デスピアンフェリジットビフォー2日目
―2日目―
「………っ 、ふっ……、うぅ ……っ…、」
檻の中で、ブヨブヨとした紫の塊が蠢いている。
極端に太らせた首のない人間のような形をしたそれは、一心不乱に腰に当たる部分をへこへこと動かしているようだ。下敷きになった女の手足がそれに合わせて力なく揺れている。薄暗闇の中、女の身体は異質な程白い。
紫の塊は腰を速め、やがて震えながら静止した。脂肪が振動を増幅させ、ゼリーのように体全体がブルブル震える。震えが収まり、大儀そうにそれが退いたことで手足だけだった女がようやく姿を現した。
フェリジットの身体は惨憺たる有様だった。様々な体位を取らされ、石の床や壁に擦り付けられたことで体中に細かい擦り傷が見られる。昨日の格闘の際に負った傷、そして処女を散らされた時の傷も生々しい。何体もの怪物の精液に塗れていた彼女だったが、その瞳は未だ鋭く敵を睨みつけていた。
その眼光を意に介さず、モップのような体毛を持つデスピアンが毛の間から腕を伸ばし、フェリジットの桃色の髪を鷲掴みにした。その小振りの顔を自らの股間、これまた毛の間から勃ちあがった陰茎に近づける。しゃぶれ、ということらしい。
(くそったれ…)
反抗する体力ももったいない。心の中で悪態をつきつつ、フェリジットは四つん這いになって従順に口を開けた。少しでも早く終わられるために屈辱だけを噛み潰す。
「れろ…………んぶっ…、ん 、う…」
「おと」
「……ん、 ………んむ…っ」
「聞コえないんですけれど」
「……………」
歯を立ててしまいそうになるのを堪え、フェリジットは部屋の隅で静かに眠りについているシュライグを一瞥した。
(…お願い。起きないでね…)
そのいつもどおりの寝顔を見ると、胸が張り裂けそうになる。早くシュライグを連れて仲間たちの元に、あの暖かい場所に帰りたかった。本来ならシュライグも、こんな薄汚い石の床ではなく柔らかいベッドの上で眠っている筈だったのに。
じゅる、じゅるるるるっと檻に卑猥な音が響く。フェリジットはその小振りな口を窄めて化け物のペニスに懸命にむしゃぶりついた。この短期間で身につけてしまった、男を悦ばせる術の数々。悍ましい幾度もの行為を経て躾けられた彼女を見て、ほんの一日前までは生娘だったと信じる者は少ないだろう。
「んぅうっ、 ん、ぐぅ、… ふ、っ ううぅぅッ……!」
(早く終われ早く終われ…!)
顎が外れそうな程大きく口を開け、必死にデスピアンに奉仕する彼女の顔はいつしか悪臭漂う異形の手に鷲掴みにされ、激しく前後に動かされていた。喉の奥を思い切り突かれ、ゴエッと蛙が潰れるような声をあげても止まらない。男は自慰を覚えた猿のように一心不乱にペニスを擦る道具に腰を叩きつけ、ついにその中に精を吐き出した。
「オ"エッ……!ゲホッ、ゲホぉッ……!」
フェリジットは桃色の髪を乱しながら堪らず嘔吐する。出るのは胃液だけ。戦場に立ってから今まで、ロクに食べていないのだから当然だ。続けてその髪と大きな耳に、ピュ、ピュと精液をかけられた。
「お腹スきました?」
覗き込んできたそいつの顔は厚い毛に覆われていて見えないが、フェリジットにはわかる。這いつくばる彼女を嗤っている。ジトリと睨み返してやったが、その視線はなにかに遮られた。
「これ付ケると忘れララるヨお〜っ」
シルエットは、木の葉。その中央付近に切れ目のような穴がひとつ空いている。光を吸い込むように黒く異様な存在感を放つそれは、彼女を犯すモノ達が身につけているものと同じようだった。
片目を覆う形の、
デスピアの仮面。
「誰が………ッ!?」
弾き飛ばしてやろうとした手は、虚しく胃液で濡れた床を掻いた。また新たな一体が腰を掴み、彼女を貫いたからだ。
「うぐっ…、は、ぁ…っ、 あぅっ、 う、ううっ…」
漏れる声は快楽によるものではない。内臓を抉られ、腹から肺から自然に発してしまうのだ。肌が肌を打つ乾いた音が響く度に、フェリジットの意識はシュライグに向いた。起きない、とは分かっている。それでも恐ろしかった。床に這いながら腰を突き出し、声をあげてデスピアンとセックスする自分の姿を彼に見られてしまうことが。
「………ふ、うぅ… っん……!」
両腕を後ろに引かれ、胸がそり返る体位になった。ぷるんぷるんと律動に合わせて乳房が揺れる。
「……!! いやっ、なにす…っ!」
持ち上げられた顔前には仮面。抵抗する間もなく、それはフェリジットの顔に吸い付いた。振り払おうと顔を滅茶苦茶に振る。髪が暴れ、デスピアンを柔らかくはたくが彼らはそれすら楽しんでいるようだ。
あつい。
身体がおかしい。下腹部があつい。突かれる度に、じゅんじゅんと響くような疼きを感じる。
(なに…?これ、なに…っ!?)
「あっ!? はぁっ 、あ、ぅああっ 、ああああぁっ…!」
はあ、はあと熱く息を荒げて、フェリジットは鳴いた。先程までとは明らかに違う感覚に、動揺を隠せず仮面の奥の目を見開く。
「い、いやあっ…や 、はぁっ…!… っんぅ……!」
傍から見れば明らかだ。
喘いでいる。
善がっている。
彼女は絶対に認めないだろうが。
(こわい…!おかしく、なる…!)
「とめ、てぇ……!やだっ、 やっ …… あ、 ぁ、あ…ッッ!?」
フェリジットは熱いものを注がれる感覚に身震いした。
(また、中に…)
今日だけでも何度目なのか、一体何人に穢されたのか、もう数えていない。ずるんと用を足した化け物の陰茎が引き抜かれた。
「ひゃん…っ」
異形のカリで腟壁を擦られ、声が漏れる。地に伏した未だ火照る身体が、くねくねと微かに、物欲しそうに腰を動かしていることに、彼女は気付いていない。
―――もう終わりなの…?
フェリジットは、自分がなにを思ったのか一瞬理解できなかった。
(やっと終わった…。終わったのに、私、何考えて…)
いつ外れたのだろうか。
張り付いていた仮面は、いつの間にか消えていた。
音もなく、檻に盆がひとつ差し入れられた。
タオルが2枚。1l程の水が入った水差しが2つ。コップが2つ。パンは1人分。これが一日一回。
やつらの言う「支給品」だ。
(ふざけてる。足りるわけないじゃない…!)
壁には蛇口が付いていて、床に排水口がある。出てくるのは冷たい水のみ。これとタオルで身体を洗うのだ。
切実に石鹸がほしいな、と思いながら、フフェリジットは蛇口に手をかけた。ちょろちょろと弱く流れる水流に、もどかしさを隠すことなくゴシゴシゴシゴシと精液のこびりついた身体を洗う。股を開いて精液を掻き出す。肌寒さと悔しさで、震えが止まらなかった。
口を何度も何度も濯いで、フェリジットは全裸のままシュライグの元に向かった。
「シュライグ…」
白い顔。固く閉じた目と口。肩を揺さぶっても、凍ったように動かない。
「ごはんだよ、シュライグ」
手で口を開き、そこにパンを含めてやっても彼は動こうとしなかった。
昨日、全く同じことをした。
結果はわかりきっていた。
ならば、やることはひとつだ。
「…………」
返答のない同居人を前にして、フェリジットは黙って一人分しかない食糧を口にした。
(シュライグ、ごめんね)
もぐもぐと咀嚼して、
(……汚い口で、ごめん)
口から口へ、そっとそれを流し込む。
弱々しく動き、やっと飲み込んでくれたシュライグを見ても、フェリジットの心は少しも休まらなかった。
見られている。
彼女の視線はシュライグへ向けられていたが、耳は確かに野次馬の存在を捉えていた。
奴らは、見世物にしているのだ。かつての将が介護される様を。或いは、少ない食糧をフェリジットが独り占めにする場面でも見たいのか。
そして、これからフェリジットのすることを見物しようとしている。
視界が赤くなったように錯覚した。
(この人は、お前らが辱めていい人じゃない……!!)
今すぐこの檻をぶち破って、そう叫んで暴れてやりたかった。
見るな。ここから消えろ、と。
だって、彼女にはまだやらなくてはならないことがある。
デスピアン共はずっとそこに居座るつもりだ。彼女がやり遂げるか、諦めるまで。ニヤニヤと。
「………っ、ごめ、ごめんね…。ごめんなさいシュライグ…」
最大限彼が隠れるように工夫しながら、フェリジットはシュライグの服に手をかけた。
自分がヘマしたせいで。
シュライグはこうして捕まり、見世物にされ、尊厳を踏み躙られている。
排泄物の処理。
やらないわけには、いかなかった。
堪えきれなくなった自分の嗚咽に混じって、クスクスと嗤い声が届く。フェリジットは自らの耳の良さを恨んだ。