とある誰かの独白
とある何者かが思索に沈む
見知った、あるいは見知らぬ少女の深層で
…
……
………
自分は本来エネミーとなるはずだった
胎児に宿り、目に映るもの全てを破壊するためだけの、本能の塊として生きる筈だった命だ
それがどういうわけか、今こうして姉妹とも言えるアイツの中でぼんやり午睡を決め込んでいる
全く奇妙な話だ
これまで「黒月眼」を宿したいかなる存在も、このような事は無かっただろう
自分はただの本能の化身だ
胎児のアイツに宿った後潜在化したのは、胎児の状態でエネミー化すれば母体ごと周囲を破壊してしまうから
あくまで単なる生存戦略に過ぎなかった
それがどういうわけだろうな
アイツの中で、アイツの見る世界を見て、自分の中に本能以外の何かが産まれた
度々怪我をしそうになる度、無意識領域から黒月を使って脅威を排除してやった
取るに足らない孤児を見て悲しむアイツのために孤児を排除してやろうと思ったこともある
人間はそれを心というのかもしれない
オレはいつの間にかアイツに情が湧いていた
……きっとそれは、人間には理解できない人外の情なのだろうが
アイツに異能が初めて発現した時、忘我状態に陥って院長とかいうのを殺した
それからアイツは自分の異能を憎み、怯えるようになった
院長を殺したこと自体は構わない
問題はそれからアイツの心が重く閉ざされるようになったということだ
自ら死を選ぼうとしたことさえあった
最もそれはオレが黒月で阻止したが…
徹底的に黒月を警戒し、異能を使う時も常におっかなびっくり
祈るように眼帯を解いて、「頼むから誰も殺さないで」と願いながら黒月を放つ
「黒月眼」はアイツの異能だ
アイツが生きる限りこれを切り離すことは出来ない
……つまりそのままではアイツは一生を黒月に怯え続けながら生きることになる
それでは駄目だ
まるで駄目だ
オレはアイツに、黒月を制御するためのレッスンをしてやることにした
「プログラム」と「破壊本能」
これらを修め、心領結界を習得するほどに異能を制御することが出来れば、
アイツは一生黒月に悩まされることは無くなるだろう
…………あるいは破壊本能に飲まれ、今度こそ黒月のエネミーとなるかだ
アイツがこれからどう転ぶのか
全てを捨てて破壊の権化となるのか
それとも今の自分のまま、忌むべき異能を服従させて生きるのか
それは実のところ誰にもわからない
オレにも
アイツにも
オレが大事なのはアイツだけだ
アイツが自身の異能に苦しまずに済むなら…誰が傷つこうと、傷つくまいと
……………オレはどちらでもいい