とある賞金稼ぎの不運

とある賞金稼ぎの不運


俺は“億狩り”の異名を持つ賞金稼ぎ。この道10年、獲物はいずれも生け捕りにしてきた男だ。

悪魔の実は食ってねぇが、気配を消すのが得意でな。それで相手の隙を窺い、催眠ガスをズドン!それで眠ったヤツを1人か2人攫うのが、俺のやり方だ。

命あっての物種、腕に自信があっても自惚れるわけにゃあいかねぇからな。

そんな感じで億越えの賞金首を何人も捕らえちゃ海軍に売り渡してたから、日頃のお礼にってことで海楼石の手錠を貰ったぜ。

これなら、能力者狩りが数段楽になる。よし、じゃあ次の獲物はなんらかの能力者にーーって、ん?


あの野郎…俺がプロだからって、無茶を言いやがるぜ。

まさか、新たな四皇麦わらのクルーを攫って来いというとは…。まぁいい、万が一の時ァ、コネでもなんでも使って海軍に守って貰うぜ。

そんなわけで、小型潜水艇を使い麦わらの船の近くに来たわけだが…この気配、もしかして全員寝てる?

本当なら夜まで付かず離れずで尾行するつもりだったが、こりゃいける?まあ、念のため催眠ガス(超強力)をズドンっと。

ガスマスクもつけて、いざ…。


やれやれ、まさか夜を待たずして乗り込めるとは…。船長麦わらに海賊狩り、黒足、長鼻、泥棒猫、悪魔の子、変態…億越えが目白押しだが、アイツが指名していたのはコイツだ。

“歌姫”のウタ。何故かは知らんが、億越えの賞金が首にかかっている小娘…。

「る…ふぃ…」

…幸せそうに寝ているな。ま、起きたら地獄が待っているだろうから、せいぜい今のうちに良い夢を見てろ。

恨むなら、海賊の身に堕ちた自分自身を恨め。

こうして俺は、ウタに口輪、海楼石の手錠、それとアイツから貰った首輪を付けて、さらに袋詰めにして船を去った。

慎重過ぎやしないかって?馬鹿野郎、海賊相手に慎重過ぎて困ることがあるか!


にしても、四皇の船からクルーを攫ったとなると俺の名もまた上がるな…。イヤイヤ、面倒だから海軍に捕まえたことにして貰うか…。

にしても、四皇麦わらってのは相当甘ェ男らしい。今回ウタとかいう小娘の捕獲を頼んだアイツだって、麦わらと戦って敗れたことがあるらしい。

そんな野郎を生かして見逃すから、負け犬がつけ上がってこんな事態になるんだよ、若き四皇さんよ。

ま、いい勉強にゃなったろう。授業料は、お前さんの仲間の身柄だがな…。


そんなこんなで、俺はアイツとの合流場所に着いた。今回の売り渡し先は海軍じゃないが、同じ額を払って貰えるならどこでもいい。

「んっ!?むー!むぅー!」ジタバタ

ん、起きたのか?じゃまた眠っとけ(催眠ガスブシュー!)。

「……」

ふぅ、海賊の生け捕りとなると毎回気が抜けねぇぜ。お?

「ペトトト…よくやった。その袋に入れてあんのが、ウタで間違いないんだな?」

依頼主のご到着だ。

ああ、間違いない。今は眠らせてあるよ。

「フッ、流石は“億狩り”、見事だな。…これで、念願の麦わらへの報復が叶う!この女は徹底的に痛め付け、見せしめにしてやる…!ヤツらが助けに来る頃には、もう手遅れ…」

そんなことはどうでもいい。さっさと報酬を寄越せ。

俺は依頼主に近づき、手を翳して報酬を催促する。…コイツが小娘をどうしようが構わねェが、報酬の未払いだけは許せねぇ。

ましてや今回は、四皇からクルーを奪うという大役を果たしたわけで…

「わかったわかった、ホラ、これが貴様への報酬だ…」


バァンッ!


…!ガフッ!?

腹に生じた激痛と灼熱感で、俺は撃たれたと理解した。接近し過ぎて、対応が間に合わなかっ…

「ペトトト…この女さえ手に入ったならば、貴様など用済み。このままくたばって、永遠に口を閉じているんだな!!」

ドガッ! ドボンッ!


…畜生、海に落とされた。

あの野郎、よくも俺を…!

このまま死んでなるものか!…という思いとは裏腹に、俺の身体は沈んでいった。銃弾の当たりどころが悪かったらしい、クソめ!!

ゴボッ…!ちく…しょ…!!

そうして俺の意識は、暗い海底の闇の中に消えた。


「…イ、……ろ!」

ん、なんだ?誰の声だ?俺は確か、撃たれて海に…。もしかして、誰かの船に引き上げられた?

それなら感謝しねぇと…って…


ぎゃああああッ!!麦わらァァァ!!?


「あ、目ェ覚ました」

なんてこった!よりにもよって例の四皇の船に引き上げられたのか、俺は!?

「オメー、なんで海に沈んでたんだ?」

さ、さぁ…なんででしょうね…。

言えるわけあるかバッキャロー!!テメェんトコのクルー攫って、その依頼主に裏切られたからだなんて!!

「銃創もあったし、誰かに殺されかけたんじゃねぇか?」

…よく、覚えてません。俺自身の名前も思い出せないですし…。

ここは、“記憶喪失になった哀れな遭難者”ということでやっていく!名前なんて言えるわけがねぇ!

「そっかー、困ったなー。なんかウタまで気が付いたらいねぇしよ…」

そりゃ、俺が攫ったんだからな…。

「誰かに攫われたんだとしたら大変よ!急いで探さなくちゃ!」

「だがどうすんだ?手掛かりな何もねェぞ?」

「しょうがねェから、コイツに案内して貰おう!」

…はい?

「ちょっと待てルフィ、コイツは今記憶喪失で…」

「んなモン、この辺の島を見てりゃ思い出すだろ!ホラ、なんか思い出してくれよ!仲間がピンチかもしれねェんだ!!」ブンブンブン

グェ!ちょっ…痛い痛い!!

そんな肩を掴んでブンブンしたところで、記憶喪失は治んねェぞ!?俺は仮病だけど…!

…だがまぁ、あの野郎に利用されたのは素直に悔しいし、それとなくヤツがいそうなトコに案内してやるか…。

と、とりあえず、どこかの島に立ち寄ってください…。

まずは位置情報を整理しなくちゃいけねぇからな。

「よしわかった!野郎共!近くの町に全速前進!!」


…こうして俺は、四皇麦わらの下でウタ探しの案内人を務めることになった。

さて…いつ逃げるか、今のうちに考えとかなきゃな…。


















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