どうかこの残酷な世界で笑ってくれ

どうかこの残酷な世界で笑ってくれ


IFローの海賊団の名前とか 捏造いっぱいだが許してくれ!!!


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世界には白と黒と赤しかなかった。

赤は私の血。白は降り注ぐ雪の色。黒はあなたの姿。


目の前の兄は珍しく…いや“久しく”も感情を隠しきれないようだった。私との会話を無意識に避けようとしているのか、無意味にガリガリと頭を片手で掻き毟っている。

けれどこの先の展開を変えることなどできない。兄にも私にも誰にも。兄が進めないのならば私がページをめくろう。…そう、あの時兄とはぐれ、ただ泣いていた私を海兵のセンゴクさんが拾ってくれたように。


「M・C(マリンコード)___ 01746…」


兄に銃口を向ける。出血によって銃を持つ手はみっともなく震えたが、最後の瞬間、外しはしないと確信している。


「『海軍本部』ラミ中佐… ワーテルファミリー船長ロー あなたがこの先生み出す惨劇を止めるため潜入していたの… 私は海兵よ」


気づかれないように、何でもないように頭で背にした宝箱を叩く。今の私にとっては何より大切な、正しく宝箱だ。なぜなら中には、ドフィがいるのだから。

後ろの箱からは物音ひとつしない。どうやら薬が効いているようだ。顔を見て告げる最後の言葉を言った後、ドフィに打ち込んだ弛緩剤が。しばらくすればなんともなかったように走ることもできるが、きっと今は身動き一つ、そして声を出すことすらできないだろう。医者としての腕は兄には到底かなわないが、私も優しいお医者さんであった両親の娘なんだとわずかに誇らしくなる。

___箱を閉めるときのサングラス越しの驚いた瞳を思い出す。すっかり信頼されてたんだなぁと喜びと罪悪感がないまぜになる。だからだろうか、欲張りにももう一声かけたくなってしまったのだ。


「嘘をついてごめんなさい… あなたに嫌われたくなかったから…!!!」


心に傷を負って、すべてを壊したいとこの海賊団にまでやってきた少年にとって、海兵はきっとヒーローにすらなれない。だってもうとっくに彼の悲劇は起こっているのだから。

だから嘘をついた。それも何度も。あんまり嘘をついちゃいけないってドフィに説いたのは私だ。だからせめて謝りたかった、一方的にでも。


「…!」


どうしてか、宝箱の中でドフィの目から涙がこぼれたのが分かった。

五感も大して優れてないし、見分色なんて習得できる様子すらなかったのに、なぜかそれははっきりそうだと確信する。…弟は泣き虫だと憎まれ口を叩いていたが、なるほど、兄弟揃ってそうらしい。少しだけ微笑ましいような、おかしな気持ちになる。


ザク、と雪を踏む音に正面に意識を向ける。そこには幽鬼のように顔をゆがませる兄がいた。…どんな罵倒を言われようと、絶対に銃を向ける意思は変えないように決意していた。唯一の肉親を裏切ったのは事実なのだから。


でも、その認識は甘すぎたことに、気づいてしまった。


「… どうして、おれに銃を向ける? ラミ」

「…え」


この期に及んで何かを問われるなど、考えもしなかった。そしてその質問があまりに空虚な響きをもって放たれたから、私は口からマヌケな音をこぼしていた。

そんな私にしょうがないなぁと幼い子供を見守るような暖かな眼差しを向けて兄が言葉を発する。




「だって… お前がおれに逆らう理由なんて、ないだろ ?」




____震えた


どうして、こいつは、お兄さまは、まるで私の意志があることを考えていないのだ?



思わず涙が流れそうになった。後ろにドフィがいなければ、みっともなく嘔吐していたかもしれない。どれほどに兄の言葉は私の精神をえぐった。


あに は…兄は。かつての私たちのような無辜の人々を殺して、私が何も感じないと思っていたのか?幼い子供を異常な冷たさで海賊団なんかに縛り付けていて、そんな中私だけ過度に優遇しておいて、本当になんの疑問も抱かず、笑ってただただ守られているだけの存在だと思っているのか!!!


そんなものは、人間ではない。そんな都合の良い存在は現実には存在しない。



「兄さま…」

「… ああ でもお前は海兵の奴らの思想に、おれの知らないところで触れちまったんだな」

「兄さま ッ!」



ガチャリ 銃口が向けられる。他ならぬ兄の手で。

ああ、覚悟していたはずなのに。こんな会話ひとつで、兄が全く分からなくなってしまった。動揺してしまっている、仮にも正義を背負う海兵が情けない。

でも、そんな出来損ないの海兵でもやり通さなきゃいけないことぐらいある。


「ねぇお願いがあるの」

「なんだ、ラミ」

「…いや、裏切った私が“お願い”なんてしないほうがいいか …だからこれは私が一方的に言うだけ…」


私への言葉すべてが異質な許容と甘さを伴っていて、本能的に甘えるような言葉をひっこめた。


「ドフィのことはもう…! 放っておいて!!!」

「…ああ、お前が連れていた子どもか 後で調べる手間が省けた」

「やっぱり覚えてすらいなかったのね」


あんな破滅的で、燃えるような世界への憎悪を宿した、今のあなたに似ていた子供なのに。


「なんであんな子供と何年も共にいたんだラミ あの子供になにかあるのか?」

「あなたが考えるような何かなんてないし、きっとあなたに理由は理解できないでしょうね …あの子は本当に何も無い、ただの“人間”よ


だから私を理由にあの子に干渉しないで あの子があなたのような狂気の申し子から得るものなんてない…!!!」


震える足に力を込めて立ち上がる。銃口は絶対にこの“バケモノ”から離しはしない。

強く、強く兄を睨みつける。憎んではいない、嫌ってもいない、ただ宝箱の中の少年への使命感が私を奮い立たせた。

私の眼差しを受けた兄は、一瞬、一人迷い込んだ子供のように不安げに瞳を揺らした。けれど次の瞬間には揺れる瞳も人らしい温度も消した目でぼそりと何かを呟いた。


「本当に 変わっちまったんだな ラミ」


その言葉は降る雪にかき消され、私の耳には届かなかったけれど。


それから何かを否定するように兄は頭を振った。雑念を消していくかのように。そして自虐的な笑みを浮かべる。

兄が引き金を引く力を強めたのがいやによくわかった。



「なんでおれが自分で救った家族を殺さなきゃいけねェんだろうな?」

「…私の命を救ってくれたことには感謝してる。それでも、引き金を引くわ。少なくとも今のあなたは医者ではないもの」

「ほう? オペオペの実を食った、世界で唯一お前を救えたおれが か」

「命を救うのも、殺すのも自分の手のひらの上で思い通りにしようとするなんて

そんなものは私が憧れた 尊く思った 医者ではない…!!!」



患者と寄り添い、愚直にも生きてほしいと思うのだ。

兄にはわからないだろう。誰よりすごい医者になると信じていた存在が、人を殺して自分に笑いかけたときの絶望など。救いたいと、生きてほしいと、願った子が私に笑いかけてくれた時の、世界のすべてを手に入れたような充足など。


「… そうか なら」


その視線は私を通り越して、かわいいかわいいお兄さまのラミを愛でていた。


「きれいなまま死んでくれ ラミ」

「断るわ …たとえもうあなたに、私の声が聞こえていなくても」




ドンッ !












____ああ、やっぱりあなたのほうがはやかった


馬鹿なお兄さま。酷いお兄さま。ここにはもうあなたの理想の兄妹なんていないのに。いるのは非道な海賊と、それを裏切った海兵だけ。最後まで、今の私の姿を見てくれなかった…。


とっくに大きくなった体が相応の重さを持って雪の上に打ち付けられる。ごめんねドフィ、こんなの聞かせちゃって。でもあなたの未来だけは守るから、許してほしい。



ねぇ、私本当は知ってるの、この世界がとっても残酷だってこと。


起った悲劇のすべては知らないけど、だってそうでしょう?

本当に優しい世界だったら、私きっとあの綺麗な白い街でお兄さまと一緒に幸せに暮らしてたはずだもの。お兄さまは名医になって、街の皆の命を救って笑う人になってた。ドフィは体を焼かれて、石を投げられずとも、心を手にして家族と笑っていられる。

…でも、そんな世界じゃなかった。私がフレバンスで、お兄さまのところで生きていたらドフィはきっとずっと暗いところでひとりぼっちだった。ドフィの苦しみを知らずに、安穏と兄と暮らしている世界なんて私は、少なくとも今の私は耐えられない。


現実はよっぽど残酷なのに、なのに二人は一人で現実に生きようとしてる。所詮妹であった私には理解できないが、兄とはそういう生き物なのかもしれない。


なら私は甘ったれた女として、せめてこの現実に夢ぐらい提唱しよう。




この残酷な世界で笑って、生きてくれ。ドフィ お兄さま。




私が止められなかったお兄さまはもう、止まれないかもしれないけど。…それだけが心残りだけど。

ドフィ あなたはきっと大丈夫。もうあなたを縛るものなんてないんだから。血にも、過去にも、悪心にも縛られず生きていい!どこへ行ったっていいの、天竜人としては見られなかった世界を見たとき、確かにあなたの瞳が輝いていたのを私は知っている。あなたが人に触れるとき、少し怯えて、傷つけないように優しく触れるのを知っている。


ドクドクと血が流れる。お兄さまが珍しく熱を持って語っていた『D』の血とやらだ。

兄には悪いが、私はあまり『D』の因縁に興味はない。最初は思うところもあった。ドフィとお兄さまが天敵だと知って引き離そうと、ドフィの手を引く私も『D』だったから。でも私たちは旅をした。苦しくて、楽しい長い長い旅を。終点がこんなことになったのは残念だけど、私たちはお互いに唯一無二の宝物のような関係を結べた。それは体に流れるこの“血”の因縁より、確かに暖かかった。


それに、あなたはもう人間だもの。友達を作ってあげることは、あんまりうまくいかなかったけど。いつか私と同じように、“血”を越えた友人すらできるかも。

罪の意識に苛まれても、生きて、大丈夫、生きてさえいれば罪は償えるし、やりたいこともいっぱいできるから。




生きて 笑って ドフィ 大丈夫 だって あなたは不出来な私の たったひとつの___












男は連れ帰った妹の死体を抱きしめた。そこにはもう何もないのに。

遠くで子供の泣き声が聞こえる。泣き慣れていない様子の、心臓が張り裂けるほどの悲痛な人間の叫び。

女の死に顔は薄い笑みだった。甘ったれた未来を想像して口角の上がった、優しい顔だった。

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