とある居眠り囚人の口上

とある居眠り囚人の口上

居眠り男/佐伯武


「おや、あんたはここの新入りかぁ~い?」

そう急に声をかけられ、驚いて声がした方向に振り向くと、男が立っていた。

背丈は日本人の平均より少し大きいくらいの、無精ひげを生やした30代くらいの一見普通そうな男だ。

「おやごめんね~ぇ、驚かせるつもりはなかったんだ~ぁ。まあ、立ち話もなんだし座ろうかね~ぇ。よいしょっと……」

男はそう言いつつ胡坐をかくと、こちらにも座るよう促し、再び喋り始めた。

「ともかくまぁ……12次元刑務所へようこそ。ここはあらゆる世界からぶち込まれた様々な囚人と、それを監視する様々な看守がいる場所だよ~ぉ。囚人と言っても種族もやらかしたことも千差万別でね~ぇ、獣人って種族の嬢ちゃん、とんでもない怪力を持つ男、妖術の天才、はたまたよくわからん世界からやってきた謎の生命体………まあ要するに、ここは退屈しない場所ってことだ~ぁ……っておっと、自己紹介がまだだったね~ぇ」

男はそう言うと苦笑し、話を続けた。

「俺の名前は佐伯武。見ての通り囚人だよ~ぉ。罪状は闇カジノの運営と薬物の販売だね~ぇ……まあ要するに儲けすぎと被害者の出しすぎでとっ捕まったわけだ~ぁ」

佐伯武と名乗ったその男はそう言い終わると、よろしくと言わんばかりに笑った。先程囚人と言ったのが信じらないくらいの人当たりの良さそうな笑みだった。

「さて、俺の自己紹介は済ませた。この刑務所の紹介も済ませた………"ここで暮らすなら名乗りをよこせ"……それがここの絶対的な掟の一つだからね~ぇ……俺たちと同じ囚人か、それとも看守なのか……」

そこで一区切り置くとじっと相手を見据え、再び笑みを浮かべて言った。

「…………今度は、あんたの事を教えてくれよ~ぉ」


  

Report Page