とある賞金稼ぎの不運2
アレから1時間ほど経過したか…
「なぁ、早く思い出してくれよ!ウタが危ねェかもしれねぇんだ!」
グェッ!だから振り回すんじゃねぇよ!
俺は“億狩り”、生け捕り専門の賞金稼ぎだ。
数時間前、俺は四皇麦わらの船から“歌姫”ウタを攫い、それを依頼主に送り届けたところ裏切られ、海に突き落とされた。
そしたら因果なもので、俺は麦わらの船に引き上げられてな。今は記憶喪失を装い、チマチマ慎重に情報を小出しにしながら、例のクソ依頼主がいそうなトコに連中を案内してるんだ。
何故かって?そりゃ俺を騙し海に落としたケジメをつけさせるためよ。尤も、俺がウタを攫った張本人だとバレたら麦わらに殺されるかもしれねぇから、その辺は絶対にバラせねェがな。
にしても、何でコイツらはウタ1人のためにこんなに必死なんだ?そりゃあまぁ、懸賞金的に何か重要な秘密があるのかもしれねぇが…。
気になった俺は島への移動中に、麦わらの一味の連中にウタについて聞いてみた。
するとびっくり、あの女は四皇“赤髪”の娘なのだという。しかも、麦わらの幼馴染ときた。…とんでもねェヤツを攫っちまったよ、俺ァよ…。
まぁその後聞かされた、ウタが10年以上玩具として皆から忘れられていた、なんて話を聞いた時にゃ、思わず同情しちまったがね。
親からも友からも忘れられ、ずっと声も上げられずに小せェ身体で頑張っていたんだと…。
…ガキの頃に海賊に故郷を滅ぼされた身としちゃあ、複雑な心境になるぜ。俺ァ海賊が嫌いだから、賞金稼ぎになった。
男だろうが女だろうがガキだろうが、海賊であるからには全員とっ捕まえて牢獄にブチ込んでやるのが、俺の復讐だった。命を奪わねェのは、連中と同格に成り下がらねェためだ。
だが…
「あいつは、ずっと孤独だったんだ。だから今度は忘れない、絶対離れないって…」ギリッ…
……誰かから大切な者を奪うという点においちゃ、俺も海賊みたいなモンだったてのか…。
………
だんだんと思い出してきました。この先の海には、無人島が幾つかあります。もし俺が人攫いなら、そのいずれかに身を潜めますね。
「ホントか!?じゃ、じゃあ、その中で一番怪しそうな場所は…」
…強いて挙げるなら、1番奥の島ですかね。危険な野獣が多数住み着いていますし、普通な誰も近寄りませんし…。
「そ、そうかありがとう!それじゃ、そこまで案内をーー」
…生憎、俺も行きたい場所を思い出しましてね。貴方達に同行することはできません。
「え!?そ、そんなーー」
近くの島に寄ってください。地図くらいなら買ってきて、お譲りしますよ。
「……わかった。ありがとうな、溺れてたオッサン!」
その呼び方はやめてくれ…。
そんなわけで俺は近くの島に着き、地図を買ってそれを譲り、麦わらと分かれた。
さて、俺も探し物をしに戻るとしよう。俺がアイツに海に突き落とされた、あの場所にーー。