たった一つの冴えない救い方 ~ウタ視点~
>>10「……ウタ、久しぶり、だな」
「……………」
ずっと会いたかった私の憧れ。だけど、今だけは絶対に会いたくなかった私の大好きな父親が、そこにいた。
明らかに動揺した口調に焦りの見える表情……まさか、見られた?
「久しぶりだねシャンクス……ねェシャンクス、見た?」
答えなんて解りきってる。それでも聞かずにはいられなかった。
「何をだ?おれ達は今来たところだが?」
「……昔から変わってないねシャンクス。嘘をつく時必ず鼻の穴が大きくなって目線が左上を向く癖」
「え?嘘だろ!?」
「うん、嘘。だけど今明らかに動揺したね……やっぱり見てたんだ」
「…………すまない」
苦虫を噛み潰したような渋い顔をしながら謝罪するシャンクス。
あはは……見られた。最悪。
「……ウタ、おれ達はお前を止めに来た。これ以上お前が罪を重ねる必要はないんだ」
真剣な表情になって無理矢理話を進めるシャンクス。
私のしていたことを言及しないのは嬉しかった。けどこの時の私は全く冷静じゃなかった。だからシャンクスの優しい言葉に対して拒絶ともいえる態度をとってしまった。
「なにそれ?罪ってなに?私は皆を新時代に導いてるだけだよ?それともルフィを無理矢理襲った事?」
「そうじゃない、そうじゃないんだウタ。その新時代はお前の求めるものじゃないんだろう?ルフィに関してはちゃんと話せば許してくれるだろう。今ならまだ」
「今なら?とっくのとうに手後れだよ!だって私は、エレジアを滅ぼした悪魔なんだよ!」
シャンクス達が目に見えて動揺する。私がルフィを襲っていた時とは比べようかない程だ。
「いつ、知ったんだ?」
「配信を初めてから一年くらいの時、当時の映像が記録されてた電伝虫を見つけて、それを見た」
「そうか……」
シャンクスが顔を覆って黙り込む。次の言葉を絞り出そうとしているみたいだったけど私は待たなかった。
「そう、私は悪魔。だけど皆は私を救世主だって言ってくれる。こんな罪深い私を救世主だって認めてくれた!なら、皆の期待に応えるしかないじゃん!」
「それで自分がどうなってもいいのか!?」
「そうでもしなくちゃ私の罪は消えない!そうでもしなくちゃ償えない!そうでもしなくちゃ、シャンクス達を恨んでいた私を許せない……!」
目から涙が溢れる。嗚咽でうまく喋れなくなる。それでも構わず私は叫び続けた。
「それに、今更『海賊嫌いのウタ』を止めるなんて出来なかった!ファンの皆の期待を裏切るような真似は出来なかった!だから、私は新時代を作る!必ず!だからシャンクス、邪魔はしないで!」
『みんなー!また海賊が来たよ!みんなでやっつけよう!』
観客の皆を操ってシャンクス達を攻撃しようとする。その直前、シャンクスが懇願してきた。
「待ってくれウタ!」
「命乞いなんて聞きたくない!」
「違うんだ、少しだけでいい。皆と話をさせて欲しいんだ。この通りだ」
シャンクスが深く頭を下げる。
そんなシャンクスなんて見たことなくて、驚いて観客達を止めてしまった。
「……ほんの少しだけだよ!」
「ありがとう。おいお前ら、集まれ」
シャンクス達は円陣を組んで何やら話し始めた。今更何をしたって私は止まる気なんか無いのに。
「……正気……」
「流石に……」
「他に……」
「しかし……恨まれ……」
「頼む……」
「……どうなっても……」
ちらほら不穏な言葉が聞こえる円陣が解かれ、船医のホンゴウさんが近づいてきた。なんか難しい顔をしてるけど、どうしたのかな?
「ウタ、お前の体調で気になる事がある。少し検査させてもらえないか?不意打ちとかそういう事はしないと誓う」
「ふぅん?……いいよ。好きに調べて」
「あぁ、少し失礼するぞ」
どうせ後少しで私は死ぬのだ。今更どんな不調があったって関係無い。最期なんだし、好きにさせたって構わないよね。
私の許可を得るとホンゴウさんは私の体を軽く調べ始めた。なんだか昔やった健康診断を思い出すものだった。
検査が終わるとホンゴウさんは深い皺を顔に浮かべながら重々しく口を開いた。
「診察終わりだ……ウタ、落ち着いて聞いてくれ。お前は今……妊娠している可能性が高い。恐らくルフィとの子だろう」
「……はい?」
予想外過ぎる言葉に、私の頭の中は真っ白になった。