つ・な・げ・て・み・た・い

つ・な・げ・て・み・た・い


「ムカデ人間って知ってる?」

その問いにある者は顔を青ざめさせ、ある者は何のことかわからないというように周囲の様子を伺い、またある者は眦に涙を浮かべて激しく拘束されたその身をよじった。

ここはアビドス高等学校再教育室、現在のアビドスの運営に支障をきたす異分子や捕縛した敵対者に対し過酷な思想矯正を行う教室である。

本日もまたスパイ、裏切り者、破滅的なジャンキーetc...といった‘‘問題児たち‘‘で教室は盛況だ。

「ああ安心して、流石にそのまま再現しようって程鬼畜じゃないし、私にそんな技術はないから」

先ほどの質問を投げかけた本日の再教育担当…急用の入ったハナコに代わってその仕事を任された小鈎ハレが砂糖を投与するための器具を点検しながら話を続ける。

「イメージしたのはコンセプトだよ、『人の内側で処理されたものが順々に他の人に入っていく』っていうね…あの映画ではその…物理的にイッたわけだけど、私の場合はハッカーらしくIT的な方でやろうと思う」


粉末に溶液に点滴、吸入器、香炉…問題なく動き、中身の砂糖にも問題がないことを確認すると、ハレは手を縛られて壁沿いに吊り下げられた哀れな犠牲者たちに向き直った。

「それじゃあ軽く説明して始めようか、今日の実験では私のコードを使って一方通行で直列的にあなたたちの頭に砂糖の陶酔感と幻覚を流し込むよ」

口々に猿轡の奥からくぐもって声にならない悲鳴や怒号が飛ばされるが、ハレは何食わぬ顔でこう返した

「まぁいろいろ言いたいこともあるだろうし、こっちも聞きたいことはあるんだけど…ひとまずやってみてから質問するからさ」

ここに至って囚われた彼女らは理解する「終わらせるために質問してもらえるだけ尋問や拷問の方がマシな場合もある」のだと


「長々と話してても仕方ないね、始めるよ───」

わくわくしているのが見て取れる面持ちでハレは自分から延びるケーブルを抜いて分離する。

彼女はそのままケーブルを手に、いやいやと身をよじり首を振って拒否しようとする最初の犠牲者の頭に手を添えた。

「つ・な・げ・て・み・た・い♡っと」

軽やかに、テンポよく

ハレは一息に7人のうなじの上のあたりにケーブル端の端子を刺して繋いだ。

そして自分の首元から伸びてきたケーブルをもう一本、先頭の子の頭に繋いでソファに腰を下ろした。

「じゃあ私は砂糖を打つけど…面白いものが見れることを期待してるからね?」

怯えと敵意、怒り、そして不安や許しを請いたそうな視線までもが自分に向けられていることにニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、ハレはサイドテーブルに置かれたトレイから点滴の管を持ち上げる。

しっかりくつろいだ姿勢で白い腕にうっすら浮かぶ静脈に狙いを定め、一息に針の尖端を刺し込んだ。


すぐに針を刺した箇所の周辺に甘い痺れが広がり、さらに血管をたどって心臓、そして脳まで感覚が鋭敏になり意識が覚醒する快感が昇り詰めた。

そのハレの感覚が、拘束され圧迫感と不安感を感じている「先頭」の人間の意識とまじりあう。

彼女は他人の幸福感が不安感を抱えたままの頭に流れ込み、二重の感覚が生まれその差異から強烈な違和感を感じることになる。

そしてこの実験においては…その感覚が後になるほど多く重なり、幸福感に対する不安感や絶望や敵愾心の割合はどんどん増えていく。

砂糖を与えられるのは一人だけ、二人目以降が味わうそれは他者の感覚の内を通過した不純物塗れの不自然な幸福感と浮遊感だ。


「うあああああ!やめて!頭がおかしくなる‼」

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…!」

「がっ…!ぁ……うげぇぇ…」

コードに繋がれた非検体


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