なんでもよく似合うから

なんでもよく似合うから

黒庭勇者さん

「ゆ、勇者様、流石にこの露出度は恥ずかしいです……」


 とある街。

 新しい私服を用意しようということで、女の子の勇者様とふたりで買い物に出掛けました。そこまではよかったのですが、勇者様が選ぶ服装はどれも大胆なものが多いのです……


「水っち、ホットパンツは苦手なの? 結構普段の衣装もミニスカじゃん」

「あ、あれはロングブーツも履いているから大丈夫です。その、足の露出が多いのが気になってしまって……」


 青いホットパンツに、ブーツ。これはわかります。しかし、どうにも靴下が短いです。太ももとか、見えてしまうじゃないですか。

 ちょっと大胆な服装に、試着部屋で着替えたばかりの私は内股になってしまいます。


「いいじゃないいいじゃない。水っちの太もも、みっちりしてあたしは好きだよ?」

「ゆ、勇者様っ」


 わさわさと掌を動かす動作にどきっとしてしまいます。外ではそこまでしませんが、宿屋など、ふたりきりの場所ではボディタッチも多いのでちょっと、反応してしまいます。


「じゃあ、次これね」

「ま、まだあるんですね」

「とーぜん。上下あわせてコーデだもんっ」


 私だって女の子です。おしゃれはそれなりに意識しています。

 さっと着替えてみようとしてみます。

 ……服の丈が短いような?

 といいますか、肩も露出しているような。

 勢いで着てしまいましたが、鏡を見て確認してみます。白のオフショルダー。お胸がくっきりと目立ちます。お臍がきっちり見えています。


「ゆ、ゆゆ、勇者様、これは流石に、大胆すぎますっ!」


 抗議の声を届けるために、カーテンを開けて、問いかけます。ちょっと、これは私のキャラクターではない気がします。


「おお、いいじゃん、よく似合ってるー」


 勇者様はそんな私を見て満足そうです。


「うぅ、お腹が心もとないのですが……」

「太ってないから平気だよ。ぼん、きゅっ、ぽんだし」

「ふえっ」


 勇者様にお胸、お腹、お尻を指摘されて恥ずかしくなってしまいます。普段はそこまで身体の凹凸を見せない衣装を心がけているのですが、今の服装は別です。


「たわわなおっぱいに、くってなってるお腹周り……みちっとしたホットパンツ。うん、大人の女性っぽいんじゃん?」

「お、おとなのじょせい」

「道行く人も魅了できちゃうかも?」

「わ、私は失礼しますっ」


 イメチェンと勇者様は言ってましたが、流石に恥ずかしいです。元の服に着替えようとしたときでした。

 ……あっ。

 自分の手元から意匠がなくなっていることに気がつきました。そうです、脱いだ衣類は畳んで勇者様に渡したのでした。


「残念だけど、約束だからね」

「忘れてました……」


 新しい衣類のお金は全部勇者様が請け負う代わりに、今日一日はその服装で過ごすという約束。それがあるから、今日はこのまま過ごさないといけません。

 嫌ではありません。ただ、やっぱり恥ずかしいです。


「とにかく、このまま買っちゃおうね」

「うぅ……」


 恐る恐る試着部屋から出て会計を済ませます。その間の人の目はもう気にしないことにしました……




「お揃のピアス、してみよっ」

「ぴ、ピアスですか?」

「うん、駄目?」


 活発に歩く勇者様が提案します。

 しかし、ピアスに馴染みがない私は不安を感じてしまいます。


「耳に穴を空けたりして痛いって印象がありますが……」

「あー、あるある。けど、平気だよ。穴を空けたいタイプもあるから」

「そ、そうなんですか? 知りませんでした」

「だから、お臍にそういうタイプ浸けちゃお?」

「お、おへそのぴあすですか!?」


 なんていうか難易度がかなり上がった気がします。耳かと思ってた私は驚愕を覚えます。

 そんな私を気にせず、あっけらかんとした態度で勇者様はピアスをお求めになって、そしてお臍のピアスを購入しました。

 行動がとても早いです。


「じゃん、こんな感じっ」

「可愛らしいデザインですっ」


 キラキラしたアクセサリーにハートのチャームが付いたものです。勇者様には似合いそうですが私には……


「似合わなくないからね、水っちも」

「ふえっ」


 お腹を触られてピアスを装着させられます。


「あっ、勇者様、少しくすぐったい、です」

「これで完成っと。あたしも付けるね」


 ハートのチャームが私のお臍に付いてしまいました。くっきりとしたそのハートの模様になんだかどきどきしてしまいます。

 勇者様も同じものを付けてるから、カップルみたいです。


「ギャルコーデの水遣いのできあがりっ」

「に、似合ってますでしょうか」

「ばっちりっ、いいと思うよっ」

「あ、ありがとうございます」


 勇者様に案内されて大きな鏡の前に立ちます。さばさばしたコーデ。勇者様はギャルだったと聞きます。その言葉の意味はまだまだ理解できていませんが、それに近いコーデなのかもしれません。

 生足で、お臍が出ていて、お胸も目立つ。肩も露出している衣装ですが、不思議と淫らな雰囲気は感じません。

 どこかさっぱりした印象を感じさせます。

 なかなか、いいかもしれません。


「ありがとうございます、勇者様」

「へ、なにが?」

「なんだか色々試したくなってきましたから」

「そっか、よかった」


 勇者様と微笑みあいます。

 衣類で新しい見解が開けるのも楽しいです。これもひとつの冒険といえるのかもしれません。


「じゃあ、濃いめのメイクとか挑戦しよう!」

「変になりすぎなければ、お付き合いしますね」

「当然っ、可愛く盛っちゃうからっ」


 勇者様と過ごす平和な日常。こんな時間も素敵なものだと、強く実感できる一日でした。

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