(たまにはマゾ犬から解放されたい時もある。だが運命は兄ちゃを女王様たらしめるのだ)

(たまにはマゾ犬から解放されたい時もある。だが運命は兄ちゃを女王様たらしめるのだ)


 満点ではなくとも及第点ではある星空を見上げて、冴は公園のベンチでぼんやりと黄昏ていた。

 スペインに日本のような24時間営業のコンビニは滅多に無いが、夜12時くらいまで開いている似て非なる何かは存在する。

 そこで買ったミネラルウォーターの封を切ってちびちびと飲みながら、足元に這いつくばらせたマゾ犬の背中をぐりぐりと靴底で踏んでやる。

 このマゾ犬はさっき公園で非行少女を相手に全裸を晒していた野生の犯罪者だ。

 スペインであれ日本であれ、条例を破って夜中に未成年が出歩いていると残念ながらこういう変態を引き寄せやすい。皆はちゃんと門限までに家に帰るようにしよう。


「たまにはマゾ犬どもから離れて1人になりたいと思って、夜中の公園なんかに来たんだがな。何でいるんだよ。ふざけんなよ」

「はいっ♡ ドMの豚野郎で申し訳ありませんブヒ♡」


 少女は小銭を握らせてタクシーで先に最寄りの病院に送った。この露出狂に手首を握られて赤くなっていたからだ。

 呼んだ警察が来るまでの間、こうして男が逃げ出さぬようマゾ犬として軽く躾をしながらパトカーの到着を待っている。明日がオフで良かった。事情聴取に多少時間をとられても問題ないから。

 人気のない公園で元から全裸の男がフル勃起したチ⚪︎コをビンビンに屹立させながら四つん這いになって童顔の美青年の足置きをしている姿は、通りがかった者がいればそういうAVの撮影かと疑うだろう。

 ちなみに通りがかったマゾ犬がいれば血涙を流して悔しがる。


「こんばんは、通報を受けた警察の者ですが……ふぁっ!?」


 管理不足で街灯が切れているため懐中電灯を片手に公園に入って来たおまわりさんが、照らし出した先の光景を見て驚きのあまりソレを取り落とす。

 慌てて拾い上げ恐る恐る照らし直したが、幻覚の可能性もあると縋っていた目の前の異常な光景は現実だった。

 警察官が生唾を飲み込む男がする。ヤバい人間を相手にする緊張感もあるが、その中に何割か、マゾヒズムを刺激されたがゆえの冴への欲情が混じっていることは本人さえ気付けていない。

 冴にとっては慣れた反応に、こいつも2匹目のマゾ犬として調教しなきゃいけなくなる前に帰りたいな、と当たり前の感想を溜息に込めて吐き出した。

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