とある世界線の話
これは、今後有り得るかもしれない未来。
オムニスの資源を巡る企業間の抗争は、「とある傭兵」の出現によって大きく様相を変える事となった。
かつて栄華を誇っていたハイコープスとコンソーシアム・アラスカの二大企業も大打撃を受け、戦力の大半を失っていた。
が、いくら機動兵器乗りを潰した所で、ハイコープスにはまだ最大の切り札が残っている。
────『空飛ぶ軍事国家』エイレーネ。これを潰す為に、傭兵を迎え入れた反体制連合は対策を立案している最中であった。
そんな折…
《…超高速で接近してくる機体反応あり!これは…!》
光の翼を翻しながら、傭兵の機体へ1つの機動兵器が迫る。
「お久しぶりですねぇ!恐れ多くもハイコープスに楯突いた薄汚い鴉…!」
《データ照合中…特定しました!多少武装が変わっていますがN部隊専用機のノアーズアークである可能性大!》
《しかし…あの機体は並の強化人間でも動かせない代物の筈、なぜポンペが…》
よく聞くと、彼の声もコックピット内の通信システムからではなく、集音センサーから発せられているのが分かる。つまり…この声は通信ではなく機体自体から発せられているようだ。
「これでも貴方には感謝しているのですよ…多少予定が狂ってしまい私自身も代償を支払う羽目になりましたが…」
「目の上のたんこぶを根こそぎ潰してくれた貴方という特大のパイを平らげればその失敗も帳消し…いや、それどころか私はハイコープス史上にも名を残す大英雄になるでしょう!」
「さぁ、このN.III ポンペの輝かしき功績の礎となるのです…イレギュラー!」
《っ…ノアーズアーク、来ます!》
両腕のプラズマブレードを展開しながらポンペの機体が迫る─────!
「下位ナンバーの癖に私に手間ばかりかけさせるワンダーランド…」
「一々癪に障るナルコレプシー…」
「そしてハイコープスへの忠誠心の欠片もないお飾りのトレモール…!」
「貴方を倒せばその全てを越えられる!私がハイコープスの頂点に…」
その刹那、ポンペと傭兵の戦闘に介入する1つの機影があった。
《………小物だとは思っていたけど、ここまで来ると哀れみを感じるわね…それとも、上層部に頭を弄られ過ぎてそうなったのかしら?》
「!?ッ…き…貴様は…まさか………!」
その機体の姿に、ポンペは見覚えがあった…何故ならノアーズアークの前の持ち主がかつて乗っていた機体───『ディストピア』を彷彿とさせるものだったからだ。
《人違いよ。ナルコレプシーはもう死んだでしょう?》
《初めまして、ワタシはコールサイン『ユメ』。…解放者、とりあえず今は貴方をサポートするわ》
「ば…馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?足が付かないよう慎重を期してノアーズアークまで取り上げて、死亡確認も念入りにさせた筈…嘘だ…!こんなことが…!」
《ワタシが来た甲斐があったようね。それにしても…正直ショックだわ。ワタ…ナルコレプシーの事をそんな風に思っていたなんて》
「…そうだ!クローンだ!クローンに決まっている!ナルコレプシーは社命に忠実な家畜のような女だった!私がどんな罠に嵌めようとこんな…こんな事をするはずが…!」
《ああ、それなんだけどね》
《ワタシ、ハイコープスを潰すことにしたわ、N.IIIさん》
「は…?」
思いもよらない発言だったのか、ポンペの機体から動揺が漏れた。
《考えてもみなさい、ワタシのような素晴らしい人材を紙屑のように使い捨てる組織なんて、とても信用ならないわ。人事に難を抱えてるとしか思えない》
《だから一先ず潰すのよ。そしてワタシが新しいハイコープスを創ってその威光を銀河に知らしめる。…今の貴方よりはよっぽど筋が通ってるという自覚があるわ》
《…そういう事だったんですか》
傭兵のオペレーターがふとどこか合点がいったように呟く。
《『N.III ナルコレプシー』はハイコープスに忠実な性格で知られています。本人も常々公言していたようですから…けど…》
《…今、その本質が薄らと見えたような気がします。彼女は「企業」を信奉していたんじゃない、もっと別の…》
《…さぁ、来なさいN.III、貴方にその機体は荷が重すぎる事を証明してあげる》
これは、今後有り得るかもしれない未来。
《ワタシこそが…『企業』よ》