ただ、あなたに首輪を握られたくて-1

ただ、あなたに首輪を握られたくて-1

C1-072 素ッ裸


「ウォルター、あんた随分やつれてるね。こんなんで本当に"約束"を果たせるのかい?」

 馴染みの顔、同僚。或いは恩人か、はたまた。一言では言い表せない間柄……今は"シンダー"・カーラと呼ばれる彼女とは、実に古い付き合いだった。

 古い付き合いだからこそ、自分の事を自分以上に見透かされてしまう。いつかの日、いつかの火に託された想いを継がねばならない俺と彼女は、果たさねばならない約束と十字架の数々を背負っている。

 その重みに潰されそうになりながらも、這ってでも前へ進む今、俺は大きな問題と直面していた。

「……。ああ……すまない、カーラ。近頃は……何時にも増して、621が俺を求めてくるんだ……。」

 愚かな自分に残された最後の牙、唯一の猟犬。C4-621、本来ならば使うべきではない忌むべき技術により産み落とされた、強化人間。ACと呼ばれる鉄の躯体を駆り、鉄と血錆と硝煙の臭いで噎せ返る地獄を切り開く事に最適化された存在。

 機能以外は死んでいる、との受け売りで引き渡された廃棄寸前のそれは、妙な気を回した売人が"性機能"を含めたものまでを求める機能と捉え、売り込んだのだ。

 ましてやそれが、俺に対して懸想し、間違った恩義を覚えて、毎日のように俺との繋がりを……身体を、性交渉を求めるようになってから、もう随分と経った。

 約束を果たす為にとはいえ、俺もカーラ程では無いにせよ、肉体と健康を維持する為の施術をある程度行ってはいる。長らく用いていない欲動は、とうに形骸化し維持されているだけのものでしかない、とすら思っていた。

 だが、621と……年若い女性と肌を合わせ、肉欲をぶつけ合う内に、この身体に秘められた獣性は死んでなどいないという事を理解させられた。

 拒む事は出来ない。俺のような愚劣極まる男が、何をさせられるのかも理解していない、他に行く宛すら無い無垢な女性を捕まえて、その彼女に許された限り在る自由で求めるのが俺の身体だというのならば。

 こんなものが彼女への褒賞であるべきなのか。こんなものが、彼女への報いと救いであるべきなのかと何度も問うたが、全て愚問に過ぎなかった。彼女はただ、今まで積み重ねた全ての交流を差し置いて……"俺でないといけない"と言い切った。

「……。一応言っておくけど、私だって女性なんだからね。別に今更どうこう言う訳じゃあないんだけど、相談する相手ってのはちゃんと考えたほうが……ああいや、あんたの性格だと私位にしか相談出来ないってのは知ってるよ、悪かった。」

 ご尤もだ。こんな下世話な話を、仮にも女性のカーラ相手にするべきではない。だが、実際彼女位しか俺に頼れる相手がいないのもまた、事実だった。ミシガン相手にするような話ではない、621はそもそも悩みの種。限りなく詰んでいるのだ。

「はっきりと言う、あんた選ばなさすぎだよ。ビジターがあんたを必死に求めといて、あんたは答えを有耶無耶にし続けている。とっくに分かってるんだろう?あの子の想いが、単純に主従どうこうの範疇はとっくに越えてるんだって。」

「……。だが、俺には……俺達には、"友人"との約束がある。今更621を選んで、約束に背を向けるなど……。」

「だったら切り捨てりゃあいいじゃないか。それで答えが出てるんだろう?あと、"達"で一括りにするんじゃあないよ、私達はあんたの言い訳のダシじゃない。」

「そ、それは……だが……。」

 にべもない。だが、最早俺が"達"であると言い訳にしているのは明白だ。

「何時までもそんな優柔不断じゃあちっとも笑えないよ。……ウォルター、いいかい。目先の問題を解決する為に、解決策を一つ提示してやれはする。でもね、それは"ビジターを選ぶ事"が条件だ。じゃなきゃビジターが報われないよ……私だってこれでも乙女の端くれ、あの子の気持ちがこんな甲斐性なしのせいで何時までも宙ぶらりんなのは見過ごせないんだよ。わかるかい?」

 散々な貶されようだが、何一つ言い返せない。正論で作られた針の筵だ。

 カーラは選ぶ事に拘り、決して選択した事を悪く言う人物ではない。笑えはしない選択だとしても、そこに至った決意と経緯を尊重する。良くも悪くも621は選んだし、俺は全く選んでいない。嫌われるのも無理はない状況である。

「……。俺は、621を……621の事を……。」

 いつか出さないとならない答えを出せと、迫られる。この状況で、俺が選んだものは―――



 621の容態が安定している日は、時折外出をするようにしている。いつの日か、人生を買い戻した時に違和感なく過ごせるようにというリハビリを込めて、習慣化した行動だ。

 星外企業もルビコン内部の企業も、戦地となっている場所から離れてみればただの企業。如何にコーラル争奪戦争の真っ只中でも、痩せた惑星であるルビコンにもある程度の市街地は存在する。そういった場所に足を運び、621には望むものを買い与えたりしている。

 しているのだが、今日という日は―――

「……。621、あまり……そう、くっつき過ぎるな。」

「なんで?……いつも、これぐらいくっついてる。」

 限度があろう、というものだ。今、二人並んで歩いていて、道幅は然程混んでなどいない。にも関わらず621はべったりと密着し、男性的な欲動をこれでもかと刺激するような双丘を腕に押し付け、挟み込んでいる。

 どのような観点から見ても、意図的、確信犯めいたものだ。傍から見れば、親と娘以上の年の差がある俺と621は、美人局の現場か何かに映ってもおかしくはない。

 しかしながら、この密着度合いが近頃は常態化しつつあるのも事実。但しも、それは事後の話であるのだが。

 窘めるように少しだけ引き剥がし、それでようやっと適正の距離感に戻る。依然として距離感はかなり近いが、マシにはなった。

「621、何か欲しいものはあるか。」

「んー……くびわ、とか。」

「……。あまり誂うな、実物が無くともお前は俺の立派な猟犬だ。」

 果たして、今ではどちらの首に首輪を掛けられているのだか。俺は621がいなければ、何一つとしてこれからの使命を果たせない哀れなハンドラーでしかない。

 そして今、肉欲というどうしようもない男の性を引き摺り出され、嫌々応えるように見せかけ、既にその快楽を欲する自分も自覚している。哀れで愚かで、どうしようもない。この老齢になって、年若く、それでいて欲すれば応え、欲せずとも求める情熱的で官能的な621の性に当てられた己に嫌気が差してくるのだ。

 濁しても仕方のない事実なので、はっきり言おう。621は女性的魅力に溢れている。全体的にすらりとした肉体でありながら、出る所はしっかりと女性的に豊かで、あどけなさの残る儚げな顔つきには確かに女という性が滲み、肌と髪は人形の如く白く澄んでいる。幾つか傷はあり、所々の包帯が痛々しさを主張はすれど、そこが寧ろ危険で蠱惑的な魅力を演出しており、尚悪い。そしてそんな女性が、余すこと無くその愛情と欲情を献身的なまでに俺にぶつけてくる。

 これで反応しないのは、いよいよもって男性的に不能な者か、余程拗れた性癖を持つ者ぐらいだろう。健常な価値観を持つ男が、欲望を抑えるのは不可能だ。

「じゃあ……あっち、いこ。」

 仕方なしに選んでいるという様子を隠しもせず、次に指さしたのは女性用の下着を取り扱う店。どう考えても男の俺は縁のない、立ち入るのも憚られるような場所。

「なら、俺は外で待っていよう。時間は気にせず……」

「んん……だ、め。うぉるたーも、いっしょ。」

 一切の躊躇なく、しかも今度は拒否を断固として許さない力加減で手を引いて、店に連れられた。道行く人々と店内の女性、店員からの視線が酷く突き刺さる。

 カーラとの問答が正論による針の筵ならば、ここは場違いな者が聖域へ足を踏み入れた時のような、そんな居心地の悪さだ。どちらにせよ、いたたまれない。

 それでありながら、621は躊躇わない。実際、支払い担当になる俺が同行しないのは少し手間ではある。あるのだが……。

「ね、うぉるたー……こんなの、どーお?すき?」

「俺に……何故聞く。というより、何のために買うんだ。」

 此方に意見を仰ぎながら、購入を検討していたのはどう考えても夜の情事に向けたような、極めて扇情的な下着だった。下着としての体を成していない、秘部を覆うはずの部分がぱっくりと開いていて、黒一色のそれ。

 聞くな、そんな事。聞くだけ無駄だ、誰のために買うつもりか明白だろう。果たして俺は何時までこのような、するだけ無駄の、自分の為でしかない、御為ごかしの見苦しい逃避ばかりするつもりだ。

「わたしがうぉるたーの、おんなだって……まわりに、みせつけるため?」

「……。」

 周囲の視線に強い色が帯びてゆく。好色か、好奇か、軽蔑侮蔑憎悪か。そのような玉虫色の感情をただの一言で引き摺り出す言葉を、怖じる事も躊躇う事もなく、まるで言い聞かせるように放った。

 その視線が集うのを見計らい、より一層の感情を込めた流し目、色目を此方に向けた。ただの叔父と娘の間には流れる事のない、男と女の情欲が溢れ出る視線を。

「じゃあ、こーゆーのは……すき?」

 再び手を引いて、次に見せつけるものは半透明で肌触りがよく、肌着としては肌を視線から遮る事もない。或いは見せつける為にそう作られ、また剥ぎ取りやすくも仕上がっているベビードールだった。

 この歳になって尚、色を思い出してしまった愚か極まる好色爺には、どれもこれも刺激が強すぎる。無地のままで干上がった性に、溢れんばかりの欲を振りまいて蘇らせ、極彩色をぶち撒ける。目眩がするような展開に、溢れ出す欲動は止まらない。

「ん……♡おっきく、なってる……これ、すきなんだぁ♡」

 人目を一切憚らない。いや、見せつける。そのように服の上、ズボンの上からしっとりとした指使いで腹部から下腹部へ、なぞる。背徳を、寧ろ美徳と言わんかのように。

 今日という日の621は、実に……実に俺を、試している。弄んでいる。煮えきらない俺を、煮え繰り返らせ、望むままの結果を呼び込む為に。

「じゃ、これ……かってね。よごしちゃうから、みっつ。」

 これもまた、敢えて店員の前で言い切った。例え目の前の視線が塵と屑を見下す辛辣なものになろうと、それを敢えて嘲笑わんが為に言ってのけ、そして視線に対して勝ち誇るような視線でまた返す。

 終始、この店全域の空気を支配していたのは621だった。全てのものが、俺をただ焚き付ける。良し悪し含め、俺の感情をひどく揺さぶる。

 好意的な視線―――俺はそんな役得を味わっているのではない。俺はただ、逃げているだけだ。

 否定的な視線―――そうだ、俺は屑だ。ここまで621に熱されて尚、芯の底では冷えた鉄のようにつまらない男だ。

 だが、ここまでされれば。そして、昨日カーラにあのような発破をかけられ、今に至れば。

「……。621、そこまで我慢のならないようならば、俺にも考えはある。」

 手を引いて、市街地からやや外れた位置へ向かう。宿泊施設の多い場所でも、装飾過多な部類の……"男と女の為の場所"に。

「あっ……うぉるたー、いいの……?」

「……。」

 ただ、黙って向かう。選択はした、決断はこれから済ませる。もう、踏みとどまる必要はないと判断したからだ。

 こんな所に辿り着くのに、余りにも待たせすぎたような気がする。ああ、愚かだ。俺は愚かでしかない、そしてこれから救いようもない下衆に堕ち果てる。

「う、うぉるたー……なんで、ずっとだまって……?」

 フロントで利用の手続きを済ませ、粛々と指定された階の、指定された部屋へ。その歩みはさながら断頭台へと登る悔悟者の歩みか、或いは沙汰を下さんとする執行者のそれか。どちらでもあり、どちらでもない。

 懐から一本の薬瓶を取り出しては、一切の躊躇い無しに飲み干す。瞬間、灼熱のような渇望が灯され、臨海に達したのを理解する。星系を焼いたあの火が、一人の男の欲望として具現化していると言われれば、腑に落ちるような勢いで体中を駆け巡る。

 未だ戸惑う621の可憐な衣服を思い切り剥ぎ取って、乱暴に突き飛ばした。

「ひゃうっ!?う、うぉるた……な、なんで……?おこらせた、なら……あやま―――」

「違う。」

 そうだ、違う。怒りは、己のにこそ向けている。何故こんな事を分かっていなかったのだと、今更になって場違いな怒りを灯している。お前を、621を叱責などしていない。ただ、これから起こる出来事は、たった一つだ。

「最近のお前は目に余る。」

「ぅぇ……あ、そ、そんな……。」

「待ても出来ない小娘に……しっかりと躾け直さねばな。」

 続ける言葉にようやっと、今から"何をされるのか"を理解した621は、その恐怖を霧散させた。感情は一転し、期待と歓喜、高揚感へと様変わりしてゆく。

「有り触れた言い回しだが、今晩は寝かせん、俺が主人だと体に教えてやろう。……返事をしろ、621。」

 今まで踏み越えなかった第一線を、容赦も躊躇もなく踏み躙る。抑圧から解放された肉欲が、既に熱り立って主張をしていた。普段よりも硬く大きく、反ったそれが621に突き付けられる。

「わ、ワンッ……♡」

 もう、安全弁など必要はない。




「621、まずは挨拶をしろ。分かるな、お前がこれから、これに奉仕をしなければならないんだ。"慣らし"ぐらいは自分でしてみせろ。」

「ふ、ふぁい……♡ん、はむ……っ、じゅるっ♡」

 人肌より高く、粘性を帯びた口内が既に臨戦態勢の肉棒を咥え込む。普段ならば少し無理をして最奥まで、といった所だが、こと今日に至ってはそうは行かない。カーラより渡された渡来の薬がまるで青年の如き若々しい猛りを取り戻させていた。

 長く、太く。口いっぱいに使って丁寧に扱き上げてくる口淫も、普段よりその快楽は薄く、そして耐え難いものではない。しかし快楽は快楽、刺激として蓄積され、少しずつその効果を顕にしてゆく。

「んじゅっ、れるっ♡んむ、っ……♡きょうの、うぉるたー……なんらか、おっきぃ……♡おすのにおい、つよくて……ちゅっ、あたまが、くらくらしゅる……♡」

 果たしてそういった、フェロモンのようなものがあるのかは分からない。しかし己の肉体が壮健さを、若々しさをこの時に限り取り戻していたのは違いなかった。

 普段から、果たして何処にそんな欲が眠っていたかも分からない肉体だったが、止まらず込み上げる熱い欲望が、もっとこの雌から快楽を引き出せと怒鳴る。

「何を口だけで働いた気になっている?621、お前には立派な二つの武器があるのだから、使え。そこまで教育の行き届いてない雌犬にしたつもりはないぞ。」

「は、ひゃいっ♡んぢゅっ、はむ、ちゅっ♡んむ、んぐっ♡」

 普段しているように促せば、すぐさま改善を行う。躾のなっている雌犬が、その胸元に備わった二つの凶器を伴って、急ぎ足で奉仕を開始した。

 男ならば、雄ならば誰もがこの柔らかな実りに手を埋め、或いは奉仕して貰いたいと思うだろう。それが今、余すことなく俺へ宛がわれ、口と併せてその艶めかしい暖かさと柔らかさから来る快楽を齎している。

 だが足りない。だが物足りない。こんなものでは、生易しい。一度火の付けられた欲望は、増え続けるコーラルの如く歯止めの効かない欲望の前では、この程度。

「んぶっ!?ん、ん゛ーっ♡じゅ、じゅるるっ♡ん、んぐーっ♡」

 乱暴に、乱雑に、馬乗りのまま頭を掴んで無理矢理口の奥まで捩じ込む。良く言えば加減の、配慮のあった快楽の波が自分勝手で独り善がりな、強引なものへと変わってゆく。上下関係を叩き込むこの使い方は、酷く下卑た支配欲というものを満たす。

 男というのは単純で単細胞だ。こんな快楽一つで思考を御され、或いは掻き乱される。今の俺は底なしの性欲にタガが外れ、加減の一つすら出来やしない。

 違う事は、今までの上位下位が全く逆。俺が上で、621が下。支配して、組み敷かれる立場が入れ替わったまでのこと。

 そう、カーラはこう言った。「ビジターはお前のモノにされたがっている」と。だから、一度だけ……一度だけ滅茶苦茶に抱き潰してやれと。そのための薬を処方された。どうなっているかは、見ての有様だ。

「出すぞ、621。全部飲み込め。」

「ん゛っ、んじゅっ♡んむ、む゛~~~っ!♡……ん、んぐ……っ、んく、っ♡」

 自分の何処に、こんな枯れた井戸の何処にそんな源泉が眠っていたのか。飢えた狼が飢えを満たし、飽くなき欲望をただ叩きつけんと口内へ押し流す。喉の奥に突き入れながら、口の端から逆流する程の量を吐き散らかす。

 苦しげに、しかし恍惚とした表情になりながら、幸福さえも感じるようにのぼせ上がった顔で、征服の象徴たる白濁液が喉を通ってゆく。嫌悪感一つ表す事なく、竿に纏わり付いた一滴まで残さず舌で舐め取ってゆく。

「ぷぁ、は……っ♡ごひゅじんしゃまの、せーえき……おいしかったれしゅ……♡」

「まだだ。お前には一つ教訓を与えねばならん。」

 だが、こんなものでは。こんなものでは足りない。俺も621も、とうに理解している。理解しているからこそ、お前はそんなにも物欲しそうな顔を止めないし、俺の肉体も飢えと乾きを表すように熱を帯び、肉棒は未だ全力の姿勢を保っている。

「お前が、誰のモノで……俺が、一体誰のハンドラーなのかを。その身体に徹底的に教え込んでやる。」

 その言葉と共に、再び621を組み敷いて、躊躇う事もなく胎内へ侵入を開始した。既に我慢ならないと言わんばかりにぐずぐずだったそこは、驚くほどすんなりと受け入れ、絡みつく。

「ん゛いッ♡……ふ、ぁあぁっ……♡おちんちん、っ♡いつもより、おっき……い゛ッ!?♡」

 余裕を与える事はない、余裕を持たせる必要もない。今回の目的は一つ、関係の徹底。配慮なぞ要らない、配慮なぞ出来ない。雄を受け入れる準備の出来ている肉穴に、ただ我欲をぶつけ、満たす。雄としての矜持を以て、雌をただ屈服させる。

 最初から遠慮一つなく腰を振り、ぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てながら突き立て突き崩し突き倒す。思えば、こんな好き放題にするのはきっと……人生で初めての事だ。

 あまりにも、甘美だ。人は、こんな欲望に逆らうようには作られていない。俺は何を我慢していたのか、俺はこんな馬鹿げた自制を続けていたのか。こんな、雄を悦ばせる為に作られたような肉体を貪らずして、何故雄を名乗れるのか?

 男根に甘えるように、媚びるようにして蕩けた柔肉が絡みつく。普段よりきつく絞まるのは、単純に己のモノが大きくなったからだ。みちみちと音を立てながらも振り切って、こそげ落とす勢いで引き抜き、そして刺し貫く。

「あ゛ぐっ♡はぁ゛、ッ♡りゃめ、あたま……ばちって、え゛ぅ、ッ♡」

 たった数度の抜き差しだけで、621はその身体を引き攣らせて強烈な締め付けで雄に応える。絶頂した、呆気なくも絶頂して服従を示したのだと。

 そんなものでは足りない、などと知るまいに。

「621……誰が勝手に絶頂を許可した。お前はまだ俺を満足させていない、返事をしろ……ご主人様を差し置いて満足する雌犬。」

「ひう゛っ♡ひゃひっ♡ごめんなひゃっ、い゛ッ♡わりゃひはっ♡だめなめしゅいぬでしゅっ♡ふぅ゛、ぁ゛ッ!?♡」

 大きく腰を引いてから、パイルバンカーの如く思い切り、最奥まで叩きつける。

「お前は雌犬だ、返事は"ワン"以外の何がある?」

 躾は、苛烈で、激しくすればするほどに、色濃く刻まれる。無論、そんな道理は今の俺には関係ない。ただ、止め処無く溢れ出る性欲と征服欲、男性的なその根本的欲望のままに621を調教しているだけ。

「わ、わ゛っ♡わんッ♡わひゅっ♡ふぁんッ♡ワ゛っ……ン゛~~~っ!♡」

 呆気ない、二度目の絶頂。無色透明な潮を、待てすら出来ない駄犬の涎が如く撒き散らし、ベッドの上に染みを描く。より一層の快楽を陰茎に与え、此方を破裂まで導かんとするが、飢えた狼の底知れぬ性欲には今一つ届かない。

「また絶頂したのか。何故我慢出来ない?俺の猟犬のつもりならば少しぐらいは堪え性を見せてみろ、雌犬。」

「ん゛ぎっ♡あ゛うッ♡わ、わ゛ぅ゛ッ♡う゛ぅ、ッ~~~……♡」

 互いの分泌液で洪水の如くぬめった肉襞を押し付けるように擦りながら、腰を押し付ける度に物欲しそうに揺れていた胸へと手を伸ばして、揉みしだく。何度触れても柔らかさと張りを損なわないたわわな柔肉を、普段は全くしない乱暴な手付きで指を埋めて弄り倒す。

 同時の刺激で快楽が増したのか、蜜壺の深みで収縮が強まる。快楽を与えた分だけ、雄からその征服の証を搾り取らんと物欲しげに刺激してくる。

 或いは絶頂に次ぐ絶頂で境界があやふやになったのか。一方的な快楽に対してなすがまま、されるがままの対応。そうしてようやっと、爛れた欲望が限界を訴える。

「一滴残さずその子宮で受け止めろ、お前が欲しがっていたモノをくれてやる。」

 そうして、はち切れんばかりに膨張した穂先から、濁流のように押し寄せ真っ白に腟内を染め上げてゆく種を、最奥に押し付けながら吐精した。

「ン゛、ぁひっ♡い゛、ひゅっ♡あ゛ぅ、ッ♡あ゛ぁぁあっ、っぁ゛~~~ッ!♡♡」

 今まで621が出したこともないような、息も絶え絶えの状態で嬌声を上げ、快楽にその身を打ちひしがれ―――ぐったりと脱力した。

 同時に、自分の中にも今まで体感した事もないような満足感がやって来た。たった一人、己を求めてやまない女性を己のモノにした征服感と、実感、暗い雄の欲その全てを……恣にした。

 が。

「はぁ゛……っ、ふ……ぁ、ん……♡ン゛あ゛ぁ゛ッ!?♡」

「何を、惚けている。こんなもので終わりだと俺は言っていない。返事をしろ、621。」

 この話には、もう一つ教訓がある。……カーラに渡されたもののラベルを、ちゃんと読むべきだったと。

 あの薬は、半分に希釈して飲むものだったのだ。



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