とある島での一幕
※グランドライン突入後〜のどこか
「よし、買い物終了。買い忘れたもんはねえか?」
「ああ」
「ホントだな?インテリアはもう充分見たか?カードの補修道具は?バス用品は足りてるか?」
「問題ない。ローとドレークからそれぞれ頼まれた物、そして海ソラの新刊も荷袋に入れた」
「調理器具と食材、調味料どれも問題なし、と。そんじゃ船に帰ろうぜ」
「行きと同じく、海軍基地を遠回りだな」
「あーあ。海軍の目を気にして麗しいレディに声掛けできねえってのは世知辛いなァ…」
「おれたちは賞金首だからな……ん?」
「旅してるだけだってのによ、なんで賞金が賭けられてんだか」
「……「運気」上昇率…”40%”」
「それも麦わらに巻き込まれるだけで金額が跳ね上がりやがる。まったく困った話だよな」
「……「トラブル」遭遇率…”90%”」
「…なあホーキンス、さっきからなに占ってんだ?」
「道の向こうに見覚えのある男が歩いているので、占っていた」
「見覚えのある男?」
「サンジのよく知る相手だ。彼に話しかけると運気が上がり、トラブルに巻き込まれる。一方、話しかけないと運気は下がり、やはりトラブルに巻き込まれる」
「どっちにしろトラブルには巻き込まれるのか。話しかけた方がマシなんだな?どいつだ?」
「あの男だ」
「……一応確認してえんだが、それはあそこに見える、刀を三本腰から下げて闊歩してるマリモ野郎のことじゃねえよな?」
「間違いなくその彼だ」
「うそだろ……?」
「ちなみに彼を見送った後に現れる知り合いと話すことで、運気は下がりトラブルは悪化するようだ。おれは”彼を見送る“という概念を潰すためにも、今の時点で話しかけるべきだと思うが、サンジはどう思う?」
「あ〜〜〜〜〜〜もう!クソ!しかたねえな!」
「おい!そこのマリモ剣士!」
「ん?なんだ、辛気臭え面だと思ったらてめェらか」
「ひさしぶりだな、ロロノア・ゾロ。いつもサンジやローと仲良くしてくれて、感謝している」
「うっっっっっせえ!!」
「…?彼とは友達だっただろう?」
「ホーキンスてめえちょっと黙ってろ!!」
「相変わらずうるせえな、不思議眉毛ども」
「そういやてめェ一人でフラついてるけど、仲間は?」
「ああそうだ、ちょうどいい。ウチの連中見なかったか?アイツら迷子みてえでよ、さっきから探してやってんだが、どうにも見つからねえ」
「いまんとこ、てめェ以外は見てねえけど」
「ふーん、そうか。アイツらどこいきやがったんだか。困った連中だ」
「迷子になってんの、案外お前だけじゃねえの?一人で行動してるしよ」
「保護者同伴の最年少と違って、おれは一人で行動できんだよ」
「アア?!おれがこいつの子守してやってんだよ!占いだ何だってふらふら行きやがるから!」
「おっ、そうだなクソガキ」
「んだと!?てめェ話によると同い年じゃねえか!おれがクソガキならてめェもクソガキだろ!」
「おちつけサンジ。この島には海軍基地がある。騒ぎになったら困るだろう」
「…わぁったよ」
「ロロノア、そちらも刀を納めてくれ」
「てめェに指図されることじゃねえ」
「ああ、確かにそうだな。だが騒ぎを起こして海兵が来て、仲間と合流できず困るのはそちらもだろう」
「…チッ」
「感謝する」
「ったく…他に探すアテもねえし、おれは船に帰って寝る。おい、港はどこだ?」
「海賊船が停泊できる港は南側だけだ」
「南だな」
「オイ!まてまてまて!どこ行きやがるんだてめェクソマリモヘッド野郎!!方向音痴か?!南って言ったのになんで北東に歩き出すんだよ!おかしいだろ!」
「ああ?南だって言っただろ」
「南、とは言った」
「南ってのは、あったかい方向だろ?」
「……」
「……」
「なんだよ」
「ロロノア。すまねえが、本っ当にすまねえが、この荷袋を持っておれたちと一緒に港まできてくれねえか?少し買い込みすぎて、おれとサンジだけでは心許なくてな」
「なんでおれがそんなことしなきゃなんねえんだ」
「……礼におれがメシ作ってやる。あとはマリモ用の酒も用意してやるよ」
「ふうん、酒か……しかたねえな、寄越せ」
「!感謝する」
「船はこっちだ。しっかりついてこいよ」
「さてこれで占いに出ていた“彼を見送った後に現れる人物”という概念が潰せたな」
「正直、こいつに話しかけねえで運気下げたほうがマシだった気がしてるぜ」
「……まあ、それにしても方向音痴というのは凄まじいものなんだな」
「ああ。ウチの放浪野郎共に方向音痴属性がついてなくて本当に良かったって心から思うぜ」
「……なあロー、本当にふたりだけで行かせて大丈夫だろうか」
「なんだよドレーク、まだ言ってんのか?」
「だが、ホーキンスは占い結果によっては何処かへ彷徨い歩くし、サンジは綺麗な女性を見かけると何処かへ飛んでいってしまう。普通の島ならいいが、ここは海軍基地があるだろう。心配だ」
「アイツらだってガキじゃねえんだ。心配しすぎだろ」
「ああ。だが先日、女性の占い師を装った賞金稼ぎにふたり揃って騙されていたばかりで、やはり…今からでも追いかけたほうが……」
「わかったわかった!荷物持ちでもなんでもさっさとしてこい!留守番ならおれひとりで十分だ」
「…!ああ、船のことは任せた」
「……まったく、心配しすぎだろうが。ドレークにとっては全員庇護するべき年下なんだろうが、おれたちを何歳だと思ってやがる……まあいい。さて、海ソラ最新刊を持って帰ってくるまで、前巻を読んで待つとするか。ん?隣のでけえ船が出航すんのか……嘘だろ、陰から出てきたあの呑気なライオン頭は……!嫌な予感しかしねえ、すぐにでも出航準備しねえと!」
「さてと、ホーキンスたちの居場所は、と……ふむ、こういうときにビブルカードは便利だな。北東の方角に行けばよさそうだ。それにしても飯時だからか、さっきから良い匂いが」
「メーーーシーーーーーーーッ!!!!」
「なっ!?なんだ今のは!海軍基地に砲撃か!?」
「もがもがもがもが〜〜〜!!!!」
「いや、砲弾じゃねえ、人だ!それもサンジの友達の”麦わら“だ!流れるような動作で海兵に追われているが、助けた方が……」
「もが〜〜〜〜!!!!」
「……いや、彼は大丈夫そうだな。今は仲間たちと合流しねえと!」
「おいクソ迷子野郎、なんでそっちに向かうんだよ」
「ああ?」
「あとはこの道をまっすぐ行くだけじゃねえか。脇道にそれるな」
「うっせーな勝手にさせろよ」
「自分の船に戻ったら好きなだけ勝手に方向音痴して構わねえから今はやめろ」
「おれは方向音痴じゃねえって言ってんだろぐるぐるバカマユゲ」
「お前が方向音痴じゃねえとしたら地面か建物が動いてるってことか?クソまりも剣士」
「……ハッ、良い蹴りしてんじゃねえか」
「ご期待どおり足跡でボコボコにしてやろうか、その刀」
「やれるもんならやってみな」
「ふたりとも、落ち着け。騒ぎが起きたら困ると言っただろう」
「……おい、ホーキンス。なに微笑ましそうにしてんだよ」
「ああ、すまない」
「何ひとつすまなく思ってねえだろ」
「まあそうだな。サンジが友達と年相応に喧嘩しているのを見たら嬉しくて、つい」
「いい加減にガキ扱いすんのやめろって」
「ああ。確かに随分と大きくなった」
「だからその言い方がだなァ」
「気をつけてはいるんだが……ん?まて、ロロノアはどこだ?」
「嘘だろ!?この一瞬でどこ行きやがったんだアイツ!」
「まずいな…これを“見送った”とすると、次に現れる知り合いは“大凶”。運気は下がりトラブルは悪化する……」
「クッソ、あの迷子マリモ早く見つけねえと!」
「ああ。しかし急になにやら騒がしいな…」
「──おーい!」
「あの声は……」
「ドレーク!なんでここに?」
「ホーキンス、サンジ!はやく船に戻れ!騒ぎが起きている!」
「騒ぎだと?」
「サンジの友だt……“麦わら”が海軍基地に突っ込んで、海兵に追われて逃げる一部始終を見た。島中が大騒ぎになっている。港に包囲網が敷かれるのも時間の問題だ!」
「「……“大凶”……」」
「なんだそれは?占いの結果か?」
「いや、まあ、気にすんな……ったく、クソ方向音痴な船員を抱えるのはクソ騒動野郎な船長ってわけか」
「その口ぶりからすると、麦わらの一味の誰かと会っていたんだな」
「ああ。ロロノア・ゾロと先ほどまで一緒にいたんだが、目を離した隙にどこかへ行ってしまった。藁で迷子紐でもつけるべきだったか……」
「んなもん、すぐに引きちぎられそうだな」
「ともかく船に戻ろう。荷物は?」
「……あっ!クソ、荷物はマリモ野郎に渡したんだった!」
「では彼をすぐに探そう。行くアテに心当たりは?」
「いや、どうやら探す必要はなさそうだ」
「あっ、いた!世話掛けさせやがって…なんだァ?こっちに向かって走ってきてやがる」
「その隣に“麦わら”が並んで走ってきているな…と、いうことは…」
「海兵が彼らの後ろにいる!船まで走れ!」
「言われなくとも!……ってなんだこの腕!おい、放せ!ルフィ!」
「サンジ〜〜!」
「うっっっせえばーーーーか!!!!海兵大群連れてきやがって!トラブルに巻き込むなっていつも言ってんだろうが!」
「しししっ、サンジたちもこの島に居たんだなー!あと海兵については連れてこようと思って連れてきたわけじゃねえぞ?」
「ああそうだろうなぁッ!」
「……海兵たちとなかなか距離が取れねえな。ドレーク!すぐに獣型になれるか?」
「ああ!ホーキンスは彼らの確保を頼む」
「…よし、全員藁で捉えたぞ!全速で走れ!」
「すげええええええ!!!恐竜の背中だああああ!!!」
「悪くねえ見晴らしだな」
「てめェらの悪びれなさはすげえよ…」
「なあ見ろよ!もう海兵たちがあんな遠くに見える!おまえの兄ちゃんたちすっげえな、サンジ!」
「おお、あっという間にサニー号が見えてきたぜ。やるじゃねえかてめェの兄貴ども」
「………ふん、そうかよ」
「ドレーク、甲板に飛び込め!サンジたち、しっかり藁に掴まれ!」
「ヒャッホーぅ!」
「……麦わら屋の船が見えて何も起きねえ筈がねえ、と思って出航準備してたわけだが…本当に何してくれてんだ、麦わら屋?」
「トラ男!元気だったか?」
「身体的には問題ねえが、誰かのおかげで精神的には疲労困憊だ」
「それは大変だな。メシ食ったらなおるのか?」
「さあな」
「……メシの話したら腹減った……」
「おいルフィ、この荷袋を船まで運んだらメシと酒を用意してくれるって話だぜ」
「ホントか?!」
「期待いっぱいの目を医者のおれに向けんな!サンジはあっちだ!」
「サンジ〜!メシ〜!」
「……今回だけだからな」
「よっしゃ〜!皆も呼ぼう!」
「いや、メシは後にしろ!海軍の船が来ているぞ!麦わら屋の船も出航準備は出来ているな?今すぐ出航だ!ずらかるぞ!」
「……ようやく、海軍を振り切れたようだな」
「はー、やっと一服できるぜ……砲弾蹴り返し、しばらくはやりたくねえなァ」
「おかげで船に被害はないようだ。さすがだな、サンジ」
「ホーキンスも同じぐらいの数を藁で砲弾受け止めてたじゃねえか……それにしても、また麦わらの連中と共闘しちまったなあ」
「そうだな。海軍に、おれたちが組んでいると認識されている確率…”100%”」
「だよなァ…あーあ、どうしてこうなっちまったんだか」
「ふむ…「敵対」…”11%”。「利害」…”60%”、「友情」…」
「いや、いい。それ以上占わなくていい」
「……そうか」
「さてと!おれは今から麦わらの連中にメシ作ってやるから、ホーキンスは保管庫から酒出してきてくれ」
「ああ。海ソラの新刊を無事に送り届けてくれた彼らに礼をしなければな」
「そういうこった。もう一仕事頑張ろうぜ、オニイサマ」