それはある意味無在庫販売ではないか?

それはある意味無在庫販売ではないか?


ヒューマンショップのオークションに出品されたIFローのこういう事もあったんじゃないかと思った結果のちょっとした話、いうてIFローは本当にちょっとしか出てこない

ハト麦でワチャワチャして欲しい気持ちがあったので何だかんだ一緒にいるけど、全然活躍させてあげられてない、ごめんね皆さん





「あー!トラ男じゃねェか!!」

「む゛っ…ぎ、わら…屋………」

 

 何故この島にいる

 ワノ国で同盟を解消し次会えば敵同士と念を押し、その上違う航路を取った筈の麦わら屋が何故ここにいる

 いや、もしかしたら何らかの能力者が化けているか、もしくは幻覚か、この島特有の超常現象か何かか

 

「いやァ途中でおもしろそーな島があって寄ってったら最初と違う航路に入ってよォ。でもまたトラ男に会えると思わなかった!出向までよろしくな!」

 

 飛び付いて、やたら背を叩いてそう言ってくる。あァこれは、恐らく本物だ。くそっ!いっその事さっき考えたような偽物であってほしかった!

 その内麦わら屋を追い掛けてきたのであろう鼻屋とトニー屋が合流すると、トニー屋は嬉しそうに飛び跳ねていた。トニー屋、お前だけなら許容出来る。鼻屋は、まァギリギリ許容範囲内に入れても良いかもしれない。だが麦わら屋は無理だ、ろくな事が起きない!早く船に帰れ!

 一緒に島を巡ろう等と言い出してきた時は拒否しても無理矢理連れて行かれそうになったが、丁度買い物を終えたらしいペンギンとベポと合流して能力で船へ飛んで逃げた。何事かとペンギンに詰め寄られたが、麦わら屋が居たとだけ言ったらすぐに納得した。ある意味凄いなあいつ

 一先ず俺はこの島に滞在中はもう船から出ねェ。出たとしても船の周辺だけだ。下手に出歩いて麦わら屋達と会ってみろ、確実にトラブルに巻き込まれる。それは何が何でも回避してェ

 自分の部屋に戻って適当な本を手に取って読書を始めた。本当ならさっき出掛けた時に本屋に寄って掘り出し物だとかを見付けたかったが、こればかりは嵐が来たと思って諦めるとするか

 読書を始めて暫く、一旦休憩するかと本に栞を挟んで部屋を出た

何かつまむか、いやもう少し経てば夕食だ、下手に食うのは良しとは言えない。そんな事を考えながら廊下を歩いて外の空気でも吸うかと甲板に出れば、船の前で何やら騒いでいるシャチが見えた

 

「どうした?何かあったか?」

「え!?あれ、キャプテン!?何で!!?」

「何ではこっちの台詞だ。何でお前はそんなに騒いでんだ」

 

 俺が聞いても何故か困惑している様子のシャチに、恐らく俺が現れる直前までシャチと会話をしていたであろうベポが代わりに状況を説明してきた

 

「何か、この島ヒューマンショップがあるらしいんだよ」

 

 どこにでも法を守らねェ奴は一定数いるが、ヒューマンショップはその中の代表例みたいなもんだ。簡単に言や人身売買の店。だが存外需要はあるらしくこの類いの店は政府非加盟国なんかじゃ何も珍しくない。実際シャボンディ以外でも多く見た

 

「それがどうした?」

「それが、何か俺もシャチから聞いただけでよく分からないんだけど、今日のオークションの目玉商品が、その……」

 

 何とも歯切れの悪いベポに再度何があったか問い掛けると、観念したのか漸く口を開いた

 

「いろんなところに触れ回ってる今日の目玉商品が……キャプテンだって……」

「…………」

 

「……は?」

 

 駄目だ、意味が分からなすぎて一瞬意識がスワロー島まで帰ってた

 未だ混乱しているシャチから無理矢理話を聞き出せば、どうやら街で買い出し中に近道と通った路地裏でそう話している奴等がいたらしい。そんな馬鹿なと思い詳しく話を聞けば、確かに店にそれらしい人物がいたのを見たとも言われ、他のクルーに知らせる為に慌てて船に帰って来たら俺がいて混乱したとの事。成程、そいつは確かに混乱するな。現に俺も今混乱している訳だが

  しかし一体どういう事だ?無法の輩が経営しているヒューマンショップはそれすなわち裏と通じている事が多い。もし裏の人間が商品を買って『不良品』と判断されれば、それこそ信用問題としてやていけなくなるだけでは済まないだろう。だからこそ手に入っていない商品を前面に押し出すような事はしない筈だ。それに偽物を本物と偽る事もしないだろう。なら今店にいるという『俺』は?

 

「仕方ねェ、いっそ見に行くか」

「え!?」

「キャプテンそれ本気!?」

「それが一番手っ取り早いだろ」

 

 考えて分からないなら確認するのが一番手っ取り早くて確実だろう

 一旦出てくると伝えて能力を使おうとした瞬間だった

 

「トーラー男ーぉおおおお!!!」

「!!?」

 

 突然上空から聞き覚えのある声が聞こえてきたと思った直後に何かが衝突してきた

 盛大に地面に倒れれば起き上がるよりも早く胸ぐらを掴まれて思い切り揺さぶられ、すぐに何が飛んで来たのかを理解した

 

「トラ男お前無事か!!?」

「お、前のせいで、無事じゃねェ」

 

 遠くから飛んで来たであろう麦わら屋を無理矢理引き剥がせば、兎に角俺の無事を確認して、満足したのか笑ってやがる

 結構な距離を飛ばされたらしく、シャチとベポが俺を呼びながら駆け寄ってきた

 

「麦わらお前キャプテンに何すんだよ!!」

「そうだそうだ!!」

「いやァトラ男が捕まったって聞いたから心配でよォ、急いで飛んで来ちまった。悪ィ悪ィ!」

「捕まった?おい麦わら屋、その話もう少し詳しく聞かせろ」

 

 丁度求めている情報を得られそうで話を聞こうとしたが、こいつもシャチ同様に偶然街の連中が話しているの聞いただけだと言う

 やはり直接見に行くのが一番だと思った時、麦わら屋んとこのクルーであるナミ屋とトニー屋が麦わら屋を迎えに来た

 

「ルフィあんた何やってんのよ!!」

「だってよォ」

「詳しい話は後で聞くわ。それよりトラ男、ウソップが妙な話を聞いたって言ってたんだけど」

「ヒューマンショップの話か?それなら俺も今から確認しに行くところだ」

「トラ男は本当に無事か?」

 

 そういえばトニー屋は麦わら屋と鼻屋と一緒に居たな。なら同じタイミングで話を聞いたんだろう。本気で心配している瞳でこちらを見てくる。こいつ等、もう同盟は解消したんだぞ?それなのに何故一々心配してくるんだ

 そしてどうやらそれは今この場にいる三人以外もそうらしかった

 

「今ゾロとフランキー、ジンベエには船番してもらってて、他の全員で例の店に行ってもらってるの」

「いや待て、何でそんな事してやがる。俺とお前等は敵同士だろうが」

「あら、なら何でトラ男は今普通にあたし達と会話をしてるのかしら?」

 

 そんなのは情報収集と、それ以前に麦わら屋が飛び付いて来たからだ。そもそも俺の方から話し掛けた覚えは無ェ

 兎に角余計な事をするなと言えばナミ屋は手を差し出してきた

 

「止めたいなら10万ベリーね」

「は!?」

「あら、あたし達『トラ男の為に』聞き込みしたり行動したりしてるのよ?だったらその手間賃くらいは貰わないと。タダ働きはごめんなの」

「だとしても吹っ掛けすぎだろ!!」

 

 シャチが反論するが、いやそもそも金を取るなと言えば「そういえばそうですね」と。だが俺の為に金を出す事自体は別に良いとのたまいやがった。何言ってんだこいつ

 何にせよ麦わら屋達だけに任せていたら何しでかすか分かったもんじゃねェ。兎に角さっさと件の店に行こうとした時ナミ屋に止められた

 

「あんた…まさかとは思うけどその格好で行こうとしてない?」

「格好だ?」

 

 別段可笑しな服装はしてねェ、一体何で止められるのかと不服に思っていたが、シャチとベポも止めてきた

 

「そうだよ、今店にキャプテンがいるならそこにキャプテンが現れたら大騒ぎだよ」

「……確かにそうだな」

 

 いろいろ混乱していたせいで失念していた。危うく騒ぎを起こすところだった。これに関してはナミ屋に感謝しておこう

 取り敢えず適当なフード付きの服を引っ張り出して着替え、一旦クルーを全員招集して現状を説明すれば案の定混乱が起きたが、それでもすぐに冷静に、自分がどの持ち場へ着けば良いのか判断する

 店へ行くのは変に大人数にならない方が良い。だから一先ず俺とペンギン、シャチ。念の為海軍が来た時の為、外の見張りにベポ、クリオネ、ウニ。他は船番。見張りの奴等とは電伝虫は通話中のままにしておいて、何か起きた時はすぐに戻れるようにしておく

 ペンギン達もツナギのままだと怪しまれるからと着替えれば、麦わら屋達も含めて全員で店の前まで飛んだ

 

 店に着けば先に来ていた麦わら屋の所の連中と合流し、俺を見るなりすぐに驚いた様子で声を掛けてきた

 

「トラ男!お前無事だったのか!」

「おう!ちゃんと無事だったぞ!」

「いや何でルフィが答えてんだよ」

 

 鼻屋と麦わら屋が何だかよく分からない会話を繰り広げているが放置で良いだろ

 

「お前がここにいるなら、店に居るっていう『ロー』は一体何なんだ?」

「それを俺も確認しに来た」

「何にせよキャプテンを売ろうなんて何考えてんだ!」

「絶対真相暴いてやる!」

 

 ペンギンとシャチがやけに気合いが入っているのは置いておこう

 先に来ていた黒足屋やニコ屋が言うには、骨屋が霊体の状態で中を覗いたが大抵の奴は首輪や手錠を付けられたまま小さな部屋に押し込まれていたが、1つだけ赤い布を掛けられた海楼石製の檻があり、中には酷く衰弱している奴が入れられていたが、檻の中までは入れず、うつ伏せで倒れていたのもあって細かく確認は出来なかったらしい。が、可能性があるとしたらそいつだろうと言う事だった

 

「ただですね、少し奇妙な事にその方右腕が無いんですよ。生まれつきなのか、それとも…」

「もし生まれつきならトラ男君と間違えるかしら?もしかしたら抵抗したから切り落とされたとか」

「いや怖ェよロビン!」

「まァ何にせよだ、オークションが始まれば嫌でも分かる。そうだろう?」

 

 黒足屋の言う通り、このままここで考察をこね回したところで結論は出ない。なら会場に入って自分の目で確かめれば良い

 ベポ、クリオネ、ウニを外に残し、俺はフードを深く被って麦わら屋達と共にオークション会場へ入った

 

 会場内は独特の雰囲気で満ちていた。聞こえて来る会話の大半は嫌悪したくなるような物ばかりでさっさと退室したい気持ちをグッと堪え、麦わら屋を見れば俺と同じく今すぐにこの場を立ち去りたいと顔に書いてあった

 程なくして会場の照明がステージ上のライトだけになるとオークションが始まった

 シャボンディ程大きくはない店でのオークションに出品されるのは普通の人間ばかりで、そもそも大して数は多くない。だからすぐに目玉商品とやらの番が回ってきた

 

「それでは皆様お待たせしました、お次の商品の登場です!」

 

 司会の台詞と共にステージ上には台車に乗せられた檻が運ばれてきた。赤い布で覆われて中の見えないそれは骨屋が言っていた物で間違いないだろう

 4人がかりで台車から降ろされた檻に近付いて行く司会者は上機嫌そうにマイクを揺らしながら布を掴んだ

 

「それではご覧ください、本日の目玉商品…トラファルガー・ローです!!」

 

 勢いよく外された布、その檻の中には遠くを見詰める金色の瞳の男がいた

 

 ここどこ

 ドフィはどこ

 いつもの手錠も

 いつもの首輪も

 何故かどこにも無い

 

 小さな檻の中だ

 全然力が入らない

 布越しに明りが入ってくる

 誰かの声も聞こえる

 

(おーくしょん?)

 

 またドフィが新しい遊びでも思い付いたのか

 沢山の人の声が聞こえてくる

 皆数字を言ってる

 

(あ、ねだんだ)

 

 オークションはそういう物だって少し思い出せなかった

 ガタンと檻が動くと移動しているらしい振動がくる

 重たい体を何とか動かして、柵の向こうの布の下、隙間から何か見えないかと頭を動かしたが何も見えなかった

 柵に寄り掛かって大人しく運ばれた

 

(おれ、なにしてたっけ?)

 

 昨日はいつも通り鳥籠で寝て、今朝だっていつも通り点滴を打たれて

 それで、えっと……

 何かしてた気がする

 何か大切な事をしてた気がする……

 

(あ……)

 

 そうだ、俺逃げようとしたんだ

 ドフィが持って来たあの機械、確か名前はヘルメスとかいうそれを一心不乱に奪いに行って、奪って

 それで?

 

(しっぱい、したのか?)

 

 全然思い出せなくて段々頭が痛くなってきた

 いつの間にか移動が終わったらしい檻は、今度は床に置かれて、運んだ奴のだと思う足が布の隙間から見えた

 大変だな、こんな重たそうなの運ぶなんて

 そんな事を考えていたら突然布が剥がされて一気に光が目に入ってきた

 眩しくて、目が痛くて、目を細めてジッと遠くを見た

 沢山の人がいる

 皆何か言ってるけど上手く聞き取れない

 暗くてよく見えない筈の遠くの方の席に見覚えのある奴が見えて、眩しさも忘れて目を見開いた

 

「む、ぎ…わら……や……?」

 

 檻の中の男は柵に寄り掛かって、眩しさから目を細めていたが、見えた瞳は光を宿さず濁っていて、ただ遠くを見つめていたが、それでも確かに俺と同じ金色の瞳をしていた

 客席からは困惑の声が聞こえてくる。当たり前だ、あんな風体の奴を出されて納得出来る訳無ェだろうが

 しかし司会者はそんな事は想定内とでも言いたいのか全く動揺せず進行を進める

 

「こちら皆様見えますでしょうか?この手、腕、それに何より胸元に大きく入ったタトゥーが」

 

 司会がそう言えば映像電伝虫を持った奴が檻に近づいて行く。すると会場内にあるモニターに電伝虫の映像が映されると、先程とはまた違った困惑の声があがった

 

「キャプテンッ!」

「キャプテンあれって!」

「……あァ」

 

 手や腕のタトゥーだけなら正直真似した奴ぐらいに流せたが、胸のタトゥーが駄目だ。コラさんをイメージしたこのタトゥーが俺以外に入れるとは思えない。というより意味も知らずに真似するような奴がいたらしばく

 ただタトゥーで気になるのはあの傷だ

 何度も入れられたのか巨大なミミズ腫れがそのまま痕になったような傷

 それがタトゥーの真ん中の顔に打消し線のようにかかっている

 嫌でもドフラミンゴのジョリーロジャーを思い出した

 だが、あのタトゥーが決め手にでもなったのか、あいつを俺と納得した奴等が殆どだった

 競り落としが始まれば一気に値段が吊り上がっていく

 

 いい加減胸糞が悪いんだよ

 

 俺が立ち上がったのと同時に麦わら屋も立ち上がっていた

 突然客席で立ち上がる奴がいたからか、驚いて全員競りを止めてこちらを見てくる

 その時ふとステージ上を見れば、つい先程までは一切どこを見ているのか分からなかった男の目が、確かにこちらを見ていたのが分かった

 

「む、ぎ…わら……や……?」

 

 俺の声で聞こえたのは恐らく聞き間違いでも何でもないだろう

 

「”ROOM”!!」

 

「ゴムゴムのォ!!」


 夢だ

 これは全部夢だ

 いつの間にかいたオークション会場で、その内ネタばらしの為にドフィが出てくると、どうせどこかで見ていると思っていた

 だけどいつまでもドフィは現れず、代わりに現れたのはあの日、ドレスローザで確かに死んだ筈の麦わら屋と何故か俺と同じ能力を使う奴

 檻の中でその二人が暴れて会場を壊すのを、俺はただ見ていた。まるでシャボンディでのあの事件を彷彿とさせるその光景に見入っていると、俺と同じ能力を使う奴が檻の前まで飛んできた

 深く被られたフードを取ったその顔は、まさしくかつての自分の顔で、その後をついてきたのはもう死んだかつての仲間で、いよいよ何が起きているのか分からない

 檻が開けられて外に出されて、怖くなって俺は逃げた

 いつものあの枷が無いから能力だって使えるのに、混乱した俺はそれすら思い出せず、ろくに動かせなくなった足を、それでも必死に動かして逃げて、だけど現れたサークルと電気の痛みに一瞬で意識が刈り取られてしまった

 訳の分からない現状から逃げたくて探した相手がドフィなのは酷い皮肉だと自嘲した

 


「キャプテン早く!!」

「海軍!海軍来てます!!」

「キャプテーン!!」

 

 ベポとクリオネとウニが電伝虫を通じて叫んでくる

 俺はあの檻の中で怯えた様子の男を引きずり出すと、何故か抵抗してどこかへ逃げようとした

 変に時間を使っている暇は無ェからとカウンターショックで気絶させて担いだ

 あの後結局乱闘になり、麦わら屋以外は先に船へ帰り、俺達と麦わら屋で店の警備を相手して店を出た

 外に出れば店から離れた場所にベポとクリオネとウニが見えたが、それよりも近い場所、つまりはすぐ近くに海軍の奴等が待ち構えていやがった

 幸いな事に階級も大した事ない奴等ばかりで、すぐに蹴散らしてその場を離れた

 

「トラ男!そいつどうすんだ!?」

「兎に角一旦俺の船で様子を見る。場合によってはお前等にも連絡をいれるかもしれねェ」

「分かった、すぐ教えてくれ!お前の船行くから!」

「来るんじゃねェ!!もう同盟は解消されてんだ、俺の船に来て良い理由が無ェだろうが!!」

「何でだよ!!俺達友達だろ!?」

「友達じゃねェ!!」

 

 訳の分からない会話を繰り広げて、麦わら屋は自分の船の方へ行き、俺達はポーラータング号に戻った

 海軍も来ていた為すぐに出航すると、ログも溜まっていない事もあり、麦わら屋達と結局すぐ近くの小島で合流する羽目になった

 

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