でも義兄さま呼びは恥ずかしい

でも義兄さま呼びは恥ずかしい


平子隊長の休みに合わせて数時間を捻出し、同じく休みを作った恋次を連れて初めて撫子の弟に会いに行くことになった。苺花は兄様に預けているので、せっかく休みの父様と過ごせないことの文句も出ていない。

そうして訪ねてきたのはいいが、当の弟が庭で素振りをしていたために恋次と二人でコソコソと覗き見るようなことになっている。私たちとてコソコソとしたかったわけではないが、見た目があまりにも想定外だったのだ。


「似てるな……」

「ああ、そっくりだ……」


似ていると言っても藍染惣右介にではない。ついでに言えば撫子のように母親である平子隊長に似ているわけでもない。見れば見るほど義兄であるはずの石田雨竜に似ているのだ。

いや、顔の作りを見れば藍染惣右介の面影を感じないこともないし色だけなら彼に似ているだろうとは思うのだ。しかし雰囲気というか色だけでない見た目がどうしても石田を連想させる。というか髪型と眼鏡が同じだ。


「義兄弟だというのにここまで似るとは」

「いや、それはオメーも……」

「たわけ、私と兄様のどこが似ているというのだ」


珍妙な顔をした恋次は置いておくとして、とりあえず大切なのは第一印象だ。隊長としての同僚の息子としても友人の弟としても、なるべく友好的な印象を与えたい。

撫子から両親のどちらにも似ていないほど素直でいい子だとは聞いているが、人見知りかどうかは未知数だ。苺花もあれで初対面の相手には中々話しかけられないところもある。


そもそも子供への土産に最中というのは間違えたのではないか?だんだんともう少し子供らしいものにすればよかった気がしてきた。いや、兄様に相談をして決めた店を疑うなど……しかしあそこには他の菓子もあったわけだし。

そんな事を考えながら顔を向けると、目があった。確実に目があった。おそらく恋次もそう感じただろう。確実にこちらを目視した子供はくるりと後ろを向いてパタパタと走り出してしまった。


「恋次!かさばるから見つかったではないか!」

「こんな所にいたら遅かれ早かれだろうが!」


これでは第一印象もなにもあったものではない。最悪の場合あやしげな不審者として報告され、酷く気まずい対面をすることになる。

どうするかと隣の恋次に話しかける前にガラリと玄関の扉が開いた。驚いて固まる我々の前に扉を開けたのだろう子供と、連れてこられた私服姿の平子隊長が現れる。


「母さま、お客さんです!」

「ああ、いらっしゃい。娘から聞いとるわ」

「お、おじゃまします……」


客間に通してくれた後に「茶ァ淹れたるから待っとき」と言って出ていった平子隊長を手土産を持ったまま追う。子供と一緒に恋次を置いてきてしまったが少しくらいなら大丈夫だろう。

あれで一児の父なわけであるし、泣かせるようなことはしないはずだ。女児と男児では対応も違うかもしれないが、それくらいはなんとかしてもらいたい。


「こちら心ばかりの品ですが……」

「おおきに、ええもんもろたわ。ここのあんこ美味いんよなァ」

「その、息子さんは私たちが客だとは知らなかったのでは?」

「ん?ああ、その袋や、京楽総隊長が土産によく買うてくるねん」

「なるほど……」


兄様の意見を聞いて正解だった。良い店だからと勧められたが、まさか袋の方まで役に立つとは。そのあふれる先見の明には敵いそうにない。

しかしよく買ってくるというほど訪ねてくるとは……最近小耳に挟んだ京楽総隊長の隠し子の噂、その正体がわかってしまったような気がした。子供向けにと菓子を買っていたのを見られたのだろう。


「恋次さんは雨竜くんと戦ったことがあるんですか?!」

「おお、だけどあいつも万全じゃなかったし今ほど強くなかったからよ」

「姉さまは雨竜くんはとっても強いって言ってました、ぼくもそう思います」

「そうだな、オメーの姉ちゃんからしたら一番強い男だな」


少し目を離した隙に驚くほど仲が良くなっている。胡座をかいて座っている恋次の太ももに手を添えてキラキラとした瞳で話を聞く姿はついさっきが初対面だとは思えないほどに懐かれているように見える。

どんな手を使ったのだ恋次、私だって友人の弟に懐かれたい。見た目からはどちらの弟か分からないが、どちらにしても友人の弟であることには変わりないのだ。


「なんでそんなに石田が好きなんだ?」

「ぼく最近まで現世にいたんです、それで姉さまと雨竜くんの所にいたから」

「ん?私たちが訪ねた時はいなかった気がしたが、現世にいたのか?」

「あ、朽木隊長!ええと、ぼくは母さまのお休みには尸魂界に帰るので」

「入れ違いになったわけか……」


あちらに泊まるわけでもないのでタイミングが合わなければ入れ違いになるのもおかしくはない。しかし中々会うことが出来ないとは思っていたが現世にいたとは、なにか事情があったのだろうが母と離れて暮らすのも大変だっただろう。

そうであるなら助けになってくれた姉と義兄に懐くのもわかる。少しばかり見た目を似せようとしすぎているような気はするが、憧れて真似をしたいという気持ちは理解できる部分もある。


「こいつなァ……娘婿のことが好きすぎて、弓使う死神になるとか言いよる」

「だって母さま、雨竜くんはかっこいいんですよ!」

「ほらな、言うても聞かへんねん」


茶を受け取りながら聞く限り、見て感じた以上に石田のことが好きらしい。しかし斬魄刀は色々な形を取るものではあるが、弓というのは見たことがない気がする。望みが叶うかどうかは難しいところだろう。

そんなことを考えながら茶をすする私は、将来この子が執念の元に鬼道を矢のように飛ばす手段を編み出すとは夢にも思っていなかった。

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