とりもぶが脳を焼かれるまで序章

とりもぶが脳を焼かれるまで序章


「便利屋68社長の陸八魔アルよ!大船に乗ったつもりでいなさい」


それは、とある日のこと。

トリニティの一学生である私は護衛を雇っていた。


トリニティの区画からちょっと離れた場所にあるお店での買い物。

普段であれば護衛を付けていくのに今日に限って家のものは別の要件で出かけている。

護衛なしの買い物。というのに、憧れがないわけではないけれど、それはそれ。


トリニティの学生を身代金目的で誘拐。などという話はよくあること。

だからこそ、すぐに対応できる護衛を外部から招かなければならなかった。


「……噂には聞いていたけれど」


「?どうかしたの?」


気安く話しかけてくるゲヘナの女。

相手は、私がトリニティの生徒だというのを意にも介さずに話しかけてくる。


「なんでもありません。依頼は、とある地区までの護衛、期間はーーーーー」


話している間に、彼女のことをみる。

身長160㎝。私よりもほんの……えぇ、ほんの少し高いくらいのはずだが、履いているブーツによるものか、それよりも大きく感じる。

胸は、……私よりも格段に大きい。ゲヘナのくせに。なまいきだ。


こんな生徒が、今、キヴォトスで、一番の勢力をもつなど、誰が信じられるだろうか。


「よし、依頼の締結完了ね。それじゃ、移動しましょう」


案内されるのは小さなバン。

そこにいるのは社員の……


「……ゲヘナの風紀委員?」


「あ、はい、よろしくおねがいします」


よくよく見れば、バンに書かれていたエンブレムも彼女の身に着けていたものではなく彼女たちのモノ。


「今ちょっとうちの子たちが動けないから、手を借りてるの」


そう、呆気からんという彼女は、そういうと、車の上に載って警戒を始める。

指名手配されてる、と聞いていたが。


「あー、少し前に解除されたんですよ。というか、トップが事実上彼女になってますし」


それはいいの?と聞くと、無軌道なゲヘナとしてみれば便利屋の行動はまだマシな方らしい。

彼女たちが起こす被害の多くは、たいていブラックマーケットや悪徳な依頼主への報復行為。


今回の依頼に関してもトリニティの生徒の護衛。

地区もゲヘナでないのならば風紀が動くこともないということで貸し出されたらしい。


「それに、依頼が終わったら……、楽しみもありますしね」


楽しみ?と、私が頭に疑問符を浮かべていると、警戒をしていた社長が車内に戻る。


「カヨコから連絡。予定ルートで抗争が始まったみたい」


「どうしますか?こっちのルートならバンで……」


少しばかり、悩んだ風な表情を見せる社長。


「……私と彼女だけで、行くわ。あなたは、そっちのルートで車で待機」


「へ!?あ、歩き、しかも抗争の中心を」


「大丈夫よ、ちゃんと守ってあげるし、あてもあるから」


そういうと、私の体は彼女の腕の中。

顔に柔らかな感触を押し当てられるのを感じながら、私は彼女とともに、車外へと飛び降りることになるのだった

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