とある雨の日

とある雨の日




注意

・スレに出てたネタをお借りしました

・兄弟全員は出てない

・鰐上がめっちゃ体調不良+回想だけどちょい血が出てる

・鰐上の見ている夢は過去スレPART2にあったハンコックが誘拐されたSS(https://telegra.ph/%E3%82%80%E3%81%8B%E3%81%88%E3%81%AB%E3%81%8D%E3%81%A6-%E3%81%A8-%E3%82%86%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%82%89-11-29)に基づいています

・キャラの年齢とかはフィーリングでお願いします

・キャラエミュ難しいね…




「はぁ……はぁ……ッ、うう…」

 顔と左手が酷く熱い。

 妹を誘拐した屑野郎と格闘した時に切られた顔から溢れた血を肩で雑に拭って、無事な方の手で泣き疲れて眠ってしまった妹を抱え直す。幼い頬に残る涙を拭おうとして、もうそれが一生出来なくなってしまったことに思い至った。

 血を、流しすぎたな。

 回らなくなってきた頭で考える。病院が先か、警察が先か。ああでもこのザマではもはや何も出来ない。

 足から力が抜ける。

 目の前が歪んで、意識が途切れた。



[非常に強い台風◯号は勢力を強めながら明日昼過ぎにかけて上陸する見通しです───]

 淡々とした声の気象予報士が示す台風の予想進路。そのど真ん中には自分達が住んでる地域があった。カウンターキッチン越しにリビングのテレビ画面を確認してミホークは眉を寄せる。とある小雨が降る休日の昼前の七武海家は静かだった。

 台風が来るとなると自分がやっている家庭菜園や山の方に住んでいる親戚が心配だ。だがしかし何よりも気掛かりなのは雨が嫌いな兄・クロコダイルの事である。


 今朝。なかなか起きてこないクロコダイルを起こしにいったバギーが慌てて階段を駆け降りてきてモリアに拳骨を喰らったことを思い出す。クロコダイルは体質なのか雨や湿気でよく体調を崩す。それに加えて腕と顔にある大きな傷跡も痛むらしく、梅雨と台風の時期はいつも以上に不機嫌だ。

 しかし地獄の底から響くような声で唸っているならまだしも、言葉を返す気力すらない時は今日のように横になっていることしかできないらしい。風邪すら引いたことがないミホークには想像もつかないが、普段から良いとは言えない顔から更に血の気をひかせてぐったりとベッドに沈む兄を見ていると、相当キツイのは確かなのだろう。


 頭に響くといけないからという理由で、この家の騒音のおよそ9割を担っている年子トリオは長兄モリアからの厳命によりリビングで大人しくしている。モリアとくまはウィーブルを連れて備蓄品の確認と買い出し、ジンベエは地元の消防団の台風対策会議に出席するとのことで家を空けており、クロコダイルがダウンしている今、家で一番年長である自分がしっかりしなければならない状況だ。


 火を止めて小鍋をコンロからおろし、完成したトマトリゾットを器に移す。鎮痛剤や水、冷却シートを用意してトレイに並べていると、自分のつけているエプロンの端が弱い力で引かれた。

「わらわたちも行っていい?」

「じゃまはしない」

 ハンコックとローが心配そうな顔で見上げてくる。面倒だという気持ちも正直あるが、以前長兄に「お前はもうちょい音立てて動け。気配を消すな。心臓に悪ィ」と苦言を呈されたことを思い出して頷く。頭痛持ちのそばで騒がれては敵わないが、この2人ならその心配もないだろう。ハンコックはクロコダイルが体調を崩すことに対して敏感なので会わせて落ち着かせるのも良いかもしれない。

「…ドアを開けるのを手伝ってくれ」

そう答えると末子2人の目が嬉しそうに輝いた。



「兄さま、入るぞ」

 ドアをノックしても答えがないのは分かりきっているので、ハンコックが声をかけて部屋の扉を開ける。除湿が効いた部屋にするりと入った妹がベットに横たわるクロコダイルに駆け寄った。布団の外に投げ出された手首から先を欠損した左手を小さな両手で握って兄を覗き込む彼女は昔のこともあり酷く心配そうだった。

「兄さま…?」

「ぅ…」

 小さな呻き声。顔を歪めて魘されている兄の様子を見て妹が大きな瞳に涙を浮かべてこちらを振り仰ぐ。ベッド横にある机に持っていたトレイを置いて肩を軽く揺さぶった。

「おい、クロコダイル」

「っ……うぅ…?」

 爬虫類じみた目が薄く開かれる。ふらふらと彷徨った視線が、己の左手を握りしめる妹を見つけて安堵したように細まった。持ち上がった右手がそっとハンコックの涙を拭い、安心させるように頭を撫でる。その動作で彼がどんな悪夢を見ていたか察することはできたが、今そこを追求するのは無意味である。

「魘されていたから起こしたぞ。軽食と薬を持ってきたが食べられるか」

「あァ…」

「あにさま、体温はかるぞ」

「ん…」

 ハンコックの手を借りてベッドの上に身を起こしたクロコダイルに、最近読んだ本の影響で医者の真似事にハマっている末子が救急箱から出してきたのか体温計を差し出す。大人しく受け取って脇に挟む兄を横目に、空のスポーツドリンクのボトルを回収してぬるくなっていた氷枕を新しいものに変えた。

「37度5分。びねつだ」

 電子音が鳴った体温計を見て最もらしい顔でローが呟く。まあ、とハンコックが心配そうな声を上げた。

「のどのいたみは」

「ねェよ。いつものやつだ」

「気圧とつかれが出たんだな。おだいじに」

「クハ、生意気言いやがる」

 ローの診断を聞いて掠れた声で笑うクロコダイルに大きめのスプーンで掬ったリゾットを差し出す。

「ア?なんだよ…」

「布団の上だと片手では食べにくいだろう」

「いらねェ…自分で出来る」

 兄たちならともかく流石に一番歳の近い弟にそれをされるのはプライドが許さないらしく、じっとりした目が睨んできた。しかし薬を飲むためには何か胃に入れなければならない。互いに引くつもりがない中、スプーンを構えるこちらの手をハンコックが取った。

「わらわがやる。ほら、兄様」

「ぐぅ……」

 妹に言われて喉の奥で低く呻いた兄が大きくため息をついて大人しく口を開ける。為されるがままのクロコダイルと世話を焼く側になることができて嬉しそうなハンコック、彼らの横で持ってきていたノートを広げるローに声をかけた。

「何かあったらLINEしろ。俺は戻る」

「わらわは残る。ちゃんと眠るまで見ておるつもりじゃ」

「けいかかんさつする」

「そうか」

 静かにするんだぞ、と言い置いて回収したゴミを纏める。兄に配慮したのか小さな声で返事をする妹と弟の声を背に、ミホークは部屋の扉を閉めた。



「ミホちゃん、クロちゃんの様子は?」

「とりあえず身体を起こすことは出来る。今軽食と薬を持って行ったからマシにはなるだろう」

「ハンコックとローが居ねェが」

「心配だから食べ終わって寝るまで見ているそうだ」

「フッフッフ、あの2人はクロコダイルのことが好きだなァ」

「…そうだな」

 戻ってくるや否や、やっていたゲームや本を放って話しかけてきた年子3人を適当にあしらいながら洗い物を始める。この3人はしょっちゅう兄を怒らせて居るからか素直に見舞いにはいけないようだが、同様に心配して居るのだ。

 雨が窓を叩く音がする。これから更に天気は崩れ、クロコダイルの体調も悪化するだろう。


 それでもせめて。


 彼が1人で苦しむことがないようにと願った。

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