とある賞金稼ぎの不運5

とある賞金稼ぎの不運5


突如船内から消えた、麦わらの一味の“歌姫”ウタ。

彼女を捕らえているのは、麦わらのルフィの仇敵、海賊ブリード。

彼女を救いにブリードのいる島にやって来た麦わらの一味の10人は、今…


「この…邪魔すんじゃねェ!!」

グアアァ!!


ウタを目前にして、島の巨獣達を相手に苦戦していた。


「クソッ!コイツらしぶてェぞ!」

ウタを助けに行きたい麦わらの一味ではあったが、それを阻む島の巨獣達の実力は高い。

巨獣故のタフネスに加え、今彼らにはウタをルフィ達に渡したくない理由があるのだ。

それは…

『何度も言うが、お前達がそこにいる娘を奪われたら、俺様はお前達の子供を殺す。あと、麦わらの一味を1人でもそこから逃した場合も同様だ』

グルルル…!

彼らの子供が、ブリードによって囚われているからである。

「チクショウ!あの野郎をぶっ飛ばせりゃ、このケダモノ共も大人しくできるのに!」

「頼む皆!おれ達がお前達の子供も助けるから、一旦ウタを…」 

なんとかチョッパーが、巨獣達を落ち着かせようとするも…

パオォ!!

ドガーーン!!

「くっ…!ダメだ!聞いてくれない!“あの子達まで失うわけにはいかない”って…!」

「ということは既に、この獣達は自分の子を…!」

「…許せないわ」

既に何匹か子を失っている巨獣達は、チョッパーの言に耳など貸さない。早く彼らを皆殺しにして、自分達の子を救いたいのである。

「っ!くっそぉ…!」

子を想う親の愛は偉大…。

その猛威によって、ルフィ達はウタに少しも近づけない。

「んー!んんーっ!」

肝心のウタは、今ルフィ達がいる天井の上から、檻の中にて、自分を助けに来て傷付く彼らを見下ろしている。

(歌さえ歌えたら…!)

口には猿轡を装着され、歌を歌えない。

首にはブリードのペトペトの実の首輪を装着され、勝手な行動は取れないよう命じられている。

そもそも、海楼石の手錠をつけられている時点で、今のウタなどただの一般市民も同然なのだが…。

(誰か助けて!このまま私が皆に助けられても、島の巨獣達の子供が殺されちゃう!)

現状、ブリードは映像電伝虫を通して、自分達を監視している。つまりこの場にはおらず、ルフィ達ではウタまでなら助けられても、ブリードの側にいる巨獣の子供達までは救えないのだ。

…自分のせいで誰かが死ぬなど、とても耐えられたものではない。それがたとえ、言葉の通じぬ獣の子であったとしても…。

歌を歌えぬウタは、檻の中から助けを待ち侘びるーー。


数十分後、砂浜にて…

「やれやれ、やっと着いたぜ。…この気配、随分激しい戦闘が行われているな」

怪しげな風貌の男が、今ルフィ達がいる島に上陸して来た。

この者は“億狩り”の二つ名を持つ賞金稼ぎであり、実はウタをルフィ達の元から攫った張本人でもある。

それはブリードからの依頼であったのだが、あろうことか彼は“億狩り”を裏切って海に落とした。

その後“億狩り”は何の因果か麦わらの一味に拾われ手当てされ、この島の情報を彼らに伝えたのだが…

「それだけでケジメになるわけもなし。今行くぜ、麦わらの一味!」


そうして、今ルフィ達と巨獣達が争っている建物に着いた“億狩り”。こそっと、中の様子を窺ってみると…

(うわ、スッゲ…)

「ゼェ…ゼェ…」

グル…ガルル…

中は、気絶した巨獣達の身体で死屍累々。立っているのは、麦わらの一味10人と、巨獣のボス達のみであった。

(双方ズタボロだな…。しかし、何故“四皇”ともあろう者が獣如きに…)

よく見れば天井の上には檻があり、中にはウタがいるようであった。

さっさとケリをつけて、ウタを助け出せば良いのにーーと“億狩り”が考えていると、奥の映像電伝虫からその答えが聞こえてきた。

『ペトトト…おいおい、しっかりしろよ?お前達が頑張らないと、ここにいるお前達の子供は助からないぜ?』

それを聞いて、巨獣達は必死の形相になりルフィ達に襲いかかった。

(アレは俺を撃ちやがったクソ野郎!なるほど、ヤツが巨獣のガキを人質にして、巨獣共を操ってんのか…)

「んにゃろォ!!」

よく見れば、ルフィ達の顔はそんな親の巨獣達を攻撃する度に、苦しそうな表情を浮かべていた。

(見ず知らずの俺だけでなく、獣にまで気を遣うってのか?フン、どんだけお人好しなんだよ…)

さて、ここからどう動くべきかと“億狩り”は悩んだ。

このまま自分が麦わらの一味に加勢しウタを助けたとしても、ブリードは巨獣の子供達を殺しこの島からトンズラするだろう。

逆に、自分がブリードを倒しに行くのはどうか?曲がりなりにも“億狩り”、腕っ節には自信がある。

(…いや、あのクソ野郎のことだ。万が一、麦わらが自分のトコに来た時のことを考え、何か細工をしている可能性もある…)

つまり理想は、

①ウタを助けてブリードの細工を潰す

②ブリードを倒して巨獣の子供達を救う

…の2つなのだ。

(俺の“見聞色”なら、あの野郎が隠れている場所を割り出すことも可能だろうが…)

しかしブリードがこの地におらず、別の場所にいる以上、②は放棄せざるを得ず…。

「仕方ない。可哀想だが、あの巨獣達にゃ泣いてもらうか…」

今動けるのは自分1人、やれることは1つだけと割り切り、“億狩り”はウタ救出に向けて動き出そうとした。

すると…


くいくい

「ムー」


「!?なんだコイツ…」

小さな人形が、彼のズボンの裾をくいくいと引っ張った。

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