とある花売りの独白①
!!注意!!
※モブオリキャラ視点です
※微エロあります
※あえてキャラ名や団体名は伏せていますが読んでいくとわかるという仕組みです
ここは北の海の某所。私はとある『花屋』に勤めている女です。その店は高級で『花屋』と言えどもそれなりに品格も備え、働いている女性も粒揃いでした。
自分で言うのもなんですが……私自身もルックスは上質な方で『そっちのテクニック』にも自信がありました。(もちろん、影で多大な努力をしており自分磨きは欠かしたことがありません)
そのせいか指名最多の看板『花売り』としてそこそこ名を挙げていました。うちのお店にやってくるお客はビジネスで成功したお金持ちや闇社会の大物ばかりでしたが、それがいつ頃だったか……地元で有名な海賊団の方々がお客として通ってくるようになり、彼等が拠点を移す日が来るまで半ば御用達となったのです。
余りに地元で名の知れた方々なので詳細は伏せておきますが、様々な年齢層の人で構成されていました。下は10代半ばから上は50代まで……大所帯の家族といったところです。(女性のメンバーもいるそうですが、さすがに来店はされませんでした)
海賊団のボスは金髪で大柄で少し怖い雰囲気を纏っていましたが、会話すると話し上手の素敵な殿方で、私はまず最初に彼に抱かれました。地元の裏社会を仕切る大物ということでいつになく緊張していましたが、痛みはほとんど感じず気持ちのいい営みに終わりました。その上彼は私の容姿やテクニックを褒めてくれました。
後日、ボスからの評判が上々だったためか他のメンバーの方からも指名を受け、順を追って相手を致しました。ボスと近しい方々から順に枕を交わしました。ただ一人を覗いて・・・
その殿方はボスの弟とのことです。特殊な事情で喋ることの出来ない人で、彼は私のサービスを受けることを拒否しました。それだけではありません。別の日に仲間の付き合いで来店はしたものの『花売り』とは最後まで事に及ばず、お酒の席だけで済ませたとか。
それ以外の海賊団の方とは一通り交わりました。どの方もある程度は女性慣れしており、ボス同様私の身体やテクニックを褒め、そしてお代金も弾んでくれました。さすが、裏社会を仕切る男性達はその辺のゴロツキとは身体も財力も一味違います。
それ以来、この海賊団のご一行は私達の『花屋』の常連となりました。
私以外の『花売り』を選ぶ日もあれば、私を指名する日もありました。とにかく自分の存在が認められ賛美され、お店も潤うといういいこと尽くしでした。
そんな中、私はとある男性が気になり出しました。
その方は……やはり名前は伏せますが、海賊団の中でひときわダンディなジェントルマンでした。精悍な体を高級スーツに包み、艶やかな黒髪を整髪料で綺麗に整え、香りの良いお洒落な煙草を吸っておられます。
その方とも寝ましたが、彼はその……とても『上手』だったのです。正直に言うのなら、ボス以上に素晴らしいテクニックをお持ちでした。女性の感じやすい部位や喜ぶ前戯を熟知しており、恥ずかしながら私は何度も昇天させられました。しかも肉体面のみならず、終わった後のアフターケアやピロートークも素敵なものでした。どこまで本心かわかりませんが、乙女心をくすぐる言葉や幸せを感じさせる愛撫を私に与えてくれました。これではどちらがお客かわかったものではありません。
そして何より印象に残っているのが、瞳です。サングラスの下に秘められていたのは、美しい琥珀色の瞳でした。情事の最中はサングラスを外していたので、その瞳を見つめながら彼と共に甘美な陶酔に浸りました。
あんなにもお客様に対して、めくるめくひと時を味わったことはありませんでした。
彼は足繫くお店に通っては私を指名してくれました。他のメンバーから指名される日もありましたが、私の心は彼に夢中でした。その海賊団の方々も、今までのお客も……全てが動いて喋るだけの人形に見えるほどに。
そして会う度に高価な花束やアクセサリーをプレゼントしてくれました。私はそれら一つ一つを大切に仕舞って愛でました。品物よりも彼の紳士らしい心遣いが嬉しかったのです。
こうして日に日に彼への思いは募っていきます。
出来るならプライベートで会いたい、デートもしたい…彼に恋人として扱われたい。しかし、彼はあくまでも『花屋』のお客様です。いわば仕事の合間の囁かな息抜き。彼からの個人的なアプローチがない限り、自分からは動くまいと一線は引いていました。
悶々とした日が続いた、ある夜……彼がいつものように来店し、私を指名しました。夢のような情事の後、私はついに我慢が出来なくなり切り込んだ質問をすることにしました。前にも増して媚びるように身を擦り寄らせながら、
「ねえ……あなたには、特定のお相手はいないの?」
「今のところは……」
「過去には恋人がいたことがあったのね?」
「人並みには……」
(嘘つき……)
私はこう思いました。彼ほどの魅力的な男性を女性が放っておくはずがありません。さぞ数えきれないほどの女性と関係を持ったのでしょう。私は一瞬躊躇いましたが、彼のことをもっと知りたいという欲望に抗えませんでした。
「あなたは……結婚したいと思わないの?」
彼は答えません。おもむろにサイドテーブルから煙草を取ると、ライターで火をつけゆっくりと吸い始めました。私は彼を不快にさせたのではないかと怖くなってきましたが、彼は深く煙を吐いてから……
「……興味ねェな……」
気怠そうに言いました。私は最初に彼を不快にさせたのではないことに安堵を覚え、次に何となくがっかりしたような気分になりました。そして自分の思いを素直に伝えました。
「もったいないわ。あなたは細やかな気配りがとても行き届いた男性だから……そ、その……素敵な夫、素敵な父親になれそうな気がするのに…」
「おいおい。俺は海賊だぞ。所帯を持って身を固めるなんて性に合わねェよ。それに……」
彼は微笑しながら煙草を灰皿に押し付けて、
「いずれはこの北の海を出ていく」
私は金槌で頭を思い切り打たれたような衝撃を受けました。
「で…出ていくって……ど、どこに行くつもりなの……!?」
「グランドライン」
「そんな……どうしてわざわざ危険を冒してまで……」
「言っただろう?俺達は海賊だ。海賊がグランドラインを目指すことは、そんなに不思議じゃねェだろう?」
「やっぱりお目当ては……お宝?それとも……」
「……『宝』……だろうな」
彼は間を置いてから意味深に呟くように言いました。私は目の前が急に暗くなり軽い眩暈を覚えましたが、まだ聞きたいことは残っています。
「じゃあ、もうここには戻って来ないの?」
自身の声が幾分沈んだトーンになったのがわかります。
「そうなるかもしれない……何せ『危険』だからな」
私にはこの言葉が引っ掛かりました。彼の言う『危険』とは『死』ではない別のものを匂わせていたからです。けれども、これ以上聞いても彼が詳細を教えてくれる気がしませんでした。
「どうして、突然そんなことを聞くんだ?」
今度は彼に聞き返されました。
「ん…何となく、思い浮かんだだけ……」
私は胸の内を濁して答えました。
「そうか……」
彼はサイドテーブルの上のブランデーの壜を取ると、空になったグラスに注ぎ私に渡してくれました。そして自分の分を取ると一気に飲み干し…
「俺が夫や父親になる日が来たら、それは北の海と南の海がひっくり返る日だろうな」
冗談めいた口調で言いました。先程はがっかりした私でしたが、反面どこか安心もしていました。彼が特定の女性のものになる日は来ないということですから(もちろんそこに私も含まれているわけですが…)。
少しだけ心が軽くなった私は彼に倣ってブランデーを一気飲みしました。すると彼は私のグラスを取ってテーブルに置き、そのまま私に覆い被さりました。
「もう一度……夢を見させてくれねェか?」
琥珀色の瞳に見下ろされると、私の胸の中は激しく掻き乱されてしまいます。
「あなたの……好きにして……」
懇願した直後、何度も彼を受け入れた下腹部が熱く疼きます。ここで私は自身の奥底にあるドロドロした願望にはっきりと気づいてしまいました。もうこれはどうしようもない女の本能なのでしょう。胎が貪欲に彼を欲していました。この瞬間の快楽のみならず、その先にあるものも……
彼の唇が私のそれに重なります。
……私は確信しました。彼を諦めることは、出来そうもないと…………