とある夫婦の問答~アスランとカガリってすごい~
hohohoとある日の夕方。
「ねえラクス」
「どうしましたの、キラ?」
「アスランとカガリってすごいよね」
「……急にどうしましたの?」
「いや、二人とも、なかなか会えないじゃない?」
「カガリさんは国家元首で、アスランは特殊工作員ですものね……」
「なのに、全然絆は揺らがない、って。すごくない?」
「2年前のことを思うと、そうでもないような気もしますが」
「でも、僕には無理かなって」
そんな会話。
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「キラは私と会えないと、絆が揺らぐのですか?」
「うん。というか、絶対この間みたいな状況になると思うんだよね」
「……実際、私もそんなことになってしまったので、何も言えないのですが」
「話を聞いている限りでは、ラクスの意思は揺らがなかったでしょ。僕はブレブレだったから。しまいにはアスランに殴られるし。しょうがないよね」
「それでも……あのままでしたら、私はキラとの関係を断つつもりでした」
「ああ、うん……そうか。そうなるよね。
結局僕の身から出た錆のせいなんだけどなあ」
「キラのせいではないと、思います」
「でもさ、僕がモビルスーツのパイロットを続けるとしたら、それだけでも会える機会って少なくならない?」
「それは、そう、ですわね……」
「今後のためにも、対策を考えようかなって」
「対策」
「うん。ラクスと会えなくても、ラクスのことを好きでいられるようにするにはどうしたらいいのかなって」
「キラは私と会えないと、私が嫌いになるのですか?」
「うーん……でも、実際にあんなことになっちゃったわけで」
「絶対に気持ちはゆらがない、とは言ってくださらないのですね」
「僕はラクスとは違うからね……そんな自信は持てないかなあ……」
「キラはいつも私の予想を超えて私のことを大切にしてくださっていますわ」
「それはたまたま上手くいってるだけだよ。僕はもっと、君とのつながりを大事にしたい」
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「ではなるべく会うようにしていただく、というのは」
「根本的な解決にならないような気もするんだよね。
ラクスも今後、歌の仕事とか再開したい、って言ってたじゃない。
そうなると、今まで以上に会えなくなる可能性が高くなる」
「……では、歌の仕事はしませんわ」
「そういう風に言い切っちゃう強くて潔いラクスは大好きだけども。
でも、僕はラクスにちゃんと自分のやりたいことをやってほしいんだ」
「ではキラは、モビルスーツのパイロットを、やりたいからしているのですか?」
「痛いところを突いてくるね……」
「それと同じですわ。何かを得るためには、何かを犠牲にする。
わたくしには、キラとの時間を犠牲にしてまでやりたいことなどありません」
「愛されてるね、僕」
「愛しているのです」
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「でも、そうすると、僕はラクスとの時間を犠牲にしてまでモビルスーツのパイロットを続けるのか、ってことになるよね」
「……キラは優しいのです」
「それは理由にならないよ。ラクスのことを傷つけるような優しさなんていらない」
「そんなことを言うキラは嫌いですわ」
「嫌われちゃったなあ……」
「私は私の嫌いなキラのために晩御飯のおかずを一品加えますわ」
「ありがとう、優しいお嫁さん」
「どういたしまして……でも、わたくしは私のわがままのために、キラの意志を捻じ曲げることがどうしても我慢ならないのです」
「それは僕も同じ。僕のわがままのために、ラクスの意志を曲げてほしくない」
「ままなりませんわね……」
「そうだね。上手くいかない」
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「歌の仕事、でなくてもそうですわ」
「うん。ラクスがコンパスの総裁を続ける、という選択肢もまだある。
どっちにしろ、僕との時間は減るよね……」
「そう考えますと、わたくしが今まで通りの仕事をしても、キラが今まで通りの仕事をしても、わたくしとキラが一緒にいる時間は減りますわ」
「そうなんだよね。結局仕事をする、ってそういうことなんだろうね。
ただの学生だった僕が甘いのかなあ」
「キラは初めて会った時から仕事をしていました」
「そう。ラクスに初めて会った僕は軍人だったからね、もう。
でも性根はまだまだ甘ったれで世の中を知らない学生なんだよ、僕」
「私と会って、もう4年もたつのに?」
「まだ4年だよ。そのうち2年近くはまともに働いてないしね。
ああ……そうか。もう一つ気づいたよ」
「何が、ですの?」
「僕にとって、僕とラクスの関係はあの2年が基準になってるんだ」
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「あの2年間。君にとっては、僕が……まあ、ありていに言って反応が薄くて、厳しかった時期だと思うけど。僕にとっては、ゆっくり物事を考えられて、それでいて、君がひたすら側にいてくれた時期なんだ」
「……」
「ごめん、辛いことを思い出させて」
「なら側にいてくださいませ」
「うん。君の熱を側で感じられて、いつも君が側にいて。本当に、こんな幸せをぼけっとして右から左に受け流してたなんて嫌になる」
「キラは自分の置かれた状況に無頓着すぎます……」
「ただ、その時間があったからこそ、ラクスが好きになったんだけどね」
「私はそのずっと前からキラのことを好きでしたわ」
「初めて会った時から?」
「ええ、初めて会って数日たたないうちから」
「何度聞いても、僕にはもったいない人だよ、ラクスは」
「キラは自分のことが嫌いなのですか?」
「そんな人間は他人を愛せないよ。僕はラクスを愛している」
「愛されてますわ、わたくし」
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「ラクスが僕をいかに好きだったか、ということはさておくとして」
「さておいて欲しくはないのですが」
「だって、何の見返りもなく2年も一緒にいてくれる人だよ?そりゃあ想いの深さは海より深いに決まってるでしょ」
「そんなもので測れると思うのが浅はかなのですわ」
「……うんその通りだね……と思ったけど、口元が緩んでる」
「キラの顔が近いからですわ?」
「なんで僕の顔が近いと口元が緩むの?」
「大好きな方の顔が間近で見えるのですよ?口元が緩んで当然ですわ」
「はぐらかされちゃった」
「はぐらかしていませんわ?」
「ああ、また話が脱線したね。あの2年が僕にとっての、君との関係の基準、って言ったよね。そう。僕にとっては、四六時中、君が側にいるのが当たり前だったんだ。
四六時中じゃないにしても、会いに行こう、と思えばすぐに会える距離。
声が届く距離。歩けばすぐ君が見つかる距離。でもそんな距離にいつでも愛している人がいるなんて期間、考えてみれば一生のうちでほんの少しなんだ」
「……それで納得してしまいますの、キラは」
「納得するにしろ、しないにしろ、一般的にはそういうものかなって。
18年で2年もそんな時期があったんだ。幸運すぎるにもほどがあるよ、僕は」
「でも、私にとってその2年は、辛い時期だったのです」
「ああ、ちゃんと言ってくれるんだね、辛い、って」
「そう言わないとわかってくれない方がいますので」
「ごめんね」
「許しませんわ」
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「そうだね。辛い時期を2年も過ごさせちゃったから、なるべく君の側にいるよ、と言いたいところだけど」
「言ってくれませんのね」
「そのためにはまず、仕事をやめないとね」
「キラは仕事をしなくてもカガリさんからお金をもらえるのではないでしょうか」
「それやったらカガリかアスランに殴られるかなあ」
「それはキラなりの言い訳ですわ」
「……厳しいなあ」
「だって本当に私のことだけが大事なのであれば。
キラの立場であれば、本当に私と一緒にいるだけの暮らしが可能なはずですもの」
「だけ、かぁ……」
「はい。私とずっと一緒にいてください。
毎日私のことだけを考えて、私が辛いと思ったら抱きしめて、私が嬉しいと思ったら一緒に笑って、私が怒ったら黙って聞いてくださいませ」
「……そうだね。
できるなら、それが一番いいかな……ほら」
「……」
「やっぱり。そういう僕は嫌いでしょ?」
■■■
「結局、そこはずらせないんだろうね。僕もラクスも」
「え?」
「そんな寂しい顔しないで。僕は僕の意思のままに生きる。
それがたとえ周囲から強制されることがあっても、それを選ぶのはいつだって僕の意思」
「……」
「だから、その言葉はラクスの言葉であっても聞けない。
たとえば、この1週間だけだったら、大歓迎。
たとえば、この1か月だけなら、ずっと君の側にいるのもいいかもしれない。
でも……1年。10年。そんなの、続くはずがないよ」
「1週間も一緒にいてくださるのですか?」
「うん、もちろん。
明日から1週間、ずっと君と一緒にいたいかな」
「ただの世間話をしてたつもりがとんでもない幸福が舞い降りてきてしまいました」
「たとえばそれが2週間だったらどうかな」
「目の前にいる愛しい人を抱きしめます」
「もう抱きしめられちゃった」
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「さて……結局のところ、だけど。
僕もラクスも、それぞれ自分の中で譲れないものがある、という話だったね」
「……幸せに舞い上がっていて、すっかり何を話していたのか忘れてしまいましたわ」
「うん、そんな顔をしてもらえると、僕も嬉しい。
じゃなくて。ラクスは、いくら自分のためでも、僕が僕の意思を曲げるのは嫌……ちょっと違うかな。僕が何も考えず、君のためだからといろんな選択肢を捨てるのが嫌なんだ」
「……キラの言葉はいつも私の中の正解を言い当てますわ」
「逆に、僕はラクスがラクスの意思を曲げるのは嫌、というか見たくないんだけど……ラクスが自分の意志で僕を支えてくれるのが、本当に嬉しいんだ」
「……何が違うのでしょう」
「僕が自分勝手だってこと」
「私も自分勝手ですわ?」
「うぬぼれじゃないのなら、本当にうまくかみ合ってると思うんだけど」
「お似合い、ということでしょうか」
「でも、一つボタンを掛け違えると、きっと酷いことになる」
「たった1か月会えないだけで別れ話を切り出すようになってしまう、と?」
「そうだね。たった1か月会えないだけで君のことを僕は信じられなくなっちゃう」
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「きっと、僕は僕の心のままに動くのが一番いいのかもしれない。
でも……ラクスにこう言わなきゃ、ってことだよね」
「ええ、言ってくださいませ」
「ねえ、ラクス。僕についてきてくれる?」
「はい。どこまでも……」
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「と、いうことで大体解決したかな、どうかな、ラクス?」
「大体問題ないと思いますわ」
「やっぱり、一緒の仕事場で仕事できるようにしてもらおうかなあ……でも、それはそれで職権乱用な気も」
「少しずつ、変えていけばいいのですわ。そもそも、キラが仕事をやめて私とずっと一緒にいてくれる、と本心から言ってくださるのであればそれはそれでわたくしは大歓迎ですので」
「そういうことだよね、多分。ありがとう」
「お礼は夕ご飯ができてからでいいですわ?」
「そっか、おかず一品増えるんだっけ……じゃあだし巻き卵とか?
それはそれとして、やっぱりアスランとカガリはすごいよね」
「でも、キラがアスランになる必要はありませんわ」
「ラクスもカガリにはならないでほしいかな。結局、すごいっていうのと、自分がそうなりたいのは別ってことかなあ」
「理想と憧憬は別物ですのね」
「僕の理想のお嫁さんはラクス・クラインだからね」
「私の理想の旦那様はキラ・ヤマトですので」
「じゃ、理想に答えるために、2週間の休みの間どうラクスに楽しんでもらえるか考えないとね」
「私も晩御飯は腕によりをかけますわ?」
(了)