とある花売りの独白③

とある花売りの独白③



!!注意!!


※モブオリキャラ視点です

※エロはないけど精神的にエグい描写あり

※あえてキャラ名や団体名は伏せていますが読んでいくとわかるという仕組みです



















それから数ヶ月が経過しました。予測していた通り体調に異変が起こり、私はお医者様のもとに行きました。するとめでたく望みが叶ったことを知らされます。

お金も労力もかかるという現実的な厳しさなど、その時は微塵も頭にありませんでした。あったのは愛する男の血を引く生命を宿した女としての喜びのみ。私は何の苦悩もなく花畑を駆け抜ける少女のような心境でした。


彼には何と説明するのか。その筋書きは予め決めてありました。事が判明したと同時に、体調不良という名目でお店に暇を出して二度と彼には会わないつもりでした(貯金はそれなりにありましたし、元々裁縫や手芸が得意なのでお針子としての仕事をしていくつもりだったのです)。

彼はこの北の海から旅立ってしまう海賊なのですから、下手に未練を残してはこちらが辛くなるだけです。


ところが、私の筋書きは違う形で成就しました。実は……上述した数ヶ月間のうちに、彼の訪問がぱたりと途絶えたのです。海賊団の他の方は変わらず『花売り』と遊びに来たのですが、彼だけが姿を見せなくなりました。(例外として、ボスの弟とされるあの男性はだいぶ前から来店しなくなりましたが)海賊団の方の相手をした、同僚に聞いたところ『新しい恋人が出来た』とのことでした。


……正直、わかっていました。彼ほどの魅力的なジェントルマンを、女性が放っておくはずがない。そして彼もまた、溢れんばかりの男性的活力を発散させるため、すぐにまた別の女を探す必要があったのです。


別れは既に決めていたというのに、彼の方から音沙汰がなくなるという現実に私は酷く打ちのめされました。恋した男性に飽きられ、求められなくなるというのは女性ならば相当のショックでしょう。

ともあれ、私はもうこの商売を出来る身体でなくなったので、予定通り退職しなければなりません。支配人にその旨を申し出ると非常に残念がられましたが、私の身体の状態を考えると受け入れざえるを得なかったようです。


こうして私は職を辞めました。二週間ほど休養しながらゆったりと過ごしましたが、肝心のメンタルの方は絶望と寂しさ、虚しさで占められていました。何度私はお腹を撫でながら『自分は一人じゃない』と言い聞かせたことでしょう。


しかし、私の不運は容赦なく続きました。


ある日の夕方、買い物のため街に出掛けました。少し空が雨模様だったので早足で家を目指していたところ……彼が別の女性と歩いているのを偶然見てしまったのです。


隣にいたその女性……私は誰なのか知っています。この界隈で人気のクラブで働いている踊り子です。妖精みたいな愛らしさを帯びた美貌と、常に物欲しげな目を持ち、男性客から絶大な人気を誇っているそうです。けれども、実際に彼女のお眼鏡に叶った男は数少ないと専らの評判でした。


彼は……彼女が認めたその『数少ない男』の中に入ったのです。二人はとてもお似合いの美男美女カップルで、彼女は甘えるように彼の腕に自分の腕を回していました。この間まで、私が抱かれていたその腕に……


これがトドメとなり、私の心は粉々に砕け散りました。お腹を大事にしなければならないのも忘れ、夢中で耳障りな雑音が飛び交う街を駆け抜けました。


そして……自宅に帰るなりベッドに突っ伏して散々泣き晴らしました。


それからというもの、悲しみに暮れる日が続きました。その間は何もかもが生気のない鉛色に映りました。悪阻の酷さも相まって身重でも働ける職場を探す元気もなく、徐々に引きこもりがちになり、溜めていた貯金で食いつないでいました。


とある黄昏時、私は久々に何をするでもなく外の空気が吸いたくなりました。自宅近くの小さな公園に行き、ベンチに腰を下ろし無心に空を見上げていました。さすがにこの時間帯には子供達はいなかったので、私は静かな空間の中で寛ぐことが出来ました。


しばらく涼しい外気に吹かれるままにしているうちに、向こうから誰かがやって来るのが見えました。暗くて輪郭がぼやけていましたが、その人もまたベンチで休むのだと思って気にせずにいました。






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