たいへんよくできました
「あのっ・・・えっと・・・」
「すまんが、今日はもう行くところが決まっている。後日改めて頼む」
「おや残念。兄さん方色男だし、仕方がないねぇ。次はうちで遊んでね」
新しい特異点が発生したとの一報を受け、敵情視察と情報収集のために訪れた『吉原』なる場所。この地は江戸の世に存在したものらしく、戦国の世で生を終えた自分にとっては見た事も聞いた事もない場所だった。
唯一の出入口である大門をくぐると鮮やかな朱色が目に入る。どこもかしこも煌びやかに飾られていて目移りしてしまう。通りを歩いているとあちこちの店から客引きの声がする。
こういった事にまったく慣れていないせいもあってか、声をかけられるたびにおろおろしてしまう自分とは異なり、今回の連れであり調査の相方でもあるもう一人は生前の浮名も相まって、さらりと誘いを躱している。
「・・・なんだか疲れてきました」
「客引きなんざ懇切丁寧に相手する必要ないだろ。スパッと断ればいい」
「それが出来たら苦労しません」
「そこは経験値の差だな」
くすくす笑う相手になんだかムッとする。
「どうせあなた以外、知りませんよ」
破れかぶれの気持ちでそう言うと相手は少しだけ驚いた後、なんだか嬉しそうに笑った。
「そうか・・・うん、そうだったな」
そりゃあ、そっちの方が年上だし、経験も豊富だし・・・こっちは経験どころか知識もありませんでしたが!?
もやもやした気持ちが収まらない。早く帰ってシミュレーションでもして、すっきりした気持ちになりたい。
「今集まった情報がこのくらいか・・・もう少し調査が必要だな」
「まだ終わらないんですね・・・」
やっぱり、こういうのは苦手です!!
「今、帰った」
「おかえりなさい、2人ともお疲れ様でした。情報はこちらに、精査が終わるまではゆっくり休んでね」
「ああ、そうさせてもらおう」
「やっと帰ってこられた・・・」
あの後もあちこち調べ歩き、十分な結果が得られたとしてカルデアに帰ってきたものの、疲労困憊の自分はぐったりしてしまっていた。
「景虎さんが疲れてるの珍しいね。大丈夫?」心配そうな顔をしたマスターに見つめられる。
「結構広い場所だったしな。一通り歩くだけでもかなり時間がかかった」
「うわー、ごめんなさい。他の人にも手伝ってもらえばよかったね」
「いや、あまり大勢で連れだっていても目立つ場所なんだろう?なら、少数で行く方がいい」
「うーん、こういうのって難しいね」
「気になるなら、得意な奴に相談すればいい。やり方は1つだけではないからな」
「そうかも、晴信さんありがとう。またお願いしてもいい?」
「マスターが必要だというのなら、いつでも手を貸そう」
「うん。それじゃあ、2人とも今回は本当にありがとう。後はこちらの領分だから」
マスターに見送られて部屋を出る。廊下を少し進んで人目の少ない場所に差し掛かると腕をとられた。
「晴信?」
「いいから来い」
半ば引きずられるようにして辿り着いたのは晴信の自室だった。
「あの・・・?」
そのままベッドの上に放り投げられる。何で無言なんですか?怖いんですけど。
「今日はいい子だったお前に褒美をやろう」
「はい・・・?」
なにかご褒美もらえるような事しましたっけ?何も思い当たらない。
「だが、それには準備が必要だ。だから、もう少しだけ、いい子で待てるよな?」
妖艶な笑みを浮かべたまま近付いてきた相手にそっと口付けられた。