とぅーびーこんてぃにゅーとう

とぅーびーこんてぃにゅーとう


ここは観光都市アビドス。

『天災』としか言えない不幸に襲われた不毛の砂漠は、拭いきれない風評を抱えながらも急速に復興…いや発展した。

その要とも言える温泉産業をメディアたちが見逃すはずもなく、今日も今日とてインタビュアーがとある施設にやって来る。

「失礼します!クロノススクールの報道部の者です!」

「温泉経営部のカスミ部長さんはいらっしゃいますか?先日お約束したインタビューの件で…」

ジャーナリストの言い慣れた前口上に反応して

こちらも聞き慣れているのか、受付の下からぴょこりと白い袖が飛び出した

「ああここにいる」

「うわ実物ちっちゃい⁉︎かわいい‼︎」

「ハーハッハッハ!ほめてもおんせんしかでないぞ!」

お世辞が3割本心7割ほどの子気味いい会話の応酬。双方慣れているのも相まって、初対面にも関わらず様式美とまで言えるかもしれないほどのやりとり

「喋り方も超キュート…はっ⁉︎もしかして後遺症でその発話になってるとか????申し訳ありません!デリカシーのない発g」

「いーいー、よいいんしょうをいだいてくれるたのだから!」

クロノスクール所属だけあってここで折れる記者ではないようで。もちろん反応が悪ければ撤退するプロ意識もあるのだろうが

「…かわいい上に寛大だなんて、さすが500人超の部員を率いる部長さんですね!」

「というわけでいくつかご質問してもよろしいですか?」

「ずぶといな!じゃんじゃんきたまえ!だいかんげーだぞ」

しかし、受付でそのまま話すというわけにはいかない

インタビュアーは利用客の紛失物を管理しているのであろう奥まった小部屋に招かれた。湯船に浸かりっぱなしだった持ち込みタオルや衣服なども保管されている部屋のため甘いような酸っぱいようななんとも言えない匂いが漂っている。

それでも砂糖温泉の時代に比べれば、ずっとまともになったのだろう。よく管理されているため、一定の期間が過ぎた紛失物の廃棄なども徹底されているようだ。

「ではお言葉に甘えて…なぜアビドスに残られたのでしょう?温泉開発部といえばゲヘナでも色々と名高い部活でしたのに母校への未練などはなかったのですか?」

「いあ?あんまり?おんせんがあるところがわたしたちのすみかだからな!それに…ちゃんとおんせんをうんよーするのもしてみたかったんだ」

よく言えば本能レベルでの行動、悪く言ってしまえば虫のような生態を調子よく語って行く。無論まとめる側の記者にとっても、それくらい明確な方がまとめやすく読みやすい記事が書けるのだが。


「なるほど?ではもう一つ…ズバリ復興中に一番大変だったことは?」

「それはわたしの?みんなの?」

「うーんそうですね…個人的なお話をお聞かせいただけると」

少し悩んだように小首をかしげる少女。その様を写真に収められたところで、フラッシュのように閃いたのか声を張り上げる

「うむ、やはりはつわだな!さいしょはぶいんとしかはなせなかたぞ!」

相槌を打ちながらもある程度の進行は決まっていたのか、ペンを走らせながら速やかに話を移した


「ご返答ありがとうございます。では次の質問です。何度もこんなことばかりお尋ねして申し訳ないのですが、自分の中毒症状を自覚された時どう思われましたか?」

「しょうじきおどろいたね…おんせんをかいはつするものはおんせんにかいはつされるかくごをもたなければいけないということをまなんだよ」

「なるほど??深いですね??」

よく理解ができないなりにキャッチーな発言をしっかりとメモするインタビュアー

使えそうな部分はとりあえず使うプロ根性を見せながらも、これ以上この話題を広げるのは自分には困難だと判断し…

とっておきの質問に移行する


「最後に一つ!」

「今後はどのような活動をしていくおつもりですか?」

「もちろんここでのかつどーをつづけていくつもりにきまっている!ごあいこよろしくたのむぞ‼︎」

「ナイス宣伝です!今日はありがとうございました!」

最後の質問までつつがなくインタビューは終わり、十分な収穫を得た記者は上機嫌で帰路についた。多少のやらかしはご愛嬌として…それを考慮しても客観的に見て良い仕事だというに十分な成果を生んだのだから当然とも言えるが。


それから少し時間が経ち

記者のいない部屋の中、小休憩を切り上げ

温泉を愛する少女は誰に向けた訳でもない言葉を紡ぐ。

「さて…そろそろつうぞうぎょうむにもどるとするか。いまはまだあびどすいがいのおんせんにかまけているひまはなさそうだしな」

いまはまだな!

───悪魔に眠る宝の地図が目覚める日を

『いまはまだ』誰も知らない

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