Go_AOHARU

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おそらく、彼女は最後まで希望を捨てることはなかっただろう。

「実験記録3142、薬物A混合の状態で子宮から出産したものを攻撃」

淡々と彼女、白石ウタハは自ら産み落としたそれをターレットの機銃掃射で傷つけていった。

サラダ、或いはそれと呼ばれるふざけた生命体は悲鳴をあげて抵抗し、やがて力尽きる。先に破壊したそれらより、少しずつ抵抗力は上がっていた。

「やはり体内のサラダが多いほど、サラダの消化量が多いほどより強い個体が生まれるみたいだ……栄養満点の母体から、力を蓄えて生まれたからかな」

冷静に分析しながら、自らの身体を見下ろす。

ウタハの体は既にサラダに侵食されきっており、子宮も腸内にもみっちりとサラダが詰められ、湿った音をひっきりなしにあげていた。その腹は臨月を超え、肉のアドバルーンのように膨れ上がっており、ウタハの手足がオプションパーツのようにくっついている有様だ。

その上、自らに投与した薬剤……胃腸の働きを強める山海境産の超強力吸収剤の影響か、彼女の乳房と臀部にはこれでもかとでっぷりと肉が集まり、今も尚音を立てて膨らんでいた。溢れる栄養はどぷどぷと母乳となって溢れ、サラダたちをドレッシングしている。

教室を埋め尽くす肉の大玉、それが今の白石ウタハだった。

「これは終わったら、うぇぷ、ダイエットサポーターの開発がいるね」

そんな乙女として絶望的な体型に陥って尚、ウタハは飄々とした態度で次の仕事に臨んでいた。

これは密かに発明していた「感覚遮断くん弐號」によって起きた性感の凪によるもので、他のエンジニア部や研究者たちを逃したウタハは間一髪、この機械の装着が間に合い、無痛・無性感の状態で自身の身体が変貌していく様を観察できていたのだ。

勿論、自身の身体が膨れ上がる様にウタハも乙女として思うところはあったが、今は騒乱に包まれるミレニアム、いやキヴォトス全土の為に奔走することが肝要と判断していた。

平和の為に自らを実験台に解析を試みることさえ、ウタハにとっては悩むことではなかったのだ。

「サラダは消化することでより強い個体が生まれるけど、反面、その個体数は大きく減らせるみたいだっゔぉ、ぉろろっ……」

「……ゲヘナには大食漢の部活もあるというし、巨大な個体はそういった生徒が産み落としたのかもしれない。食べれば消える、が、産めば増える……厄介な性質だゔぉえ、げええっ」

嘔吐を繰り返しながら、ウタハは空中に浮かべたスクリーンにレポートを書き上げた。

既に試作対策兵器の設計図は無事なミレニアム生徒たちにネット経由で配っているが、どれも効果は芳しくない。ウタハは悩ましげに目を閉じて思考を続ける。

「……食べればいいなら、食べてもらえばいいんじゃないか?」

ふと、ウタハは自分の言葉遊びからアイデアを思い浮かべ、取り留めもなく仕様書を書き綴った。

それはサラダの生態に沿った、正当な処理方法。決して最善とは言えないが、解決の糸口を感じさせる、エンジニア部部長珠玉の一品。

「これなら、理論上は根絶可能だ……早速、設計……お゛ッ!?♥」

ぱすん、という間抜けな音を耳にした瞬間、ウタハは全身が心臓になったように震えだすのを感じた。それは最後の生命線、感覚遮断くん弐號の寿命を指す音だと気づいた時には、何もかもが手遅れで。

「し、しまっ♥ あ゛っ♥ げぇっ♥ んひっ♥ もう、限界っ♥」

次に感じたのは、体内にぎっしりと詰まった快楽が弾ける感覚と、それに併せて自分の気持ちいい場所が増えていく異様な感覚だった。

「んおっほぉおッ♥ これ、これダメだっ♥ ダメになる、私ののーみそがぱーになる♥」

「急いで、書き上げないと……ほぎょっ♥」

頭の悪いあえぎ声をあげながら、ウタハの指は一切衰えずに設計図を書き上げていた。エンジニア部は寝ても醒めてもオナニーをしていても開発研究をする筋金入りの技術者集団。その部長たるウタハが、この危急の事態に屈する訳にはいかないという意地あってのものである。

(いきたい♥ いきたい♥ これ完成させていく♥ 膨らんでイク♥ はやくはやくはやくはやく♥)

しかし矜持とは裏腹に、ウタハの思考は快楽の泥濘に包まれつつあった。

設計にいっさいの誤りもなく、しかし志は破滅的な快楽へ身を投げる為に傾いていく。

「これで……よしッ!」

そうして仕上がった設計図の最終確認を終え、ウタハはキヴォトスのネットワークにそれをアップロードした。

いくつかの有効な制圧案と共に添えたメッセージは、ただ、簡素な一言。


「取り戻した青春の先で、必ず笑い話にしよう」


それが、ウタハが最後に発せられた人間らしい言葉だった。

「んもっ♥ ほォおおおおおおおおおおおッ!!!」

「おぎゃっ♥ ぎゃあっ♥ やめ、やめやめやめやめ♥ ふとる♥ ふえてる♥ のびてる♥ からだふくらんでる♥」

「やだやだやだ♥ おっぱいのなかはいんないれ♥ おっぱいたれっとにしちゃやだ♥ あぎっ♥ ぎおっ♥ んもぉおおおお♥」

「あ゛ーーーーーーッ!!♥ イグッ♥ イッでりゅッ!♥ おまんご、おじり、おじっごのあな、いっぱいつめられでイグッ♥ おおお、お゛ーーーーーーッ♥」

「あヒッ♥ いひひひっ♥ やだあああああ♥ たしゅけて、たしゅけてコトリっ♥ ヒビキィッ♥ チヒロぉっ♥ こんな♥ こんなとこで♥ ひとりでいきっぱなしはやだあああああ♥♥♥」

「んひいいい♥ おご、んぶっ♥ ん、も、ご、ごもおおおおおおおおおおお♥♥♥」

誰も助けに来ない中、多くの生徒を助けたエンジニア部の技術者はもういない。

そこにあるのは肉の塊。

手も足も乳房も尻も腹も、すべてがパンパンに膨れ上がり、くぐもった喘ぎ声を上げてサラダを産み落としてはまた周囲のサラダすべてを詰め込まれる、一際哀れな犠牲者だった。

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