせてやる程、安いつもりは無い。だが安心しろ。治してはやる」逆に抱き抱えて着地
〜治療中〜
脹相「よし、血痕も無い。元通りだな」
井早「う…キミは…一体……?」
脹相「お前、そもそも呪術を知っているか?」
井早「呪術?」
脹相「速く走れるようになったのはいつだ」
井早「2週間前、事故で頭を打って…退院したら急にすごいスピードで走れるようになったんだ」
脹相「(件の呪詛師の出没時期と同じ…こいつで確定だな。そして恐らく術式もまだよく把握していないだろう)」
虎杖「おーい!大丈夫か!?」
脹相「ああ、俺はなんともない」
虎杖「良かった…」ぎゅっ
脹相「ふふ、今日の悠仁は本当に甘えただな」ヨスヨス
井早「ちくしょー!見せ付けやがって!おいボーイ!レディをかけてどっちが速いか俺と勝負だ!」
虎杖「えー。そんなんしなくたって脹相は俺んだし。でも面白そうだからやってやってもいいよ」
井早「既に負けている気がする……!」
〜いちゃいちゃの裏側〜
虎杖「良かった…(こいつがそう?)」
脹相「ふふ、今日の悠仁は本当に甘えただな(ああ、最近覚醒したばかりで術式も何も知らん)」
井早「ちくしょー!見せ付けやがって!」
虎杖「(じゃ、やっぱ殺すのはナシだね)」
井早「おいボーイ!レディをかけてどっちが速いか俺と勝負だ!」
脹相「(お前が言うならそうしよう)」
虎杖「で?勝負ってどうすんの?」
井早「あの時計の長針がてっぺんに来るまでに私を捕まえてみろ!」
虎杖「はいはい、そーゆーやつね」
井早「では行くぞ!よーい、どん!」衝撃波と共に消える
虎杖「うわー、確かに速いね」
脹相「最初も急に現れたから少し驚いた」
虎杖「でもさ…わかりやすいね」
脹相「そうだな。アレは穿血と同じだ。初速が速いだけで、あとはそうでもない。そして、その初速を上げるには…」
虎杖「結構な呪力を溜める必要がある。30秒おきくらいかな。溜めはダダ漏れの呪力で丸見えだから、そこを叩けばいい」
脹相「さすが俺の弟だ…」
虎杖「じゃ、行ってくる」
脹相「ああ、行ってこい」
井早「ハッハッハ!その程度かねボーイ!(ただ走ってるようにしか見えないのにこんなに速いのか!?何者だ!?)」
虎杖「……(やっぱりスピード落ちてるな。で、溜め終わるまで3、2、1)」強く地面を蹴って跳ぶ
井早「おわっ!?」
虎杖「あっ、惜しい!」
井早「ざ…残念だったね!ボーイ!この『北高のチーター』を捕まえるにはまだまだ足りないな!(おかしい、俺が纏ってるオーラみたいなのが全然見えないのに、なんであんなに速い!?ジャンプ力も異常だ!本当に人間か!?)」
虎杖「うーん、次くらいでいけると思うよ?」
井早「それはどうかな!?(出来る!彼なら出来る!このままじゃ捕まってしまう…!だめだ!このままじゃ……)」
虎杖「……(あの感じ…次まであと10秒くらいかな)」
井早「くそ……っ!(このままじゃ…人のままじゃダメだ…!!なら…!)」光に包まれる
虎杖「よし。(5、4、3、)うぁ!?」
どしゃっゴロゴロ……ガシャァン
眩しい光と、何かが落ちて転がってぶつかる音がした。
辺りにはもくもくと砂埃が舞っている。
「うっ、アイツどこ行った!?」
まだ目がチカチカする。
「悠仁、大丈夫か!?」
脹相が駆け寄ってくる。
「え、うん。大丈夫。来るの速いね」
「血に乗って飛んできた」
「んん?血に?乗って?」
脳内に桃白白みたいに飛んでくる脹相が浮かんだ。
ちょっとよくわかんないですね。
いや、そんなことより。
「アイツは…?」
「多分あそこだろう」
脹相が砂埃の発生源を指さす。
近付いて見てみると、そこには傷だらけの───
チーターがいた。
「なんで?」
昔から足が速かった。
物覚えとか行動も早いってよく褒められた。
速さが俺の自慢だった。
でも、高校を出て、故郷を出て、社会に出て、それはあんまり自慢に出来なくなっていった。
それから十数年。
鬱屈した思いを抱えながら会社から帰っていたら、横から車に跳ねられて頭を打った。
退院してから、俺は不思議な力に目覚めた事に気がついた。
何もかもが変わった気がした。いや、戻った気がした。
速いだけで認められていた、あの頃に。
なのに、そんな力使わなくても凄い身体能力を持った子供を見て、惨めな思いになった。
歴然とした力の差、生物としてのレベルが違うと突き付けられた。
なら、それなら、同じ人のままじゃダメなら、違う何かになるしかなかった。
俺は、何になりたい?
そうだ。
世界で一番速いからと、お前にピッタリだと、言われていた、アレになるしかない。
そう、チーターに───
脹相「でかい猫だ……ボロボロだな」
虎杖「いやまたなんでチーターに?」
脹相「わからん。で、悠仁はこいつをどうしたい?放っておけばそのまま死ぬが」
虎杖「……脹相、頼める?」
脹相「やはり、俺の弟は優しいな……」ぎゅっ
虎杖「おーい?あ、目ぇ覚ました」
チーター「うなぁん」脹相にスリスリ
脹相「ん?なんだ?」なでなで
虎杖「感謝してんのかな?……待って。そいつさっきのおっさんでしょ?ダメだよ」脹相から引き剥がす
チーター「うなぉ、なぁ〜ん」じたばたしてへたり込む
虎杖「あれ?お前……歩けないの?」
チーター「な〜ん…」しょんぼり
脹相「…意思の疎通は出来るようだな。言葉は交わせないが」
虎杖「と言うわけで、連れてきたんだけど……」チーター抱っこしながら
伊地知「……はあ。なるほど…?」
虎杖「でもさ、なんでこうなったんだ?速く走れるのがこいつの術式だったんじゃないの?」
伊地知「うーん。もしかしたら我々は勘違いをしていたのかもしれませんね」
虎杖「勘違い?」
伊地知「……恐らく、ですが、体を作り変えるのが彼本来の術式だったのではないでしょうか」
虎杖「体を作り変える……」
伊地知「元々術師ではない人が、急に呪力で体を守れるかというと、出来ない方が多いです。なので、高速で動く事が出来てそれに耐えうる肉体に変化させていたのではと推測されます」
脹相「だが何故でかい猫になって立つ事も儘ならない状態になったんだ?これ程の変化が出来るなら戻れないのはどうしてだ?」
伊地知「今までは人の体のままでの変化でしたが、ここまで大きく変わることにリスクが無いはずがありません。元より、術師だった訳でも術式を理解していた訳でもないのですから」
虎杖「たしかに。普通に走ってても、急に四つん這いで走るってなったらだいぶ難しいよな」
脹相「そもそもの体の構造が丸っきり変わったのなら、体の動かし方も変わる。だから今のあいつは産まれたての獣と変わりないってことか」
伊地知「そういうことになりますね。問題は……これから彼をどうするかです」
虎杖「正直に呪詛師捕まえたけどチーターになりました!って連れてっちゃダメかなぁ。普通のチーターじゃないから動物園にもやれないし」
脹相「なら死なせればいいだろう」
虎杖「脹相!?」
脹相「暴れていた呪詛師は死亡した。と報告すればいい。こいつが人間に見えるか?俺には見えん。人としては死んだも同然だ。嘘をついた事にはならんだろう」
伊地知「たしかに現状それが最善には思えますが……」
虎杖「もともとパンダもいるし、チーターが増えても問題ないよな!」
帰りの車内
後部座席にチーターを挟んで虎杖と脹相が座って、脹相がチーターを撫でている。
虎杖「脹相さぁー、そいつ撫ですぎじゃない?さっきのおっさんなんだよ?」
脹相「そうか?コイツはもうただのでかい猫だろう?気にし過ぎだ。それとも、お前も撫でて欲しいのか?」
虎杖「うー、撫でて欲しいのはあってるけど」
脹相「そうか。なら、おいで悠仁」
虎杖「そう来なくっちゃ!はい、お前はこっち」チーターどかし
チーター「うわっ」
虎杖「ん!?」
脹相「よしよし。悠仁も頑張ったな」ぎゅっとしてなでなで
虎杖「ちょちょちょ、待って!?お前今喋んなかった!?」
脹相「悠仁?」
チーター「う、うにゃー?」
虎杖「さっきまでの鳴き方とちげーじゃん!」
井早「……バレてしまったね」
虎杖「お前……人に戻れるんじゃないのか?」
井早「それは無理だよ。君達の話を聞いていて、何とか戻ろうとしたんだが、声帯しか戻せなかった。やっぱり無理をしすぎたんだろう」
虎杖「なんでまたこんなことしたん?」
井早「大人の意地…みたいなものかな。君もそのうちわかるさ」
虎杖「へー」
井早「すごくどうでもよさそうだね」
虎杖「うん。今は脹相に撫でてもらう方が優先だから」
脹相「本当に今日は甘えん坊だ。可愛いぞ」
虎杖「もー、可愛いはやめてってばぁ」と言いつつ頬ずり
井早「……ドライバーさん。濃ゆ~いブラックコーヒーが飲みたくなってきたよ」
伊地知「奇遇ですね、私もです」
高専に戻ってきた一行
伊地知「と、言う訳なんです……」
虎杖「先生。こいつ、どうにかできない?」
井早「悪戯に人を怪我させてしまった罪は消えないが、これから人の役に立って少しでも償っていきたいんだ」
脹相「……」
五条「まぁ、既にパンダがいる訳だしね。チーターが増えるくらい特に問題ないと思うよ」
井早「……本当にパンダがいるのか……」
五条「じゃあ、伊地知。報告終わったら案内してやってよ」
伊地知「わかりました」
虎杖「頑張れよ、おっさん!」
井早「おっさんはやめて欲しいよ…ボーイ…」
虎杖「ならボーイもやめろよなー」
井早「ははは、そうだね。じゃあね、虎杖くん、脹相ちゃん」
虎杖「じゃーねー!」
「……」
犯した罪は、消えない。
あいつの言う通りだ。
呪術界の役に立ったからと言って、俺が奪った命は戻らない。
壊相も、血塗も。
大勢の無辜の民も。
いいや、血肉を持って生まれ堕ちた時から、人の命を奪って受肉した。
それなのにのうのうと生きていていいのか?
「脹相。脹相ー?ちょ~そ~?」
悠仁の声がする。
「っ!?……どうした?悠仁」
気が付けば、悠仁が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「どうしたはこっちのセリフなんだけど。昨日今日ぼーっとしてること多かったけど、ホントに体調悪いとかじゃない?」
「いや、大丈夫だ。気にするな」
弟に気を使われるなんて、お兄ちゃん失格だ。
そう思って、言った言葉なのに。
「……っ!またかよ!大丈夫大丈夫ってさ!どう見ても大丈夫じゃないから聞いてんじゃん!気にするなって方が無理だろ!?なんで俺に話してくんないんだよ!そんなに頼りないかよ!」
悠仁は傷付いた顔でそう言ってきた。
「違う、そうじゃない。悠仁には関係無い」
そう、お前に罪は無い。だからそんな顔をするな。
「関係無いってなんだよ!兄だ弟だって言ってるのに!?家族なんじゃないのかよ!?」
「そうだ。俺はお兄ちゃんで、お前は弟だ。だから、お前に言えることは無い。これはお兄ちゃんの問題なんだ」
こんな事、弟のお前に言える訳が無い。
だから、わかってくれ。
「俺が、弟だから?」
悠仁は俯いてしまった。
「ああ、そうだ。」
「そーか。そーかよ。じゃあ、もういいよ」
俯いたままで踵を返した悠仁は、最後に振り返って言う。
「……こんなんなるなら、兄弟なんかじゃない方が良かった」
どうして、そんな泣きそうな顔をしているんだ。
「……っ悠仁…っ!!」
俺は、また間違えてしまったんだ。
そして、それから顔を合わせないまま、翌日に元々入っていた任務に向かう事になった。