つかの間の邂逅 其ノ二
「ん…」
瞼に優しく差し込む光に、ゾロはゆっくりと目を開ける
開いた視界に移るのは満開の桜
同じ光景を以前にも見たような気がするが、頭の中に霧がかかったような感覚があってうまく思い出せない
『おれは、たしか…』
なんとか状況を整理しようとしたその時、
「あら、やっと起きたのね」
すぐ隣で何者かの声がした
起き上がって隣を見ると、そこには着物姿の一人の若い女がいた
「ゾロ」
自分に微笑む女を見た途端、ゾロの目が大きく見開かれる
例え霧のような感覚の中でも、彼女のことは何故かはっきりと理解できた
「久しぶり、になるんだな…お袋」
「できれば、昔みたいに母ちゃんって呼んでほしかったわね」
女-ロロノア・テラ-はそう言って笑った
「私のことすぐにわかったなんて知ったら、お父さん悔しがるわね」
「親父が?」
「ええ。あなたに会った時のこと、よく話してたわ。早々に「誰だ?」って言われた上に覚えてるのかと思ったら酒の方を見てたって。まぁ、お父さんが亡くなった時あなたはまだ小さかったものね」
クスクスと笑う母にゾロは「あんたが死んだのもおれがガキの時だけどな」と返す
「っていうか、おれ親父に会ってたんだな」
「ええ、二年ぐらい前に会ったって言ってたわ」
「けっこう最近だな」
「そうね。……ねェ、ゾロ」
それまで笑みを浮かべていた口を引き結び、テラは真剣な表情で息子の方を見る
「まだ間に合うわ。あなたは早く帰りなさい」
「はっ?急に何いっt「お父さんも言ってたけど、まだ何の約束も果たしてないのにこっちに来たらダメよ」
その言葉に、ゾロはハッとする
それと同時に記憶が鮮明なものになっていく
「あなたにはやるべき事がある。果たしてない約束がある。大切な仲間がいる。何より、私達はあなたに生きて欲しい」
ゾロと向かい合うテラの瞳からは、真珠のような涙が溢れていた
「お袋…」
「だから、まだ“こっち”に来てはダメよ」
そう言うと、テラはゾロの額にそっと唇で触れた
「あっ…!」
ゾロの視界がぼやけ、意識が薄らいでいく
『思い、出した…たしか、二年前も…』
「あなたがあの子や船長さんとの約束を果たして、みんなの夢を見届けて、しわくちゃのおじいちゃんになったらまた会いましょう。その時は、いっしょにお酒でも飲みながらお話ししましょう」
「さけ…やく、そく、な…か、あちゃ…」
「ええ、約束」
遠のく意識の中、親子はいつかの約束を交わす
「愛してるわ、ゾロ」
母の笑顔を見届けた後、ゾロは完全に意識を手放した
「肉ゥ~~~~~~!!!」
「酒ェ~~~~~~!!!」
ゾロが再び目を覚ました時、傍には同じタイミングで目覚めた船長と仲間達の姿があった