とある村の森で
イーストブルーの片隅にあるとある村、その森の奥に一匹の化け物が降り立った
化け物はかつて遙か遠くの島で恐れられた存在だった
供物や生贄を山のように受け取り、神の如く扱われていた
だがある時、島の外から来た人間に興味を持ったのが運の尽き
その鯨のような船に乗っていた男に斬り伏せられ、命からがら海を渡り、ようやくこの地へと逃げ延びたのだった
なんとか隠れ場所を見つけ、化け物は眠りについた
その間も斬られた場所は絶え間なく痛んだ
あの男に負わせられた傷はこれ程に深いものだったのか、と化け物は眠りの中で呻いた
やがて時が経ち、化け物は眠りから目覚めたしかし未だ傷は癒えず、変わらず痛み続ける
取り急ぎ何かを食って回復しなければ
化け物はなんとか力を振り絞り、蛇のような分身を作って森の中へ放った
兎、野鼠、小鳥
分身は森の獣達を手当り次第に食っていく
分身の食べたものは養分となって化け物へ送られていくが、まだ全然足りない
もっと、もっと…分身が森を這っていくと、開けた場所にいる一つの人影を見つけた
人影の正体は、一人の子どもであった
歳の頃は十歳程度で、若葉色の短い髪が風に揺れる
これまで食らった生贄より小さいが、なりふり構ってられない
そう思った分身は音もなく忍び寄り、娘に向かって大きな口を開けた
ザシュッ!!
何が起きたのかわからなかった
だが一つだけわかった事があった
分身は、斬られた
そして、分身と繋がっていた化け物本体もまた斬られていた
両断された化け物が分身を介して最期に見たもの
それは見たもの全てを斬り裂くような、なんとも冷たい視線だった
「ゾロくん」
「あ、先生」
「ダメじゃないか、こんな所まで来て。また迷子かい?」
「おれは迷ってねェ。先生こそ、眼鏡落としてどうしたんだ?」
「あれ?本当だ。拾ってくれてありがとう」
「ったく。先生もドジる時があるんだな」
「ははっ、ごめんごめん」