なんとかやってる正実モブチャン

なんとかやってる正実モブチャン


心身がねじ曲がる以前よりもずっと多くの功績を挙げているのはいったい何の冗談なのだろうか。

同級生たちから向けられる羨望の眼差しを思い返しながら、正義実現委員会に属するその少女は考える。


動き回っていなければ、開発されきった下腹部……その内の子宮は際限なく疼いてしまう。とにかく自分の体から意識を逸らすため、彼女は委員会の仕事を自主的に引き受けるよう努めていた。

そうやって背負う仕事が増えれば、必然的に事件と遭遇することや問題を解決する機会も増える。悪党たちと戦う頻度もまた同様だ。


銃撃や爆風さえも快感として受け止めてしまう細身。それを晒さないために単独行動を取ったり、多対一の不利に身を投じることも珍しくなくなった。以前のように同僚たちと共同で戦う機会は反比例して減っていったが、身を省みない戦いをする上では良い方向に働いていた。

彼女は今日もまた単独でコンビニ強盗を撃退し、副委員長から称賛を受けた所である。


『勇敢かつ迅速……正義実現委員会に相応しい模範的な動きでした。これからも他の子たちの規範になるような存在でいてください』


そんな言葉を口にしながら、褒め称えている側の副委員長も誇らしげに微笑んでいた。こんな優秀な部下がいてくれて嬉しい、と言いたげに。

……脳裏にその時の記憶を浮かべた瞬間、腰の奥がずきりと痛み出す。負ったばかりの傷の痛みではない。自分自身の手で、あるいはその他の道具で刻みつけた痕が熱を発していた。


パブロフの犬のような条件付けだ。自分が正義実現委員会の模範的な一員だと言われると、それを上塗りするかのように煮えたぎった欲求が首をもたげてくる。

これはきっと、賞賛の言葉を否定したくてもできない反動だろうと少女は自己分析していた。受け取らないわけには行かない。怪しまれてはならない。似合わない評価だと自嘲したくなっても顔に出してはいけない。


そして、この耐え難い欲求を発散する手段は非常に少なかった。意識が飛ぶまで働くか、あるいは……。


少女はベッドへと無気力に身を投げ出し、ちょうど胸ポケットに入っていたボールペンを手に取る。ある程度固いものなら何でも良かった。皮膚が切れない程度に尖ったものなら尚良い。


視線は向けず、天井を眺めたままでボールペンの先端を下腹部に当てる。トントンと叩くようにして、傷跡と重ならず、かつ性感帯に近い位置を探り回す。……そして。


「……はっ……ぐぅっ♡」


握りしめ、強く押し込む。痛みではなく、快感から来る呻きが発せられる。

針で突かれたチューブから空気が吹き出すように。痛みによって、隠している本性が漏れ出る。快感の一歩目を踏み出す事が、今では病みつきになっていた。今までの自分が何を愛していたのか思い出せなくなるほどに。


『……■■ちゃん、最近なんか変わった? めっちゃ活躍してるって聞いたよ! 凄いじゃん!』


幾日か前の心地良い記憶。いま思い出す必要など微塵もないものが脳裏に映り込む。

じっとりと背や額に滲み出る汗が快感から来る物なのか罪悪感から来る物なのか分からない。ざわつく感覚を振り払うように握りしめた手を動かすことしかできなかった。


「ぁ"ひっ……ぐぅぅ……♡ はっ、はぁっ……がっ……♡」


ごりっ、と音が聞こえてきそうなほど強い加減で性感帯が密集する箇所を突く。電流のような恍惚感が下腹部から背筋を伝い、耐えきれなくなったように腰を跳ね上げさせた。

自分で暴れて自分で抑えつけ、落ち着いたらまた急所を抉る、その繰り返し。誇らしい想像が卑しい喘ぎ声と短い絶頂感の連続に塗り潰されていく。


貧血に陥ったように意識が遠ざかり、力の抜けた手とペン先は青痣の表面をがりがりと擦る。暗くなっていく脳裏を甘い言葉がよぎる。


『……委員長にも負けてないくらい怖い物知らずだよね。どうやったらそんな風に……』


「っ、ちがっ……違う……の……ぉ"っ♡」


その場でなんと答えて誤魔化したのか思い出せない。否定しないので精一杯だった。

恥を堪えるように布団へ顔を埋め、やり場のない片手でベッドシーツをぐしゃりと握りしめる。逆手に持ったペンは四つん這いの体勢に折り曲げた下腹部を今も捉えていた。


『……え、整理までやっといてくれたの? 本当は私の仕事なのに……ありがとう!』


「わだしぃ……ぁ、もう……イっ……う"ぅぅうっ♡」


感謝されるような事ではない。自慰に走らないよう上の空で手を動かしていただけで、頭の中は最初から最後まで欲望で一杯だった。深い絶頂に浸っている今のように。


本当ならあり得ない部位を弄り回してよがり、快楽への期待で24時間身体を疼かせているだけの淫らな生き物。そんな自分を明かしたくても、怖くて申し訳なくて明かせない。かといって消し去ることも叶わずに、こうして初めての傷跡を掘り返すような行為を続けている。

プラスチックの先端が発情の源である箇所を思い切り圧迫し、頭が破裂しそうなほどの幸福感を強制的に流し込んでいた。1秒ごとに頭と腰が蕩け落ちてはまた元に戻っているような錯覚。しかしそこまでしても、抑圧してきた気持ちが薄れはしない。


「ごめんなざぃ……っ♡ ぃ、いいこの、ふりしててっ……♡ ごめんなひゃぃ"ぃ……♡」


その場にいない相手に謝り倒すこの言葉さえも半分だけが本心で、もう半分は"そうした方が気持ちいい"という本能から来ていた。そして、少女にはその惨めな自覚がある。


ストイックな優等生。落伍した自慰中毒者。どちらにもなり切れず、罪悪感と快楽の狭間で揺れる日々がいつまで続くのか。時折訪れる漠然とした不安も、ポルチオへと伝える刺激でうやむやに消し去っていく。

何も考えないこと。決して向き合わないこと。仕事と快感の二つで感情を押し潰していくこと。それが、狂わされてしまった彼女がそれでも歩き続けるために選んだ道なのである。


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