なんのために

なんのために

性癖書く腸




閲覧注意

今回行為の直接的描写はなし、今後は事後などの匂わせ程度はある予定

エアプかましまくってたらごめんなさい許して











「陛下より

『日が沈んだ後、我が玉座の前に来い』との仰せです。バズビー様」


自室に向かっていたバズビーの元に、一人の聖兵が勅命を伝えに現れた。

「……は?

おい、陛下は何か理由を言ってたか?俺の他にいるのか?」

彼が疑問に思うのも無理はないだろう。

何しろユーハバッハ直々に呼ばれることは、聖文字を与える儀式以来一度もなかったからである。

まず、日頃から招集される面々も限られた者たちしか居ない。星十字騎士団の古株の者、ユーハバッハの右腕であるハッシュヴァルト位であろう。それなのになぜバズビーが呼ばれたのか。他にいるのか。

「いいえ、理由は仰っていませんでした。他の方にこの勅命がされたかは、私は存じておりません」

やはり、ユーハバッハの元に行かねばわからないようだ。

いいことではないとだけわかるのだが。


「それでは、日が沈んだ後、陛下の元にお越しくださいますようお願いします。失礼します」

一礼して、聖兵が下がる。


バズビーの内心は穏やかなものではなかった。自然と眉間に皺が寄るくらいには。──何か嫌な予感がする。どれだけ考えてもわからない。少なくとも900年間、ユーハバッハは自らの鼓動を取り戻すため何の行動も起こさなかった。それが明け、何故俺なんだ?どういうことだ。……まさか自分を殺そうと反乱するかもしれないと思っているのか?いや、それなら加入すらできなかったはず。今になって脅威と見られ、いやそれはないか……。

ともかく、いくら考えても答えが出ない。やはりあいつの元に行くまでは明らかにならないか。

だが、それにしてもこの気持ち悪い靄がかった感覚は異常だ。殺されるにしても何か違う気がする。その理由もわからない。……まあ、その時が来るなら、あの憎き顔に一撃だけでも喰らわして死んでやりたいものだ。








夜。

太陽が沈み、月が目を出す。

今宵は満月。月光が光のなくなった銀架城を照らし、歩く道がよく見える。


そこだけ見れば、何もおかしなことはないと思うだろう。

ただ一つだけ除けば。

今、自室から陛下の元に歩くまでの道のりで、誰一人として人を見かけないことだ。この満月に炙り出される人影もなく、物音すらしない。

普段からこの時間帯を行動する訳でもないが、聖兵一人見かけないのは異常だろう。

やはり、これから起こることへの前兆か。

そんな不吉な空気漂う中でも、清純に輝く光を見ていると落ち着いた気分になる。まるで夢の中にいるようだ。

あいつの元へ行くというのに、久々に落ち着いた気がする。

こんな夢なら、まあ悪くはないかもしれない。




結局、扉の前まで誰一人として出くわさなかった。何か根回しされていたのか。

すると、扉の前に勅命を伝えに来た聖兵がいた。てっきりユーゴーの奴がいると踏んでいたが。


「陛下がお待ちです。中へどうぞ」

そう言うと、女は扉を開け中に入るよう催促した。


平静を装い、陛下の元に進む。

そして跪き、頭を下げる。

まさか俺だけなのか?益々、わからない。

「お呼びですか。陛下」

跪くことはあまり好きじゃない。まして、この憎き相手の前で頭を下げることも。

だが、そんなこと言ってられないだろう。

大人しく目の前の奴の行動を待つ。


「よく来たな。バズビー。

突然の呼び立てに困惑しただろう」

そりゃ困惑したさ、何がなんだかさっぱりだからな。

「いえ、陛下の命令なら……」


ユーハバッハは玉座に座りつつ、こう言い放った。

「そうか。……では早速、本題に入るとするか。


──今から、私がお前を犯す。

それが今日お前を呼んだ理由だ」




………………は?


「………………は?な、何故……??

というか、何故、俺を??

そんなこと、そこら辺の聖兵にでも相手させればいいんじゃ……満足出来ないのなら娼婦でも呼べば……いい……」

意味が、わからない。

なんのために呼ばれたのか知りたかったのに、さらに意味がわからなくなった。

いや、わかりたくない。脳が理解を拒んでいる。今、目の前にいる憎きユーハバッハに犯す、と言われた。別に娼婦なり売女なりに相手をさせればいいのではないか。それともこいつは男色だったのか。俺には理解できない。心底気持ち悪い。その相手がなぜ俺なんだ。何とか、何とかこの状況を覆す方法はないのか。


「確かに、欲を満たすための行為ならばそこいらの女でも良かろう。

だが、この行為に繁殖のための意味もない。

私自ら子種を植え付け、子孫を繁栄させる必要もないからな。

ましてや、性という欲を満たすためのものでもない。

愛を育むものでもない。


ただ、手段のひとつに過ぎない」



突然のことに頭が上手く回らない。

だが一つだけ引っかかった。

「手段?」

ヤる事が自分の性欲を満たすこと以外に、なんのための手段になるのか。

「そうだ。今から行う行動は目的を果たすための方法だ。

……今の私は気分がいい。

余程それを知りたいと見えるお前に、何が目的なのかを教えておいてやろう。

だがその前に、聖帝頌歌を言ってみろ」

聖帝頌歌がどうして関係する……。

「封じられし滅却師の王は 

900年を経て鼓動を取り戻し 

90年を経て理知を取り戻し 

9年を経て力を取り戻す」

言ったはいいもののこれがなんなのか。


ユーハバッハはこちらを見据えたまま頷いた。

「そうだ。そして私は900年の眠りから醒め、現在、理知を取り戻そうとしている所だ。

この理知を取り戻すことが目的である」

いやだから何故その目的がヤる行為の手段になるのか全くわからない。

「そしたら、わざわざそれの必要がないのでは?理知を戻すのにその方法の意味がわからない」

「まあ、続きを聞け。

まず私は、人間を死の恐怖から解放することを一番望んでいるのだ。その恐怖という苦しみへの理解を深め、それをなくそうとする志を強くするための手段だ」

「……その手段をとったところで、陛下が得られる物はないと思いますが」

そうだ、ないはずだ。一体何を得ようとしている。ここまで話を聞いても明確にならない。

「わからんか。貴様には今からその苦しみを見せてもらう、と言っているのだ」

苦しみを……?なんで俺である必要がある。なんでその行為から苦しみを得るんだ。

「それならただの暴力でもいいはずだ。加えて俺である必要も感じない」


玉座に座ってる人物は目を細めて少しうんざりとした様子で言った。

「私は生半可な事は好かん。

暴力で与えられるのは、痛み、恐怖だ。

だが、陵辱はそこに相手の尊厳をさらに削ることが出来る。人間であること以前に生物としての尊厳もな。

そして感覚としての情報も痛みだけで留まらない。だからこそ、ただの暴力よりも有効だ。

その尊厳を奪う行為は、相手が傲慢で私を憎んでいればいるほどに苦しみを見られるだろう」


こいつはそのおぞましい行為が、どういった物かきちんと理解してる上で、行うと言っているのか。そして、俺がお前を憎んでいる事も知っている上でここまで通した。……心底、気持ち悪い。

「なぜ、俺だ。

俺以外にもあんたを憎んでいる奴らなんて数え切れない程いるだろうよ。

俺がそこまで聞いて大人しく受け入れると思うか?」

「あぁ……。

なぜお前を選んだかは、運だ」

「……運、だと?」

なんで巡り合わせで俺が選ばれなきゃいけねえんだ。そんな理由で……。

「そうだ。お前の言う通り私を恨む者、憎む者は多々存在するだろう。だが、そんな者達を一つ一つ吟味するのも馬鹿らしい。

だから、その中から賽子を振って決まった。それが偶然お前だっただけだ。

確か、ハッシュヴァルトを拾いに行った時に居たな。そして私に憎しみの目を向けていた事があった。

態々、赴いて調達しなくていい。その点では手間が省けた」

ふざけるな……。

「…………これは俺に拒否をする権利はあるよな?」

「あるとも。言っただろう。

あくまでお前は、数ある中の一つの案に過ぎない。そして、最悪私を憎んでいる相手でなくてもいい。ともかく苦痛を私の目の前で見せればいいのだ」

断ってもなんともないなら、こんな物蹴り飛ばすに決まってる。

「はっ、ならお断りだ。他を当たった方がいいぜ、陛下。

時間を無駄にさせて悪かったな」

「……そうか。なら新しい変わりがいるな。

ところで、私は数ある一つの案と言ったな。その案の一つにハッシュヴァルトもいる」



……なんで、そこでユーゴーが出てくる。おかしいだろ。あんたにとってあいつは半身、第一の息子である存在だ。父親は息子を守る存在だろうが。家族ならそんな発想思いつかない、実行もするわけがない。

「…………冗談、だよな?冗談にしてはキモすぎて笑えねえよ。出来るわけ、ないだろ?」


「私は嘘は言わない。

お前が断ると言うのなら、ハッシュヴァルトがその案の一つになる可能性があるだけだぞ」


冷や汗が背中を伝う。こいつは正気なのか。

俺がここで断ったらユーゴーが変わりにされる。

この頭のイカれたクソジジイにあいつが。

「あいつは、忠誠を誓ってるんだぞ。敬服し、尊敬し、憧れている。そんなあいつに、迷わずイカれた事をするってのか?あんたの命令なら断らない可能性もある。

あんた、ほんとに正気か?」

「少々口が悪いな、バズビー。勿論私は至って正気だ。私の命令であればハッシュヴァルトは断らないだろう。だからこそ案の一つにある。

この件を蹴るのなら即、目の前から消え失せろ。

もうお前に用はない」



──その時、バズビーの中にある時の記憶が脳裏をよぎった。


──ユーゴーと初めて会った時のことだ。

あいつの家族は、おじさんしかいなかった。

その話をしている時、ボロボロに怪我をしていた腕を隠していた気がする。

その時は、その怪我を誰がやったか、なんでその怪我を負っていたのか、深くは考えなかった。ユーゴーにも聞きはしなかった。

けれど、今思うとあの怪我をさせた人物があいつのおじさんだったのなら。

あいつにとっての家族、父親代わりの人から何か暴力以上の事がされていたのなら……ユーゴーは、また同じ事を経験するのか。

俺は家族ならそんな事あるはずがないと思っていた。尚更、男同士で考えもしなかった。そんな俺の常識の例外だったのなら……。目の前にいるこいつのように。

ユーゴーはユーハバッハに忠誠を誓ってる。尊敬してる。恐らく断る選択肢はないだろう。

それは、胸糞悪すぎる。

そんな事させられるか、また経験させてたまるか。あいつに。



「待て。今の発言を撤回させて欲しい。

……俺が、陛下の相手になってやるよ」

──ユーハバッハの顔を真っ直ぐ見据え、バズビーは言い放った。

そんなユーハバッハは、特に顔色を変えず返答をする。

「意外だな……。ハッシュヴァルトと知己であるとは予想してたが、そんなに大事か?」

バズビーは少し苦い顔をしながら言う。

「あんたには関係ねえだろうが。

やるならやる事してさっさと終わらせようぜ。

俺があんたの相手をしてやれば、ハッシュヴァルトの野郎は関係ねえってことだろ?」

「そうだな。私に苦痛という表情を差し出せば、その間はお前になる。

ならば、寝台の上に来い。私自身の手で痛み、苦しみを与えてやろう」

ユーハバッハが玉座から立つ。


ついに始まる。

今日一日の出来事で終わるのか、終わりの見えない崩落の毎日の始まりなのか。

それを、バズビーは知る由もない。

だが、この青年の目から叛逆の灯火は消えない。

彼は今も思っている。──せっかくの機会だ。このクソ野郎を殺す。手足が動かせなくても、その喉元を引きちぎってやる。──彼の闘いが始まる。

誰も知らない、月夜の地獄が。





つづく



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