それでも家族
※戦闘描写しかねぇよ
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「オオオオオッ!」
「ガァアアアアッ!」
廃墟でただひたすらに闘争を繰り広げる二体の長身のアリス。片方にはヘイローがあり、もう片方には無い。一体は黒い鋼鉄の四肢を持ち黒刃のダガーを持っており、もう一体はブロードソードを携える。
二人はリウとセンク。かつて同じ釜の飯を食い、例え辛い日々であっても紛れもない家族であった。しかし今は容赦の無い殺し合いを続けている。
「ハハハハッ!やっぱお前との殺し合いは最高だぁ!」
センク。辻斬りセンクと呼ばれるアリス殺しのアリスである。人殺しの為に教え込まれたその剣術は速く、得物の特性故に一撃が重い。
「ふっ…そうかもな。私も何故か、気持ちが昂って仕方がない…!」
リウ。センクと同じマフィアに買われ殺しの術を叩き込まれた。ナイフ捌きと拳打を合わせた連撃は長年の修練がもたらしたものだ。
「(やはり強いな…)これは敵わないな。」
互いに打ち合いの強さは相当なもの。だがリウは、一足で後ろに飛んだ。得物の間合いではセンクに部が有る状態で、だ。
「おいおい。下がってんじゃねぇぞリウ…!」
当然それを許すセンクではなく、一直線に突進していく。その姿は獲物を追い掛ける彪のようだ。
「お前ならそう来るよな。」
だがリウはそれを見抜き、懐に手を入れていた。決して無策で下がった訳ではない。そして取り出したのは、小さなナイフだ。
「シュッ!」
「チィッ!」
そしてそれを弾丸の如き速度で投げ付ける。センクはどうにか避けるものの余裕はない。
「体勢が悪いな。」
一気に接近し、逆手に持ったダガーを振り上げるリウ。死が目前に迫るその感覚は、センクの背筋に冷たいものを走らせる。
「お前は昔から直線的過ぎる。」
「うおおおっ!」
頭を狙った振り下ろし。しかしそれでもセンクはかわしてみせる。
「いっ、てぇ…ハハッ。やっぱり、良いなぁ…!」
だが無傷ではない。かすった服が大きく切り裂かれ、肌に傷が走る。
「まだまだまだまだまだぁ!」
「相変わらずの狂戦士っぷりだな。」
そして再び真正面からの打ち合いだ。決して浅くはない傷を負っているにも関わらず、センクの動きは衰えていない。
「チッ…!」
「リウぅ!忘れてねぇないよなぁ?私のスピードに勝てる奴なんか一人も居ないって!」
いや、寧ろ速度が上がり続けている。狂気的な笑みを張り付け、しかしいずれの箇所も当たれば致命的になりうる場所へ剣を振るう。氷のような冷徹さと狂気が混在している。
「ほらほらほらほらぁ!バラバラになっちゃうぞぉ!?」
「(やっぱりこいつのスピードには着いていけんなっ…)」
両腕を始めとしてリウの体に幾つもの傷が作られていく。どれも浅いものではある。しかし、段々と優勢はセンクの方へと傾いていく。
「ほら懐入れたぁ。」
僅かに開いた隙を突き、懐へとセンクが入り込む。そこは避けようがない完璧な位置だ。
そして彼女の持つ刃が跳ね上がる!
「バイバイだよ、リウ!」
「ぐっ、ごふ…!」
「リウぅ!」
その一閃は深々とリウの胸を切り裂いた。堪え切れずに、口から血とも油とも取れぬ液体を溢すリウを見て、リックを治療していたククラが悲痛な声を上げる。
だが
「分かってんだよ…お前の速さに着いていくのは、無理だってな…」
「……!しまっ…」
リウはセンクの右手首を既に掴んでいた。直ぐ様狙いを把握するものの右手に剣を持っている為に動きは遅れる。
「遅ぇ!」
その時には既に、センクの体は宙を待っていた。合気の要領で手首を捻り地面に向かって投げたのである。
「か、はっ…!」
「おらよっ!」
「ぐがああ…!」
更に追撃は止まらない。顔面から叩き付けられたセンクのうなじを、全力で踏みつけたのだ。
元来ならこれは致命の一撃。決定的な一撃だ。
「がぁああ!離れろボケェ!」
「……まだ動けるのか。」
しかしなんと、センクの目はまだ死んでいなかった。踏みつけた足に向けて剣を振るって無理やり離れさせ、その隙に立ち上がった。しかし人体の急所を蹴り潰されて無事である筈がない。
「は、ハハハッ…やっぱり、リウとの殺し合いはいいな…強くて、ゾクゾク、してくる……へ、へへっ…」
「本当に、イカれてるなお前。」
ゆらりと立ち上がり、ゆっくりとした足取りでリウへと歩いていく。その途中で、得物の剣を取り落としたのにも気付かない辺り、もう限界は近い。それでも笑みを崩さない姿には、やはり狂気を感じざるを得ない。
「だろうなぁ……どうせ、もう、まともに生きられねぇ…」
「……センク、お前……」
「だからさぁ…殺し合おうよ。もっと、もっと、もっと…!」
マフィアに拾われ、人殺しとなる為に教育され、すっかりそれに染まったのを確信するリウに対して近付いてきたセンクは拳を振るう。それはある程度力が入っているが、本来のそれとは程遠い。
「武器がなくても出来るだろ…!オラッ…!」
「ッッ……本当に、イカれた奴だよ、お前は!」
「いっっ、て…」
何度も何度も殴り付けるセンクにリウの重い一撃が、こめかみへと突き刺さる。そしてそれで止まることはない。
「……!」
「リウ、さん…」
何度も、何度も、何度も殴る。その一撃はどれも重いものだが、彼女がそれまで使っていた撲殺の為に研鑽された武術の拳打ではなく、力の限り殴り付ける喧嘩屋のそれであった。
「(分かってんだよ…センク…お前が、もう壊れてるって事くらい…!)」
そんな中、彼女は一人心の中で泣いていた。理解していたのだ。センクがもう、戻れないところまで来ていることも。
「(でも、でもよぉ…!それでも、お前は…!)」
「それでも、家族なんだよ!」
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「やぁやぁそこの悪人さん方。こんな路地裏で何をしてるんだい?」
「おや、おやおやおや…非正規品アリスの販売に、正規品アリスの違法販売とは……随分な悪人だ。」
「あー、そこのアリスちゃん達。もう、安心していいよ……」
「私が、助けるからね?」